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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第242話:風鳴の家系は化け物か

 風鳴総家への強制捜査……それが行われる事になってからの動きは早かった。

 弦十郎は輝彦やキャロル達など、S.O.N.G.側から出せる戦力を伴い現場へと向かい、そこで他のスタッフや八紘と合流。準備が整ったと見るや、八紘は正門に設けられた網膜認証をパスしてセキュリティを解除して門を開かせた。

「開門ッ!」
「私の権限の及ぶセキュリティは解除可能だ。速やかに風鳴 訃堂、並びに帯同者の逮捕を……」
「ッ! 止まれッ!」

 門が開くと同時に雪崩れ込んでいくスタッフに対し、輝彦が声を上げながら彼らを追い抜き同時に右手の指輪をハンドオーサーの前に翳した。

〈エクスプロージョン、ナーウ〉

 生身の状態で発動させた爆裂魔法。変身していない状態なのであまり多数の目標に対して使う事は出来なかったが、それでも内部で待ち構えていたアルカノイズ達の出鼻を挫き雪崩れ込んだスタッフの先陣が返り討ちに遭う事は防ぐ事が出来た。

「気を付けろ、あちらは既にこちらの動きを読んでいる!」
「チッ、まぁ当然か。寧ろこの程度の先読みが出来なければ、今まで暗躍など出来はしなかっただろう。ハンス、風鳴 翼、行くぞ」
「おう」
「うむ!」

 内部が既に多数のアルカノイズで埋め尽くされている状況に、キャロルは自分とハンス、翼の3人でこれの相手をする事を引き受けた。アルカノイズを倒すだけなら翼に押し付けても良かったが、他のスタッフの身の安全を守る事を踏まえると自分とハンスもアルカノイズへの対処に回った方が良いと判断したのだろう。見た目子供の姿ながら、素早く指示を出し同じ身長のハンスのみならず一見年上に見える翼をキャロルが率いる姿にスタッフの中には奇異なものを見る目を向ける者も少なくなかったが、彼女は構わず前に出た。
 そしてキャロルに続いて、ハンスと翼が敷地内に入りそれぞれローブに鎧、ギアを纏っていく。

「変身ッ!」
〈セット! オープン! L・I・O・N、ライオーン!〉
「Imyuteus amenohabakiri tron」

 ダウルダブラを纏ったキャロルと、ビーストに変身したハンス、そしてアメノハバキリを身に纏った翼がアルカノイズの群れに飛び込み戦闘を開始する。その光景に輝彦もこの場は3人に任せて自分達は訃堂に逃げられる前に彼を捕縛すべく八紘達と共に屋敷の奥へと入っていった。

「ここは任せたぞ」
「あぁっ!」

「家宅捜索、急げッ! 証拠を押さえろッ!」
「ここは危険です、こちらにッ!」

 八紘が慎次と共に屋敷の中にある訃堂のこれまでの不正の証拠を押さえるべく捜査を始めている頃、弦十郎と輝彦の2人は数人のスタッフと共に屋敷の奥に座す訃堂の元を訪れていた。

 襖を開くと、外から差し込む月明りだけが光源となっている広い和室の奥に訃堂が静かに正座している。彼は襖が開かれ、スタッフが拳銃を向けると、その気配を察したのか目を開き老人とは思えぬ気迫を持つ威圧感でスタッフたちを威嚇した。

「うっ!?」
「お……!?」

 S.O.N.G.のスタッフとて決して素人ではない。訓練も受けているし、危険に対しても覚悟は出来ている。にも拘らず、彼らは訃堂の睨んでくる視線それだけで気圧され体の芯が冷える様な感覚を味わった。空気が重くなったかのように動けなくなり、呼吸が苦しくなって冷や汗が噴き出す。

 そんな彼らの肩に、弦十郎は手を置いて下がらせると自分が前に出た。その隣にはハーメルケインを勝手に持った輝彦の姿もある。2人が部屋に入ると、訃堂は威圧感を膨らませながら立ち上がった。

