ジン漬け
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第二章
「ジンを飲むことを止められません」
「最早彼等の友となっています」
「それも無二の」
「過酷な労働と環境の中にあってです」
「労働者達の慰めになっています」
「しかしジンは強くすぐに酔います」
女王はジンのこのことを指摘した。
「ですから常に飲んでいますと」
「事実深刻な問題になっています」
「飲んで働く程です」
「母乳の出にくい母親が乳幼児に水で割って飲ませる程です」
「子供にすら飲ませています」
「ロンドン市民の六割がアルコール中毒です」
「深刻です」
女王はここまで聞いて苦い顔と声で述べた。
「ことの解決は容易ではないですね」
「はい、どうしたものか」
「我々も今議論中です」
「労働者達は安いジンに溺れています」
「牛乳や紅茶を飲まず」
「ジンを友としています」
重臣達も困っていた、兎角イギリスの労働者達は過酷な労働と環境の中でジンに溺れていた。すす汚れ煙と上記が支配する工場と粗末で雨と霧に濡れた今にも崩れそうなアパート、粗末な服や靴に身を包んで彼等は家族と共にその酒を飲むばかりだった。
労働者達のそうした状況は自由党だけでなく多くの知識人の中で問題となりその改善を主張する者が出てまた労働者達の抗議や暴動も多発し。
イギリスで彼等の状況の改善が進められた、ラッダイト運動もあり労働者の労働環境や条件そして生活は徐々にであるが確実に改善され。
十九世紀末には半世紀前から見ると信じられない位によくなった、その頃には。
「労働者達も牛乳や紅茶を飲んでいますね」
「はい、今では」
「ミルクティーも楽しんでいます」
「そうなっています」
「もうジンを飲まずに」
女王は重臣達に玉座から述べた。
「そうしていますね」
「そうなりました」
「労働環境や条件がよくなり」
「そして生活も改善され」
「余裕も出来てです」
「そうなりました」
「そうですね、安いジンに溺れない様になるにはどうすべきか」
女王は深く考える顔で述べた。
「それにはです」
「生活がよくなる」
「ジンに溺れず気晴らしにもしない」
「他のものが安く手に入る」
「そうした生活になることですね」
「そうです、よい政治を行いよい環境にしていけば」
女王は今度は国の主政治を行う者達の頂点にある立場から述べた。
「そうしたことはなくなります」
「左様ですね」
「あの頃まことにイギリスはジンに悩んでいましたが」
「それが改善されました」
「そうなったのはです」
「彼等の状況がよくなったからです」
「そうです、これからもああした状況に陥らない様に」
女王は確かな声で言った。
「我が国は確かな政治を行わねばなりません」
「全くです」
「このことは肝に銘じておきましょう」
「そして後の世代の者にも伝えていきましょう」
重臣達も女王の言葉に頷いた、そして今はイギリスにはその労働者の為の労働党という政党も存在している。彼等はジンに溺れてはいない。牛乳や紅茶を飲んでいる。
ジン漬け 完
2024・6・14
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