とある組織の空気砲弾(ショットガン)
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第一話 通りすがりのお義兄(にい)さんだよ
前書き
どうも、裏方です。
久々にこれを読んで「こんなの書いたな~」としみじみしました。
基本あの世界の学生って強キャラ揃いですよね。
そんなキャラ達に負けず劣らずのオリ主人公だと自負しています(ツ)
……スイマセン、自重します。
では、どうぞ!
時刻は19時をたった今まわった。
空は緋色に染まり、やがて夜がやって来る。すでに完全下校時間を過ぎているので人の姿もまばらである。
ここはとある寮の一室。電気がついてない薄暗い部屋の中でベッドに体を沈める人影がある。何をするでもなく、ただ横になっているだけ。
しかし、その体は縦にギリギリベッドに収まっていると言っていい程だ。
ベッドが小さい訳ではない。そこに寝ている青年、灯影月日(ひかげ つきひ)のせいでそう見えるだけの話である。
〜♪〜♪〜〜♪
すると暗い部屋がわずかに明るくなる。枕元に置いたケータイが無機質な着信音と共に震える。
月日は相手を確認せず、する必要も感じず、電話に出た。
「…もしもし?」
『こんばんわぁ〜。愛しのダ〜リンにラブコ〜ルよぉ〜』
電話の向こうから明らかに女口調で悪ノリしている少年の声が耳に届く。彼はボーとしたまま、
「OK.とりあえず間違い電話だ。その電話の向こうにはその愛しのダ〜リンとやらは存在しない。番号とこのどうしようもない空気をどうにかしてから改めてかけ直せ、コノヤロー」
言いたいことを言い尽くし、電話を切ろうとボタンに指を置いた。
『ちょっ!! 待ってくださいよ、冗談ですってぇ!』
向こうもこの流れの行き先が解った慌てて止める。やれやれ、と月日はケータイを耳に戻した。
「…何だよ? 俺の眠りを妨げる者は何p――」
『そのネタはもういーですからぁ!』
この先は言わずとも知っているらしい。やれやれ、と月日は上体を起こして腰かけるように座る。
『それよりも“出現(でた)”のでお願いしますぅ』
「……、」
月日の顔付きが変わる。そして大きな溜息が口から漏れる。
「俺、今日シフトから外れてるし、そのために人員割いて広く巡ってもらったんだが?」
『そう言わずにぃ』
「“スノー”は?」
『別地区を回ってますぅ』
今から連絡入れても、到着まで20分かかります、と少年は付け加える。
「で、俺か?」
『その近辺なんですよぉ』
「……、」
少し考え込む。だがその決断は早かった。
「解った、すぐに向かう。準備は?」
『抜かりなくぅ』
「OK.現場の座標を送ってくれ」
『ラジャーァ!!』
月日はケータイを畳むと立ち上がり、ポケットにねじ込む。そして机の上に無造作に置かれた黒革のベルトを腰に巻き付ける。ベルトには大小様々なホルダーが取り付けられている。
更に革ジャンを拾い上げ、流れるように袖を通していく。最後に玄関である物を掴み取るとそのまま扉を開け、飛び出していった。
月日は現場へと急いだ。その背中はすぐに夜の闇へと消えた。
その“鮮やかな緋色”の腕章とともに。
ここはとある町の一角。完全下校時間を過ぎているため人の姿もまばらである。
しかし、すべての学生が皆揃ってこの規則に従っている訳ではない。
寮に帰ったら冷蔵庫が空だ。よしコンビニに行こう。
ノートがない…。シャーペンの芯がない…。なら話は簡単だ。コンビニに行(ry
いざって時に財布に現金がない…。そんな皆の救世主! 銀行なんざ古臭い!! 今の時代はATM! という訳だ、今すぐコン(ry
これらは例の一部である。厳しい所では門限なんてものまである。
そこは学生。青春を謳歌したいお年頃。時間を忘れて遊び歩いているかもしれない。
これも例の一部。
だが先にも言ったがすべての学生が規則を守っているとは言えない。厳密に言えば、この町はとても治安が良いとは言えない。
だから、
「キャァァァーー!!」
こんなことが起きても不思議ではないのだ。