「国連の狗となり下がった親不孝者め……何のつもりでまろび出た?」
「無論……アンタを止める為だッ!」

 弦十郎の答えに、訃堂は手にした刀が収まった鞘を強く握りしめる。その様子には隠し切れない怒りが見て取れたが、不意に輝彦は違和感を覚えた。と言うのも、その怒りの矛先が弦十郎ではなく自分に向いているように感じたからである。

「愚かな……だが真の愚か者は貴様だこの親不孝者ッ!」
「何? 私か?」

 どうやら違和感は気の所為ではなく、訃堂は己を裏切った弦十郎と八紘以上に何故か輝彦に対して怒りを抱いているらしい。その理由が分からず、輝彦はこんな状況であるにもかかわらずキョトンとしてしまった。それが更に訃堂の怒りの炎に油を注いだのか、彼は手にした刀を鞘から引き抜き2人に向けて飛び掛かって来た。

「かぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ッ! させるかッ!」
〈バリヤー、ナーウ〉

 輝彦は咄嗟に障壁を張り、訃堂の刀の一撃を防いだ。硬い音を立てて、障壁の表面に弾かれる刃。しかし何と、訃堂は弾き飛ばされるどころか逆に刃を押し込み純粋な膂力で輝彦の張った障壁に罅を入れてきたのである。

「何ぃッ!?」

 確かに変身していない状態では魔法の効果もたかが知れている。だがそれでも生身の人間を相手にするだけであればこの世のどんな技術でも抗えない効果を持っていた。魔法の障壁に至っては、変身していなくても戦車砲の一撃程度までなら防げる防御力がある筈だった。
 それに訃堂は人力で罅を入れてきたのだ。否、罅だけでは済まされない。このままだと確実に障壁が切り裂かれてしまう。

 そうはさせじと弦十郎が横に回り込み、刀を振り下ろした姿勢で刃を押し込もうとしている訃堂に殴り掛かった。

「おぉぉっ!」
「ヌンッ!」

 弦十郎が殴り掛かって来たのを見て、訃堂は輝彦への攻撃を止めるとそちらへの対処を優先させた。拳と刀が交錯し、互いの攻撃を互いに弾き合い衝撃が外に繋がる障子を吹き飛ばす。

 突然屋敷の障子が内側から吹き飛んだ事に、翼は思わず攻撃の手を止めそちらを見た。

「司令ッ!」

 翼の視線の先では、互いに拳と刀を振り抜いた姿勢で背を向け合う弦十郎と訃堂の姿がある。その傍には、恐らく衝撃の余波で軽く飛ばされたのだろう輝彦が縁側近くで尻餅をついていた。

「いつつ……全く、あれが本当に生身の戦いか?」
〈チェンジ、ナーウ〉

 常識外れの力を見せる2人に、輝彦は愚痴りながらも魔法使いの鎧を纏い改めてハーメルケインを構える。

 そこからは輝彦と弦十郎の2人と、訃堂1人を相手にした激しい戦いが行われた。

「コイツでどうだッ!」
〈チェイン、ナーウ〉

 輝彦が魔法の鎖で訃堂を拘束しようとするも、訃堂は腕や足に巻き付いた鎖を軽々と引き千切りその場から刀を振るい剣圧だけで輝彦を逆に吹き飛ばす。その隙に弦十郎が殴り掛かるも、岩石を一撃で砕くほどの拳は片腕で軽く受け流され振り上げた刀は彼の体を屋根の上に吹き飛ばした。

 自分達でもギアを纏ったりしなければできない様な戦いを見せつけられ、翼だけでなくハンスまでもが思わず呆気にとられる。

「あ、ぁ……」
「おいおい、ウィザードの親父はともかくあっちの2人は本当に人間か?」
「あ、当たり前、だ……」

 ハンスの抱いた疑問に対し、翼は即答するもその言葉には力が籠っていなかった。身内であるが故に2人が人間である事を疑うつもりは無いが、それにしたって常識外れの戦いを前にしては翼も自信を無くしてしまう。

