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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第三話





 日本特地派遣部隊は門周辺(アルヌスの丘)を占領して防御陣地の構築に追われていた。工兵隊ではとても足りないので、派遣部隊の兵士も防御陣地の構築に当たっていた。

「……ふぅ、流石に疲れたな」

 中尉の階級を付けた尉官が手拭いで身体に吹き出ていた汗を拭き取る。

「摂津ぅ、水くれぇ」

 そこへツルハシを持った大尉の階級を付けた佐官がやってきた。

「……伊丹大尉、一応は自分の上官なんですから部下の前でそんな情けない格好をするのは……」

「今は摂津しかいないから大丈夫だよ。それより水を……」

「はいはい」

 摂津中尉は伊丹大尉に水筒を渡して伊丹大尉は水筒の水を飲む。

「海軍だと防御陣地は作らないのか?」

「作るには作りますがこんなには作りませんよ。それに木陰が無いから酷しいです」

 摂津中尉は海軍陸戦隊から派遣されていた。特地派遣部隊には海軍陸戦隊も一個連隊(指揮官は太田実大佐で横須賀や舞鶴等の鎮守府の精鋭を集めた)も参加している。武器は全て九九式短小銃など陸軍と共通化していた。

 後に海軍は陸戦隊が所有する九五式軽戦車も持ってくるのであった。

「摂津……敵は来ると思うか?」

「来るでしょうな。門を占領されたんやから必ず取り返しに来るでしょう」

 若干関西弁が出たが伊丹大尉は気にしなかった。伊丹大尉は些細な事までは気にしない人柄であった。

「ま、此方は穴掘って敵が来るのを待つしかないだろ」

 伊丹大尉は再びツルハシを持って作業を続けるのであった。


――帝国皇城――

「あえて言上致しますが、大失態でありましたな」

 一人の男が皇帝の椅子に座るモルト・ソル・アウグスタスに言う。

「帝国総戦力六割の喪失ッ!! この未曾有の大損害をどう補うのか?」

 古代ローマ人が着ていたような服を着ている男が皇帝に叫ぶ。

「陛下ッ!! 皇帝陛下はこの国をどのように導くおつもりかッ!!」

「……カーゼル侯爵、卿の心中は察するものである……」

 漸くモルト皇帝が口を開いた。

「外国諸侯が一斉に反旗を翻すのではと恐怖に夜も眠れぬのであろうが、危機のたびに我等は一つとなり切り抜けてきたではないか。二百五十年前のアクテク戦役のように」

 周りにいる議員達はモルト皇帝の言葉に傾ける。

「戦に百戦百勝はない。よって此度の責任は問わぬ。まさか敵が門前に現れるまで裁判ごっこに明け暮れる者はおらぬな?」

「ッ……」

 カーゼル侯爵は何も言わない。

「だが敵の反撃から僅か二日ですぞッ!! 我が遠征軍は壊滅し「門」は奪われてしまったッ!!」

 頭に包帯を巻いた議員が立ち上がる。

「パンパンパンッ!! 遠くで音がすると我が兵が薙ぎ倒されるのだッ!! あんな凄い魔法は見たことないわッ!!」

 負傷したゴダセン議員は「門」の守備をしていた。

 しかし、「門」を潜り抜けた九七式中戦車、九五式軽戦車を先頭にした特地派遣部隊の攻撃で「門」があるアルヌスの丘は奪われた。

 ゴダセン議員は援軍の到着を待ってからアルヌスの丘に突撃をしたが、陣地構築していた派遣師団の攻撃を受けて壊滅したのだ。

 辛くもゴダセン議員は軽傷で戦場を離脱する事が出来た。

「戦いあるのみだッ!! 兵が足りぬなら属国の兵を根こそぎかき集めればよいッ!!」

 軍人ながら議員をしている者が叫ぶ。

「連中が素直に従うものかッ!! ゴダセン議員の二の舞になるぞッ!!」

「引っ込め戦馬鹿ッ!!」

「なにをッ!!」

 議員通しが喧嘩を始めるが、それを制するようにモルト皇帝が立ち上がる。

 立ち上がったモルト皇帝に、喧嘩を始めた議員達は手を止めた。

「余はこのまま座視する事は望まん。ならば戦うしかあるまい。諸国に使節を派遣し援軍を求めるのだ。ファルマート大陸侵略を企む異世界の賊徒を撃退するためにッ!!」

 モルト皇帝の言葉に議員達は何も言わない。

「我等は連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)を糾合し、アルヌスの丘を奪い返すのだッ!!」

