駅
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第二章
「祖父ちゃんが戦争に行った頃の名残なんてな」
「ないわね」
「全くな」
「そうなったわね」
「ああ、しかしな」
それでもとだ、祖父は孫娘に話した。
「祖父ちゃんはあの駅からな」
「戦争に行ったのね」
「それで毎日仕事に行っていたんだ」
そうもしていたというのだ。
「あの駅からな」
「そうよね、私も高校から毎日ね」
「あの駅から学校に行ってるな」
「今だってね」
大学生になってもというのだ。
「そうよ」
「そうだな、完全に変わったがな」
それでもというのだ。
「あの駅からな」
「お祖父ちゃんは戦争に行ってお仕事も行って」
「遊びにも行ったんだ」
「お父さんもお母さんも」
「お前の叔父さんや叔母さんもな」
「お祖母ちゃんだってね」
「皆な」
それこそというのだ。
「そうなんだ」
「駅から行ったのよね」
「色々な場所にな」
「色々なことをする為に」
「そうだ、それがあの駅だ」
「天下茶屋の駅ね」
「自分が住んでいる場所の駅なんだ」
こう孫に話した。
「そうなんだ」
「そうよね、駅ってそうした場所ね」
「木造がコンクリートになってもな」
それでもというのだ、こう話してだった。
「それは変わらないからな」
「そうよね」
こうした話をした、そしてだった。
愛奈はその駅から大学に通い続けた、だが就職すると職場までは地下鉄で行った方が早くそちらを使う様になった、だが。
休日に遊びに行く時はその駅を時々だが使った、結婚すると大阪市でも東淀川区の方に移って暮らしてだった。
子供も出来て落ち着いた、だが。
「天下茶屋行くんだね」
「ええ、今度の日曜ね」
愛奈は夫で水道局印をしている弘樹に答えた、面長の素朴な顔立ちで黒髪は短い。背は一七〇程で痩せている。
「行きましょう」
「克弥も一緒だね」
夫は自分そっくりの二人の息子を見て話した。
「そうだね」
「そう、難波まで出てね」
「そこから天下茶屋に行くね」
「あの駅で降りるわ」
「そうするね」
「それで実家に帰るわ、お祖母ちゃんにお父さんにお母さんがいて」
実家にはというのだ。
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