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銀河転生伝説

作者:使徒
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第23話 第八次イゼルローン要塞攻防戦

アシカ(ゼーレーヴェ)作戦の第一段階、陽動としてイゼルローン要塞へ侵攻するのは、グスタフ・フォン・ナトルプ上級大将を総司令官とする4個艦隊55000隻である。

各艦隊指揮官はナトルプ上級大将の他にアイゼナッハ、ルッツ、ドロッセルマイヤーの3人の大将を起用。
また、後詰としてフォーゲル大将の1個艦隊がイゼルローン回廊の帝国側出口に待機。

旗艦であるレヴィアタンには、ローゼンリッターが旗艦に殴り込みを掛けてくることを危惧したハプスブルク元帥の肝煎りにより、装甲擲弾兵総監リューネブルク大将が同乗する。

これは、原作を知るハプスブルク元帥ならではの措置であった。


* * *


――自由惑星同盟軍 戦艦ユリシーズ――

「敵影発見! 敵艦数算定不可能、とんでもない数です」

「どうします? 戦いますか?」

「アホ! 我がイゼルローン駐留艦隊は不敗である。不敗の所以は勝算の無い敵とは戦わないことにある」

周りから「おおー」という声が上がる。

「何をしている、さっさと逃げ出さんか! グズグズするんじゃない」

ユリシーズは反転して一目散に逃げ出しながら、イゼルローン要塞へ帝国軍襲来の報を送った。

・・・・・

宇宙暦798年/帝国暦489年 標準時11月20日。
グスタフ・フォン・ナトルプ上級大将率いる帝国軍艦艇55000隻がイゼルローン回廊に襲来した。

総司令官のナトルプ上級大将は要塞前面に艦隊を展開し、同盟軍が出てくるのを待つ。
しかし、同盟軍は、ヤン・ウェンリーは動かない。

「ほう、動かぬか。ならば、ここはかつての敵軍の戦法に倣うとしよう。トールハンマーの死角からゲルマン砲にて砲撃。その後ミサイル艦で大量のミサイルを叩きつけるんだ」

回廊の危険宙域ギリギリを迂回した襲撃部隊は、ゲルマン砲によってイゼルローン要塞の外壁を突き破って穴を穿ち、その穴に多数のミサイルを叩きこむ。

「確かにこの戦法はかつてハプスブルク元帥によって破られた。だが、それは迎撃できる艦隊がいてこその話だ。要塞内に閉じこもっている限りこの戦法は有効に働く」

次々と叩きつけられるミサイル群によって、イゼルローン要塞の被害は無視し得なくなってくる。

「これは……やられたな。仕方ない、艦隊の出撃を許可する。あの敵を追い払ってくれ」

止むなく、ヤンは艦隊の出撃を許可し当面の脅威である敵部隊を排除することにした。

「敵艦隊が要塞より出てきました」

「来たか、襲撃部隊を下がらせろ。トールハンマーの射程に注意しながら長距離砲で敵艦隊を叩け!」

ナトルプは即座に襲撃部隊を撤退させ、長距離砲にて同盟軍艦艇を砲撃する。
この辺りの判断の早さは、ナトルプの艦隊指揮官としての技量の高さを示していた。

「トールハンマーの射程内には入ってこないか……だが、手は有る。シェーンコップ少将、ローゼンリッターにやってもらいたい任務が有るんだが」

ヤンの言葉に、シェーンコップは不敵に口を吊り上げた。


* * *


双方が撃ち合いを続けて1時間余り。
長距離砲戦ということもあってか、両軍の被害は軽微にとどまっている。

帝国軍は、同盟軍が遠からず機を見て要塞に撤退すると考えており積極的に戦闘を望まなかった。
通常であれば、それは正しい考えであったと言えよう。だが……

突如、同盟軍は思いもよらない行動に出る。

「て、敵軍が突っ込んできます!」

「何、乱戦に持ち込む気か!? ここはトールハンマーの射程外だぞ……くっ、応戦用意」

同盟軍の急な突出により、両軍は混戦状態に陥る。
確かに、この状況であればトールハンマーの射程圏外であっても帝国軍はその数の利を活かすことができないだろうが、それは同時に無秩序な戦闘に突入することでもあり、無意味な消耗戦を意味する。
だが、一見無意味なこの混戦こそがヤンの仕掛けた策略であった。

