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東方守勢録

作者:ユーミー
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第五話

牧野が攻撃を始めてから十分以上が経過していた。

妹紅は牧野との距離を縮めようと必死に近寄るが、彼の砲塔が発射する半透明の刃物に遮られ縮めるどころかどんどんと遠ざけられていた。


「くそっ!これじゃあぶが悪い!」

「ほらほら~どうしたんですかぁ?後悔させてくれるんでしょう?」

「なにお……あぐっ!?」


反論しようとした妹紅の右腕に激痛が走る。そこにはゆらゆら揺れる刃物のようなものが深く突き刺さっていた。


「いって……くそ!」


不老不死とは言えど痛みは感じてしまう。妹紅は精神的に追いやられていた。


「さて……あなたの遊ぶのも飽きました。そろそろフィニッシュといきましょう!」


牧野は今までばらばらに設置していた砲塔を自身の後方に集めると、大きく展開させて妹紅に狙いを定めた。


「ちっ!」

「これでとどめだ!!」


と言って牧野は右手を振り下ろす。

しかし、10秒・20秒たっても砲塔から刃物が飛び出すことはなかった。


「……なにも……おきない?」

「……小さな魚は群れで行動する」

「は?」

「彼らは大きな魚に狙われると、集団で固まり大きな魚のように見せるんですよ」

「それがどうしたってんだ!」

「つまり……こっちに気を向かせておけばよかったんですよ」

「なにいって……!?」


パスッ


妹紅が反論すると同時に後方から何かが発射された音が聞こえた。すべてを察知し理解した妹紅は、恐る恐る後ろを振り返る。

すでに数メートル先には半透明の何かがこっちに向かって飛んできていた。


「あ…」

「チェックメイトォ!」


完全に反応が遅れた妹紅は、ただただ自分の首元に飛んでくるアレを見ることしかできなかった。


(……死ぬ……か……不老不死なのに……ははっ……面白い話だ)


