ロシアのジンクス
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第一章
ロシアのジンクス
ゴーリキーの工場で働いているニコライ=ホロトフスキーは仕事から帰るといつもウォッカを飲んでいる。
大柄で丸々と太り髪の毛は前からつむじ辺りまでなくなり左右に黒いものがある程度だ。青い目で花が赤い。
彼は飲みつつだ、妻のエリザベータ太った中年女で金髪を後ろで丸くさせている黒い目の彼女に言った。
「この為にな」
「生きているのよね」
「俺はな」
赤らんだ顔で答えた。
「そうだよ」
「ウォッカを飲む為に」
「もうな」
それこそというのだ。
「ウォッカがないとな」
「駄目よね」
「そうだよ」
「皆そう言うわね」
「ロシアじゃな」
「お仕事の時も飲んで」
「ああ、ウォッカはな」
これはというのだ。
「もうな」
「ないとね」
「やっていけるものじゃない」
それこそというのだ。
「本当にな」
「それは昔からよね」
「子供の頃学校で先生に言われた」
テーブルで飲みつつ言った。
「ウォッカ飲むなって言われたらな」
「そうしたらなのね」
「もう国が潰れるんだよ」
「ロシアだと」
「ボリス=ゴドゥノフはそれを言ってな」
そうしてというのだ。
「ああなったんだ」
「叛乱が起こって」
「偽の皇子が出てな」
これを偽ドミトリーという。
「それでだ」
「大騒動の中死んで」
「家族はとんでもないことになってな」
そうしてというのだ。
「潰れた」
「国自体が」
「そしてニコライ二世はな」
ロマノフ朝最後の皇帝である彼はというのだ。
「ウォッカは四十度以下でな」
「飲めって言ったの」
「そうしたらな」
「革命が起こったわね」
「それでだ」
そのうえでというのだ。
「ロマノフ朝は倒れてな」
「あの人もね」
「殺されたな」
「一家全員ね」
「そうなってソ連が出来たらな」
夫は笑って話した。
「それを言われたのが崩壊したすぐ後だった」
「学校で先生に言われたのは」
「ああ、ゴルバチョフがな」
その彼がというのだ。
「酒を飲むな、働けってな」
「言ったら」
「あっという間にだよ」
それこそというのだ。
「ソ連は崩壊したってな」
「先生に言われたのね」
「実際に崩壊した直後だったからな」
先生に言われたのはというのだ。
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