SAO─戦士達の物語
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GGO編
百話 模擬戦闘
前書き
気がつけば遂行後の話でも百話を達成。どうもです、鳩麦ですw
さて、今回は新川君VSリョウ。
彼には、誰かがぶつかってあげないと。
では、どうぞ!!
「さて、」
あの後直ぐに合う約束をして、湯島とは程近い御茶ノ水の病院までやって来た涼人は安岐さんに手早く挨拶を済ませると、既にログインしている和人を横目に椅子に飛び乗り、手早く心電図パッドをしてアミュスフィアを被る。
「ありゃ、お急ぎ?」
「ええまぁ。ちょいと用事が出来まして……」
「了解了解!んじゃ準備OK!どうぞ!」
「どもっす!リンクスタート!」
一言。そのワードを放った瞬間、涼人の意識は別世界へと飛び出した。
――――
「っと」
降り立ったのは、昨日リョウコウがログアウトした場所。即ち、グロッケンの、総督府前だった。
身体の調子を確認し、特に問題無い事を理解すると、リョウは周囲を見渡す。
目的の人物は、案外と素早く見つかった。
「よっ」
「どうも」
先程まで会っていた少年とは似ても似つかぬイケメンだが、どこか雰囲気には同じ物を感じる。間違いない。シュピーゲルこと、新川恭二である。
「んじゃ行こうぜ。場所有るんだろ?」
「……本気ですか?」
シュピーゲルがもう一度確認するように問うて来る。対し、リョウはニヤリと笑ってからかうように返す。
「お前さんは俺より自分の心配した方が良いと思うぜ?」
「……そうですか」
あまりに不遜な態度に腹を立てたのか、シュピーゲルは直ぐに目を逸らすと、前にたって歩き始めた。
リョウはただただ、それに続く……
――――
シュピーゲルに連れられリョウがやってきたのは、小さな射撃場のような場所だった。
頭に?マークを浮かべるリョウを無視して、シュピーゲルはズンズン奥へと進んでいく。そのまま奥に進むと、丁度人一人ならば楽々入れるだろう程度の大きさのカプセル型の機械が二つ、平行に並ぶように置かれていた。丁度その間辺りに有る機会にシュピーゲルは歩み寄る。
「なんだこれ?」
「VR空間で模擬戦闘をするための機械……って設定です」
「っはは。この世界でVRか。洒落が聞いてるぜ」
ようはそう言う設定で、実際には戦闘用の専用フィールドに送るシステムなのだろう。VR世界でVR世界に入る事になるとは思わなかったが。
「じゃ、そこに寝て下さい」
「おう」
両方のカプセルがプシュッと音を立てて開き、リョウは歩み寄る。
「ステージ設定はランダム。制限時間なし。ルールは全損決着モードです」
「了解了解。さっさと始めようや」
「……本当に勝つ気みたいですね」
「あたぼうよ」
シュピーゲルが呆れたようにに言う言葉を、リョウはニヤリと笑って返す。
そうして、二人がカプセルの中に入ると、それは音も無く閉じ……
「っ!」
強烈な青い光と共に、二人はどこぞへと転送された。
────
「…………」
シュピーゲルが飛ばされたのは、ビルの一部屋のような場所だった。
そこら辺にはビジネス用の机や椅子が有り、障害物になっている。
「…………」
彼はセオリー通りに壁に駆け寄り、背中を押しつけるようにすると、周囲を見渡して人知れず笑う。
シュピーゲルこと新川恭二は、今は最早勝てなくなってしまったものの、このゲームに関しては非常に古参なプレイヤーである。その為、このGGOと言う世界に関するあらゆる面で、非常に大きな知識を持っていると言えた。
その知識の中には当然、現在自分が居る場所の知識も含まれている。
現在自分が居るのは、ステージ名「大窓の廃ビル」。
その名の通り、各部屋のほとんどに配置されている壁を丸ごと窓にしたような巨大な窓が特徴の廃ビルである。
外見的な所だけならば特徴は以上だが、このビルの地形には実は攻略法が有る。このビルは、今彼が居る一部屋に居る場合、その部屋からビルの内側に有る廊下に続くドアを開いておくことで、ビルの内部に有る階段と、外部の非常階段をほぼ同時に射程に収める事が出来るのだ。
また、このビルは音が響きやすく、相手が上に居る場合や階段を上り下りしている時すぐに音が伝わるので、彼が何処に居るのか。あるいは階段を降りて来たり登って来たりすればすぐに分かる。無論、此方もそのリスクは同じだが、既にシュピーゲルは廊下に続くドアをゆっくりと開いて待機しており、既にそこから動くつもりはない。階段を下りてきた、あるいは上がってきた所を仕留める。そう思いながら、新川は腕の中にあるAR-10と言うアサルトライフルの感触を確かめる。丁度その時だった。
コツン……コツン……
「っ……」
音が聞こえ、シュピーゲルは息を詰める。
すぐ上だ。廊下のなかを歩き、彼が今居る部屋の真上に居る。このビルは確か五階建ての筈だが、今自分が居るのはどこかまでは彼にも分からない。おそらくは窓のケl式から察するに三階程度だろうが……
と、音が非常階段の当たりに差し掛かった。
ゆっくりと、音をたてないように注意してシュピーゲルは銃口を非常階段の方に向ける。そして金属質な足音を立てながらその音は……
カツン……カツン……
上へと上がって行く。
小さく舌打ちをして、シュピーゲルは再び壁に背を押しつけた。
音は、どうやらビルの各部屋を調査して回っているようだった。つまり、まだ此方の位置はばれてはいないと言う事だ。一つ上の階に上って行った音は、そのまままたしても非常階段で更に上に上る音が聞こえると同時に、聞こえなくなった。
今いるのが三階ならば、恐らく今奴がいるのは屋上の筈だ。
屋上にも居ないとなれば、間違いなくあちらは下へと降りて来るだろう。
その音が聞こえた時。
『それが彼奴の最後だ』
そうして、シュピーゲルは少しだけ息を付き、窓を眺めた。
──音は、まだ聞こえない
大きな窓だ。最早外壁となるべき部分は殆どが窓になっており、一枚で高さ三メートルはあるのではないだろうか。
──音は、まだ聞こえない
随分と屋上を調べるのが長いな。
と、そこまで考えて、新川は思った。
そう言えば、昔何かの映画で、爆発から逃れるために消火ホースを体に巻いてビルの外壁から飛び降りるって映画が……
──音は……まだ、聞こえない。
まさか……
──音は……
まさか……っ!!?
