彼は いつから私の彼氏?
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8-4
7月の初めの日曜日、私はお母さんからおかずになるものをと買い物を頼まれていて、渋るお兄ちゃんを強引に誘って自転車で少し離れたショッピンクセンターに来ていた。
私達がカートを押して食料品売り場に入ろうとすると、離れたフードコートの所で翔琉の姿が目に入って・・・真直ぐで長い髪の毛で、赤いノースリーブのTシャツに白いミニスカートから褐色の脚をのぞかせた女の子が翔琉の手を取って、ダダを捏ねるように横に振り動かしているのだ。その度に黒い髪の毛がツヤツヤと揺れている。私には、長いこと縁が無くなってしまったものだ。
私は、その様子に目が留まって立ち留まってしまったのだが、お兄ちゃんも気がついたようで
「なんだ 翔琉じゃぁないか あんなとこで何してるんだろうなー あの女の子 どっかで見たような・・・ 水澄 いつから翔琉と逢ってないんだ?」
「えーとぉー 1月からかな もう ええやん 行こぉー」と、私は何でも無かったよーにカートを押して野菜売り場に向かった。でも、頭の中はぐちゃぐちゃだったのだ。
「あっ 思い出した 今年のサッカー部の新入生の女の子 前見た時はポニーテールにしてたから わからんかった ふたりで何してるんだろうな?」
「もう いいの! お兄ちゃん 何 食べたいの! さっさとお買い物 済ますんだからー」
「あっ あー おっきい海老フライ」
「あのねーぇ おっきい海老なんて売ってませんし、あったとしても高いんだからー うちの家計 考えてよー」と、実際 お母さんから預かったお金には限りがあるのだ。
「なんか 主婦の言い方だねー まぁ こんなに可愛らしい美人主婦も居らんやけどーぉ」
「お兄ちゃん 今 なんてぇー 可愛らしい? 美人? 私」
「うっ うん まぁー ・・・健康そうな脚がすぅっと伸びて そのミニスカートも似合うよ」
「なによーぉ スカートかぁー まぁ いいやー」
「水澄 そのネックレスとペンダントしてきたんか?」
「うん おかしい? だって していくとこ無いんだものー どっちも大切だしー」
なんだかんだで、気分を良くした私は 結局 小さめだけど10尾\900のブラックタイガーをカゴに入れていた。お母さんに言わすと、バナメイとか赤エビのほうが安いんだけど、海老の味がしないと聞かされていたのだ。
その日の夕食は海老フライでお母さんと私は2尾ずつで、お兄ちゃんのお皿には4尾乗せて、他にじゃがいもとナスビのフライで誤魔化していたのだ。
「うん まぁ 小振りだけど これはこれでうまいなぁー」と、お兄ちゃんはノー天気なことを言っていたけど、私は、その夜 翔琉と女の子の姿のことが気になって、あれこれ考え込んでしまっていた。
そのまま期末考査があって、夏休みまでの数日間、2年生の今年から成績が張り出されるようになっているのだ。
学年トップはSクラスの大路輝葉《おおじきらは》さん。おそらく、1年の時も彼女だったのだろう。2番目は若葉で、私は3番だった。
「若葉 すごいね 2番だって」
「そうねー トップ狙ってたんだけど 3点差だった 水澄もすごいわー ウチと2点差よ ほとんど 変わらないわよー」
だけど、改めて若葉は何者なのって思っていた。私は、寝る時間もあんなに削って頑張ってきたのにー・・・普通の顔をして・・・。いけない このままじゃぁ 若葉は、きっと2学期にはトップになるだろう。そして、全中でも私とトップに立って・・・成績でもクラブでも 学園のスターじゃぁないの。大路輝葉さんは、学校の成績では、トップなのだろうけど、クラブは吹奏楽部でクラリネットを吹いていて、目立たない存在なのだ。それに、申し訳ないけど、とうてい可愛いとは言えないのだ。だけど、私とお母さんが描いているスターへの道はどうなるのー でも、可愛らしさからいうと、若葉より、我がことながら私のほうが可愛いわよー と つまらない幻想にも惑わされていたのだ。
お母さんに成績のことを報告すると
「そう がんばったわね 今度は卓球ね 全中トップでしょ」と、普通の顔をして言ってきた。この人はどんだけ私をけしかけるのだろうか。あなたの娘はもともと凡人なのに・・・
だけど、私は香が8番目に名前を連ねているのを見逃していたのだ。そして、夏休みに入ると、直ぐに 合宿が待ち受けていた。今年は、日程の関係で3泊4日なのだけど、最終日には高校生との合同試合も予定されているのだ。相手が高校生でも絶対に負けられないわと、誓っていた。そして、翔琉に逢ったあの日の言葉を無理やり信じることにしていたのだ。きっと、あの女の子とはたまたま出会ったとか、何かの事情で一緒だっただけなのだわ・・・。翔琉は私にぞっこんのはず。私、それどころじゃぁ無い。目標は全中の頂点に立つことなのだ
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