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外道戦記ワーストSEED

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流星になった漢たち(中編)

 
前書き
それは、倫理的に存在してはならない兵器

されど、貴重な『時間』を稼ぐ必要のあった地球連合には、必要『だった』兵器 

 
地球から宇宙を見上げれば、新月で無い限り夜空を照らす光、月。

皮肉にも、電力削減で貴重な光源となり、誰もが感謝を捧げるようになったその月の至近で、今日も又、星が散っていく。



月にほど近い、とある宙域。

そこに有るのは、ザフトの主力モビルスーツ、ジン。

ガンバレルを排除し、全体的に性能の底上げを図ってはいるものの、ニュートロンジャマーなどの外部要因により、『旧式』の烙印を押された、不幸な兵器。

それが今、『一つ』のイレギュラーにより、戦場に舞い戻っていた。

クロムシルバーをメインに、所々を金のラインが走る。

日本の茶器などが破損した時にも使われる『鍍金』と呼ばれる技術に似た色合いは、この異形な形態に対する造形者の皮肉だろうか?

顔の造形は他のガンダムと大差無かった。

だが、それ以外が全くと言って良いほど、異なっていた。

メインの胴体前面は、まるでボディ全体を『盾』に見立てたように、全体的な凹凸が無い、のっぺりとした分厚いそりのある身体に換装。

そこから突き出した両腕も、クォーターガンダムやナイトホークなど、連邦が通常『G』と書類上冠した物よりやや長めにデザインされ、両腕の先も、通常とは異なり、片手に装着したビームライフルと、もう片腕に着けた長柄のビーム状のランスと直で結合していた。

だが、最もその機体を『異形』たらしめてるのは、その『後方』だろう。

突貫で付けたのが分かる、前時代のロケットエンジンと、後方の『巨大なコンテナ』

これを全て装着し、武装するメビウスの群れを引き連れ、宇宙の漆黒の中、月の荒野を下に進む。

『それ』は端から見ると、かつて古代のヨーロッパに居たという幻獣、ケンタウロスのようだった。

GAT-X053 カタフラクト

この機体には、一つの、狂気に近い逸話がある。

この機体は、ユーラシア連邦におけるとある一流大学に対し、このような命題で論文を書け、という軍上層部の賞金付き論文で、その原型が形作られた。

議題はこうだ。
『宇宙の彼方から、レーダーや電波での通信を遮断できる特殊兵器を持ち、加えて人型兵器で襲ってくる宇宙人が居た場合、それに対抗できる兵器をデザインせよ』

三流ゴシップ紙のクソみたいなお題だな。

九割の研究者はそう断じたが、意外な事に殆どの人間がそれに応募した。

別に先見の明があったとか、そういった理由ではない。

とにかく、入賞の賞金がかなり高かったからである。

これはアズラエル財閥のスポンサードによりブルーコスモス派閥からの金が幾ばくか入った結果だが、正直、理由なんてどうでも良かった。

たとえ教授とて公務員だ。特に国がそこまで豊かでなければ教授クラスとて高額ではない給料をやりくりしている。

だが、ここで問題が発生した。

この企画、教授達が思ったよりも千倍ガチ企画だったのである。

ある教授は軍お抱えのミストラルと呼ばれる重機型設計者にこう言われた。

ミストラルやボールなど、実現可能な技術だけで設計を埋めろとは言わない。

ただ、その技術蓄積を下積みとして使用しないばかりか、賞金目的で適当なSF小説の盗用だけで流そうとしているバカは、こうやって晒す。

そういって、ニュートロンジャマーがなく、インターネットが現行だった時代に全世界に対してご丁寧に盗用箇所にマーカーされた原稿をアップされ返された投稿者達は、即座に出稿をとりやめ。

9割が筆を折って逃げ出した。

たった二人を除いて……

こうして、当時『金持ちの道楽風トラップ』と呼ばれた論文は二人の入賞をもって、終結した。

そこまでなら、ああ、そうなんだ、で済んだだろう。

この話で最も恐ろしいのが、このシチュエーションが、数年後極めて似通った形で現実に起こり、今地球圏は生き地獄にあるという、目を背けたい事実である……

さて、昔話はここまでにして、この機体について説明しよう。

当たり前の話だが、この機体はこの論文を書いた博士、シャイン博士の書いた論文を元に、現在の技術を合わせて作られている。

だから、ここからはこの世界、コズミック・イラの現実に合わせて、シャイン博士が地球連合との擦り合わせた結果であることを承知してほしい。(装甲技術など、数年前に公開されている訳がないのだから)

まず、前提として、この世界でナチュラルは対モビルスーツ戦において圧倒的弱者である。

先んじてプロトジンで慣らしてきたザフトのモビルスーツパイロットは精鋭揃い、『赤服』『白服』と呼ばれるエースパイロットでなくても、『緑服』のパイロットですら、キルレシオは連合の5倍以上。

