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蒼き夢の果てに

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第1章 やって来ました剣と魔法の世界
  第12話 朝食風景

 
前書き
 第12話更新します。
 尚、体調不良と、パソコンの不調の為に、本日(二月九日)の更新は一度とさせて頂きます。
 

 
 ……ゆっくりと意識が覚醒へと向かう。

 ……不自然な姿勢で眠った性で、身体の節々が痛いな。
 ……但し、気分的にはそう悪い物では有りません。おそらく、この世界が俺の住んで居た世界よりも精霊の力が濃いから、向こうの世界よりも霊力の回復が早い、と言う事なのでしょう。

 尚。どうやら、式神達の宴会は一晩中続いたと言う事のようですね。俺が目を覚ました事に気付きながらも、未だ全員が飲んでいる途中ですから。

 それで結局、タバサにご飯を食べさせてから、ハルファスに出して貰った毛布を被って、更に扉にもたれて眠った訳なのですが。
 それに、一応、あの遅い夕食の時に、タバサにお箸の使い方は教えてはみました。が、しかし、そう簡単に覚えられるような物でも有りませんから、その点に関しては、今後に期待、と言う感じですか。

 それに……。黙って食事をする美少女にお箸でご飯やおかずを食べさせて上げるのは、俺的には妙に楽しい行為でしたし。
 まして、美味しそうに食べてくれたら食べさせている俺の方も、かなり嬉しくなって来ましたからね。
 表情自体は変わらないですし、言葉にして表現してくれる訳でもないのですが、彼女の発している雰囲気が、その事を如実に表現していましたから。

 雛鳥に餌を与える親鳥は、こんな気持ちに成るのでしょうか。

 ただ、その勢いでかなり食べさせて終ったような気もするのですが……。
 もっとも、彼女自身が俺の世界の食べ物に興味を持ってくれたから、多くのお弁当を食べてくれたのでしょうけどね。

 それに、現代日本と言うのは、地球世界でもトップレベルの食文化の発達した国です。あの国には世界中の美味い物が集まって来ています。
 その国の食べ物を、中世ヨーロッパの貧弱な味付けの料理を食べて来たタバサに比べて貰ったら、間違いなしにコンビニ弁当の方を上に上げてくれると思いますよ。

 食べ物で相手の評価を上げるのは、イロハのイ。最初の戦術ですからね。これで彼女も、益々、俺の有能さが理解出来たと思います。

 もっとも、普通に考えたら、この方法って、意中の男性を落とす際の、女性の方の戦術だったような気もするのですが……。
 ほら、良く言うでしょう。男性を捕まえるには、その胃袋を掴めと。

 おっと。どうも、思考が妙な方向に進みますね。無理矢理、軌道修正っと。

 それから、眠る場所の件なのですが……。タバサは何故か俺に、自らのベッドの上。それも彼女の隣で眠る事を進めて来たのですが、流石にそれは辞退させて貰いました。
 確かに、彼女にしてみたら、俺を無理矢理召喚したような気分に陥って居るのですから、流石に気を使っているのだと思いますけど……。
 それにしたって、彼女の眠る直ぐ隣で、俺がゆっくりと眠る事が出来ると思う方がどうかしていると思いますよ。

 俺に取っての睡眠とは、霊力を回復させる為にはとても重要なモノなのです。確かに、睡眠以外でも地脈や大気中から直接、呼吸法などを使用して気の形で取り入れる事も可能なのですが、それでも矢張り、睡眠によって回復する霊力の量は大きなモノに成りますからね。

 故に、扉にもたれて眠る事にしたのです。ここなら、悪意を持った何者かが扉を開けようとする際に気付く可能性が高いですから。
 もっとも、このタバサの部屋に侵入する為には、ハルファスによって構築された、霊的な砦をどうにかしない事には無理なのですが……。

 俺は少し伸び上がるようにして立ち上がった。身体が、その立ち上がった際の勢いで、バキバキと言う音を立てる。

 う~む。しかし、これはちょいと問題が有りますか。
 せめて、今晩からは畳を準備して、その上で眠るようにするべきでしょう。いくら若いとは言っても、こんな寝方では霊力の回復はどうにかなったにしても、体力の回復は難しい。確かに、一日二日の護衛を行う相手なら何とか成りますが、一生付き合って行かなければならないかも知れない相手との同居ですから。
 それに、心技体。すべてバランスが取れていなければ、いざと言う時に俺の能力は発揮出来ない可能性も有りますから。