ガシャアアアアアアアァァァァァン!!!!と言う大音響が、シュピーゲルの目の前から響いた。
「くっ!?」
小さく声をもらしながら、彼はARの銃口を其方に向けた。
窓から飛び込んできた人影は長身で赤毛。最低限のコンバットウェアしか身に着けていない有り得ない程の軽装で、帯銃すらしていない。代わりとばかりに、肉厚のコンバットナイフが申し訳程度の威圧感を放っている。
大丈夫だ。まだ窓から此処までの距離は10m近く在る。相手は筋力型。それだけあれば……!
「うるぁっ!」
「なっ!?」
直後、シュピーゲルに向かって、キャスター付きの椅子が吹っ飛んで来た。リョウコウが近場にあったそれを、銃が向けきられるより前に思い切り投げてきたのだ。
『このっ……!』
小賢しい真似を……!
そう思いながらシュピーゲルは引き金を引く。数発の弾丸が発射され、椅子が細かい部品や破片を撒き散らして吹き飛ぶ。
と……
「おぉぉぉっ!」
赤毛の女性……もとい、青年が、その下を潜るかのように凄まじく低い体制で突っ込んできた。
その距離は先程の半分にまで縮まっている……!
「っ……!」
慌てなかった。と言えば間違い無く嘘になるだろう。しかしだからと言ってパニックを起こす程で合ったかと言えば、そうでもない。
反射的に射撃を止め、射線を下に下げる。リョウコウの進む進路と彼のARの射線が、重なった。
『殺った……!』
引き金を引く。彼に取っては少々重めに感じるリコイルショックが肩を伝い、弾丸が打ち出され……
「っっぁぁぁぁぁああああ!!!」
しかし、弾丸は命中しなかった。
否。正確には“命中”はしたのだ。
リョウコウは、全速力で進んでくる進路を、“ほんの少しだけ”彼から見て右に逸らした。まぁ、逸らした。と言うよりは、それが彼に出来る最大限の進路変更だったのだろう。
その結果、撃ち出されたいくつもの弾丸は、彼の左腕をポリゴン片に変え……それで終った。
「っ!?」
「推オオオォォォっ!!」
右腕だけで突き出されたナイフが、新川の首元へと銀閃の尾を引いて一直線に迫る。しかし、その動きに、これまで以上に長くプレイしてきた彼の体がまたしても反射的に動いた。
シュピーゲルは、彼から見て右側に向かって、思い切り倒れ込むように飛び込んだのだ。
それはある意味で、自分の信じていた価値観を消さんとする、新川恭二の意地だったのかもしれない。
ここで負ければ、自分が今まで信じてきた価値観が嘘になる。怒りの、憎しみのやり場が、その根拠が、嘘になる。そうしたら、自分は自分の間違いを認めなければいけない。本当に愚かなのは、親でも、本当の顔も知らない赤の他人でも、世界でも無く、自分自身だと認めなければならなくなる。それは、とてつもなく恐ろしいもので、そんな物を見止める訳には行かないから。間違っているのは、自分の世界が上手くいかないのは、自分のせいじゃないから……それを、証明し続けなくてはいけないから。
そんな、どうしようもないと、自分の中の何処かで気づいて居る根拠の為の、意地だったのかもしれない。
「なっ!?」
「うああぁぁぁっ!!!」
無我夢中で倒れた体を返し、ARの銃口をリョウコウに向ける。
対しリョウコウはそのまま追撃を開始しており、少し引かれた右腕からの突きが既に此方に切っ先を向けている。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
しかしそれが放たれるよりも早く、奇声を上げてシュピーゲルが引き金を引いた。しかも今度は確実に当たるよう、胴体に向けて。だ。今度こそ当たる、確信を持って放たれた弾丸……
「うおっりゃぁっ!!」
それをリョウコウは、突如として下半身に力を入れたかと思うと……その力を一気に解放し……ブンッと低い音を立て、殆ど下半身だけを空中に跳ね上げる事で、空中で逆立ちの海老反りのような体勢となる事で、避けて見せた。
────
『な……』
もはやシュピーゲルは唖然とするしかなかった。
そんな風に銃弾をかわす等、聞いたことが無い。最早この男の発想や動きは、ステータスや武装と言う範疇を超えている……
自分の、常識を超えている……
そんな事を思っている間に、逆さま状態のリョウコウの足が天井に付き……
「Gotcha(殺ったぜっ)!」
その体がまるで弾丸のように、シュピーゲルに突っ込むと同時に、試合は終わった。
試合時間 十三分四十秒
模擬戦闘終了 勝者《ウィナー》 リョウコウ
後書き
はい!いかがでしたか!?
というわけで新川君の幻想をぶち殺す回でした。
これであと一回新川君の話を挟みます。え?長い?新川は良いから早く本戦入れ?
す、すみません……なにとぞご容赦を……
ではっ!
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