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無限の成層圏 虹になった男

作者:syunin
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一巻
  二話

 日本と呼ばれる国。
 私がかつて知っていたのは、ブリティッシュ作戦で行われたコロニー落としの残骸が一部、太平洋に落ちたことで日本列島に大きな被害をもたらしたという事だけだった。
 この世界では、ISを生み出した国として広く知られている。
 また、様々なサブカルチャー文化を生み出したり、珍しい美食でも多く知られている国だ。
 私の、新しい一歩。世界をゆがんだ革新へと至らせないための一手。
 全てが、今この国から始まる。










 IS学園までの道中、そして着いてから。
 セシリアは私に初対面での無礼を謝罪した後、様々なことを相談しに来た。
 普段の立ち振る舞いから、ISにおけるマニューバに至るまで。
 ……正直、困惑している。
 普段の立ち振る舞いなど、私に聞かなくても自分で勉強しているだろうに。
 ISのマニューバに関しては、学園に到着してから一緒に研究することになった。教導では無い、研究だ。
 私自身、ただモビルスーツのマニューバをISに変えてるだけに過ぎない。ISとしての基礎マニューバを勉強してから、更なる発展を模索したい。
 しかし、どうにもセシリアからの感情には少し堪えるものがある。
 彼女はどうにも、父性というものに飢えているらしい。
 ……父性。かつてとある少女が私に求め、私が無下に吐き捨てた物。
 とても、私は父親になんか成れるような人間ではない。だが、私もいつまでも子供のような考えを捨てなければ。
 正直、私に父性を求められても困るというのが率直な感想だ。
 ただ、私は同じ過ちは繰り返さない。
 クェス・パラヤ。もうあの少女の様な悲劇は、あってはならないものだ。










 IS学園に於ける行事をつつがなく終え、自己紹介。
 私のクラスの担任は、あの織斑千冬だというのだ。
 ブリュンヒルデ。この世界における最強の象徴。
 願ってもない出来事だ。彼女を基準に、この世界のニュータイプを調べることが出来る。
 それに、宇宙世紀出身の一人の兵士として、この世界の最強の実力というのも気にはなる。
 さらにいうなれば、織斑千冬はあの織斑一夏の姉らしい。
 まあ苗字が同じなので察しはついていたが、やはり遺伝的な何かがISの搭乗資格に繋がるというのだろうか。
 だとしたら、私は何故乗れた?
 ……いや、これ以上の思考はナンセンスだ。この疑問の答えは、それこそISを作り出した張本人にでも聞かなければわかるまい。
 そんなことを考えていると、織斑一夏が歩いてくる。

 「なあ、シャア・アズナブルっていうんだよな?」

 「ああ、君が織斑一夏君か」

 「一夏でいいよ。千冬姉……っと織斑先生と被るからさ、代わりにシャアって呼んでいいか?」

 「ああ、構わないよ一夏君」

 「そっか!よろしくなシャア」

 成程、人付き合いが苦手というわけではなさそうだ。むしろ、率先して人とのやり取りをしたがるようだ。
 彼が差し出した手を握り返すと、楽しげな雰囲気で一夏が話す。
 
 「いやあ、俺のほかにも男がいてくれて助かった!俺一人じゃ心細くてな」

 「いや、むしろたくさんの女性に囲まれているんだ。男として喜ばしい事じゃないかな」

 「おお!シャアってもしかして肉食系か?」

 「いや、私にはとても。……一夏君はどうなんだ」

 「俺にも正直、気苦労の方が大きそうだよ」

 そういって肩をすくめる一夏。色を好むってわけでもなし、か。いたって普通の好青年だ。
 むしろ、周りの方が気がかりだ。
 皆、平静を装って会話するものや奇異の視線を隠さないもの、誰もが私たちの会話に聞き耳を立てている。
 まあ、数少ない男性IS起動者ともなれば当然か。それに皆若い。思春期なら女ばかりかと思われた学園生活に男を放り込めば、こうもなる。
 そう考えていると、打って変わって今度は申し訳なさそうに一夏が口を開いた。

