ツバサ -DECADE CHRoNiCLE《ディケイドクロニクル》-
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第27話:この世界のシンジツ
前書き
大自然の戦士と別れた一同。
暗躍するネオライダー、正体のつかめない漆黒の戦士。
そんな中、現れたのは新たなる第三勢力だった。
頼打地区、とある高層マンション。
何も変哲もない場所へ目指すように士逹はやってきた。
今ここにいるのは士、小狼、サクラ、夏海の四人とモコナだけ。
ユウスケ、黒鋼、ファイの三人は以前知り合った一条の連絡を受けてできた別件でこの場にいない。
士は写真館にやってきたあの二人……笙悟と龍王から渡されたメモを見ながら呟いた。
「ここか。待ち合わせの場所は」
「どう見ても普通のところですね」
士の言葉にサクラが反応して返す。
その隣では小狼が眉を顰めており、様子がおかしいと思った夏海がそのことについて尋ねた。
「小狼君、一体どうしたのですか?」
「夏海さん……大丈夫です。ただ、あの二人……笙悟さんと龍王にまた出会った事に驚いているんです」
小狼が士と夏海の二人を前に話したのは、かつて巡った世界のでの出来事。
最初に訪れた"阪神共和国"で出会った自警団の青年『浅黄笙悟』。
その後に訪れた"桜花国"で出会った大剣使いの少年『龍王』。
どちらも小狼達と戦い、共に友情を深めた二人であり、小狼にとってはかけがえのない出会いの一つだ。
この世界に訪れる前にも"ピッフルワールド"にて異世界の同一人物として二人と再会しており、こうして再び出会う事も一度ではなかった。
その話を聞いた士たちはクウガの世界とアギトの世界で巡り合った女性警察官・八代の事を思い出した。
「つまり、別の世界で出会った知り合いってことか」
「まるで八代さんの事を思い出しますね」
「ああ、そうだな。しかしこの世界でのアイツらは何をしているんだ?」
夏海の出した八代の名前に反応しながら、士は自分たちの目の前に現れた笙悟と龍王の事を訝しんでいた。
その脳裏に思い出すのは最初に出会ったときにやりとした時の言葉……。
――――お前たちに伝言を預かってきた。リーダーがディケイド、お前達と話がしたいと。
――――聞いて驚け、俺達はネオライダーと戦う秘密組織の一人だ!
――――馬鹿、話しすぎだ龍王。
――――あいたっ!?
……その際に繰り広げたコントじみたやりとりはともかく。
あの時、二人が口にした『ディケイドと話がしたいリーダー』という存在と『秘密組織』。
つまり、秘密組織のリーダーが自分達の事を目につけている状況なのは分かった。
自分達の行動は意外と第三者に見られているとわかった士は小狼達を引き連れてマンションの中へと入っていった。
高層マンションの内部へ入り、記された部屋番号の場所へと向かっていく四人。
やがて高さ19階、メモに記された部屋の前に辿り着くと、士が前に出てインターホンを押そうとする。
「押すぞ」
士がインターフォンを押すとチャイムが鳴り、すぐさま若い男の声が出てきた。
『トマト出汁の……』
「「トマト?」」
「メモに書かれてある合言葉だ……確か、味噌汁」
聞きなれない言葉に首を傾げる小狼とサクラ、それに対して士は『味噌汁』という単語を出した。
その言葉を口にした後、ガチャリと鍵が開き、その中から顔を出してきたのは……龍王の姿だった。
「よぉ、よくやってきたな。早速だが入れ」
「お、お邪魔します」
夏海が挨拶した後、士達4人は部屋の中へと入った。
廊下を通ってリビングの中へと入ると、そこに広がるのは質素な内装だった。
目につくのはベッド、冷蔵庫、マット……最低限の生活品しか置いてなく何処からどう見ても異質だった。
士達を案内した龍王はマットの元へ向かうと、それを手に掴んだ。
「悪いな、ここは隠れ家へ繋がる道の一つなんだ」
「ここが拠点じゃないのか?」
「いつどこであいつらネオライダーが狙っているかわからないからな」
士の疑問に軽く答えると、龍王は思いっきりマットを引っ張り、裏返す。
マットの裏に描かれていたのは、何らかの魔法陣。
龍王は裏返したマットを魔法陣が描かれている方を上にして敷きなおすと、突如魔法陣が光りだした。
一体何が起こったのか、と思う士達一同……そこへモコナが小さな声でしゃべった。
「ねぇねぇこれ、空間を繋げる魔法だよ」
「魔法? これがですか?」
「うん、侑子がよく使っている魔法によく似ているの。マット自体が魔法具の一種だと思う」
目の前に繰り広げている光景にモコナが自分の持つ知識を以て解説する。
夏海がモコナの魔法の解説について聞き入ってると、龍王は敷きなおしたマットの魔法陣へ入ろうとする。
いきなりの行動に小狼が静止の声をかけた。
「ま、待ってくれ!」
「なんだよ、魔法の道で繋がるだけだって。さ、騙されたと思って突っ込んでみろよ」
