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第四話 襲来、ボルテック
第四話 襲来、ボルテック
エリスの命を間一髪のところで救ったアッシュ。
互いに自己紹介をするが、アッシュは何故かエリスの顔を
ずっと見つめていた。
何かを考えながら。
『あれ・・・』
様子がおかしいアッシュに、エリスは口を開く。
『どうかした?さっきから様子が変だけど』
アッシュは暫く何も言わなかった。
だが二人が森の入口まで戻ったその時、アッシュは先ほどまで
気になっていた内容を口にする。
『エリス、俺達って以前にもどこかで出会ってない・・・よな』
『え?初対面だけど』
『だよ、な。悪い、気にしないでくれ』
アッシュがずっと考えていたこと。
それは、過去にエリスに似た人物に出会っているということ。
いつ、どこで会ったかまでは思い出せないが、その記憶自体は確かだった。
『ねえ、それよりもアッシュ』
『え?』
エリスは立ち止まり、小さな声でボソボソとこう言った。
『さっきは、その・・・ありがとう』
『あ、ああ。何かと思えばそんなことか。全然気にしなくていいぞ。
むしろ礼を言うのは俺の方だ』
アッシュの何気ない返事に、彼女は少し驚いた。
彼にとってはまるで何事もなかったかのように聞こえたからだ。
『それに、慣れてるんだよな。俺の親友もさ、ガキの頃からよく危険に首突っ込んで
て、俺はしょっちゅうあいつを助けてたよ。でも・・・』
アッシュはそれ以上は言わなかった。
彼は震えるほど右手に力を込め、その様子を見たエリスは口を開く。
『親友さんが、どうかしたの?』
アッシュは舌が切れるほど力強く噛み、口から静かに血を流しながらこう言った。
『殺された・・・あの野郎に!?斬獲のシュラネス!?冷静になろうと頑張ってたが
やっぱり無理だ。アイツだけは絶対に許さない』
斬獲のシュラネス。
エリスを戦慄させるにはその言葉だけで十分だった。
彼女は知っていたのだ。
だが、自分で聞いておきながらどう言葉を投げるべきか、彼女には分からなかった。
やがて二人はエリスの家に入る。
テーブルの椅子に向かい合わせになるように座り、エリスは怒りを抑えようとする
アッシュにこう言った。
『アッシュは、紋章騎士団についてどこまで知ってる?』
『いや、実は俺も分かってないんだよ。ゼファリオンというのがリーダーだってこと
ぐらいしか』
『そう、なんだ。というか、アッシュはなぜグランドクロスの前に倒れてたの?
まさか、シュラネスと・・・?』
アッシュはエリスの目を見ず、ただ無言で頷く。
『あのシュラネスと戦って、生きてた・・・!?』
その瞬間、アッシュは怒りを爆発させる。
今まで抑えていた感情が溢れ出したのだ。
『あの野郎、ジェイルは殺した癖に俺は殺さなかった!?なんでだよ、訳が分からねえ!』
『その、シュラネスのことなんだけど・・・』
エリスのその一言に、アッシュはテーブルを両手で叩きつけ、勢いよく椅子から立ち上がる。
『知ってるのか!!教えてくれ、あいつは何者なんだ!』
この時、アッシュは少し怯えるエリスを見て我に戻った。
一言静かに謝り、再び椅子に座る。
少し間をあけて、彼女はシュラネスについて話し始める。
『天地最強の剣、それがシュラネス。この世界で彼に勝る剣士はいない。今まで何人もの
剣豪が彼に挑み、そして殺された。それもあっけなく。一番恐ろしいのが、未だ一度も
本気で戦っていないということ』
アッシュは彼のことを聞いて驚愕した。
親友ジェイルがなぜ殺されたのか。
なぜ自分が勝てなかったのか。
天地最強の剣、それがその全ての答えだった。
エリスは続けて口を開く。
『シュラネスは幹部・星裁の使徒の一人で、その他にシルフィーナとゼファリオンがいる。
でも、彼ら以外にも恐ろしいのが・・・総隊長のルージュ=クライトス』
『ルージュ・・・』
ルージュ=クライトス
その名を聞いたアッシュはなぜか反応した。
もちろん出会ったこともなければ、顔も知らない。
なのにアッシュは妙な緊張を感じてしまう。
『ちょうどアッシュと同じぐらいの若い男の子なんだけど、彼は16歳という前代未聞の若さ
