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Xepher

作者:花龍
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第三話 少女

第三話 少女


天へと続く巨塔、グランドクロス。
その正門は、いつもと違い少し賑やかだった。
左右、一列に並ぶ兵士たちの間を、4人の騎士が通過していた。

第三騎士団長 ボルテック=カタストロフ

第二騎士団長 アシュレン=ファーレンハイド

第一騎士団長 スカーレット=アレクシア

騎士団総隊長 ルージュ=クライトス

ルージュ―
アッシュとは正反対で、肩まで流れる水色の髪に瞳。
弱冠17歳で三大騎士団の総隊長に昇格した、孤高の天才剣士。
その顔立ちは、一見少女にも見えるほどに綺麗。
そんな若きエリートを中心に、彼の後ろには3人の騎士団長が並んでいる。

四人はグランドクロスを静かに前進するが、先にはあの男・・・シュラネスがいた。
4人を代表して、ルージュが口を開く。

『総隊長ルージュ=クライトス、只今任務を終え帰還しました』

斬獲はルージュ達4人の騎士に振り返ると、少し間をあけた後に口を開いた。

『遅かったな』

『申し訳ありません。予想を越えて山賊たちの結束力が高く、鎮圧にお時間をいただく事
となりました。が、じきに紋章騎士団の領土となるでしょう』

ルージュはシュラネスの顔をまっすぐ見つめ、そう言った。
だが同時に、一つの異変に気づく。
それは後ろにいる3人には気付いていなかった。
少し驚愕した後、総隊長は再び口を開く。

『シュラネス様、僕たちのいない間、なにがありました?』

『ゴミを二匹相手していた。一匹は殺したが、もう一匹は恐らく生きている』

第二騎士団長のアシュレンは驚愕した。
彼だけではない、他の3人もだ。
だが、彼は思わず口を開いた。

『驚きました。シュラネス様と交えて尚、息をしているのですか』

ボルテック、スカーレットも恐らく同じことを思っていただろう。
だがあの男、ルージュは違った。
同じ驚愕でも、その内容は彼らとは全く別だ。
では、ルージュは何に対して驚いていたのか。
だが、それはあえてシュラネス本人の前では口にしなかった。

『ではシュラネス様!その愚かな反逆者の始末、このボルテックにお任せ頂きたい
であーる!!』

我先と名乗り出たのは、第三騎士サードソルジャーを指揮する団長、ボルテック。
兵器の扱いに長け、また開発にも携わっている。
紋章騎士団にある数多くの兵器が、ボルテック及び彼の部下達によって作られているのだ。
外見は陸軍を思わせる軍服に、ベレー帽。
肥満な体格をしているが、かつて紋章騎士団に敵対していた、ならず者達の組織との戦争
「リーヴァ海戦」において、たった一人で壊滅状態まで追い詰めた英雄としても知られている。
言葉の最後に「であーる」を付けるのが彼の口癖。

『貴方がでられるのですか?ボルテックさん』

ルージュは笑顔でそう言った。
対するシュラネスも、ボルテックの出陣には特に反論はなかった。

『好きにしろ。では解散だ』

シュラネスはそれだけを言い残し、その場を去った。
ボルテック、アシュレン、スカーレットの3人は各騎士団と合流するなか、
ルージュは一人、無人の通路を歩き、そしてあの時言えなかった驚愕の内容を口にする。

『あのシュラネス様に傷が・・・。掠り傷とはいえ、一体誰が』

ルージュには分かっていた。
ローブで実際には見えていないが、彼だけはそれを見抜いていた。
そして、アッシュが生きているのは彼の力不足ではなく、あえて生かした
ということも、ルージュには分かっていた。
生かした・・・つまり、アッシュに対して何かしらの期待を持った可能性が高い。

『だが、ボルテックさんに勝てないようなら、僕の出る幕はない。どれほどのものか、
お手並み拝見させて貰うよ』

ボルテックの実力を知っているルージュ。
彼が負けるとは思えない。
だが、この日からルージュはアッシュに対して興味を持ち始める。
恐るべきルージュの先見性。
ボルテックの勝利を思うその反面、どこかで彼との戦いを楽しみにしていた。


※※※※※


【お前では何も変えられん】

うるせえ・・・

【ここまでが限界だ】

黙れ・・・

【お前の風は脆い】

黙れって言ってんだろ!!

男が目を覚ますと、そこは無人の民家。
汚染の影響で造りはしっかりしていないものの、中は非常に整理されており、綺麗だ。

『ここは?確か俺はあの時、アイツと戦ってて・・・っ!?』

まだ傷は完全に癒えていないのか、一瞬頭痛が起きる。
右手で頭を押さえながら、

『誰かが俺を助けてくれたのか?ならこうしちゃいられない、その人に礼を言わないと』

ベッドから起き、アッシュは自分の剣を片手に、家を出る。
自分を助けてくれた人を探すために。
だが家を出たとたん、彼は凍りついたようにその場に立ち尽くした。
行き交う人々も、周りの景色も、雰囲気も、なにもかもが自分の知らないものだった。
腐敗都市ダーティスの中にはあるが、初めて踏み込む街に、どう探せばいいのか分からない。
その時、一人の男性がアッシュに気付き、話かける。