 戦いを止めて観客に徹してしまっていた翼とハンス。その2人に1人アルカノイズを始末していたキャロルからの怒号が放たれる。

「お前ら、何をボサッとしているッ! 今はそれどころじゃ、ッ!?」

 2人を叱るキャロルだったが、突然何かに気付くと素早くその場から身を翻した。直後彼女が居た所を紫色の閃光が通り過ぎる。

「何、あれは……!?」
「そんな、まさかもうッ!?」

 キャロルが閃光が飛んできた方を見ると、そこには神獣鏡のファウストローブを身に纏った未来の姿があった。シャトー上部での様子から、取り付けられたダイレクトフィードバックシステムの調整が不十分だと実践投入はまだ時間が掛かると思っていたのにもう参戦してきた事に、翼も驚愕を隠せない。

 未来が戦闘に加わりキャロルに攻撃してきた様子は弦十郎達の目にも入っている。彼は未来が自分達に牙を剥いてきた事に、目の前に立つ訃堂を睨み付けた。

「未来君ッ!? 親父、アンタは……!」
「まだ調整が完全ではないが、流石に儂1人では手に余る状況なのでな。些か不安ではあるが、まぁ時間稼ぎくらいなら不可能ではあるまい」
「時間稼ぎが出来ればの話だがなッ!」
〈エクスプロージョン、ナーウ〉

 屋根の上に降り立った訃堂に向け、輝彦が爆裂魔法を放った。屋内では屋敷倒壊の危険もあって使えなかったが、屋根の上とは言え屋外に出てしまえば爆発の方向を間違えなければ問題ない。魔法の鎖も障壁も膂力で粉砕してしまう化け物な身体能力を持つ老人ではあるが、純粋な爆発を前にすればただでは済まない筈だ。殺せるかどうかは正直ここまで来ると自信が無いが、少なくともダメージを負わせる事は出来る筈である。

 だが輝彦の予想はとんでもない形で裏切られた。何と訃堂は自身の直ぐ傍に魔法陣が出現し爆発が起こると、その爆発を手にした刀で切り裂いて爆発の衝撃を散らしてしまったのだ。

「ゲッ!?」
「ぬぇぁぁぁぁぁぁっ!」

 とんでもない光景に固まってしまった輝彦に、訃堂が素早く接近すると刀を振るい鋭い斬撃を放つ。咄嗟にハーメルケインで防ぐ輝彦だったが、踏ん張りが間に合わずそのまま吹き飛ばされて地面に体がめり込んでしまった。

「うぐぁ、は……ぁ……!?」
「輝彦ッ!?」
「死ねぇぇいッ!!」

 輝彦にトドメを刺そうとする訃堂に対し、弦十郎は2人の間に飛び込むと振り下ろされた刀を白羽取りして止めると蹴りを放って訃堂を屋根の上にまで蹴り飛ばした。蹴りの衝撃で刀が訃堂の手から離れ、弦十郎は残った刀を放り捨てると訃堂を追って屋根の上に飛び乗った。弦十郎が屋根の上に飛び乗った時点で、訃堂はまだ着地できていない。彼が屋根の上に着地するタイミングを狙って、弦十郎は握り締めた拳を不動の鳩尾に叩き込む。

「貰ったぁッ!!」

 屋根の上に着地した訃堂の老いた肉体に、弦十郎の丸太の様な腕から放たれる拳が叩き込まれる。その衝撃は凄まじく、訃堂の後ろの屋根の河原を吹き飛ばし屋敷の傍の大岩を穿つほどの威力であった。
 地面に出来たクレーターの中からその光景を見ていた輝彦は、一瞬弦十郎の勝利を確信した。だが次の瞬間、口から血を吐いたのは訃堂ではなく弦十郎の方であった。

「ぐ、はぁ……!?」
「弦十郎ッ!?」
「……儚き哉」

 弦十郎の一撃は訃堂に命中していなかった。着地の瞬間訃堂は僅かに体を逸らして弦十郎の一撃を回避、同時にカウンターで抜き手を彼の腹に叩き込んでいたのである。
 自分の攻撃の勢いがそのまま自分に返って来たことに、弦十郎が血反吐を吐きながら動きを止めていると訃堂が彼の体を背後から抱きしめ屋根の上に跳躍。そのまま反転すると、上下逆さまの状態で弦十郎の頭を庭にある岩に叩き付けた。

