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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第232話:誇り高き深紅の絆

 ジェネレータールームでは、依然として奏とレイア、ファラと言う異色のチームとベルゼバブによる戦いが続いていた。

「オラァァァァァッ!」
[POWER∞SHINE]

 奏がアームドギアを一振りすれば、オレンジ色の光の刃が飛ぶ斬撃となってベルゼバブへと迫る。ただの刺突や斬撃であれば得意の空間魔法で別の場所へと繋げてそのまま奏に返すなり出来たのだが、これは流石に大きすぎて空間魔法に納まりきらない。故にベルゼバブは回避か防御の二択を迫られ、防御は無駄にダメージを受ける危険もあるという事で回避を選択した。

「おっと!」
「貰った!」
「むっ!」

 空中に飛んで回避する事を選択したベルゼバブだが、レイアは彼が逃げ場のない場所に動く瞬間を待っていた。空中であれば羽の無いベルゼバブに回避は不可能。そこを狙ってレイアは無数のコインを弾いて撃ち落とそうとした。
 まるで機関銃の掃射の様に次々と放たれるコイン。しかしベルゼバブはそれを空間を繋げることでやり過ごした。

「この程度でッ!」
「ッ! 逃げろッ!」

 自身を覆う程の大きさの穴を空間に開けレイアのコインの連射を凌ぐベルゼバブの姿を見た瞬間、奏はあの穴が次に何処に開くかを直感で察し急いでレイアを押し倒した。次の瞬間レイアが先程まで立っていた場所の背後に穴が開き、そこから無数のコインが飛び出してその先にある壁を蜂の巣にしてしまった。奏の判断が遅ければ、蜂の巣になっていたのはレイアの方であろう。

 奏に助けられたレイアは、人間であれば冷や汗を流す様な顔をしながら立ち上がる奏に感謝した。

「すまない、地味に感謝する。まさか、装者であるお前に助けられるとは……」
「ん? あぁ、気にすんな。今はそれどころじゃないだろうし」

 言いながら、奏はこそばゆいのかそっぽを向きながらレイアに手を差し伸べて立ち上がるのを手助けした。咄嗟にこういう事が出来る所に奏の人の良さが見え隠れし、レイアは感情が無い筈なのに薄く笑みを浮かべてその手を掴み立ち上がった。

 2人が立ち上がる横では、片腕だけになったファラが回収したソードブレイカーでベルゼバブに斬りかかっていた。

「そこです!」
「チィッ!」

 レイアの武器であるソードブレイカーは、刀剣の類であれば問答無用で破壊する事が出来るという厄介な特性を持つ。翼は自身の魂の在り方を拡大解釈する事でそれを打ち破ったが、そういう方面での強さを持たないベルゼバブにそんな芸当出来る筈もなくそもそも思いつきもしない。結局ファラの攻撃に対しベルゼバブが出来る事は、普通に考えれば打ち合いを避け回避に徹し隙を見てファラの剣を持つ手を破壊する事のみであった。

 だがベルゼバブは普通ではなかった。魔法と言うある意味反則な技術を持つ彼は、ファラが剣を振り被って切りかかって来るのを見て回避するように見せかけて片腕を空間に開けた穴の中に突っ込んだ。

 次の瞬間、ファラは剣を持つ手を何者かに掴まれ攻撃を妨害された。

「なっ!?」

 驚いたファラが残った方の腕を見れば、そこには空間に開いた穴からベルゼバブの手が伸びてファラの残った腕を掴んでいた。片腕を失い、更には残りの想い出の残量が心許無いが故にファラは精神的な余裕を失い、攻撃に全神経を集中させてしまっていた。それが仇となり、ベルゼバブの行動を見逃してしまったのだ。もしファラが万全の状態であれば、ベルゼバブが片腕を空間に開けた穴の中に突っ込んだ時点で何かを察して行動を中断する事も出来ていただろう。