 しかし、そもそも論として、この状態なら、俺とタバサが同じ部屋で住む必要など無かったような気もするのですけど。
 俺は、未だに続く式神達の宴会をジト目で見つめながら、どうせ、式神達は、この勢いで毎晩のように宴会を繰り広げる心算だと思ったのですが……。

 まぁ、良いか。その辺りに関しては、その内にきっちりさせたら良いだけの事です。

 それに、この状況ならば、俺が不埒な行為に及ぶ可能性はゼロ。こんな状況下で襲い掛かるようなマネが出来る訳が有りません。
 それどころか、宴会に巻き込まれる可能性の方がメチャクチャ高いでしょうが。

 まして、俺は酒精(アルコール)には弱い存在ですから。神話的にも、俺個人としましても。
 酒精なんぞ口にしたら、あっと言う間に沈没。そのまま朝までぐっすり眠る。そう言う体質ですから。

 ただ、嫌がる俺に無理矢理、式神達がアルコールを進めて来るような事はないとは思うのですがね。
 そう思い、現在、と言うか、昨夜俺が眠る前から続いている式神達の宴会を見つめる。

 しかし、俺の事は無視し続ける式神達。そうしたら、最初は……。

「ノーム。休憩が終わったら、集めて来た原石をカットして磨いてくれるか。出来の良いモノは式神達の依り代として利用するし、俺の属性を付与して龍の護符も作る必要が有るから」

 宴会に参加していたノームに、そう依頼を行う俺。
 嬉しそうに首肯くノーム。基本的に地の精霊は働き者で、仕事を与えられる事を喜ぶから、どんどんと仕事を回して行っても嫌な顔ひとつ見せずにこなして行ってくれます。
 つまり、こう言う非常事態にはすごく助かる性格と言う訳です。

 それに、彼の場合は、俺が消耗する霊力も少ないですし。

 そうしたら、この部分は終了。次は……。

 テーブルの上に視線を転ずる俺。其処には、ひと塊と成った金属が、その属性に相応しい輝きを放っていた。
 その金属の塊を持ち上げてから、ひとつ首肯く俺。

 成るほど。ハゲンチに依頼して有った錬金術に因る金の錬成は、大体、2キログラムぐらいの重さの金の錬成が出来たみたいですね。始めた時間帯が夜半でしたし、それからするとかなり効率良く進んだみたいです。
 ならば、

「ハゲンチも休憩が終わったら引き続き、錬金術を頼む。ただ、金ばかりやと問題が有るから、プラチナと銀をこれからは作ってくれるか?」

 式神達の宴会に参加していたハゲンチにそう依頼して置く。
 もっとも、夜の間に作って貰った金だけでも十分、当座の活動資金に事欠く事はないとは思うのですが。

 おっと。タバサに、この世界の貨幣経済がどの程度発達しているのかを聞くのを忘れていましたね。
 確か、ヨーロッパの封建制の時代は貨幣経済がそう進んで居なかった時代のはず。
 税も年貢で有って、お金で徴収していた訳では無かったはずですからね。

 貨幣経済が発展するに従って、中央集権制度の絶対王政の時代に移行して行き、啓蒙思想の発達から市民革命の時代に突入するのだったかな。
 これは、タバサに啓蒙思想や高貴なる者の義務、などと言う言葉を知っているかどうかについても聞いて置く必要が有りますか。もっとも、高貴なる者の義務と言う言葉はもっと、ずっと後の言葉だったような記憶も有るのですが……。

 何故ならば、この世界の状況にもよりけりですけど、貴族支配の時代から市民革命の時代に掛けての過渡期の場合、貴族である事の方が危険な場合も有ります。確かに他の連中については関係ないけど、俺と(エニシ)を結んだ少女を危険な目に合わせる訳には行かないですからね。
 俺の知っている地球世界の歴史のように、十字軍の時代から大航海時代に移行するとは限りませんから。