「敵艦急速接近! きょ、強襲揚陸艦です」

「なるほど、頭を取りに来たか。これで合点がいったわ」

ガクン

旗艦レヴィアタンが大きく揺れる。

「て、敵強襲揚陸艦に接舷されました!」

「慌てることはない。この状況は最初から想定済みだ」

「想定済み……ですか?」

「何の為に、リューネブルク大将直々にこの艦で装甲擲弾兵の指揮をとっていると思うか?」

「……まさか」

「分かったか、心配など無用なのだよ。さて、肉弾戦は彼らに任せておくとして……この混戦だ。ワルキューレを出して一隻でも多くの敵を叩かせろ」

・・・・・

「ぐぁー!!」

ローゼンリッターの悲鳴がレヴィアタン内の通路に木霊する。

その原因を作った人物はヘルマン・フォン・リューネブルク大将。
帝国軍装甲擲弾兵総監であり、かつてのローゼンリッター連隊連隊長。

現ローゼンリッター連隊長であるシェーンコップにとって倒すべき、宿敵といえる人物であった。

「貴様、リューネブルク!」

「シェーンコップか。貴様等ローゼンリッターが旗艦に突入して白兵戦を仕掛けてくることはハプスブルク元帥が既に予期しておられた。まあ、だからこそ俺がここに派遣されたんだがな」

「……そうか。ところで、あれは何なんだ?」

シェーンコップの視線の先では、痛装甲服を着た帝国軍兵士たちがローゼンリッターと死闘を繰り広げている。
その巫山戯《ふざけ》た装甲服とは裏腹に、戦闘力はかなり高い。

さらに、『ヒャッハー、汚物は消毒だー!』『リア充死ねー!』と大声で叫びながら斧を振りかぶってくる集団はある意味恐怖だ。

「あいつらか。あんなのでも一応、白兵戦なら帝国最強の部隊なのだが……まあ、そんなことはどうでもいい。今日こそ結着をつけようではないか、シェーンコップ!」

「ん!」

両者は走り出し、斧をぶつけ合う。

リューネブルクが斧を振るえばシェーンコップが斧で受け、シェーンコップが斧を振るえばリューネブルクが斧で受ける。

幾合にも及ぶ鍔迫り合い。
それは、双方の陣営最強の、白兵戦において数百億人の頂点に立つ者同士の頂上決戦であった。

だが、そんな激闘も終わりを見せる。
混乱から立ち直った帝国軍が態勢を整え反撃を開始したため、艦内の戦況はローゼンリッターが劣勢となり、味方の不利を悟ったシェーンコップがリューネブルクの一瞬の隙を突き味方と共に撤退。
両雄の対決はドローとなった。

・・・・・

ローゼンリッターを回収した同盟軍は、これ以上の継戦は無用と見て速やかに撤退していく。

「敵艦隊、後退していきます」

「早いな、もう少し未練を残しても良いだろうに……やはりヤン・ウェンリーは名将の器のようだな」

「閣下、追撃しますか?」

「いや、付け込む隙が無い。それにトールハンマーも健在だ、深追いは避けるとしよう」


* * *


先の戦闘後、別段の動きの無かった敵国軍が動き出し、500隻程の小単位の艦隊が次々と一撃離脱による接近戦を仕掛けた。
同盟軍はそれを浮遊砲台とトールハンマーで迎撃するが、帝国軍による攻撃は止まず、数次に渡る攻撃で要塞の外壁に取り付く寸前にまで至る。

ヤン・ウェンリーは帝国軍の攻撃ポイントの周囲の砲台を無人化して、流体金属層の中でトールハンマーを撃たせ、流体金属を押し戻すという荒業で危機を回避。
また、トールハンマーを帝国軍の第六陣の集結地点に放つことで連続的な攻撃を途切れさせることに成功した。

「第六陣、一時退却。ふむ、作戦としては順調だが……ここまでの敵味方の損害は?」

「敵の砲台を200箇所ほど叩きましたが、こちらも200隻近くが破壊されました」

「そうか……頃合いだな。いったん撤退する」

「はっ? し、しかし」

「ここまでやれば十分だ。これ以上の無駄な損害を出すこともない」

「はっ! では、いよいよ?」

「うむ、世紀の大作戦の始まりだ」


* * *


イゼルローン要塞に対する攻撃は失敗に終わり、帝国軍は帝国領方面に撤退。
しかし、総司令官のナトルプ上級大将は本国に対して増援軍の派遣を求める。

これに対し、宇宙艦隊司令長官ハプスブルク元帥はこのナトルプ上級大将の苦戦に遺憾の意を示し、この際、一挙にイゼルローン要塞を攻略せんとの意思を帝国軍の最高級幕僚たちに伝達。
帝国周辺宙域において待機状態にあった各艦隊の司令官に出動命令が下った。

……これが、自由惑星同盟の首脳部に伝わった情報である。

だが、事実はそれとは異なり、帝国軍の目指すのはイゼルローンではない。


宇宙暦798年/帝国暦489年 12月9日、アシカ(ゼーレーヴェ)作戦の第二幕が始まった。

出撃する帝国軍の彼方には、征服されるべき星々の海が無限の広がりを見せている。
 
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