俺様勇者と武闘家日記
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第3部
サマンオサ
ルークの決意
ルークが私たちの旅について行くと宣言し、一緒に行くならユウリの許可が必要と伝えると、彼は早速ユウリに話をすることを決めた。
ユウリは今、シーラと共にモンスター格闘場にいる。私はルークと来て以来あまり足を運びたくないのだが、ルークの並々ならぬ決意に心を動かされ、仕方なくナギと共についていくことにした。
「そう言えば、ナギは格闘場って興味ないの?」
格闘場へと向かう道すがら、私はふと気になっていたことを尋ねた。
「前はあったけどよ、一度シーラと一緒に賭け事をしたらオレだけボロ負けしたことがあってさ、それ以来ギャンブルはあんまりやらないようにしてんだ」
「ああ……、さすがシーラだね」
確かに遊び人だった頃から、ギャンブルでシーラが負けるところを見たことはほとんどない。それほどまでに彼女は強運なのだ。
「そう言うお前は全然興味ないよな」
「私は無理。この間ナギたちを探しにここにルークと入ったときも変な人に絡まれたし、散々な目に遭ったもの」
「そうだね。ここは僕たちには場違いなところだ」
話を聞いていたのか、ルークが苦笑して答える。
「そっか、何か悪かったな」
「いや、謝ることないよ。そのころにはナギたち、お城に捕まってたんだから」
そんな話をしている間に、格闘場に着いた。入るのを躊躇う私に対し、ここに初めて来たナギは事も無げに扉を開ける。
ああ、この罵声が飛び交う雰囲気も苦手なんだよなぁ……。
なんて身構えながら場内に入ると、意外にも中は静かだった。あのときは観客の野次やモンスターに対する罵倒が響き渡っていたはずだが、今は少しのざわめきに変わっている。
「ねえルーク。なんかこの前来たときと雰囲気が変わってない?」
「そうだね。前より穏やかになったって言うか……。もしかしたら客層が変わったのかもしれないな」
私の疑問に、辺りをキョロキョロと見渡しながらルークが答える。彼に倣って見回すと、確かに以前私にぶつかってきた人たちのような柄の悪い人たちは殆どいなかった。
代わりにお客の大半を占めているのは、ごく普通の町の人たちだ。普通の主婦が買いもの帰りに寄っているーーそんな雰囲気の人たちが殆んどだった。
「よかったね、ミオ。今の方が入りやすそうだよ」
「う、うん……」
一体どうなっているのだろう。もしかしてこれも、魔物を倒した影響なのだろうか?
「あっ、皆も来てたの!?」
ずっと入り口の近くに立っていたからか、シーラの方から私たちを見つけてくれた。彼女は両手に金貨袋を抱えながら、嬉々とした様子で小走りにこちらにやってきた。
「うん。ユウリに話があって。そう言えばユウリはどこ?」
「ユウリちゃんは、さっきの賭けに大負けして、あそこの隅でいじけてるよ」
シーラが指差す方を見やると、部屋の隅の椅子に腰かけているユウリが、何やら一人でぶつぶつ呟きながら虚空を見つめている。
「あちゃあ、大分機嫌悪いよ、ルーク」
「こりゃあ持久戦も無理かもな」
「あの状態でわかるの!?」
私とナギが半ば絶望の目で今のユウリの状況を分析している傍ら、ルークが驚愕しながら叫んだ。
私はなるべくユウリの機嫌を損ねないよう、恐る恐る話しかけた。
「あ、あの、ユウリ……」
「!?」
私の気配と声に気づくや否や、殺気立った顔で思いきりこちらを睨み付けるユウリ。ダメだ、むしろ罵倒されるだけでまともな会話すら成り立たないのでは、とさえ思ってしまう。
「なんだ、間抜け女か。間抜けな顔をしてどうしたんだ?」
初っぱなから見事な正拳突きをかましてくるユウリの毒舌に、私は早くもたじろぐ。
けれど先にユウリが私の隣にいるルークに視線を上げると、今まで見たことがないくらい深い皺を眉間に刻んだ。
「……何の用だ?」
最大限の不快感を露にしているユウリに臆することなく、ルークは一歩前に出た。
「ユウリ。パーティーのリーダーである君に、頼みたいことがある」
「もし俺たちの旅について行きたいと言うのなら、却下だ」
『!!』
予想の斜め上の反応に、私たち三人は声を失う。
「な、なんでわかったの!?」
「本当にそうなのか?」
私が尋ねると、ユウリは意外な反応をした。どうやらわかってて言ったわけではないらしい。一同が唖然とする中、ユウリとルークは相手の反応を窺い合う。
「……どうして拒否されるのか理由が知りたいな」
やがて痺れを切らしたのか、先に口を開いたのはルークだった。
「足手まといはいらん。それだけだ」
にべもなく言い放つユウリに、ルークは表情を失いつつも言葉を続ける。
「確かに戦闘能力は君らより劣るかもしれない。だけどそれ以外で役に立つかもしれないよ?」
「俺たちの目的は魔王を倒すことだ。戦闘で役に立たない奴はどんな理由があろうといらん」
考えを曲げないユウリに、負けじと睨み返すルーク。心なしか二人の間に火花が散っているような気がした。