本道から脇道に一本逸れた場所。裏路地と呼ぶべきそこは、人目に付きにくく、普通の人間なら好きこのんで足を踏み入れようとしない。
絹を裂く様な悲鳴。誰かの耳に届いているかどうかは解らないが、確かに響いた。
そこには一人の女子学生を囲む三人のチンピラ風の男達。その傍で冷たいコンクリートに這い蹲る男子学生。その背中には仲間であろうスキンヘッドの大男。どうやらカップルが被害にあったらしい。
「なぁ、そんなつまんねー野郎なんかよりオレ達と遊ぼーぜ」
「そうそう。損はさせね〜からよ」
「シシシっ!」
男達は下卑た笑いを浮かべる。それが更に恐怖心を煽る。
「ぁ…、ぁ…!」
さっきの悲鳴は振り絞ってようやく出たたった一回のもの。恐怖で足が竦み、震えが止まらない。
それでも、倒されている彼が心配でならない。強くもないのに必死で自分を守ろうとした彼は、数の暴力に屈した。
「ゃ…め…」
「あぁ?」
それでも彼は彼女を守ろうともがく。見っとも無い姿だろう。それでも、彼はもがき続ける。
「お〜カッコイー。え、何?まだ頑張っちゃうわけ?」
「泣かせるじゃねーの(笑)」
「シシシシっ!」
男達にとっては楽しくて、おかしくてしかたなかった。自分達が強者になったことに酔っていた。
この往生際の悪い男子学生にスキンヘッドの大男は、
「……うるさい」
その一言とともに自分が下敷きにしている男子学生の髪を無造作に掴み、勢いよくコンクリートの地面に叩き付けた。
「がっ…!!」
それから、男子学生は動かなくなった。それを目の当たりにした彼女の顔はみるみる青ざめていく。それでも声が出なかった。
「はい残念賞。次の機会に再挑戦決定!」
「ま、次あるかどうか知らねーけどな」
盛大な笑いが起きた。大笑いが爆笑に変わる。
「さーて」
これで邪魔者はいなくなった。残すはメインイベントのみ。本当に楽しくてしかたがなかった。
「……ぐぇ」
そんな奇声を耳にするまでは。
「あ?どうし……た」
言葉を失った。
目を離したのはほんの一瞬。その一瞬の後に、スキンヘッドの大男はコンクリートの上を転がっていた。同時に、しゃがみ込んでいた人影が視界に入った。
「だ、誰だ!?」
人影は立ち上がった。わずかな光に浮かぶシルエット。何か棒状の物体を担いだ長身の男だ。
「俺?」
ゆっくり近づく男。やけに響く足音。
そして立ち止まり、
「通りすがりのお義兄(にい)さんだよ」
そう灯影 月日は言い切った。
突如として現れた乱入者に対し、男達は狼狽える。
正確には仲間がやられたことと、それをやったのがこの長身の男であるとを結び付けられないでいた。
何せ倒れているのは身長二メートル超、体重一〇〇キロで文字通りの大男なのだから。
比べて乱入者は身長一八〇センチ前後、不釣り合いな程痩せた体つきをしている。長く細い手足は簡単に折れてしまいそうだ。
「コイツ、能力者か!?」
それならこんなモヤシ野郎にやられたのにも頷ける。
「勘違いしてるようだから言っとくけど、ただチョークスリーパーでシメただけだぞ?」
キュッ、とね。とジェスチャーを加え、月日はあっさり否定した。
その返答を聞いて、男達は呆気に取られた。
そして、嬉しそうに下卑た笑みを浮かべる。
「なんだよ無能力者(レベル0)か。脅かしやがって」
「ヒーロー気取りでカッコよく登場か? 馬鹿かコイツ。この状況理解できてっか?」
「ん?」
どうやら男達は月日が無能力者と認識し、この状況、即ち三対一である事で有利と思っているらしい。
とんだ勘違い野郎どもだと月日は内心呆れた。
その余裕からなのか男の一人がズボンのポケットからタバコを取り出し、口に咥えて火を着ける。
「あぁ?」
しかし、タバコの火が勝手に消える。何度火を着けてもすぐに消える。挙句ライターの火さえ点火する前に消える。
「あのさ、タバコ吸ってるからもう大人、なんて思ってる?」
「あぁ?」
「そんなもん二世代、三世代も前の話だぜ? それをまだ信じてんの? だったら、スゲーウケるんだけど~」
これは明らかな挑発。この手のタイプが簡単に引っかかるレベルの挑発。