 まして、その十字軍の時代。……つまり、聖戦がヨーロッパ側の敗北で終わる歴史が、この世界でも繰り返されるとも限りません。

 ただ、この時代の歴史の流れは、俺の住んで居た現代社会とは違い、ゆっくりとした物のはずですから、近い未来に関しては、そう差し迫った脅威のような物もないと思います。ですから、タバサが生きている間ぐらいは大丈夫だとは思うのですが……。

 時代が進むに従って情報の伝達速度が速くなり、それに従って、科学や、色々な技術も発展していったはずですから。

 それに、少なくとも、乱に対する準備を怠らなければ問題はないでしょう。

 さてと、そうしたら最後は……。
 手持ちの宝石類を確認しながら、未だ続く宴会中の式神達に対して、

「今日から、宝石の方に居を移して貰いたいんやけど、了承して貰えるかいな?」

 ……と告げたのでした。


☆★☆★☆


 そして、朝食の時間。尚、朝食は女子寮が有る棟とは別の建物に有るらしいので、朝の身支度を行い、タバサの部屋を出る俺と蒼き御主人様。
 尚、それぞれ、契約済みの式神達のお家(封印済みの宝石)を身に付ける事を忘れずに。

「それで、朝食に関してなんやけど……。
 俺は、基本的に朝は軽い目の食事の方が良いんやけど、どう言う雰囲気の食事となるのでしょうか?」

 タバサの部屋から出た先に有る最初の階段を、彼女の歩調に合わせ、ゆっくりと下って行きながらそう聞く俺。もっとも、一段分だけ彼女よりは先に立って歩いていますが。
 ただ、食事に対しては過度の期待は出来ないとは思いますけど、その内容によっては、昼食からは自炊を検討する必要が出て来ますからね。

 俺の顔を少し見つめた後に、

「朝食はしっかり取って置くべき」

 ……と、至極もっともな意見を口にするタバサ。
 確かに、健康の為にはそれが一番良い。しかし、低血圧の俺からすると、朝は少し辛い。
 今は非常事態継続中なのでしっかりしているけど、基本的に朝の俺はダメ人間ですから。

「それに、この国にはおそらく無いと思うんやけど、米と言う作物が俺の住んで居た国では主食と成るんや。
 ほら、昨夜、食べたお弁当に入っていたあの白い食べ物。あれがお米と言うモンや」

 それに、俺の知識通りなら、十字軍の時代にはジャガイモは未だ有りません。トマト、トウモロコシもないはずです。貴族が集まっている魔法学院ですから、小麦粉を使ったパンが有る可能性は有りますけど、俺が食べられるレベルの柔らかいパンが有る可能性はほとんど有りません。
 確かヨーロッパの人口は、大航海時代の時に南米より持ち込まれたジャガイモによって増えたと記憶しています。もし、現在、この国にジャガイモやトウモロコシが無いのなら、この国の人口自体がかなり少なく、農作物の生産量も多くはないはずだと思いますね。

 もっとも、大して自信のある記憶では有りませんし、平行世界であるこの世界に、地球の歴史がそのまま当てはまるかどうかは判らないのですが。
 ちなみにお米に関しては、イタリアとスペインなら少量生産している可能性も有るかな。パエリアやリゾットの起源は中世まで遡る事が可能だったと思いますから。

「貴方の住んで居た国では、昨夜食べた食べ物が普通の食事なの?」

 普段通り、抑揚の少ない口調でそう聞いて来るタバサ。
 但し、口調とは裏腹に、かなり興味を持っているのは確かだと思いますね。

 そう言う雰囲気を発していますから。

「そう思って貰っても間違いではない。俺の暮らしていた国は、あの世界でもトップの食道楽の国やからな。
 それに、もし、タバサが望むのなら、食事に関しては俺が準備をしても構わないで」

 ……と言うか、この世界の食事のレベルによっては、是非とも俺に準備させて欲しいのです。

 少なくとも、食材はお金さえ出せば手に入るはずですし、調理器具はハルファスに調達して貰えば良い。料理に関しては、式神にあらゆる知識の伝授と言う職能を持ったダンダリオンが居ます。本職の方の諜報関係の知識とは違うのですが、料理に関する知識の伝授ぐらいなら訳はない。
 まして、タオの修業の中には師匠の食事の準備も含まれます。これは、丹の作成方法を学ぶ前の入門編とも言うべき修行なので、基本的な料理なら俺にも作る事が出来ます。