何もかもあきらめたのか、妹紅はゆっくりと目を閉じ、恐怖で震える手足をこらえながら静かにその時を待った。

だが、その刃物が彼女の首を切り裂くことはなかった。


ガキッ


「!?」

「ワッツ!?何が起きたのですか!?」


刃物は金属音を出しながら大きく軌道をはずし、壁にめり込むように突き刺さった。

妹紅も牧野も何が起きたのかわからず周りを見渡す。しかし、周りには何もなくただ疑問だけが残っていた。


「誰もいませんね……しかし、誰かが刃物を撃ったような気がしたのですが……」

「撃った……撃った……まさか……」

「……はぁ……その通りですよ妹紅さん」


誰にも姿を見せなかった少女はそう呟いた。

辺りをきょろきょろする二人にネタばらしをするように、少女はその姿を徐々に見せて行った。


「鈴仙……」

「全く……妹紅さんらしくないですよ!これじゃあ姫様が怒ってしまいます」


そう言って鈴仙は構えていた指を下ろした。


「なぜ!?私の砲塔が対象を逃すわけなど……」

「その砲塔はあなたが操作しているのでしょう?でしたら、あなたに姿が見えていない時点で攻撃できるわけがないじゃないですか」

「ぐぬぬっ……しかし!姿を見せたが最後!この砲塔の数に勝てるとでも思って……」

「はい。確かに無理ですけど、私たちは一人じゃありませんから」

「一人じゃない……!?」


すべてに気がついた牧野だったが時すでに遅し。

牧野が振りかえると同時に、砲塔は音をたてながら壊れて行った。


「私の……砲塔が……」

「私たちは一人で戦わないのよ」

「そうね~まあ、あなたたちも普段は集団なんでしょうけど、今回は一人だもんね~」


そう言って、崩れ落ちていく砲塔の山の向こうから、二人は姿を現した。


「ぐんぬぬぬ!!まだまだこんなものでは!」

「それよりあなた、敵に背を向けててもいいの?」

「はひっ?」


訳が分からず思わず聞き換えしまう牧野。その背後では血だらけの服を着た少女が、すごい勢いで飛び込んできていた。


「これで……お返しだぁぁ!!!」

「へっ……ぐぼっ!?」


少女の蹴りは牧野のわき腹をきれいにとらえ、そのまま体ごと大きく蹴り飛ばした。

牧野の体は軽くひねった状態を保ったまま、思いっきり壁にぶつかっていった。牧野はそのまま一言もしゃべることなく、白目をむいたままその場に倒れこみ意識を失った。


「ふぅ……すっきりした」

「結構ボロボロじゃない?」

「思ったより苦戦したんでな。さてと……鍵は……これだな」


妹紅は牧野の服の中から銀色に光る鍵を見つけると、コンテナの前に移動していった。


「じゃああけるぞ」

「ええ」


妹紅は鍵穴に鍵をさすと思いっきりひねり鍵を開ける。するとコンテナはガチャガチャと音をたてながら自動で開き、中をあらわにした。


「んっ!?んんっ!!」


その中には、妹紅たちを見て反応する一人の少女が、手足を縛られ口にガムテープを張られた状態で詰め込まれていた。


「大丈夫か!ちょっと待ってろ!」


妹紅は少女をゆっくりとコンテナの中から出すと、ロープをほどきガムテープをはがした。


「ぷはっ……はぁ……はぁ……」

「……もう大丈夫よ。つらかったわね」

「助けに……来てくれたの?」

「ええ。もちろん」

「あ……あり……がと……」


少女はそう言って涙を流した。


「つらかったでしょう……ごめんなさいね、もっと早くに助けてあげられなくて」

「そんなことないよ……むしろ、助けてくれないかもって思ってたくらいで……」

「……どうして?」


紫が聞き返すと、にとりは表情を曇らせながらしゃべり始めた。


「私は……たとえ強制だとしてもあいつらに手を貸したんだ……。結果、あんなチップを作って……幽々子さんや椛まで巻き込んで……」

「……」

「そんな自分が許せなかったんだ……だから見捨てられたって仕方ないって……」

「……馬鹿ね」

「……へっ?」


紫はその一言でにとりの言葉を遮ると、彼女の頭を軽くたたいた。


「ひゅいっ!?」

「私たちが仲間を見捨てるわけないでしょう?どれだけ相手に利用されようが何されようが、私たちは仲間であることは間違いないわ。それに、ここはすべてを受け入れる幻想郷でしょ?」

「……そっか……そう……だよね」

「そうよ。だから、また一緒に戦いましょう」

「……うん」


そう言ってにとりは涙を拭き取り、思いっきりの笑顔を紫に返した。


「さて、行きましょうか」

「そうしましょ。ところでにとり、私がここにいたころは開発部にいたはずなのになんでこんなところに?」

「……タイプAのチップに細工を加えて記憶を残すようにしたのは……私なんだ。それがばれてここに……」


タイプAとは、取り付けた相手を自分の思いのままに操ることができるようになる催眠機能を持ったチップである。

当初の予定では、相手に情報が渡るのを恐れて記憶を抹消する予定にしていたのだが、にとりはそれに細工を加えてわざと記憶を残すようにしていたのだった。


「でも……どうして?」

「情報が回ったら有利になるかなって思ったんだ。幽々子さんがタイプAをとりつけられるって聞いたときに細工を施そうって思って……。その分幽々子さんにはつらい思いをさせちゃったんだけど……」

「それはいいのよ。後で自分が何をやってきたかを伝えられるよりも、覚えてる方がましだって私は思うわ」

「……ごめんなさい。でも、少しでもみんなを助けられたらなって……」

「十分役にたったわ。ありがと」


紫がそう言うと、にとりは複雑そうな顔をしてはいたものの、軽く笑みをこぼしていた。


「さてと、長居は無用だし…そろそろ行きましょうか」

「そうだな。とりあえず俊司達と合流するか」

「そうね。にとり、この施設にはあと誰がいるの?」

「雛と椛がいるよ。雛は捕虜監視施設にいるけど……椛は……」


そう言ったにとりはタイプAの実験台にされた椛を心配しているようだった。

そのことは紫達は知らなかったが、にとりの顔をみて大方の予想はついたらしく、紫は「大丈夫よ」と言って励ましていた。


「じゃあ行先は捕虜監視施設ね」

「ええ。行きましょうか」


一同はそのまま紫が出したスキマの中に入り、その場を後にするのであった。 
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