慌てる小狼の様子を見て、不敵な笑顔を向けながら龍王は魔法陣の中へと入る。
するとまるで穴に落ちるが如く魔法陣の中へと沈み、そのまま姿を消した。
人一人が消えた光景に驚く一同……しかし、それを見ていた小狼は魔法陣へと一歩進み、そして中へと入った。
「……っ!」
「小狼!」
「小狼君!」
「ちょ、士君、サクラちゃん、待ってください!」
魔法陣へと入った小狼に続いて、士、サクラ、夏海とモコナと続いて入っていく一同。
少しの間、眩い光に包まれた後収まると、そこは先ほどの殺風景な部屋とは何処か別の場所であった。
床一体を覆う畳のような大座敷、その奥に鎮座するのは大きめの腰掛け椅子と、二人の人物。
「よう、先に待っていた」
一人はくつろいでいる笙悟。
そして一人の人物。
着流しを纏い、黒髪と眼鏡をかけた一人の若い青年。
青年は士達を視界に捉えると、一瞬息を呑む仕草をする。
一瞬真剣な表情を見せるも、すぐににこやかな笑みを向けながら声をかけた。
「やあ、よく来たね。ディケイドと……そのお仲間たち」
「あなたは?」
「俺か? 俺の事は『エンプティ』って呼んでくれ。俺達"ライダーアライアンス"のリーダーをやっている」
小狼が訊ねたことに返しながら、青年――『エンプティ』は自分の名前を告げて自己紹介をした。
蠱惑的な雰囲気を醸し出す彼に士は目を細めて視線を飛ばし、小狼達と共に腰掛の席に近づく。
笙悟・龍王も含めた全員が席につくと、エンプティは再び話を続けた。
「ディケイド……門矢士だったかな、君達の事は多少だけど知っているよ。ネオライダーと戦っているんだって?」
「成り行きでな。この世界で俺達が探している物の邪魔をしているんだよ。あいつらネオライダーがな」
エンプティの質問に対してそつなく答える士。
腰掛へと座った士達4人の目の前に、エンプティが入れた5個の粗茶が入った茶碗が差し出される。
士、小狼、サクラ、夏海は茶碗を掴み、口をつけた。
そこで小狼が差し出された粗茶が一つ余っている事に気付き、それについてエンプティへ訊ねた。
「あの、一つ多いような気がしますが」
「ああ。それはそこの君に差し出したものだよ」
「そこの君って、一体誰の事を?」
「光夏海君が持っているその子だよ」
粗茶を啜る士の質問に対して、エンプティは夏海へと指をさした。
正確には夏海が持つモコナを指差していた……その光景を見て、士は心の中で少し驚く。
(コイツ、白毛玉を人形か何かだと思ってないのか?)
普通の人間から見れば、モコナは黙っていれば何等かのマスコット的ぬいぐるみだと思われていた。
だがしかし、この部屋に入って一言も喋ってないのにもかかわらず、この男は見抜いたのだ。
「わーい、飲んでもいいの?」
「ああ、熱いうちに飲んでくれ」
「ありがとー!……んん?」
夏海の肩から降りたモコナは茶碗を両手で持ち、中身の粗茶をグビリと一飲みにする。
すると不思議そうな表情を浮かべ、ふと上へと見上げてエンプティの顔をじっと見つめた。
「うーん?」
「どうしたんだい?俺の顔なんか見つめて?」
「……どこかで見たような顔、どこで見たんだろう」
エンプティの顔を見ながら考え込むモコナ。
そんなモコナをサクラが回収し、タイミングを見計らってた笙悟が話題を切り出した。
「お前達をここへ招いたのは他でもない。リーダーがお前らと話がしたいと言ってきたんだ」
「リーダー、というとエンプティだったか。お前が?」
「知りたいんだろう、ディケイド。今この世界で何があったのか、何が起きようとしているのか」
余裕たっぷりの笑顔を見せるエンプティに対し、士とピクリと眉を動かす。
その様子に小狼は気づき、士の顔色を伺う。
士はチラリとエンプティの顔を一瞥した後、いつものような太々しい態度で物申した。
「もったいぶらず話せ。俺達はこう見えて忙しいからな」
「それは失礼、じゃあ早速本題に入らせていただこう」
士の偉そうな言葉を軽く返すと、エンプティはとあるものを取り出す。
それはいくつもの紋章が描かれた紙であり、士と夏海はそれらを見て見覚えがあった。
何故なら紙に描かれている紋章は自分達が巡ってきた仮面ライダーが表すライダーズクレストだからだ。
キバ。
電王。
カブト。
響鬼。
剣。
ファイズ。
龍騎。
アギトとクウガ。
それらが長机の上に置かれると、エンプティは話し始めた。
「いくつもの次元、いくつもの世界に様々な仮面ライダーが生まれた。彼らは自分の生まれた世界で別々の物語を描いた」
「別々の世界の仮面ライダー?」
「ああ、そうさ。彼らの物語は実に豊潤で一言では収まりきらない」
サクラの言葉と共にエンプティが語るのは、とある英雄達の物語。
――ある者は創造主から齎された力をかけがえのない人々のために戦った。
――ある者はたった一つの願いを叶えるために鏡の世界で死闘を繰り広げた。