 ともあれ、これでファラは動きを封じられてしまった。空中で吊り下げられた形となったファラに対し、ベルゼバブは彼女を破壊しようと手にした剣を刺突の体勢で構える。

「まずは、1体だ」
「くっ!」

 悪足搔きでファラが蹴りを放つも、ベルゼバブはその足を切り裂き更に残った方の足も切り落とした。ファラに残されたのは掴まれている腕のみ。これでは最早反撃も儘ならない。
 絶体絶命の窮地に、ファラは諦め自身が破壊される瞬間に備えて目を瞑りながら約束を果たせなかった事を悔いこの場に居ないキャロルに謝罪した。

「申し訳ありません、マスター……私はここまでの様です……」
「終わりだッ!」
「ファラ……!?」

 ベルゼバブの剣がファラの胸元へと吸い込まれるように迫る。レイアがその光景に悲痛な声を上げながら、間に合わないと知りながらもコインを弾こうとする。

 だがそれよりも早くに動いたのは奏であた。彼女はベルゼバブがファラの腕を掴んだ瞬間には駆け出し、さらにファラの口から諦めの言葉が紡がれたのを聞いた瞬間手にしていたアームドギアを槍投げの要領で投擲していた。

「諦めるなッ!!」
[SAGITTARIUS∞ARROW]
「ッ!?」

 引かれた弓矢が放たれた様に、音を置き去りにする速度で穂先を光らせながら槍が迫る。槍が自分に向けて迫って来る光景に、ベルゼバブは驚愕し次の行動に迷いが生じた。

 颯人達のコネクトの魔法同様、ベルゼバブの空間魔法も一度に繋げられる場所は一か所のみ。今ファラを相手に使っている以上、奏の攻撃への対処に使う事は出来ない。
 束の間の逡巡、しかしベルゼバブは即座に厭らしい笑みを浮かべると、そのままファラを引っ張り彼女を奏の攻撃に対する盾に使用した。

「馬鹿めッ! 自らの攻撃でこの人形を破壊するがいいッ!」




「――ありがとうよ、そう来るのを待ってたんだ」

 ベルゼバブの行動は奏に読まれていた。奏は颯人を相手にしてきた関係からか、相手の思考などを読み取る能力が鍛えられていた。そうしなければ彼が仕掛けた悪戯に気付けないからだ。負けん気の強い彼女は颯人に出し抜かれてなるものかと自身でも気付かぬ内に人間観察力が鍛えられ、それが今この場で活かされたのである。

 奏の放った「SAGITTARIUS∞ARROW」はギリギリでファラとベルゼバブのすぐ横を通り抜けた。威力を損なわれず床に直撃した槍は、部屋の内部を大きく揺らし破壊された床からは砂埃が舞い上がり一時的にだがベルゼバブの視界を封じた。

「ぐぅっ!? えぇい、小癪なッ!」
「うあっ!?」

 周囲の状況が分からない今、ファラはベルゼバブにとってお荷物にしかならない。早々に掴んだファラを手放し、剣を振るって周囲の砂埃を吹き飛ばした。

 魔力を纏った剣を振るえば、剣圧で砂埃程度は容易く吹き飛ばせる。そうして視界を確保したベルゼバブが目にしたのは、ウィザードギアブレイブを身に纏い魔法で引き寄せた槍を手にする奏の姿であった。

〈ブレイブ、プリーズ〉
「さぁ、ショータイムはここからだッ!」
「舐めるなッ! 付け焼刃の魔法程度でッ!」

 槍を手に攻撃を仕掛けてくる奏を迎え撃つベルゼバブ。リーチを活かした攻撃に対し、ベルゼバブはそれを逆に利用するように空間を繋げて奏の攻撃を彼女自身に返した。

「ぐぅっ!? チッ、面倒臭いッ!」
「ハハッ! どうした? 先程の生きの良さが無くなって来たな? 自分がまな板の上に居る事に気付いたか?」

 何度か出し抜かれはしたが、それでも1対1の戦いであればやはりベルゼバブは強敵であった。特にあの空間を繋げる魔法が厄介極まりない。何とかしてあれを打ち破らなければ、自分の攻撃で自分が消耗するという事態になりかねなかった。
 今の奏は肉体を炎に変換して相手の攻撃の無力化する事も出来るが、あれは消費魔力が大きい為颯人がインフィニティーを使っている時でないと直ぐにガス欠を起こしてしまう。故に奏は多少泥臭くとも地道な攻撃に徹するしかなかった。