「はぁっ!」
「ま、マズイ……!」

 訃堂が弦十郎にトドメの一撃を放とうとしているのを見て、輝彦は咄嗟に右手の指輪を取り換えハンドオーサーに翳した。それと同時に訃堂は弦十郎の頭を岩に叩き付け、結果弦十郎の頭は岩を粉砕し庭に新しくできたクレーターの中央に埋もれた。上下逆さまに首だけが地面の下に埋もれた弦十郎を残して、訃堂は地面に降り立ち己の息子を見下ろした。

「儂を殺すつもりで突いておれば或いは……とことんまでに不肖の、ぬ?」

 弦十郎の甘さに不甲斐無さを覚えていた訃堂だったが、地面に埋もれた彼の頭の部分を見て異変を感じた。よく見ると地面に魔法陣が出来ており、弦十郎の頭はその中に入っている。

「これは……!」

 何が起きているかを察した訃堂が、別のクレーターに居る輝彦の方を見た。そこでは案の定、地面に座り込んだ輝彦の傍に浮かんだ魔法陣から、弦十郎が顔を出している様子を見る事が出来た。

「……後でお前の血筋の家系図見せろ。絶対祖先にハルクかヘラクレスが居る筈だ」
「おいおい、人を怪人の家系みたいに言うのは止めてくれよ」
「だったらもう少し人間らしくしてくれ。ただの人間は素手で魔法の鎖を引き千切ったりできないんだよ」

 溜め息を吐きながらボヤキつつ、輝彦は魔法陣から顔を出している弦十郎の頭を押し込んだ。それに合わせて弦十郎が起き上がると、口の周りを血で汚しながら再び訃堂の前に立ち塞がる。

「ふぅ……流石にやるな、親父」
「これは、あの男の手妻か……小癪な真似をッ!」
「ハァァァッ!」

 弦十郎を仕留め損ねた事に訃堂が肩を震わせている背後から、体勢を立て直した輝彦が切りかかる。完全に死角になっている方向からの一撃に、だが訃堂は蹴りを放つ事で迎え撃ち輝彦の一撃を弾き返した。

「くッ! しかしッ!」
〈アロー、ナーウ〉

 背後からの不意打ちは不発に終わってしまったが、輝彦の方もただでは転ばない。弾き飛ばされながらも訃堂に向けて魔法の矢を放ち、彼をその場から飛び退かせ弦十郎が体勢を整えるだけの時間を稼いだ。その場から飛び退いた訃堂はそのまま先程弦十郎が投げ捨てた刀を拾い上げ、体勢を整えた2人は再び並び立って刀を構える訃堂と対峙した。

「「はぁ、はぁ……」」

 2対1と言う状況であるにもかかわらず、あちこち傷だらけになり肩で息をしているのは輝彦と弦十郎の2人。一方の訃堂は息一つ乱していない。

 あまりにも人間離れした老人の姿に、輝彦は改めてこの家系が如何に化け物であるかを再認識していた。
 今頃屋敷の中を捜索している八紘と、今正に未来と戦っている翼の存在を差し置いて………… 
 

 
後書き
と言う訳で第242話でした。

今回は訃堂と弦十郎、輝彦の戦いが主となりました。原作だと弦十郎は訃堂の表蓮華みたいな技を喰らって倒されていますが、あまりにもあっさりとした敗北だったので本作では輝彦のサポートでそれを免れました。尤もここを乗り越えたからと言って2人が訃堂に勝てる見込みがあるかは話が別ですが。

一方キャロルは原作よりも早くに神獣鏡のファウストローブを纏った未来と対峙。訃堂であれば先の2人+キャロルとハンスを相手にしても何とかしてしまいそうな気はしますが、それだとちょっと物足りないので。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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