 但し、未だ、丹についてはそこまで。未だにそんなモン……つまり仙丹などを作る事が出来るレベルに、俺は到達してはいません。

 しかし、タバサは俺の顔をじっと見つめてから

「貴方はわたしの使い魔であって、使用人ではない」

 ……と、答えました。

 これは、まぁ、使用人としてよりも、俺の能力は戦闘時のパートナーとして優秀だから、そちらの方に力を入れて欲しいと言う意味だと思いますね。
 成るほど、この言葉は、相棒としてなら喜ぶべき返事なのでしょうけど、この世界で生活して行く現代日本出身の武神忍としては、どうなるのでしょうか。

 才人の時は、使用人扱いよりも侍に成れと言いましたけど、俺の方は、使い魔兼使用人の方が良いような気もするのですが……。

 主に、食事に関しては、なのですが……。


☆★☆★☆


 それで、トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い真ん中の塔の中に有ります。
 但し、俺の意見を言わせて貰うのならば、別館のような場所の方が食堂を作るのは良いような気もするのですが……。

 その理由については、魔法学院と言うぐらいですから、ここの役割は魔法の勉強をするトコロ。ならば、本棟のような学業の中心となるべき場所ではなく、裏側の方に食堂のような学院生徒達の生活に関わる場所を持って行く方が、俺としては正しい配置のような気もするのですが。

 ただ、全校生徒を一堂に集めて食事を行うには広いスペースが必要だったから、この場所に配置された可能性も有るのかな。
 それに、ここは、見た目の通り、城としての機能も有した場所の可能性も有りますか。
 そう。有事の際には、それなりの戦力を配置する中世のヨーロッパのお城。

 もしも、そうだった場合は、俺の考え自体が平和ボケした日本人特有の考え方と成るとは思いますけどね。

 それで、某映画で有名な魔法学園モノと同じように、食堂内にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいます。もっとも、寮ごとに座る位置が決まっていると言う訳では無く、学年ごとに座るテーブルが決まっているように見えるのですが。

 何故、学年ごとに分かれているのかが判るのかと言うと、ざっと見渡しただけなのですが、座っている生徒達の着ているマントの色が違っているのが判りますから。
 右端のテーブルには紫。真ん中のテーブルには、タバサと同じ黒。左端には茶色のマントを纏った魔法使い達が座っています。
 これは、日本の学校でも体操服などで似たような色分けを行っているトコロも有りますから、それで、ほぼ間違いないと思います。俺の通っていた高校もそうでしたからね。

 食堂に入る前に一度足を止め、タバサが先に食堂内に侵入するのを待つ俺。
 その様子を少し訝しげに見つめるタバサ。

 ……あれ、これが正しいマナーだったと思うのですが。記憶違いでしょうか?

 それまで、タバサに道を尋ねながらでは有ったけれども、常に彼女の一歩先を歩いて来た俺が、食堂の入り口で突如立ち止まり、タバサを先に行かせようとしたのですから、少し、不思議に思われても仕方がないですか。

 但し、西洋風のエスコートなら、俺の対応が正しいと記憶しているのですが。

 タバサが先に立って進み、自らの席の前に立つ。
 その椅子を座り易いように後ろに引く俺。もっとも、普通、フランス料理のレストランなどに行った場合ならば、椅子を引いて座り易くしてくれるのは店員の仕事と成ります。
 それに、上座に座るのは女性ですし、先にテーブルに着くのも女性の方。その程度のマナーなら俺でも知っていますから。

 タバサを席に着かせてから、自らも彼女の隣の席に着く。
 但し、テーブルの上に並べられた料理の数々に、流石に辟易としていたのですが。

 確かに、英国風の朝食を望んでいた訳でもないのですが、それでも、大量に油を使った料理や、夕食でも少し引くような肉料理などを朝から食べられる程の強者では有りません。
 俺の胃袋は。
 もっとも、英国風の朝食と言う物も、量と言う段階なら同じような量が並べられるらしいのですが……。