『おーお前さん、やっと目が覚めたのか』

『あの、俺をここまで運んでくれた人を探しているんですが・・・』

『あぁ、エリスちゃんのことだな。彼女ならついさっき、ここを東に抜けた先の森に
向かってったよ。会ったらちゃんと礼を言うんだな』

男の話を聞いた限りでは、グランドクロスからここまで運んでくれたのは女の子だ。
意外な事実に驚くも、アッシュもまた、彼女が向かったと言われる東の森に向かう。



『んー。今日はあまり材料がとれなかったな。そろそろ戻らないと』

森の中心部にいたのは、右手に弓を持った小柄な少女。
名はエリス。
背中まで流れる綺麗な金の髪を持つ。
食べ物の材料を探していたのだが、汚染の影響もあり、日々採れる材料も少なくなっている。

『どうしよう、戻ろうと思ったけど、せっかくだしもう少し奥まで行ってみようかな』



一方、森の入口についたアッシュは思わず上を見上げた。
そして、口を開く。

『おいおい嘘だろ?女の子が一人で来るところにしては危険すぎるだろ』

同時に、嫌な予感もした。
そしてそれは、親友ジェイルの死を思い出させる。

『ジェイル・・・なんで、一人で先に逝っちまったんだよ。俺は信用されてなかったのか?
俺は、ずっとお前を信じてきたのに・・・』

そう呟くと、アッシュは森の中に足を踏み入れた。
もう二度と、目の前で誰かの死を見るのは嫌だった。
その気持ちだけが、アッシュを加速させる。


森の最新部に辿りついたエリス。
軽く周囲を見渡すが、魔物はいない。
一瞬安堵する・・・しかし、

『グォオオオオオ』

周りの木々が揺れるほどの咆吼が、どこからか聴こえ出す。
エリスは思わず弓を構える。
すると前方に、汚染された大気が一箇所に集まっていることに気付く。
しかもそれは、今までにないほどの大きさだ。

『これはっ』

大気が魔物の形を形成する。
だがそれは、今ままで見たことのない形だった。
エリスは思わず口を開く。

『まさか、ドラゴンゾンビ!?今まで全く見なかったのに・・・』

竜の形をした巨大な魔物が、エリスの前に姿を見せる。
ドラゴンは大きく腕をなぎ払い、エリスに容赦なく襲いかかる。

『速い・・・!』

間一髪で避けたものの、その衝撃の余波で彼女は地面に転倒してしまう。
エリスは一瞬で体勢を崩され、攻撃を止められる。
立ち上がろうとするも、既にドラゴンの爪が彼女の側まで迫っていた。
間に合わないことに気付いたエリスは、思わず目を閉じて死を覚悟する。
だが、

『ガァアアアア!?』

魔物の攻撃を受けていないことに気付いたエリスは、静かに瞳を開けた。
そこに写っていたのは、右腕をなにかで切断され、怒り叫ぶドラゴン。
そして―

『なんとか間に合ったな。エリス、だっけ?怪我はないか?』

赤髪の若い剣士・・・そう、自分が村まで運び、手当てをした青年の姿だった。

『あなた、どうして私の名前を・・・』

『ここ来る途中で村のオッサンから大体話は聞いたからな。それより話は後だ。
先にこいつをぶっ飛ばす』

『ぶっ飛ばすって・・・あんな強大な魔物をどうやって!それにまだあなたの怪我は』

アッシュは首だけをエリスに向け、サムズアップをしてこう言った。

『まあ見てなって。俺、強いからな』

余裕があるのか。
軽く冗談を言ってみせるアッシュ。
そんな態度に腹を立てたのか、ドラゴンゾンビは大きく咆吼した後、残る左腕を大きく
振り払い、アッシュに襲いかかる。

『おせえよ、タコ』

アッシュは真上に飛翔し、その攻撃を回避した。
だがドラゴンも、アッシュを追うように天高く飛び上がる。
エリスが小さく見えるほどの位置で、アッシュの剣とドラゴンの爪が激突した。
少し後方まで弾かれるアッシュだったが、全身に風を集め、

『もう、誰も死なせはしない』

―虎牙風神流―
回 天 双 波
(かいてんそうは)

再び激突するアッシュとドラゴン。
彼は鞘と剣の両方を持ち、空中で素早く回転し、ドラゴンと交差する。

『す、凄い・・・』

エリスは目の前の光景が信じられなかった。
人間とは思えない動きと強さ。
やがてドラゴンは体を引き裂かれ、空中で足元から静かに消滅した。
地上に降りたアッシュは、剣を鞘に納めると、笑顔でこう言った。

『自己紹介がまだだったな。俺はアッシュ。アッシュ=ランバードだ。あんたが
俺を助けてくれたんだろ?ありがとな』

『あ、えっと・・・』

人と、異性と話をすることに慣れていないのか。
エリスはおどおどしながらも、恥ずかしそうに口を開く。

『私はエリス。エリス=レインハート』


これが、アッシュとエリスの出会い。
そして、更なる戦いの始まり。 
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