紋章持ちの転生者は世界最強
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第4話 晩餐会とその後……
天之河の宣言に乗せられる形で大半のクラスメイトたち(俺とハジメ、詩織の3人を除いて)が戦争に参加することを表明してしまった以上は、俺たちは戦う術を学ばなければならない。いくらこの世界の人たちよりも規格外な能力を潜在的に秘めているとはいえ、俺のようにエンブリオ持ちとして戦闘経験したことのない……元は平和主義がどっぷりと浸かりきった日本の高校生だ。
いきなり武器を持って魔物や魔人族たちと戦えと言われても不可能だ。
しかし、そこら辺の事情も、予め予測していたらしく、イシュタルの爺さん曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓にある【ハイリヒ王国】にて俺たち異世界召喚者の受け入れ態勢が整っているらしい。
王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神ーーー創世神エヒトの眷族であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統のある国らしい。国の背後に教会があるのだから、その繋がりの強さも分かる通りだ。
俺たちは聖教教会の正門前にやって来た。この神山から下山してハイリヒ王国に向かうためだ。聖教教会は神山の頂上にあるらしく、凱旋門かくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。
高山特有の息苦しさなど感じなかったので、まさか高山にあるとは気が付かなかったからだ。恐らくは魔法で高山でも生活環境を整えているのだろう。俺たちは、太陽の光を反射してキラキラと煌めくうんと透き通る青空という雄大な景色に呆然と見蕩れていた。
どこか自慢げなイシュタルの爺さんに促されて先に進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たものと同じ素材で出来ていると思われる美しい回路を進みながら促されるまま台座の上に乗る。
台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数のクラスメイトたちが中央に身を寄せている。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと見渡していると、イシュタルの爺さんが何やら唱え出した。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん“天道”」
イシュタルの爺さんが言霊のようなもの唱え終えた途端、足下の魔法陣が燦爛と光り輝きだした。そして、足下の台座はまるでロープウェイのように滑らかに動き出し、地上に向かって斜めに降りていく。
どうやら先ほどの言霊は魔法を発動させる詠唱によって台座に刻まれた魔法陣が起動したようだ。この台座は正しく地球でいうロープウェイみたいなものということだろう。ある意味、始めて見る“魔法”にクラスメイトたちがキャッキャッと騒ぎだす。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。
そして台座に暫く乗っていると、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、いや国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都みたいだ。台座のロープウェイは、王宮の空中回路で繋がっている高い塔の屋上に続いているみたいだ。
俺たち神に召喚された異世界召喚者を“神の使徒”という扱いにすることで、神エヒトの信仰をより盤石にする良い演出だ。これ以上は目にする価値無しとして瞳を閉じて王宮に到着を待つ。
◯●◯
王宮に着くと、俺たちは真っ直ぐに玉座の間に案内された。教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身に付けた人や文官らしき人、メイドなどの使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けてくる。俺たちが何者か、ある程度知っているみたいだ。
俺は普通に最後尾を歩くが、ハジメは隣で居心地が悪そうにしている。
美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢を取っていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。天之河など一部の人たちを除いてクラスメイトたちは恐る恐るといった感じで扉を潜った。
扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子ーーー玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、十五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った人たちが、右側には文官らしき人たちがざっと三十人以上は並んで佇んでいた。
玉座の手前に着くと、イシュタルが俺を含めたクラスメイトたちをそこに留まらせ、イシュタル自身は国王の隣へと進んでいった。そこで、イシュタルはおもむろに手を差し出すとこの国の長であるはずの国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。
どうやら、この国では国王よりも教会の教皇の方が立場が上みたいだ。これで、国を動かすのが“神”であることが確定した。そこからはただの自己紹介だ。国王の名前がエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃がルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナというらしい。
後は、騎士団長や宰相など、高い地位にある人たちの紹介された。ちなみに、途中、ランデル王子の目が白崎に吸い寄せられるようにチラチラと向けられていたことから、白崎を含めた三大女神の魅力は異世界でも通用するということらしい。
その後、晩餐会は食事会を予定していたのだが、貴族令嬢や貴族子息たちも勇者一行と顔合わせを希望したことで急遽立食パーティーであるビュッフェスタイルのパーティーになった。この世界でも白崎、八重樫、詩織たち三大女神の三人は貴族子息、令嬢に囲まれる形で人気者のようだ。
そして、あまり期待されていない俺やハジメの下には誰も来ていないので、異世界の料理について語り合うことができた。
「旨っ、この桃色のソースはタルタルソースのような味わいで、デミグラスソースのような液体ソースみたいだな」
「この虹色の飲み物は色んな果物の旨味を凝縮したジュースで美味しいよ」
「マジか、それにしても……この世界でも三大女神たちは変わらず人気者だな」
「あはは……香織さんたち美人だもんね。そりゃ、異世界でも御近づきになりたい人は多いと思うよ」
俺はハジメの言葉にどこか白崎に対する信頼からくる余裕が含まれていることに驚きつつも喜ぶ。
「それは白崎の人間性を信じてか?それともお前と白崎が恋人だからか?」
「そんなの決まってるよーーーー両方だよ」
俺はコミュ障気味のハジメが白崎と恋仲になったからとはいえこういう風に断言できるハジメに感動する。
「勇者様の同胞のお二方楽しまれておられますか?」
「ん?姫様じゃないか、ビュッフェだから少し落ち着かないが、楽しませて貰ってるよ」
「ビュッフェ?とはなんですか?」
「え?り、リリアーナ王女、こういう立って食べるパーティーのことをこの世界ではなんて言うんですか?」
「え、そうですね、このような食事会も席に座っての食事会もどちらもパーティーはパーティーですね」
どうやらこの世界のパーティーは特に拘りはないみたいだ。
そして姫様と軽く雑談していると、晩餐会も終了の時刻となり、姫様も名残惜しそうにメイドさんを引き連れて帰っていた。そして、王国側が俺たちに各自に一部屋ずつ与えられた部屋に案内された。
天蓋付きの豪奢なベッドに愕然としたのは金持ちや貴族育ちではない平凡育ちの俺だけではないはずだ。俺は豪奢な部屋にソワソワとした気持ちになりながらも、それでも非日常な一日に張り詰めていたものが剥がれていくのを感じて……意識が遠退き眠りについた。
ーー マスター、早く目を覚まさないと……取り返しの付かないことになるよ? ーー
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