「……陛下、アルヌスの丘は人馬の躯で埋まりましょうぞ?」

 モルト皇帝の決定に、カーゼル侯爵は顔をしかめた。





 アルヌスの丘付近には帝国が召集した連合諸王国軍が勢揃いしていた。

 集まった連合諸王国軍は約二十一ヵ国ほどであり兵力は約二十万であった。

 それを小さな丘から見ている王がいた。

「連合諸王国軍か……」

「さてデュラン殿、どのように攻めますかな?」

「リィグゥ公」

 エルベ藩王デュランにリィグゥ公国のリィグゥ公が声をかけた。

「アルヌスに先発した帝国軍によると異世界の兵は穴や溝を掘って籠っている様子。此ほどの軍をもってすれば鎧袖一触、戦いにもなりますまい」

「そうですな……(そのような敵、帝国軍なら簡単に打ち破れるだろう……)」

 デュランはそう思った。

『なぜモルト皇帝は連合諸王国軍など呼集したのか?』

 しかしデュランに答えは出なかった。

「リィグゥ公、戦いに油断は禁物ですぞ」

「ハハ、貴公も歳に似合わず神経が細かい。敵はせいぜい一万、此方は二十一ヵ国二十万を号する我等が合流すれば自ずと勝敗は決しましょうぞ」

 リィグゥ公はそう言って頭に兜を装着する。

「それではまた後で」

「それでは」

 リィグゥ公はそう言って去って行った。





 連合諸王国軍はアルヌスの丘に向かって前進していた。

「報告ッ!! 前衛のアルグナ王国軍、モゥドワン王国軍、続いてリィグゥ公国軍がアルヌスへの前進を開始ッ!!」

「うむ、帝国軍と合流出来たか?」

「それが……」

 伝令の兵士が困った表情をした。

「どうした?」

「それが、帝国軍の姿が一兵も見えませんッ!!」

「何ッ!?」

 伝令の報告にデュランは驚いた。

「後衛にはいないのかッ!!」

「いえ、後衛にはいません」

 後方を見ていた側近がデュランに言う。

「一体どういう事だッ!!」

 デュランの叫びに側近達は何も言えなかった。

 帝国軍がいないのには前進をした前衛も直ぐに気付いた。

「帝国軍は何処だッ!! 後衛にもおらんのかッ!!」

「は、伝令を飛ばしていますが帝国軍を見つけたような報告はまだ……」

 リィグゥ公の叫びに側近は弱々しく答える。

「まさか既に敗退――」

 その時、何かの音が聞こえてきた。

 そしていきなり爆発したのである。

「陛下ッ!! 敵の魔法攻撃ですぞッ!!」

「こんな魔法は見たことないわッ!! 敵の姿も見えておらんぞッ!!」

 リィグゥ公が叫ぶ。

「全隊亀甲隊形ッ!! 亀甲隊形ッ!!」

 リィグゥ公国軍は楯を上にかざす。

 しかし再び爆発が起きた。

「うわァッ!!」

 リィグゥ公は爆発の衝撃で吹き飛ばされた。

「うぅ……」

 リィグゥ公は傷だらけになりながらも立ち上がる。

 リィグゥ公が見たのは兵士達が次々と吹き飛ばされていく光景だった。

「……これは戦ではないッ!! こんなものが……こんなものが戦であってたまるかッ!!」

 そしてリィグゥ公も爆発に巻き込まれたのであった。

「な、何事だッ!? アルヌスが噴火したのかッ!?」

 それを見ていたデュランはそう言う事しか出来なかった。








 
 

 
後書き
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