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何かの雫

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第二章

「そうせずしてどうする」
「あらためて運命の時まで戦うからですか」
「それより遥かにそなたが蘇ってくれたことが嬉しいからだ」
「だからですか」
「そうさせてもらう」
「有り難きこと。ですが」
 ク=ホリンは王の言葉を受けてこう返した。
「私よりも神の御業をです」
「伝えて欲しいか」
「はい、大地の波にのまれる様に」
 その様に心掛けてというのだ。
「神と司教を信じて下さい」
「そうすべきか」
「お願い出来ますか」
「わかった、ではな」
 王はそうすると約束した、こうしてだった。
 パトロキウスはこの地に留まりキリスト教を広めていった、それはク=ホリンが世を去ってからも続き。
 彼は酒、ウイスキーも人々に教え広めた、そのうえで言うのだった。
「若し私が世を去ってもです」
「それでもですか」
「そうなってもですか」
「悲しまないで下さい」
 信者達に微笑んで話した。
「むしろ神の下に行くことを祝って欲しいのです」
「そうなのですか」
「祝えばいいのですか」
「その時は」
「はい、そして」
 そのうえでというのだ。
「皆さんは心が痛む時もありますが」
「生きていれば」
「そうですね」
「どうしても」
「その時はです」
「これをです」
 ウイスキーが入った杯を出してあらためて話した。
「飲まれて下さい」
「酒ですね」
「ウイスキーですね」
「それをですね」
「そうです」
 まさにというのだ。
「飲んで下さい、この何かの雫を」
「酒の」
「ウイスキーの雫を」
「そうして下さい」
 こう言い残してだった。 
 パトリキウスは静かに眠りに入った、それを受けてだった。
 この地の者達はウイスキーを飲む様になった、そして言うのだった。
「パトリキウス様の雫だ」
「ウイスキーはそうした酒だ」
「あの方が言われた通り祝おう」
「そして心の痛みを和らげよう」
「だから飲もう」
「ウイスキーを」
 こう話してウイスキーを飲んでいった、そして二十一世紀にあり。
 アイルランドに来た日本人にだ、パブの親父は注文したウイスキーを出しつつ笑顔でこの話をして言った。
「それでなんだよ」
「アイルランドでは今もですか」
「ウイスキーが飲まれてるんだよ」
「何かの雫と言って」
「そうさ、そしてな」
「パトリキウスさんはパトリックとですね」
「今は呼ばれていてな」
 アイルランド語でというのだ。
「それでな」
「アイルランドの守護聖人で」
「慕われていて」
「ウイスキーもですね」
「飲まれてるんだよ」
「そういうことですね」
「ああ、それじゃあな」
 日本人にさらに話した。
「飲んでくれよ、今から」
「そうさせてもらいます」
 観光客の日本人は笑顔で応えた、そうしてだった。  
 コップに入ったウイスキーを飲んだ、その何かの雫はとても美味く彼は飲んだその瞬間に微笑んだ。


何かの雫   完


                  2024・9・13 
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