外道戦記ワーストSEED
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十二話 夜の双翼(中編)
前書き
主人公「コーディネーターが優秀なら、感情を制御できる術くらい覚えて戦場出てくれ」
明らかに周辺被害無視する大型武装のジンを撃沈しながら。
世界樹コロニーを改造した基地ユグドラは、追加資材により、大きく3つのエリアに別れる。
一つ、元のコロニーを改造した、兵器の発着所。
二つ、月光の光エネルギーを用いた太陽光充電パネル。
最後に、オーブと共同で制作中の住居コロニーである。
ほとんどの人間は、それを聞いてこう、思うだろう。
いや、危なくない?どんな位置関係に民間人混ぜたコロニー作っているんだよと。
無論、このコロニーは、他2つから大きく離されているが、何故こんな基地の横に、住居コロニーを作ったのか。
それは、別に民間人を盾にしたいとか、そういった理由ではない。
凄く雑に言うと、少しでも窮乏した地球側の各国の現状を改善するためであった。
どんな国であっても、手の施しようのないレベルで経済的に困窮した場合、多くは他国へ国債の発行や領土や港など、利益を産める場所の貸し借りにより事態を解決しようとするだろう。
だが、どの国も窮乏の危機にあれば、どうなるのか?
現代社会において、一定量を超えたエネルギー不足は、国が回らなくなるのと同義である。
昨日作れたものが明日は作れない。
明日までに食べなければならないものが、2日後にしか届かない。
生産・流通・販売
流れる水のように人々を潤してきたそれらが止まれば、後は段々と真綿で首をしめるように、様々なものが人々の手に渡らなくなる。
大国で多くの国民を抱えた所なら尚更だろう。
それは資本主義的に言えば、『経済的に弱い者を救うことができなくなる』ということである。
何等かの理由で労務が難しいものへの配給は止まり、テロやデモで壊れた町並みは直ぐには直らず、難病治療に継続的な医療行為が必要な人は亡くなっていく。
大西洋連邦が、必死こいて火力発電や水力発電で作っている電力はどこにいってるの?
その問いについての答えは、使っている。だけど全く足りない、が結論である。
無論、各業界に伝えて全ての企業が節電可能な部分は死ぬ気で節電している。
だが、人は『生活し続けているのだ』
夜に仕事をするには、電気を付けなければならない。
寒暖差のある地域は、エアコンをつけなければ体調を崩す。
倉庫にあった缶詰などの緊急時の食料を放出して、その時は飢餓で亡くなることは防いでも、じゃあ次の備えは?と考えれば、結論として工場動かして作るしかない。
作物の収穫を全部手や工具だけで行うなんざ不可能だ。トラクターや荷詰めの機械まで全て電気がいる。
『核エネルギーを含めた多大な発電により発生する大量の電気を用い、全世界的なネットワークも併用した利便性の高い生活』というついこの間まで確かにあった生活を崩され、人は先行きの暗さに暴力的、猜疑的になっていく。
何故か核エネルギー抜きでも、地殻エネルギー発電により国民の生活に全く影響を与えないレベルで発電できているオーブ以外の台所事情は、おおむねこのようなものである。
で、この危機への対策の一つとして挙げられたのが、世界樹コロニーの太陽光発電量の高さを生かした、食料生産である。
ジョンの義実家、レンブラン家を含めた各業界のエキスパートを集め、ついでにキチンと素性を調査した居場所のないコーディネーターやナチュラルを労働力として確保したこのコロニー。
宇宙上のため、何かしらの外部介入がない限り、発電できるというメリットを生かし、地上の諸々の欠乏をカバーするのがこの建物の仕事である。
とりあえず各国の崩壊のトリガーになりうる食料の窮乏をどうにかするため、コロニーの7割を食料製造のための農業プラントに、2割をその加工工場と地上に輸送するシャトル発着に使用。
残り1割を、業務に携わる人々の住居にすることでとりあえずの世界の飢餓と欠乏の応急措置をするのが、このコロニーの役目である。
で、何故オーブが噛んでいるのか?
様々な国からはじき出された、コーディネーターとナチュラルの橋渡しになるのがオーブ以外いないからである。
悲しい話だが、こんな状況だからこそ、誰かに当たって憂さを晴らしたい、という欲望を持つ者が選定前の地球側のナチュラルにはとても多かった。
合理的に考えればそんな場合ではない、というのが正論であるのは誰だってわかる。
だが、正論だけでブレーキ掛けられる人は、実際ほとんどいないのだ。
じゃあナチュラルだけ連れていけば良いって?