 まぁ、流石は西洋人。東洋人の俺なんかとは、基本の排気量が違うと言う事ですか。

 そんな、クダラナイ感想をウダウダと考えていた俺を、何か物言いたげな雰囲気でタバサがじっと見つめている事に気付いた。

 ……何か用事でも有るのでしょうかね。どうも、彼女にじっと見つめられると、気分が落ち着かなく成りますから、出来る事なら、少し視線を外して欲しいのですが。

 そして、真っ直ぐに、俺の様子を見ていたタバサが一言、

「貴方はわたしの使用人ではない」

 ……と短く告げて来た。普段通りの抑揚の少ない話し方で。
 但し、苛立ちや不快感を表した言葉ではないように感じますね。確かに、俺の事を使い魔扱いにする事さえ、彼女に取っては躊躇う事みたいですから、この台詞はそう不思議な内容では有りませんか。

 これは、最初にルイズと才人の契約前に彼らに話した内容が、ルイズに対してでは無くて、タバサの方の心に大きく残って仕舞ったと言う事だと思いますね。

 それに、そのタバサの台詞から推測すると、女性をエスコートする際の基本的な作法は、未だ確立されていない時代と言う事なのでしょう。俺の行動を、使用人の行動と取ったと言う事なのですから。

「いや、これは、俺の住んで居た世界に於ける、こう言う場に置ける男性が女性をエスコートする際の基本的な行動パターンや。せやから、別に、使用人としてタバサの世話をしている訳ではない」

 最初に、俺の行動の理由の説明を行って置く。一応、西洋だからと言って、こう言うエスコートの際の基本が確立されていないのならば、俺の行動は単に不審な行動と言うだけですから。
 ……本当に、異文化との交流は難しいです。

「もっとも、ここは魔法学院で有って公の場と言う訳でもないから、以後、必要ないと言うのなら止める。
 せやけど、俺は使い魔でタバサは主人で有るんやから、ある程度の威厳を以て対応して置かないと、他の生徒達の目が有る事も知って置いた方が良いと思うんやけどね」

 そして、本題の方の理由をそう続けた。

 そう。昨日のキュルケの対応は、俺を試していた行為だと推測出来るからあまり参考にはならないのですが、おそらく貴族の中には特権階級意識に固まった存在も居るはずです。そんな連中に、使い魔風情に過ぎない俺を対等の存在のように扱っている姿を見せると、以後、タバサへの対応が悪くなる可能性も有ります。

 まして、正面から俺に対してチョッカイを掛けて来るほど、自らに自信が有る人間は早々いないはずです。そして、こんな場合には、タバサの方がハブられるターゲットに成る可能性が有ると思いますから。
 流石に、それは、避けなければならないでしょう。

「他人の目など気にする必要はない」

 しかし、ずっと変わる事のないタバサの態度及び口調で、俺の言葉を簡単に否定して仕舞った。

 成るほど、この()はあまり他人の目と言うモノを気にしないと言う事ですか。
 しかし、それならば余計に、あまり目立ち過ぎるのも問題が有ると思うのですが。
 それでなくても、容姿的には目立つ容姿をしています。確かに、15歳と言う年齢から考えると少し身長やその他は不足気味かも知れないけど、容貌に関してはかなりのレベルで有るのは間違い有りません。

 こんなタイプの女の子は、孤立している可能性が高い。もっとも、キュルケと言う友達も居るようなので大きな問題も無いとは思うのですが、それでも妙な使い魔を召喚して仕舞いましたから、しばらくは目立たないようにして置く方が無難だと思います。
 それで無くても、偽名で学生生活を営んでいるのは丸わかりの状態だと思いますから。

「やっぱり、あんたの方は動けるのね」

 そんな、およそ、色気とも、まして食欲からもかけ離れた非常に事務的な会話を繰り広げていた、俺とタバサ主従に対して、背後から聞いた事の有る女声(こえ)が掛けられる。
 俺達よりも少し遅れて食堂にやって来たピンクの髪を持つ少女ルイズが俺の姿を見つけて、近寄って来ながら、そう声を掛けて来たのです。