――つっても、これはこれでジリ貧だ。もうファラもレイアも限界だろうし、他に頼れるのは……――

 奏の視線がチラリとヴァネッサ達の方へと向かう。険しい顔をしながら奏が自分に視線を向けてきている事に気付いたヴァネッサがハッとした顔になると、奏は視線をチラチラとベルゼバブの方へと向けた。まるで誘導しているかのような奏の目の動きに、ヴァネッサが彼女とベルゼバブを交互に見ているとやっと何かに気付いたように息を飲み続いて小さく頷いて見せた。

 本当に自分の真意が伝わっているのかに一抹の不安を感じながらも、奏は頷き返し槍を構えて再びベルゼバブに立ち向かっていく。

「ハァァァァッ!」
「何度来ても同じ事ッ!」

 奏の斬撃をベルゼバブは後ろに飛んで回避し、そのまま空間転移で彼女の背後に移動すると無防備な彼女の背中を切り裂こうとした。

「それはこっちのセリフだッ!」

 それに対し奏は後端の穂先をそのまま突き出し背後からの斬撃を迎え撃った。このまま行けばベルゼバブは自分から奏の槍に貫かれに行く形となる。

 傍からその光景を見ていたエルザは、これでベルゼバブも終わりだと思った。今度の奏は自分からベルゼバブを突こうとしているのではない、ベルゼバブが突っ込んでくるのを待っているだけなのだ。自分に向けての攻撃は別の場所に移せても、ジッとしている相手に対しては意味をなさない。これで奏の勝ちだと確信した。

「何ぃッ!?」
「やった! これで……!」

 エルザの声が響く中、ベルゼバブの体が奏に槍に貫かれる。奏に槍の穂先がベルゼバブの背中から突き出る光景に、エルザが喜びヴァネッサに抱き着こうとした。
 だが彼女の喜びは、次の瞬間絶望に変わった。

「ぐ、ぉぉ……とでも思ったか?」
「ぐぅっ!?」
「なっ!?」

 腹を槍に貫かれながらも、ベルゼバブは全く痛みを感じていないかのように体を起こし奏の首を掴んで床に押し倒したのだ。何故あんなダメージを受けて尚あそこまで動けるのか理解できないエルザだったが、その理由は直ぐに分かった。
 ベルゼバブは奏が槍を構えた瞬間、槍が刺さる予定の場所と自身の背後の空間を繋げて素通りさせたのだ。つまり実際に奏の槍はベルゼバブを貫いてはおらず、全くの無傷なのであった。

 首を掴んで奏を床に叩き付け、そのまま持ち上げると今度は壁に叩き付ける。その衝撃で奏の手からは槍が離れ、槍が落ちるとベルゼバブの体からも槍が引き抜かれ後には傷一つない姿を残していた。

「ぐぁ……がはっ!?」
「ククッ……やってくれたな、天羽 奏! ワイズマン様は貴様を気に掛けているようだが、傷付けるなとまでは言われていない。これ以上の抵抗が出来ないよう、手足の一本か二本は折らせてもらおうか」

 そう言ってベルゼバブが奏の片腕を掴んでへし折ろうと力を込めた。その時、何かが破裂するような音と風を切る音が響いたかと思ったら、ベルゼバブの脇腹に重い衝撃が走った。

「ぐはっ!? な、今度は何だ……!」

 衝撃の正体はヴァネッサのロケットパンチであった。彼女はベルゼバブの意識が完全に奏にのみ向いた瞬間を狙って、無防備な脇腹に強烈な一撃を叩き込んだのである。
 本来であればミサイルなどをぶち込んでやりたかったが、そうすると奏までダメージを受けるので出来たのはロケットパンチが精々であった。だがこの一撃がこの戦いの勝敗を決する一手となった。