「っだとテメェー!!」
「どうやら正真正銘の馬鹿らしいなっ!」
男の一人が左手を前に突き出す。その手の平から突如として赤々と燃える炎が生み出された。
「発火能力者か」
「大正解! そんなヒーロー気取りのモヤシ君にはコイツを一発プレゼント!! 受け取りなー!!!」
その手から勢いよく放られた火球が、一直線に月日目掛けて飛来する。
「残念」
だが火球は月日に届く前に小さくなり、直撃することなく鎮火してしまった。
「なっ!?」
「なんだと!?」
「シシっ!?」
哀れにも狼狽える男達。ここでやっと気付かされることとなる。
「では、俺からの問題です…」
目の前の男が無能力者でないことを。そして、
「火が燃えるのに必要なのは、有機物・熱とあと何でしょう?」
すでに自分達が強者でも何でもないことに。
「さて、お答え願おうか? 不正解者にはもれなく――」
月日は肩に担いだ棒状の物体の先端を男達に向けた。
「コイツをプレゼント」
その正体は、黒く鈍い光沢を放つ『散弾銃』
「「「「……………!!!!」」」」
男達だけでなく女子学生までも驚愕して言葉を失い固まる。
そんな一同を見て、まるで子供のような笑みを浮かべる。
「安心しとけ。“まだ”ただの改造モデルガンだ」
改造モデルガンの時点でまったく安心できないのに、まだ何かあるらしい。
「じゃあ右から順に聞いてくぞ。はいアンタ」
「オ、オレ?」
指名される男。まるで絞首台の前に立たされた気分だろう。
「く…空気?」
「はい、ニヤピン」
月日は迷うことなく引き金を引いた。パンッと乾いた音が壁に反響する。
「ひぎゃっ!!」
しかし、すべての状況を理解する前に答えた男が吹っ飛んだ。
「小学生かアンタ…。今時聞かない間違いの模範解答だぜそれ。はい次、真ん中のアンタ」
「ヒィッ!!」
気分が変わった。これは文字通りの銃殺刑だ。
「た……助け――」
「却下だ。こうなったのは自分達の責任だ。諦めろ」
さっさとお答え願おうか?と月日は催促する。
「さ、酸素だ…!」
「正解」
男はほっとした。「助かった」とそう思った。
―――パンッ!!
再び響く銃声。
そして、男は膝から崩れ落ちた。
「それじゃ最後の問題だ」
「シシっ?」
最後に残された男。そんな男に月日は眩しい程の笑顔で、
「万が一これで銃と同じように“銃弾”を発射できたら、アンタはどうなる?」
「…………………死?」
男の膝が笑い出す。それこそ大笑いである。銃口はそんな男に向けられている。
「正解者に一言……」
月日は散弾銃を担ぎ直すとゆっくり男の前まで歩み寄った。男を上から見下ろす形となる。
「最初で最後だ。二度とこんな馬鹿やらないと誓え。でないと、」
月日は担いだ散弾銃で肩をトントン、と叩き。
「後悔させる」
最後を強調するように警告。男は激しく首を縦に振る。どうやら解ってくれたようだ。
そこで遠くからサイレンの音が聞こえた。どうやら銃声を聞いた誰かが警備員に通報したらしい。
「時間がない。お前さん方も警備員に厄介になるのは嫌だろ?さっさとあのデカイ人連れて帰れ。“三人で”」
「シっ?」
何を言っているんだ?と思ったその時、後ろと足元から小さな呻き声が聞こえ、そちらに目をやる。
二人の男が動いた。
「生きてるよ。当たり前だろ?死んだらやり直せないからさ」
男から離れていく月日は倒れている男子学生を背追い上げた。その細身からは想像できないほど軽々と。
「捕まるなよ?」
そう言い残し、月日は女子学生の手を掴んで路地裏の闇へと消える。
男は悟った。これが正解者たる自分への『全員見逃す』という褒美であることを。
そして男の記憶にはすれ違い様に目に飛び込んできた“鮮やかな緋色”の腕章が刻まれた。
後書き
いかがだったでしょう?
まー、こんな感じです。つおいです主人公。
SAOを疎かにしないかがすごい不安ですが頑張ります。
それでは、また次回にお会いしましょう。
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