 尚、どうも、この世界では黒髪の人間と言うのはマイノリティに分類されるみたいで、未だに俺と才人以外では出会った事が有りません。つまり、これだけ大勢の人間に紛れたとしても、俺は見つけ易いと言う事に成りますね。

 それに、タバサも蒼い髪の毛と、自らの身長よりも大きなゴツイ魔術師の杖装備ですから、非常に見つけ易い少女でも有りますしね。蒼い髪の毛と言うのも、タバサ以外に見かける事は無いですから。

 これは、流石に異世界と言う状況なのでしょう。

 何故ならば、優勢遺伝子は確か濃い色素を持っていたと記憶していますから。
 つまり、ピンクの髪の毛や、蒼い髪の毛などは、どう考えても地球人の遺伝子の中には存在していません。赤毛やアルビノとも少し違うみたいですし。

 後、髪の毛の色に関して言うなら、キュルケに関してもかなり不思議なんですよね。
 確かに、赤毛は地球世界にも存在しているけど、褐色の肌の赤毛と言うのは、かなり珍しいと思います。
 赤毛の人は、大抵の場合はメラニン色素が薄い為に、色白の人が多かったと記憶していますから。
 ほら、赤毛のアンは、そばかすが目立つけど、色白の少女だったでしょう?

 おそらく、この辺りに関しては、流石は異世界と言うトコロなのでしょう。遺伝子を調べたら、もしかすると俺とは違う……。
 いや、俺の遺伝子を詳しく調べられると、微妙な結果が出て来る可能性も有りましたか。厳密に言うと、俺の遺伝子も人間の遺伝子とは少し違う可能性が有りますから。

「矢張り、才人は昨夜の無理が祟ったのですか」

 そう言いながら立ち上がった俺が、才人の代わりにルイズの席を引いて彼女に座り易いようにしてやる。
 その俺の対応に際して、鷹揚な態度で腰を下ろすルイズなのですが……。少し、雰囲気的に彼女には似合わないかも知れませんね。

 確かに、彼女は公爵家の姫君らしいのですが、何故か口調が市井の町娘と言う口調で非常に親しみやすい少女でも有ります。しかし、本人は、貴婦人然とした女性を目指しているのか、そう言う態度で接しようとする時が有るみたいなのですが……。
 それが、どうもちぐはぐな印象……と言うか、貴婦人と成るには二歩か、三歩足りない少女が無理に背伸びをしているような印象を受けて……。

 それに、こう言う場合には、素直に礼を言った方が好感度は上がると思いますけどね。その方が、彼女の口調や、彼女自身が発している雰囲気にも合っていると思いますし。
 もっとも、俺に対する好感度を上げたトコロでまったく意味がない事なのですけど。

「今朝に成ってから身体中のあちこちが筋肉痛になったみたいで、起き上がる事さえ出来ないみたいなのよね」

 少し、いや、かなり残念そうな口調、及び雰囲気で、そう答えるルイズ。
 それに、その残念そうな口調、及び雰囲気の理由に関しても、簡単に想像は付きますか。昨夜の対レンのクモ戦闘時の才人の活躍から考えると、ルイズとしては、今日の授業には是非とも才人を連れて行きたかったとは思いますから。

 魔法の才能がゼロと言われていた少女が召喚した使い魔としては、あの平賀才人と言う少年の能力は破格の能力を示したと思いますから。
 少しぐらいは、自慢したくもなって当然でしょう。

「それは仕方が有りませんよ。昨夜も言ったように、才人の身体能力が上がったのは、おそらく肉体強化に因るモノ。元々持っていた自分自身の筋力が何らかの魔法で強化された状態だと思います。
 ですが、酷使されているのは、彼自身の肉体。それに、普段から鍛えている訳ではなかったみたいですから、その反動が多少出たトコロで仕方がないと思いますよ」

 ただ、能力発動の度に寿命を削るなどと言う反動はないとは思いますから、少々の筋肉痛ぐらいなら問題ないレベルの反動だと思いますよ、俺から見ると。
 まして、これから先は、今回の経験を踏まえた上で体力の強化を図って行けば、以後は能力発動の翌日に筋肉痛に悩まされるなどと言う事は無くなるとも思いますしね。