「だからそれ以外だって言ってるだろ。例えば僕はミオと同じ師匠の元で修行をして来た。彼女の戦い方は僕と似ている。けど、武闘家として戦う彼女には唯一欠点がある」
「欠点?」
聞き返すユウリに、どきりとした私も見返す。一体何を話すのだろうと静観していると、ルークと目があった。
「ミオ。あのとき二人でラーの鏡を探してたとき、僕に武器の使い方を教わったよね」
「……あ、うん!」
「あのときは時間がなくて最低限のことしか教えられなかったけど、本来君は素手よりも武器で戦う方が性にあっていると思ったんだ」
「え!?」
でも確かに師匠の武器で戦っていたとき、ルークに教えられた通りに身体を動かしたら、素手で戦うときよりうまくダメージを与えられたことが多かった。ボストロールとの戦闘のときも、普段よりも重い一撃を繰り出せていた気がする。
何よりここで私が同意すれば、ユウリを説得出来るかもしれない。そう踏んでルークは私を引き合いに出したのだろう。
「……確かにそう言われれば、師匠の武器で戦ったときの方が戦いやすかったかも」
「だろ? だからもっと君には武器の扱い方を教えてあげたい。ちゃんと習得すれば、ミオは今よりも何倍もパワーアップできるはずだよ」
「……」
ルークの力説に、ユウリは黙り込む。もう一押しと、さらにルークは言葉を続けた。
「そのためには、しばらく傍で指導してあげる存在が必要なんだ。僕がその指導役に就けば、間違いなく彼女を成長させることが出来る」
そうきっぱりと断言するルークに、ユウリはしばらく閉口していた。心の中で葛藤しているのだろうか。私を強くさせられるルークを、仲間にするか否か。
迷っているのは、おそらくルーク以外では、私に武器の扱い方の指導をする人がいないからだ。それは私もバハラタで身に沁みるほど理解している。
「そう言う話なら、オレもルークの意見に賛成だぜ」
横から口を挟んできたのは、ナギだ。
「ボストロールを倒せたのも、ミオが武器を使えてたからってのは大きいと思うぜ。それに、オレたちじゃあ武闘家の武器のことはわからない。だったら専門家に教わるのが一番なんじゃないのか?」
「ナギ……」
「ふん。バカザルまでこいつに絆されでもしたのか? 町外れの魔物としか戦ってこなかった武闘家くずれの奴が、魔王を倒そうとするこいつに指導なんか出来るのか?」
ユウリの言葉の端々に生まれる鋭いトゲが、ルークに次々と突き刺さる。この悪意の塊のような台詞を一番重く受け止めているのはルークのはずだが、彼は意外にも普段と変わらない態度でユウリを見据えていた。
「出来るよ。少なくともそう言う言葉でしか彼女と接することが出来ない君よりは」
「っ!?」
「今ので確信したよ。今のミオに必要なのは、僕のような指導者だ」
「貴様っ……!!」
「あと話を戻すけど、君たちはこれから僕の父さんに会いに行くんだろ? だったら赤の他人の君たちだけで行くより、身内の僕も一緒にいた方が会いやすいと思わない?」
「……っ」
再び沈黙するユウリに、今度はシーラが口を出す。
「ユウリちゃん。その点については、るーたんの言うとおりだと思う。でもるーたん、るーたん自身はお父さんに会っても平気なの?」
そう言ってルークを見上げるシーラ。その表情には、ルークとサイモンさんとの間に何らかの確執があるのではないかと言う憶測が込められているように見えた。
「……今までの僕なら、どうして僕や母さんを残していなくなったんだとか、父さんのせいで散々苦しめられたとか罵ってたかもしれない。でも、あのときボストロールと対峙して、考え方が変わったよ。父さんもあんな風に、魔物と戦ってたんだなって。父さんのような存在がいるから、僕たちが生きている世界は平和に暮らせてるんだなって、そう思えるようになったんだ」
「……」
「だから、もしもう一度父さんに会えるなら、『ありがとう』ってお礼を言いたい」
「……えらいね、るーたんは」
納得したように、シーラは答えた。そして、今度はユウリに顔を向ける。
「ユウリちゃん。意地を張るのもいいけど、ほどほどにしないと大切なものを見落としちゃうよ。今のユウリちゃんに必要なのは、冷静さだと思うから」
そう諭すように言うと、ちらりと私の方に視線を動かす。なんとなくそれがサインだと感じた私は、ユウリに訴えるように言った。
「ユウリ。私もルークに武器の使い方を教わりたい。強くなって、ユウリの背中を預けられる位の仲間になりたいの。だからお願い、ルークも一緒に連れてって!」
私の必死な訴えに、ユウリは眉ひとつ動かさずこちらをじっと見つめている。その整いすぎた顔立ちに気圧されながらも、私は彼の返事を待った。
「……わかった」
『!!』
「お前らがそんなにそいつの肩を持つのなら、もう何も言わない。勝手についてくればいい」
やったあ!! ……なのかな? なんだかふてくされて自棄になってるような気がしなくもないけど。
とにかく、これでルークも一緒に旅をすることになったんだ!
