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始皇帝の目

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第五章

「紀こそがです」
「一番格が高いですね」
「他の人物とは違います」
「明らかに」
「そしてそちらにはです」
「秦王の子と書きますか」
「そして呂不韋は天子ではないので」
 だからだというのだ。
「列伝になります」
「格が落ちますね」
「紀とは。ですから」
「そこで、ですね」
「察する人も出てくれば」
「秦王の子である可能性が高い」
「そのことをです」
 格の高い方の書に書いているからだというのだ。
「察してくれますと」
「有り難いですか」
「後世の者達が」
「そうなのですね」
「はい、ですが」
 ここで司馬遷はこうも言った。
「始皇帝の伝え聞く話は」
「いいものがないですね」
「そのことも書きます」
 こう言うのだった。
「事実ではないかも知れないですが」
「あそこまで冷酷であったか」
「法も厳しかったか」
「そのことはですね」
「実はわかりませんが」
 司馬遷もというのだ。
「若い頃天下を巡って色々話を聞き書も読みましたが」
「それでもですね」
「わかることはです」
 それはというと。
「そうですので」
「だからですね」
「そのまま書いていますが」
「始皇帝にはいい話がないですね」
「冷たい心の持ち主です」
「冷酷な」
「猜疑心が深く」
 そうでもあってというのだ。
「己が全てを動かす」
「そうした考えの持ち主ですね」
「若しまた始皇帝の様な人物が出れば」
 世にというのだ。
「その時はです」
「どうなるかですね」
「あの様にです」
「国を滅ぼしますか」
「そうならずとも衰えます」
「国を傾ける」
「暴君です」 
 司馬遷が見る始皇帝はというのだ。
「高祖は男はああでなければと言われたそうですが」
「始皇帝をその目でご覧になられ」
「とてもです」 
 劉邦、当時に生きた彼にあった余裕を司馬遷は察していなかった。彼はその時代には生きていなかったので。
「そうは思えません」
「ああなってはならないですね」
「張良殿は暗殺しようとしました」
「そう考える様な人物でしたね」
「そうかと。他にも殺そうという人達がいて」
 そしてというのだ。
「また項王ですが」
「取って代わろうと言ったそうですね」
「人にそう思わせる様な」
「そうした人物でしたね」
「そう思います、そのこともです」
「書かれますか」
「史記に。始皇帝は暴君でした」 
 こう言い切った。
「調べる限り。ですから」
「そのことも書かれますね」
「そうします」
 友人にまた言い切った。
「後世に残す為にも」
「そうされますね」
「こうなってもです」
 ここでだ、司馬遷は。
 苦い顔になった、そのうえで友人に話した。
「行っているのですから」
「生きられて」
「はい、腐刑を受けて」
 断種、それを受ける刑罰をだ。
「宦官になりましたが」
「それでもですね」
「生きる道を選んだのは」
「史記を書かれる為ですね」
「そうなのですから」
 それ故にというのだ。
「調べたことを全てです」
「史記に書かれますね」
「そして後世に残します」
「歴史を」
「そうします、始皇帝についても」
「それでは」
「はい、書いていきます」
 調べたことをとだ、こう言ってだった。
 司馬遷は筆を進めた、木簡に自分が調べたことを全て。 
 こうして始皇帝の父親の説は二つ残った、だが彼の目と髪の毛の色の話も残った。そしてそれが後世の大きなヒントになることはこの時は誰も思わなかったことだった。


始皇帝の目   完


                    2024・11・26 
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