――ある者は死を乗り越えた者達が支配する世界で闇を切り裂き、光をもたらした。
――またある者は不死の生物との戦いを再び始め、戦いを終わらせた。
――時には時代を超えて、戦国の世に魔物から人々を守る鬼として戦った。
――決められた結末を引っ繰り返すために、時空を超えて歴史を変えた。
――また世界を超えて人々の大切な記憶と時間を守るために戦った。
――ある者は古代から復活した魔王との因縁に導かれ、運命の鎖を打ち砕いた。
それは、とある英雄達の『激情の戦い』。
自分達が知らない、別の世界での『仮面ライダーの物語』。
士達は聞き入るようにエンプティの話を聞いていると、エンプティが真剣な声で告げた。
「本来ならば交わることのない別の世界……だがある日、いくつもの世界は融合した」
「「えっ!?」」
「ゆ、融合したのですか!?」
エンプティの衝撃の事実を告げられ、小狼とサクラは驚き、夏海は思わず聞き返した。
ただ一人士が無言で見つめる中、エンプティは机に置かれた紙を集める。
一まとめにしたそれを再び机に置いて、エンプティは話を続ける。
「それぞれの世界は衝突し、混ざり合い、まるで最初からそうだったように新しく存在することとなった。知らない異形の存在も、未知の大自然の戦士達も一緒に」
「そんな事がありえるんですか!?」
「ああ、世界はそう造り替えられてしまったからね。それがきっかけが意図しないものでもね」
驚いた小狼の言葉をエンプティは冷静に答える。
別の世界を旅する小狼達にとって、世界が融合するなんてことは今までなかった。
サクラも信じられないという言わんばかりに驚愕の表情を隠し切れない。
そんな中、士が自信ありげに呟いた。
「大体わかった、この世界の成り立ちの事はな。道理で別の世界の怪人が同じ世界にいるはずだ」
「でも、何か変ですよ。別々の世界が融合するなんてそんな大ごと、世界が混乱するはずじゃあ……」
「そりゃ最初に気づいた聡い奴らがいたから、多少は混乱したぜ? だが、それどころじゃなくなったんだよ」
夏海の疑問を答えたのは龍王だった。
龍王は粗茶を一気に飲み干し、茶碗を机に置いて夏海達に言った。
「未確認生命体、食い違う認識、見知らぬ土地……その混乱に乗じて現れたのが今世間を轟かせているネオライダーだったんだ」
「なんだと?」
「ネオライダーが?」
龍王の口にしたネオライダーという言葉に対して士と小狼の表情が険しくなる。
彼らの行動が気になっていたが、まさか融合を遂げた"この世界"が生まれて間もない頃から活動していたとは思ってもみなかった。
ネオライダーに関する話を今度は笙悟が続けて語った。
「世界の融合して間もない頃、あいつらはライダーシステムやファンガイアやオルフェノク、ワーム達を利用して刃向かう奴らを倒していった。今アイツらに立ち向かえるのは仮面ライダーぐらいしかいねぇ」
「笙悟さん……」
「俺はカタギにすら手を出すネオライダーが許せない。だから奴らに対抗する仮面ライダー達を集めた集団・ライダーアライアンスに入った」
笙悟は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。
彼の顔から伺えるのは悔しさと怒りだと小狼とサクラは察した。
そして、笙悟の様子を見たエンプティは少し視線を下へと落とした後、士達へ向けて言葉を向けた。
「ディケイド、君達の目的を邪魔するつもりはないし、むしろ同じネオライダーに対抗する者同士協力したい。ライダーアライアンスは君達と協力関係のスタンスで行きたい」
「だが、一つだけ聞かせてほしい」
「――世界の破壊者よ、すべてを破壊せんとするお前はその瞳で何を捉える?」
士達へと向けられたエンプティの言葉。
彼が見つめる二つの目には、すべてを見抜かんとするしっかりとした光が宿っていた。
それを聞いた、一同の答えは……。
後書き
今回現れたのはネオライダーと敵対する集団"ライダーアライアンス"。
リーダーのエンプティを始めとしたライダー達で構成された彼らはネオライダー達と戦っています。
その中には小狼達が出会った人達である笙悟や龍王も構成員として含まれています。
そんな彼らから語られたのは『この世界の成り立ち』。
ディケイドTVシリーズの『ライダー大戦の世界』のようにいくつもの仮面ライダーの世界が入り混じったこの世界。
あれ、前に桜子さんが語った怪人達の情報と矛盾しているのでは……その通り。
気づいていない人間にとっては【この世界】は最初からそうだったように認識してるのです。
別の世界が混じっている事も知らず、最初からその世界にあったように。
最後にエンプティが問いただしたのは、ディケイドOPの口上のオマージュ。
次回、士達の出す答えは?そして……。
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