 「その……なんだ、ごめん」

 「何がだ?」

 「俺の、俺がISを起動したせいで。IS搭乗者としての道しか残ってなかったんだろ?ほかにやりたいこともあっただろうに……俺のせいで、全部閉ざされちまった」

 ふむ、気遣いもできる。優しい男だ。

 「かまわないさ。それにISに乗るのだって別に嫌なわけじゃない」

 「そうなのか?」

 「ISは、宇宙での活動を主目的としたパワードスーツだ。宇宙に行けるとなれば、男なら心躍るだろう」

 「そっか、宇宙か!たしかに、それなら楽しみだな!」

 実のところ、この言葉は本心だ。
 この世界に生まれついて十数年。生粋のスペースノイドたる私には、少し宇宙が恋しくなる時がある。
 それに、もしかしたら____

 「……ちょっといいか」

 ____少し感慨に浸っていると、一夏の後ろから声が聞こえた。

 「……箒?」

 肩下まである髪を白いリボンで結ったポニーテールの、いかにも大和撫子って感じの少女だ。どうやら一夏と知り合いらしい。
 しかし、近づいてくるのにすら気づかないとは、少し深く考え込んでしまったようだ。この癖は直さなくては。

 「……廊下でいいか?」

 「お、おう。えっと、すまんシャア」

 「構わないとも」

 そう言うと、一夏は少女に連れていかれた。
 それと入れ替わる様に、影が一つ私の隣に。

 「……まさかあのようなことを考えていたのですか?シャアさん」

 「あのようなこととはなんだ、セシリア君」

 私がセシリアにそう返すと、彼女はいかにも不機嫌といった様子で私に言葉を投げかける。

 「女性に囲まれて、喜ばしい、と。……不潔ですわよ」

 「まさか、あれはただのジョークだよ。残念ながら、相手は乗ってこなかったがな」

 「そうならば、いいのですが」

 セシリアの口調に毒が混じる。少々、思春期の少女には下品な会話だったか。
 しかし、彼女の言葉はそれだけではなかった。

 「……こんな事、出会って間もない貴方に聞くのはおかしいと思いますが」

 「……何だ?」

 セシリアは、少し聞き辛そうにしながら口を開く。

 「いつも、何か思い耽っているご様子。……その様な強さを手にして、何を思い悩んでいるのですの?」

 彼女の言葉に、私は一瞬固まる。
 そんなに分かりやすく考え込んでいたのか、私は。
 少し悩み、しかし何も隠す事ではないと私は考え口を開く。

 「なに、大した事ではない。宇宙について考えていた」

 「宇宙、ですか」

 「先程一夏君にも言ったがね、ISとは本来宇宙を活動する為のパワードスーツだ。人間が宇宙に進出する、全くの未知なる地を開拓するのだ。それは……」

 「それは?」

 「きっと我々の世代がその時代を担う。その先に____」

 「その様な時代が来るのでしょうか」

 「____いや、来るとも」

 そう言うと、セシリアは不思議そうな顔をする。

 「存外……貴方はロマンチストなのですわね」

 「そうかな」

 微笑みながら彼女がそう言うのに、私は笑いながら返した。
 その先、については言わない事にした。
 きっと、その先。
 ニュータイプの時代が来る。
 そして、なにより。
 宇宙に行けば、ララァに会えるかもしれない。そんな気がしたのだ。










 その後、授業が進み三限目。
 授業は比較的穏やかに進んだ。内容は副担任の山田真耶先生による、ISのごく初歩的なものだ。
 一夏は勉強してこなかった様で、織斑先生にこってりと絞られていた。
 しかし、あの教科書を電話帳と間違えるとは……いや、そもそも電話帳なぞ今どき使わないだろうに。
 というわけで三限目なのだが、今回は山田先生ではなく織斑先生が教壇に立っている。
 