「この、野良犬どもが……!」
「お、らぁっ!」
「ごはっ!?」

 ヴァネッサの一撃にベルゼバブの拘束が緩んだ。その瞬間奏は力を振り絞ってベルゼバブを蹴り飛ばし、距離を離すと落ちている槍を手に取りフルスイングするように斬撃を放った。まだ脇腹に喰らったダメージで動きが鈍っているベルゼバブにこれを防ぐ手段はなく、胴体を下から袈裟懸けに切り裂かれた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 胴体を大きく切り裂かれ、悲鳴を上げながらもんどりうって倒れるベルゼバブ。そこに今度はファラとレイアが残された想い出を注ぎ込んだ錬金術による攻撃を叩き込んだ。

「消えろッ!」
「ハッ!」
「ぐぅぅぅぅぅぅっ!?」

 竜巻とコインの掃射を喰らい、ベルゼバブの体が傷付いていく。それでも強靭なファントムの肉体は砕けはしないが、これまでのダメージが積み重なり体力が消耗されていく。

 これ以上はマズイとベルゼバブが魔法でその場から逃げようとする。だが奏はそれを許さず、魔法の鎖でベルゼバブの体をその場に固定した。

「逃がすかッ!」
〈バインド、プリーズ〉
「し、しまった!?」

 空中の魔法陣から伸びた無数の鎖で手足を縛られ、身動きを封じられたベルゼバブ。そこにヴァネッサがトドメの一撃を叩き込むべく飛び上ると、片足を伸ばして飛び蹴りの体勢となりベルゼバブに迫っていった。

「スイッチオン、コレダーッ!」

 掛け声と共にヴァネッサの足が展開しまるで電気を纏った槍のような形となる。その足で放たれた跳び蹴りを喰らえば、今のベルゼバブには致命傷となるだろう。それを理解しているベルゼバブは、残された魔力でヴァネッサの攻撃を空間を繋げることで別の場所へと送り込もうとした。

「させるかぁぁぁぁぁっ!」

 ベルゼバブが空間を繋げた先に居るのは、まだ完全に復帰できていないミラアルクであった。彼はヴァネッサの攻撃をミラアルクにぶつけさせることで、自身を守ると共にヴァネッサを精神的に追い込もうとしたのである。

「ハハッ! 自分の攻撃で仲間を仕留めるがいいッ!」




「さっきも言ったな。そう来るのを待ってたよ」
〈コネクト、プリーズ〉

 しかしベルゼバブの策は奏に看破されていた。奏はベルゼバブを魔法で拘束し、ヴァネッサが大技を使用したのを見ると素早くミラアルク達の傍へと向かい、空間に穴が開いたのを見ると即座に自分もコネクトの魔法で空間を繋げた。

 奏が空間を繋げた先は、正にベルゼバブの目と鼻の先。至近距離に展開された魔法陣から、二度の空間転移を経て放たれたヴァネッサの必殺技が炸裂した。

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「あああああああああっ!」

 回避も防御も出来ず、ヴァネッサの一撃に肉体を穿たれるベルゼバブ。ヴァネッサはこれまで虐げられ利用されてきた事への憂さを晴らす様に、渾身の力を込めて蹴りを叩き込む。

「私達は……私達は卑しき錆色なんかじゃないッ! 私達はノーブルレッド! 運命に抗う、誇り高き深紅の絆よッ!」

 他者に利用され続けるだけだった自分達との決別を示すかのようにヴァネッサが高らかに叫ぶと同時、彼女の足がベルゼバブを貫き抉りながら背後に着地する。全力以上の全力を発揮しての一撃は、彼女の体にも負荷を掛けたのかあちこちから火花を散らすもそれを気にする素振りも無く立ち上がり背後を振り返った。

「うぐ……あ、ぁぁ……」

 ヴァネッサが振り返り、奏達が見守る中、体を大きく抉られたベルゼバブはゆっくりとその場に膝をつき倒れるとその場で爆散するのであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第232話でした。

今回は残された奏達の戦いの決着です。最初ヴァネッサにはここまでの活躍をさせるつもりは無かったのですが、気付いたら彼女がベルゼバブを相手に一矢報いる形となってました。これはちょっと自分でも書いててビックリな展開だったりします。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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