外道戦記ワーストSEED
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十話 小さな灯火は顧みられず
前書き
一応念押ししてお伝えしますが、このお話はフィクションです。
何故、核エネルギーはリスクが周知されているのにもかかわらず、使われているのか。
それは現状成立している上で、エネルギー発生効率が段違いに高いからである。
そして当然、より良い生活を希望する人々は、そのエネルギー上限を想定した生活を送る。
エアコン、スマホ、タブレット。
農業機械や工場のコンベアなど、社会の様々な産業で使われているものも含め、我々の『快適な生活』は、多大なエネルギー消費によって、成り立っている。
では、それが突然、この世から消えたら?
その結果が、この惨状である。
多くの灯りの消え、静かになった町並み。
沈んだような光の町並みに反して、怒号のような声が飛び交うその光景に、ジョンは目眩がした。
しかもこれ、まだマシな方である。
ニュートロンジャマー。
核分裂反応を阻害し、原子力発電を不可能にするそれを最初に見せられた時、ジョンは目眩がしたことをよく覚えている。
これを機に、クリーンエネルギーに変えましょうとか抜かしている自然学者がいるが、それが容易にできないから多くの国が原子力発電に頼っているわけで。
オーブのように、地熱発電の効率が良い&スーパーテクノロジーによりエネルギー変換効率が良いなんて国はほぼ皆無なのである。
しかも、今は戦時中。
例えばソーラーパネルを設置しました。割られましたなんてことも容易に起こるのだ。
だから、アズラエルとジョンは備えた。
ジョンは妻の実家に頭を下げ、遺伝子農業の第一人者であった義母を通して環境変化に強く、結実しやすい種の開発を。
アズラエルは基盤と財力にものを言わせて、水力、地熱、また原子力が使われるまでは一般的であった石油や石炭による火力発電まで、あらゆる手法の発電所を作った。
それでも、このザマであった。
「他のエリアの事は話さなくて良いぞ。こっちはコーディネーターの報復その他の可能性として話したし、言質もとってある」
「まあ、大西洋連邦はどうにか死者数万で済みそうですよ。それでも弱者保護とか抜かされて、幾分かエネルギーやら資源やら援助の名目で取られそうですがね。まあ、マンパワーと交換ならタダよりマシでしょうが」
ここで言うマンパワーとは勿論、もはやババ抜きのババでしかなくなった地球のコーディネーターである。
エネルギー枯渇という絶好の叩く要素を加えられた彼らに対する迫害は、魔女狩りの再来か、とまで言われた。
だが、ここで問題になるのは、ここは現代であり、良心に従う人間もいる、という点だ。
ブルーコスモスの末端かつ警官が、冤罪で逮捕する事案。
コーディネーター擁護派の弁護士がそれを糾弾する事案。
ある程度エネルギー問題が先延ばしになっている大西洋連邦すら毎日何かしら記事になる始末だ。他の国なんざもっとだろう。
はあ、とアズラエルがため息と共に話す言葉に、くく、と皮肉った笑顔で返す。
「大西洋連邦の大統領が土下座に来たんだろ?良かったじゃないか、これでほぼ連邦はアズラエル財閥の手中だぜ?」
はっ、といつもの人を小馬鹿にするような笑みと共に、アズラエルが返す
「ならなります?大統領?金も人も出しますが」
「いらねえよ!誰がやるかあんな罰ゲーム」
強く否定する。ただでさえ、世界樹戦で帰還した奴らがうちらケルベロス隊の、しかも俺を『光の中心に……』とか変な表現で伝えたせいで、信心深い婆さんに拝まれたり、散々な目にあってるんだ。
これ以上、肩書やなんやらは御免被る。
「で、話を戻そう、少なくとも数億人単位で死傷者が出ているこの状況で、動く指針としては前の相談の通りで良いか?」
そう、同意を求めて聞くと、珍しくアズラエルが眉を潜めた。
「すみません、ちょっと相談したいことがあるので、奥さんと一緒にここに来てくれません?」
そう指定されたのは、政府高官クラスでないと予約できない会員制のレストラン。
「嫌な予感しかしねえ」
アズラエルの来訪の後、ジョンは一人でそう呟いた。
後書き
正史のエイプリール・クライシスで死んだ人間は、10億人だったのでセーフ(そんな訳ない)
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