残念だが、住み慣れた土地から離れて危険地帯にて仕事に従事する、という勤務内容に多数のナチュラルは集まらない。
しかも、被災等のどうしようもない理由で高給の仕事を希望していたナチュラルでさえ、最初はここでの仕事に難色を示していた。
それはそうだ。
なんせ、大局的に勝つためには、自爆戦術すら許容する地球連合という側面を見せられた直後だ。
のこのこやってくるのは自殺志願者以外居ないだろう。
じゃあ、どう考えても地球側に居場所のないコーディネーターを連れてきて全員分枠を埋めるか?
敵対してるコーディネーター国家、プラントが近くにあるのに?
どんなに安上がりでも、それは出来なかった。
こうして、危ういバランスのまま、どうにかこのコロニーを短時間で成立させるために、ナチュラルVSコーディネーターの非常時の対応マニュアルとノウハウを持った中立国オーブが名乗りをあげ、承認された。
ジョンはその結果を素直に称賛した。
コウモリ外交は一歩間違えれば奈落の高リスク高リターンの行為である。
しかし、オーブはそのリスクを飲んだ上で、国家間のビジネスチャンスに変えた。
しかも、そのカードを上手く切って事態を収めたのだ。褒めるしかない。
で、少しは話は戻るが、ナチュラルの集め方どうしようか、である。
定員はもう諦めるにしろ、どうにかコロニーに人を掻き集めなければならない。
そこで話をもってこられるのは、当然、地球連合の中心である大西洋連邦。
で、大統領。まず秘密裏に自分に接触。軍内での発言力の後ろ盾に大統領を使って良い&国家予算を用いた様々なメリットをジョンに付与する提案と、実際に先払いとして表だって『大西洋の死神』を国を挙げて支援することを公的に表明、加えて『連邦製MS計画(仮称)』を極秘裏に先に支援する事により、ジョンを基地ユグドラに赴任させる事を了承させた。
で、了承と同時に大統領令発令。
戦時下により、家族が兵役、もしくは指定する危険区域での業務に携わっている者に優先して配給をすることを明言した。
この宣言は、無論ある程度の反発はあったものの、概ね民衆から好意的に受けとめられた。
お国柄、最前線で頑張る奴は偉い!とか、パワフルなヒーロー素敵、という国であるのだ。
更に大統領は続ける。
一定以上前線や指定する前線に近い基地で勤務や兵役を務めた他国の人間に対して、直ぐに地球本土の市民権は与えられないが、大西洋連邦謹製のコロニーでの市民権を与え、住居と食料を手配し、最終的には本土への移住も許すと。
加え、映えある新規建造の世界樹コロニー近くの基地には、『大西洋の死神』ジョンを中心としたエース部隊が駐留。そのコロニーがザフト側に狙われても助けてもらえないデコイではないことを複数メディアでアピール。
ジョンもマスコミの前で大統領からの依頼に同意したことを伝えた。
エネルギー枯渇、差別等で切羽つまっていたナチュラルはそれで落ちた。
大統領の目論見通り、仕事に積極的で問題を起こしにくい労働力が、多数世界樹コロニーに集まってくれる結果となったのである。
その結果が、この、防衛基地と民間コロニーが至近距離にある奇妙なコロニー群の作成、運営である。
ちなみに、ザフトがやっている戦闘行為についてだが。
かなり挑発的なグレー行為、というか、民間コロニーに流れ弾当たる可能性考えると完全にアウトな行為である。
しかし、大西洋連邦からクレームは入れているが、敵味方共に問題視を諦めている。
なんというか、大西洋連邦のスパイや外交官の手に入れた情報によると、軍部上層部であるザラ派を、政府上層部クライン派は制御出来ていないこれホントに現代の国家運営かという状態がプラント本土で許されているらしいのだ。
冗談みたいな話だが、指示命令系統を統制するのに必須な具体的階級がプラントの軍である筈のザフトに無く、あるのは大まかな服の色によるカテゴリ分けしかない結果、指示命令系統がかなりファジーであるという話は数少ない捕虜から裏付けが取れていること。
命令についても、ザラ派閥では民間コロニーなんざ知るか被害気にしなくていいよという命令。
クライン派ではいや民間コロニーに被害がいかないようにしなさいという命令。
そんな矛盾する命令が各白服と呼ばれる上級士官毎に実際に発令されている現実がある。
そのため、実際に現場にいる人間としては苦虫を噛み潰したような顔で日々の戦闘を行っているのが正直な所だ。
それに……
特務部隊として、他部隊と完全に切り離されたジョンの部隊。
先程のガンダムの新型といい、追加人員の優秀さといい、文句はないのだが。
「確かに大統領は『孫』とだけ言ったが、複数とは聞いてねえよ……」
ジョンは帰艦し、基地内に入る自艦を眺めながら、そう呟いた。
十二話中編 了
後書き
ジョン:特務部隊として他の部隊と完全に切り離されて、良かったです(コナミ感)
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