 「それでは、この時間では実践で使用する各種装備の特性について説明する。……っと、その前にクラス対抗戦に出る代表者について決めなければな」

 織斑先生の口から、興味深い言葉が出た。クラス対抗戦、その代表者か。

 「クラス代表者とは言葉の通りだ、クラスを代表して対抗戦にでる。選ばれたものは一年間は変更はないのでそのつもりで挑むことだ。自薦、他薦構わない。誰かいるか」

 周りが騒めく。無理もない、突然そのような大役を決めろと言われたら動揺だってする。
 そんな中、一人の少女が言い放った。

 「織斑君がいいと思います」

 「私も織斑君がいいと思います!」

 その声に一夏君の方を見ると、見てて面白いほどに驚いている。

 「お、俺っ!?」

 一夏が思わず席を立つ。

 「織斑、黙って席に着け。さて、他に誰かいないか?ならば織斑に決定するが」

 さらに騒めく教室内。それに交じって聞こえてくる声がある。

 「アズナブル君もよくない?」

 「そうだね!アズナブル君も男性IS起動者だし、特別だよ」

 その声にため息をつく。正直、見世物にされるのは好かない。
 その中、ピンときれいに腕を伸ばすものが一人。

 「どうした、オルコット。自薦か?」

 そう織斑先生に聞かれたセシリアは、はっきりとした声で言う。

 「いえ、他薦です。シャア・アズナブルを推薦します」

 その言葉に、私は少し固まった。私を推薦?何故?

 「ほう、代表候補生たるお前が推すか」

 「はい。間違いなく、この場で最も適してるかと」

 凛とした声は、まるで自分がこの世で最も正しい事を言っているかのようだ。
 
 「他に誰かいないか」

 「は、はい!推薦します!」

 織斑先生の言葉に応えたのは一夏だった。

 「オルコットさんを!その、だいひょう?こうほせいとやらなので……」

 一夏の言葉に、唖然とした後ため息を吐くセシリアが見て取れた。

 「他はないか……ふむ。では織斑、アズナブル、オルコットの三人を候補とする。……決め方は、面倒くさいから決闘でいいだろう。一週間後に三人がそれぞれ一対一で戦い、最終的に代表を決める。異論はないな」

 その言葉に、三人で返事する。よくもまあ、厄介なことになった。

 「それでは、授業を始める。まず最初に実弾を射出する装備について、特徴としては……」

 そういって授業をする織斑先生の声に、私はペンをとった。










 授業を終え、放課後。
 私は一夏君と一緒に寮へ向かっていた。

 「うぐぐ……生活必需品と携帯だけとか、そりゃないぜ」

 「まあまあ、急なことだったんだから仕方が無いだろう」

 どうやら、私は一夏と同室になったらしい。まあ考えてみれば当然か。
 そんなわけで、先に寮に入っていた私が一夏を案内している。

 「ついたぞ、これからルームメイトとしてよろしくたのむよ」

 「ああ、よろしくなシャア」

 私が扉を開け中に入ると、一夏がそれに続いて荷物を下ろす。

 「おお、結構広いな」

 「いやはや、手塩にかけて育てられているものだと実感するよ」

 寮の部屋は結構広い。昔、ジオンの士官学校で寮に入ったがそれよりも幾分か間取りは大きい。

 「世界に、えーっと……四百六十七機しかないんだったかな。それなら好待遇だよな」

 「そうとも。いずれはその中から貴重な一機を任されるかもしれないぞ。実際、私も国から持たされている」

 そういって、右耳につけた青色のイヤーカフを見せた。
 これは前に私が使ったブルー・ティアーズのプロトタイプの待機形態だ。あの大きさのものがここまで小さくなるとは、まったくこの世界の技術には驚かされる。
 因みに、装備もマイナーチェンジしてもらっている。
 スターライトは銃身を切り詰めてもらい、取り回しをよく。また、片刃の高周波ブレードを一振り加えさせてもらった。ビームサーベルと同じような取り回しができる装備が欲しかったのだ。
 セシリアとの模擬戦で好成績を残したおかげか、要求はすんなり通った。

 「えっ、シャアって専用機持ってるの?」

 「ああ。セシリア君が持つ物のプロトタイプをな」

 「すげーじゃん。シャアってもしかして、もう模擬戦とかも?」

 「ああ、日本に来る前に少し」

 そう一夏に言うと、彼は目を輝かせて聞いてくる。

 「じゃあさじゃあさ、ISに乗るってどんな感じなんだ?俺まだ起動しかしたことがないから、来週の決闘が不安でさぁ……」

 「そうだな、水中……いや、無重力にいるところを想像してみるといい。無重力空間では……」

 私が説明しだすと、一夏は興味深そうに聞いてくる。
 この調子なら仲良くやっていけそうだ。私はそんな思いを胸に抱きながら、ISにおける空中機動について語りだした。
 
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