私はルークと視線が合うと、ほっとした様子を見せる彼と共に、喜びを噛みしめた。
「こちらが『祠の牢獄』にまつわる資料となっております」
その日の夕方、私たちが泊まっている宿の部屋にお城からの使者がやってきた。使者は私たちを見るなり懐から書状を取り出すと、早々に去っていった。きっとお城に戻ってからも仕事が山のようにあるのだろう。
ユウリは早速その書状を広げた。そこに書かれていたのは、祠の牢獄のある場所を簡潔に示した地図と、当時サイモンさんが捕まったときの大まかな記録だった。
「祠から一番近いのはロマリアか。だが、船で移動するとなると相当遠回りになるな」
祠の牢獄は、ロマリア大陸の東にある内海にポツンと浮かんだ島にあるようだ。私が住んでいたカザーブからそれほど離れていない場所に何年もサイモンさんが投獄されていたのだと思うと、複雑な心境だった。
「とりあえず先にスーの里に行ってエドに杖を返してから、祠の牢獄に行ってみようよ」
そう提案したのはシーラだった。ユウリは腑に落ちない顔で彼女を見返す。
「別に杖を返すくらい、後だっていいだろ。まずはガイアの剣を手に入れるのが先だろうが」
「でもさ、エドさんも人間に戻りたがってるんでしょ? だったら早めに渡した方がいいんじゃない?」
「……」
ユウリは考え込んでいたが、結局シーラの言うとおり、先にスーの里に向かうことに決めた。
ルークの件以降、嫌々ながらも私たちの意見に同意することが多くなっているユウリに、私は違和感を覚えつつも、皆との距離感が縮まっているのではと期待するようになった。
「そういや、ルークの奴はまだ来ないのか?」
そう、あれからルークは旅に出る準備をするために、一度家に戻ったのだ。宿で待ち合わせすると約束していたが、この時間になっても彼はやってこない。
「うーん、もうそろそろ来るんじゃない?」
私の説得力のない言葉に、ナギは部屋の窓に視線を移す。するとちょうど窓の外に、急いで駆けてくるルークの姿を捉えた。
「お、来たぜ!」
ナギはベッドに置いてあった荷物を手に取ると、すぐに部屋を出た。私も彼の後を追うと、ロビーで受付の人と話しているルークを見つけた。
「ルーク、こっち!!」
「お待たせ!! ごめん、遅くなって」
「何かあったと思って心配したよ」
すると私の後ろから、ひょっこりとシーラが顔を出した。
「ひょっとしてるーたんが旅に出るって知った町の女の子から、別れ際に告白されたとか?」
「なっ、何で知ってるの!?」
どうやら図星らしく、慌てふためくルーク。
「いやあ、冗談で言ったつもりだったんだけど、本当だったんだ~」
「っ!!」
してやられたと言う顔で、今度は顔を真っ赤にしている。
「なあんだ、やっぱりルークが好きな女の子、いるんじゃない。で、どう返事したの?」
私が半ば呆れたようにそう言うと、ルークは慌てる素振りを見せた。
「もちろん断ったに決まってるだろ、全然面識なかったんだから。そもそも僕には……」
「お前の恋愛事情など心底どうでもいい。いいからさっさとこの町を出るぞ」
話の腰を思い切りへし折ったユウリが、毎度のごとく一人先へと歩き出す。
「あっ、ちょっと待ってよ!!」
私も慌てて後を追う。こんなやり取りなど全く知らないルークは、頭に疑問符を浮かべながら私たちの行動をただ眺めている。
何はともあれ、これから私たちは、ルークも加わって五人で旅をすることになった。
賑やかになる反面、魔王軍の四天王という今までの魔物より強い魔物と戦うことも考えなければならない。その脅威に立ち向かうため、私たちの旅はさらに過酷を増していくのであった。
後書き
ということで、サマンオサ編終わり&新メンバー加入です。
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