ジンにとって、メビウスはその文字通り、鮪などのメインの獲物にすらなれない『雑魚』。

だから、それを活かすには本体がそれをカバーする『機構』・『戦術』が必要である。






ジン六機。

ザフトにとっては少数でも、連合にとっては、戦艦ごとメビウスを食われる戦力。

それを押し留めているのが、前述した機体、カタフラクトであった。

「このっ!」

ジンの手が、人間のような滑らかさで動き、カタフラクトに銃弾の雨を降らせた。

流石コーディネーターというべきか、6機体全てで放つ銃弾は、カタフラクトに回避する場所を与えない。

だが、効かない。

フェイズシフトした上で、野球のキャッチャーのように胴体全てを覆った装甲は、実弾を全て受けた上で、小揺るぎもしなかった。

更に、この機体は、『反撃』もする。

人型兵器同士での格闘戦、というには、明らかに不格好な動きだが、バネ人形のように長柄の格闘型ビーム兵器、ビームランスを十字に振り回し、狙い撃つと云うには大雑把な動きで銃器、ビームライフルを打ち込む。

だが、敵もさるもの。

「「ノロマが!!」」

6機はその鈍重な動きを嘲笑うかのように、散る。

だが、それこそが『罠』

カタフラクトの背部コンテナが開き、その『中身』が露出する。

ガチン、という金属音と同時にばら撒かれるそれは、宇宙育ちならば一度は習う、危険物。

「デブリ用の機雷だと!」

ばら撒かれるそれを必死で回避するが、数体はその機雷に手足を触れてしまい、ジンの装甲は戦闘用で強固とはいえ、デブリを粉々にする爆破量により小破してしまう。

その隙を、異形の巨人は許さない。

ナチュラル用に簡易調整された操縦桿を、必死で操作する。

「ここだ!」

フェイズシフト加工された長柄で機雷を爆裂させながら、ジンの胴体に迫るビームランスはジンの一つを串刺しにし。

機雷で完全に動きを止めたジンは、もう片腕のビームライフルで宇宙の藻屑となった。

「馬鹿な……こんな卑怯なまねで、ナチュラル如きが!」

残ったジンのパイロットがそう吐き捨てると同時、ジンの一機が更に爆散する。
 
「おいおい、戦術に絡め取られたからって泣き言かよ」

禁煙用のパイプを咥えながら、ジンを撃ち抜いたメビウスのパイロットが、そう独りごちる。

カタフラクトの肩口から飛来し放った、既に過去になったはずの兵器、メビウスのレールガンによって。

メビウスのレールガンの威力は強力なのだ、いくらジンが高性能なモビルスーツとはいえ、機雷で動きを阻害され、狙い撃てる状況では、とても防げる威力ではなかった。

まるで鳥が、湖から一斉に飛び立つように、一斉に、整然と飛び立つメビウス。

不要、と断じられた哀れな鳥たちは、異形の戦士と共に、ジンに噛みついた。

残る3機は、程なく仲間と同じ場所へ逝った。

「やったあ!カタフラクト万歳!シャイン博士万歳!」

アルテミス基地は沸いていた。

大西洋連邦に借りを作ったとはいえ、もはや過去の兵器となり、されどナチュラルには戦力とする代わりがいないモビルアーマー、メビウス。

それを一つの試作兵器と共にだが、実戦で使える戦力として数えられる喜び。

不幸なニュース続きのアルテミス基地にとって、最高の朗報だった。




だが、忘れてはならない。

これは戦争であり、敵は考え、対応することを。

初戦は上手くいった。

二戦目はメビウスに被害が出たがなんとか勝った。

……三戦目、敵ジンは追加武装を装着。機雷を飛ばされ、代わりにメビウスが機雷の代わりに特攻。十人単位の犠牲が出る。

五戦目、鹵獲されそうなカタフラクトを、敵機ごと試験艦艇のローエングリンで抹消。

データの見返りとして、即座に次のカタフラクトが着座。

費用対効果を考え、ユーラシア上層部は正式ナチュラル機体が出来るまで、カタフラクトの運用を承認。

発生する犠牲のため、アルテミス基地全体に箝口令を発令。

きっと、このオフラインの日記は、この基地を出るとき、消されるだろう。

何も出来ない管制官のボヤキと嗤っても良い。

でも、もしこの月の周りを飛んでいた船がいたら、覚えていてほしい。

ここには、確かに『勇者』がいたって。

ナチュラルの正式機体を作る、その時間を稼ぐために、命をかけた奴が居たって。

C・E100、とあるジャンク屋が個人端末の削除データから吸い上げたデータの抜粋

流星になった漢たち(中編)了 
 

 
後書き
最後は、この兵器が命をすり潰してもたらした『時間』の中で、生きねばならなかった人のお話。 
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