ドラキュラの末裔
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第三章
「実は君と会った次の日に親族の会議があったのだ」
「そうだったのですか」
「急遽な、私も三十になるので身を固めろと言われてな」
「そうしてですか」
「ブルガリアの旧家の令嬢と会ってな」
「それが私でして」
その美女も言ってきた。
「ハンナ=ソフィアと申します」
「そうですか」
「会ってすぐに意気投合してだ」
たどたどしい日本語で答えた婚約者の次にまた伯爵が荷田に話した。
「両家もそれならと話を進めてな」
「婚約ですか」
「やがて正式に結婚する」
「それはまた」
「それで彼女と一緒に日本を旅行していたらだ」
「僕と会ったんですね」
「これも縁だな」
伯爵は蟹を食べつつ言った。
「面白いものだ、それでこの店にも入ったが」
「蟹美味しいですか」
「うむ、やはり生には抵抗があるが」
それでもというのだ。
「美味いな」
「それは何よりです」
「それでだが」
伯爵はさらに言った。
「和食はやなり美味いな」
「日本におられて」
「確かに生ものには抵抗があるがな」
「蟹お好きですか」
「この通りだ、ルーマニアでもこうして食べたい」
「何かそうしたお話は」
「吸血鬼らしくないか」
伯爵は自分から言った。
「そうか」
「どうも、それにお話を聞いていると血にもさしてで残酷さも」
「だから人間と変わらないのだ」
吸血鬼といえどもとだ、伯爵は話した。
「血を栄養に出来るだけでな、そして残酷さもその人それぞれでな」
「伯爵としては」
「血生臭いことは趣味ではない」
「そですか」
「死刑は反対せぬが」
それでもとうのだ。
「残酷ではないつもりだ」
「この人はそんな人ではないです」
また婚約者が言ってきた。
「ですからご安心を」
「わかりました」
荷田もそれではと応えた。
「そのことは」
「うむ、それでここで再会したのも縁」
伯爵は今度は日本酒をおちょこで飲みつつ荷田に言った。
「旅行の間宜しく頼めるか」
「はい、暇ですし」
「それではな」
伯爵は笑顔で応えた、そうしてだった。
荷田の案内を受けて婚約者と共に日本観光を楽しんだ、ここから荷田と親密になり大学卒業後ルーマニアで日本語の教師兼日本語の語学者としてルーマニアに入った彼と親密になった。だがそうなってもだった。
伯爵は生の血は飲もうとせずそもそも人の血をそうは飲もうとしなかった、献血の血を時々口にするだけであり。
むしろ牛等の血の料理を好んだ、血のソースもそうであり荷田に言うのだった。
「こちらの方が美味い」
「やっぱり吸血鬼らしくないですね」
「血以外でも栄養を摂れこちらの方が美味いからな」
「だからいいですか」
「私は満足している」
荷田に鴨料理でその血のソースを使ったものを楽しみながら話した、その顔にはヴラド四世の面影は見られた。だが上品に笑うその顔に串刺し等に見られた彼の残虐さも吸血鬼の嗜好も見られなかった。上品でかつ気さくな人間の姿があった。
ドラキュラの末裔 完
2024・6・12
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