「それに、才人の能力は、おそらく彼の生来の能力に目覚めたと言うモノでは無く、ヴァリエール嬢による使い魔召喚と契約によって付加された能力でしょう。ですから、自らの能力ではない付加された能力で有るが故に、多少は反動のようなモノが起きたとしても不思議では有りません」

 才人が生来の能力に目覚めたのなら、戦闘時にルイズとの契約によって刻まれた使い魔のルーンが光り輝くなどと言う事は有りません。

 ただ、良く判らないのは、彼自身が語っていた言葉の中の、刀を抜いた途端に身体が軽くなった、と言う部分について。
 これは、生命に危険が迫っている状況下での能力発動とは、もしかすると違うキーに因って発動する能力の可能性が有ります。
 つまり、その能力発動のシステムが詳しく判らない限り、肉体強化に頼った行動は多少のリスクを伴う可能性も有ると言う事です。

 まぁ、どう言う原理かは判らないけど、このピンクの髪を持つ少女は、魔法がすべて爆発すると言う特殊な才能に恵まれた魔法使いです。
 そして、その妙な魔法使いの使い魔として、異世界から召喚された才人にも、少々、妙な能力が付加されたとしても不思議でもなんでもないでしょう。

 ただ、あの時にルイズが唱えていた呪文は、他の生徒達が唱えている口語の呪文と同じ物でした。
 つまり、同じ使い魔召喚用の呪文で、同じ使い魔契約用の呪文だったはずなのですが。

 矢張り、才能の部分の違いが、ルイズの使い魔召喚魔法によって人間を使い魔として呼び出し、契約に因って特殊な能力を付加した事に繋がっていると言う事なのでしょう。

 ……やれやれ。彼女以前に、タバサが人型の龍種を召喚した事に因って、周りにはルイズの特殊性が薄まって見えている事が吉と出たら良いのですが……。

 人は仲間を作る……いや、自らと違う存在を嗅ぎ分けて排除する生き物です。
 仲間とそれ以外。敵と味方。同胞と異邦人。エトセトラ、エトセトラ。

 後は、才人が大量に食糧を必要とするようになる可能性は有りますか。精霊を従えた訳では無い自らの身体能力の強化なら、消費されるエネルギー。つまり、この場合は消費されるカロリーは全て彼自身が蓄えたカロリーと成ります。

 ……これは、彼の食事に関しても、多少、気を配ってやる必要が有るかも知れないな。

「あの、少し宜しいでしょうか?」

 俺とルイズの会話が終了するのを傍で待っていたメイドの女の子が、俺に対してそう話し掛けて来た。
 ……って言うか、黒髪黒瞳の女の子の登場ですね。女の子としては初めての黒髪ですよ、彼女が。
 それにしても、何の用事なのでしょうか。

「昨夜は珍しい果物の差し入れを頂いて、本当にありがとう御座いました」

 メイドさんに相応しい丁寧な口調で、そう言った後、黒髪黒瞳の少女は、丁寧な御辞儀を行った。

 成るほど。そう言えば、コルベール先生に頼んで昨日集めた桃を、学院の使用人に差し入れして貰うように頼んで居たのを忘れていましたよ。
 もっとも、そもそも、俺にあれだけの量の桃は必要が無いですし、その気になったら、同じ方法で別の樹木から他の果物を得る事も可能ですから、完全に必要のない物でしたからね。それならば、時期的には桃の実が出回っている季節では有りませんから、少しは役に立つかな、と思っただけなのですが。

「いえ、私は果物を集めただけで、貴女がたに渡すように言ったのは我が主の指示ですから、お礼ならば、私の主人のタバサに直接お願いします」

 そう答える俺。その俺の台詞を聞いたタバサが何か言いたげな雰囲気で俺を見たような気もしますが、そんなモンは無視。
 そもそも、学院の使用人に有る程度の付け届けを行うのは、悪い事では有りません。
 後に何か有った時に便宜を図って貰いやすく成りますし、使用人たちからのタバサ自身に対する待遇も良くなって来る可能性も高く成りますから。

「そうなのですか、ミス・タバサに因る指示でしたか。それでは、後ほどメイド長の方から正式に御礼が伝えられると思います。
 ミスタ・コルベールから聞いた話では、ミス・タバサの使い魔の方からの差し入れだと言う話だったので、私が代表して御礼を申し上げに参りましたのですが」