で、三大騎士団を統括する総隊長に昇進したエリートなの。去年得た情報だから、今は17歳
だね』
『ってことは、いつかそいつと交える可能性もありそうだな』
アッシュは何故か嬉しそうだった。
戦いが好きな訳でもないが、この時は違っていた。
紋章騎士団について軽く説明されたアッシュだが、
ここで妙な質問をエリスに投げかける。
『ところでエリス、見たところ独りで生活してるみたいだが、持ってた弓と言い
魔物の攻撃に対する反応の速さ・・・まさか、あんたも大事な人を紋章騎士団に?』
その一言にエリスは驚きつつも、こう返す。
『どうしてそれを・・・?』
『腕を見れば分かる。確かに女の子らしい細身だけど、筋肉がしっかりしてるしな。
その筋肉の付き方は日々鍛錬してなければ難しい。特に女性の場合は分かりやすいんだ』
『・・・シルフィーナ』
エリスのその一言に、アッシュの記憶が蘇った。
なぜ森の入口でエリスにあんな質問をしたのか。
似ていたのだ。
皮肉かもしれないが、恐ろしいまでに。
あの、聖光の二つ名を持つ星裁の使徒の一人・・・シルフィーナに。
だが空気を読み、彼女の前であえてその事は言わなかった。
『シルフィーナは、私のお父さんを殺した仇・・・彼女を倒すために、私は辛い毎日を
乗り越えてきた』
シルフィーナに、自分の父を殺されたと言うエリス。
だがアッシュにはそれが信じられなかった。
あの時、目が霞んでハッキリは見えなかったが、シルフィーナであろうその女性は
人を殺すような人には見えなかったからだ。
『でもさ、あの人・・・一瞬だけ見たけどそんな残酷なことをする人には』
その一言に、今度はエリスが激昂した。
『あいつは、そうやってヘラヘラしながら人を殺してるのよ!?』
『エリス・・・』
彼女も我に戻り、静かに俯く。
その様子を見たアッシュは、思わず謝った。
『悪かったな、軽率だったよ』
『ううん、私の方こそごめんね。それよりもアッシュのご家族はまだ健在なの?』
思いもしなかった質問に、アッシュは少し戸惑う。
複雑そうな表情で、彼は少し小さい声でこう言った。
『今は俺と親父だけの二人だな。母さんの事は全く分からない。俺を産んですぐに汚染の
病で亡くなったそうだ。それから・・・』
『それから・・・?』
アッシュは更に小さい声で、発言を続ける。
『夢で親父に言われただけだから絶対違うと思うんだけどさ、俺には生き別れの・・・っ!?』
その瞬間、尋常じゃない強さの地震が発生した。
アッシュは最後まで言い切れず、エリスと共に家の外を出た。
そして、二人は目の前の光景に言葉を失う。
それはまさに「地上戦艦」。
遠く離れていても、それはとても巨大だと分かる。
『なんだこりゃ!?』
『あいつは、まさか!!』
エリスの予想は当たっていた。
その地上戦艦を指揮している人物こそ、
『ハハハハハ!!紋章騎士団に反逆した愚か者よ!隠れても無駄であーる!!この
地上戦艦ジャガーノートからは逃げられんぞ!!』
紋章騎士団第三騎士団長
ボルテック=カタストロフ
『ボルテック!?まさかこの村まで・・・!』
ボルテック襲来。
だが、村人たちは一斉にこう言った。
『反逆者ってなんだ!俺たちは紋章騎士団に逆らった覚えはないぞ!!人違いじゃないのか!』
しかし、ボルテックは初めから聞く耳など持ってはいなかった。
勢いよく指をさし
『そこの赤髪の青年、奴こそ我ら紋章騎士団に牙を向いた罪人であーる!反逆者を村に入れた
お前たちも同罪。ここで村ごと薙ぎ払ってくれよう!!』
これまで沈黙していたアッシュだったが、静かにエリスの前に出る。
剣を鞘から引き抜き、右肩に乗せてこう言った。
『黙って聞いてたらふざけやがって。村ごと消し飛ばす?それが世界治安組織のすることかよ』
『アッシュ、まさか・・・』
エリスの言葉を無視し、アッシュは続けて口を開く。
『この世界が歪んでるように、紋章騎士団も所詮は歪んだ組織ってことか。いいぜボルテック
、俺を殺しにきたならやってみやがれ。その代わり、俺は簡単には死なねえぞ!』
アッシュ対ボルテック実現。
エリスの不安を他所に、二人は激突する。
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