彼は いつから私の彼氏?
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9-4
「水澄 攻撃が単調になって読まれてるぞ お前の悪いくせだ これでもかこれでもかってな 意地になってー 花梨がさっき 戦ってた場面を浮かべろ! 相手の動きをしっかりと見ていてウラを突いていたんだぞ」
「そうよー 響先輩にもアホって言われたんでしょ! どうしてだったのか思い出しなさいよ! なっ 水澄は意外なことやってくれるよねぇー」と、若葉にも忠告された。言われて、私は気持ちを切り替えていた。そう この時のために必死に練習してきたのだ。神様 お願い 私を勝たせてー・・・智子、十蔵そして翔琉 私に力を頂戴 と バカなことを願っていた。
3ゲーム目は私、相手のバックサイドを突いたり、センターに打ち込んだりして11-9で取り返していた。そして、最終ゲームは10-10のままデュースまでもつれ込んで、いつも向こうがリードしていて、マッチポイントを握られながらも、私はしのいで13-13まで来て、秋元蓮花が放ったのがネットにひっかかって越えなかったのだ。私がマッチポイントを握って、その次に、私の打ったサーブから少し浮き気味でバックサイドに返って来て、無理があったけど、私は最後のチャンスと思って、ステップして球の頂点を思いっ切りこすって最後は捻っていた。イメージはしていたけど、初めて打つスマッシュ ボールはコーナーよりも半分ほど手前で弾んで横に小さく逃げていくようだった。秋元蓮花は追いつけず、私 勝った。あの女王とも言われていた人に。
「水澄 やっぱり あんたは何かを持っているわねー ウチが密かに狙っていたものを先に取るんだものー 最後のスマッシュ 何よー 魔球? でも、負けないわよー ウチの夢 2冠なんだからー」
「ふふっ 私の必殺技 水澄の舞よ! 花梨 ここまで来たら 私も 負けないわよー」
花梨と私の試合が始まって、お互いに譲らず、壮絶な打ち合いだった。1ポイントが終わるたびに会場の歓声が湧きあがっていた。どっちを応援するでもなく、私と花梨の必死の姿に声を出してくれているのだ。シーソーで2-2になったまま、最終ゲームになっても、決着が着かないままデュースで15-16で花梨のマッチポイント。花梨が仕掛けてきたかと思ったら、返してきたボールが浮いた。私は、ここぞと あのスマッシュを・・・決まったはず・・・だけど、花梨はそれを拾って、私からは一番遠いところフォアサイドのネット際にポトンと返したのだ。ボールは力なくコロコロと・・・。
「ふふ ふっ さっき見させてもらったからネ 水澄の必殺技」
「花梨・・・わざとボール浮かせたの? だから、私に打たせて・・・仕掛けて、予定通りに・・それで、追いつけたのかー ずるぅーい あんたは やっぱり 天才よねー」
「そんなことないよー あんなスマッシュ できるのって 水澄も天才よ」と、この大会で初めて花梨の笑った顔を見た。
表彰式の後、あの秋元蓮花が私と花梨のもとにやって来て
「おめでとう 岩場さんは2冠よねー 二人には、私の中学最後の栄光を砕かれてしまったわー 完敗だったわ 高速よねー 二人に・・・ 香月さんとの試合の最後 すごいわー あのスマッシュ この子になら負けても不思議無いと感じたの 去年は二人とも大会に出て無かったよねー あなた達を知らなかったの 1年の間にすごい努力したんだぁー 岩場さんが団体戦でいきなり出てきた時 びっくりしたわ すごい子って あれは作戦だったのね やられたー 来年も頑張ってね 二人の内どっちかが女王よね でも 待ってるわよー インターハイでね その時は負けないわよー」と、言って去って行った。私が何度も頭を下げているのに、花梨は平然と見送っていて
「なによー 今はウチが女王よ 何がインターハイで待ってるわよーって よっ! えらそーにー ウチ等が目指してるのは 全日本、オリンピックよっ あんたなんか相手にしてないわっ!」
「ちょっとぉー 花梨 顔が怖いぃー」実際、花梨はすごく険しい顔付だったのだ。
観客席では応援団が盛り上がっていた。お父さんも校長先生のとこに行って、おそらく、水澄は娘です とか言って、自慢しているのだろう。監督は涙を拭いているようにも見えた。
ホテルの人が私達の荷物を駅まで運んでくれて、私達はその前にホテルの従業員の人達と厨房の人達に向けて色紙に感謝の寄せ書きを書いていて、お礼にと渡したのだ。こころのこもったお料理、お弁当とで私達が元気で試合出来たのには違いないのだから。
皆は、その日のうち金沢に行って、1泊して観光をして帰ると言っていたが、私だけ名古屋の友達に会うと言う名目で在来線の特急に乗ったのだ。それから、薄暗くなっている名古屋駅で新幹線に乗り換えて、翔琉と待ち合わせをしている京都駅へ。新幹線のトイレで私は、制服からピンクのチェックのブラウスとチャコールグレーのラップスカート、靴はローファーのままなのでグレーの少し長めのソックスに着替えていた。
外の灯が走り去る窓に、時折、映る自分の顔を見詰めながら (色気の無い 髪の毛やなー 夏前にも切ったからな この私も今日で処女とお別れなのかー あれ 最初は痛いんだろうかー ネットで調べると 痛さの感じ方は人によって違うって書いてあったしなー すごく 痛くて 出来なかったらーどうしょう 私 ステップしたりして無理してるからー あそこ 腫れ気味で翔琉のん 入らなかったりしてネ」とか呑気な妄想で気持ちを紛らしていた。もう、さっきまで闘っていた私は居なくて、翔琉のことしか頭に無かったのだ。列車は山科のトンネル・・・社内放送があって・・・もう直ぐ 翔琉に逢える! 大きい荷物を抱えて、ドァに急いでいた。
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