 そう答える黒髪のメイドさん。確かに、コルベール先生は事実をそのまま告げただけです。そこに付加価値を見出したのは俺の方ですから、少々話が食い違うのは当然。

「御礼なら必要はない」

 しかし、タバサは非常に素っ気ない言葉でそう答えた。取りつく島の無い、と表現するのがぴったりな、彼女に相応しい御言葉、及び雰囲気で。
 ……って、これは非常に彼女らしい対応なのですが、流石に問題があるでしょうが。

「メイド長からの御礼のような大げさな事は必要ない、と言う事です。
 貴女がたの気持ちは、朝一番に来てくれた事で理解出来ましたからね」

 一応、フォローをして置くべきですか。それに、この程度の事で喜んで貰えるのなら、何かついでが有る時に、お土産を差し入れても良いかも知れませんしね。

「そうなのですか。それでは、メイド長の方からの御礼は止めて置きますね」

 黒髪のメイドさんが少し緊張したような面持ちから、柔らかい表情に変わった。これは、丸い豆腐も切り様で四角と言う事です。実際、タバサ自身は御礼など面倒だから必要ない、と言う意味で言ったのでしょうけど、それも、どう言った言葉で伝えるかによって、相手が受ける印象は変わりますから。

「あ、シエスタ。後でいいから、わたしの部屋に寝ている使い魔に、食事を持って行ってくれる。筋肉痛で動けなくて寝ているから」

 俺との話が終わるのを待っていたルイズが、その俺に御礼を言いに来たメイド……シエスタと呼ばれた少女にそう言った。
 ……って、言うか、ここは英語圏かと思っていたけど、スペイン語圏なのでしょうか。
 タバサは確か英語圏の女性名だったと記憶しているのですが。

 再び席に着いた俺をじっと見つめるタバサ。

【少しやり過ぎたかいな?】

 一応、そう聞いて置く俺。
 それに、確かに、少々やり過ぎた感は有りますか。しかし、使用人に対して多少の付け届けを持って行くのは必要な処置だと思いますけどね。

 俺の【念話】での問いに、しかし、首を横にふるふると振って答えるタバサ。
 これは否定。ならば、彼女もその程度の事が必要だとは知っていたと言う事。
 もっとも、判っているからと言っても、それが為せるか、については別問題ですけどね。

 しかし、

【貴方はわたしの使い魔。それ以外の事はあまり気にしなくても良い】

 別に不機嫌と言う訳では有りませんが、そう告げて来るタバサ。まぁ、確かに、これは使い魔の仕事では有りません。
 従僕。いや、執事か家令と言うべき人物の仕事だと思います。
 しかし、更に続けて、

【でも、ありがとう】

 ……と、短く告げて来たのでした。

 
 

 
後書き
 シエスタに関しては、キャラクター性を変えている心算は有りません。もし、それでも違和感を覚えるのなら、それは、純然たる意味で、私がシエスタと言う少女を掴み切れていない性です。

 但し、次回登場予定のオスマン学院長は、かなり弄って有ります。
 ギャグキャラ度をぐっと下げて、優秀な魔法学院の学院長としての面を強調して有ります。
 その理由は、全体的に、アンチ貴族の形に成る部分は排除して行きたいので。
 確かに、何処かに程度の低い敵と言うのを用意すれば物語は楽に進むのですが、それでは、主人公やタバサ達が優秀なのか、それとも敵がマヌケなのか判らなくなりますから。

 その場、その場で思い付く、最善の方法を取る事に因って出来上がった世界。
 そう言う物語を作りたかったので。

 ただ、本当の敵と言うのは、悪意の塊ですが、存在自体も矛盾の塊なので。
 特に、神の視点から、人間達が右往左往する様を見つめて、ニヤニヤするようなヤツですから……。

 それでは、次回タイトルは『学院長登場』です。

 追記。
 パソコンの調子が異常に悪い。自分の体調が悪いのは、風邪が治り切っていない性ですが、パソコンの調子が悪いのは……。
 しかし、こいつは、去年の5月に買い替えたヤツだから、そんなに簡単に壊れる訳はないのですが。
 
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