DOG DAYS 記憶喪失の異世界人
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第9章 有栖零治
「俺さ、アギトと一緒にいるといつも酷い目にあってる気がするんだけど気のせいかな………?」
「何だよアタシのせいだってか!?むしろ零治がいけないんじゃないか!!アタシは被害者だ!!」
「そうきたか!!だけど俺もアギトと一緒にいるときだけだぞ、こんな摩訶不思議体験!!」
「………魔法や別世界を行ったり来たりしてるアタシ等にとって今回のこれって摩訶不思議体験?」
「「う~ん………」」
「なあレイジ、ワシ話しかけて良いと思うか?」
いきなり現れたかと思えば、喧嘩する1人と小さい少女に戸惑うレオ。
「………」
「レイジ………どうした………?」
「………」
「レイジ!!」
「はい!?」
そんなレオの叫び声に慌てて反応する零治。
「何を反応しておる、貴様では無い!!」
「いや、でも俺零治だし………」
「何、貴様もか………?」
「貴様も?って事は………他に『レイジ』って人が………」
そこまで言って零治は固まった。
「零治どうしたんだ?」
固まった零治にアギトが心配そうに声を掛けた。
「何で………何であんたが………?」
「あんた………?レイジ、奴を知っているのか………?」
そうレオが問いかけるが、レイジは驚いた顔をしたまま動かない。
「レイジ!!」
「………何で俺の名前を名乗ってるんです先輩?いや、ウォーレン・アレスト!!」
「ウォーレン!?ウォーレンってば零治の元相棒でバルトマンに殺された………」
「殺された………?」
「あなたはクローンか何かですか?それともここは天国………?」
「天国!?確かにそう考えるといきなりこんな暗闇にいるのも納得出来る気がするな………」
「いやワシは死んでないぞ!?レイジ、貴様もさっきから黙ってないで何か言ってくれ!!」
アギトにもそう言われて慌てて否定するレオ。レイジに同意を求めるがレイジの反応は無い。
「………」
「レイジ!!」
「………レオ、どうしよう………」
「レイジ?」
「思い出した………俺は勘違いしてたみたいだ………俺はレイジって名前じゃない。俺は………」
ドンッ!!!!
大きな音と共に空間全体が揺れ始める。
「何か変化があったか………?」
「レオ、ジュエルシードが!!」
レイジに言われ、ペンダントを見るとみるみる光が消えていく。
「だからこの魔物もまた動き出したのかもな………零治!!」
「は、はい!?」
「ブラックサレナセットアップしろ!!急げ!!」
「あっ、はい!!ラグナル、ブラックサレナ!」
『イ、イエスマスター!!』
その後、暗闇に一瞬光が現れ、それが収まると暗闇に同化したようにうっすらと立つ黒い鎧を着た零治が現れた。
「レオ、こっちに!!」
「あ、おい!!」
無理やりレオの手を掴み、零治の方に引っ張るレイジ。
「アギトちゃん君も零治にくっつけ!!」
「お、おう………」
暗闇を泳ぐように移動し、零治の所まで行った一同。
「零治、座標はどこでもいい。限界までここに居る全員を一緒にジャンプさせろ」
「ええっ!?でも本当に何処に行くか分かりませんよ!?」
「いい、やれ!!」
「わ、分かりました………!!じゃあ行くぞラグナル!!」
『はい、ジャンプ!!』
その瞬間、零治達全員その場から消えたのだった………
「また動き出した!?」
「レイジ、駄目なの………?」
空に浮かびながら様子を見ていた2人だったが、再び動き出した麒麟に不安が募る。
そんな時………
『アンネ、この付近に強力な魔力反応』
「何!?また何か来る!?」
『右25度、2キロ先』
そう言われたアンネローゼをその方角を見た。遠くなのでハッキリとは見えないが、そこにいきなり黒い鎧を着た男と赤い小さな妖精。
そして………
「レイジ!!そして………何で素っ裸!?」
「うわぁ………」
「こらエロ勇者!!まじまじと見るな!!」
「み、見てないです!!」
レイジと裸でレイジにくっついているレオンミシェリがいた………
「よし、その場の思いつきだけど上手くいった!!」
「何処だここ!?」
「零治あそこにデカイ奴いるぞ!!」
「本当だ!!先輩あれ何ですか?」
「あれはジュエルシードによって変わってしまった魔物の成れの果てだ」
「ジュエルシード!?だってあれはPT事件後管理局が厳重に保管してる筈じゃ………」
「知ってるのか?」
「ええ。だって地球であった事件ですから」
「………どうでもいいがいい加減ワシはいつまでこうしてればいいのだ?」
そう言うレオはレイジの首に手を回して密着して何とか空中で落ちずにいた。
それにより体の前の方は隠れているが後ろは丸見えだ。
因みにグランヴェールはレイジが持っている。
「そうだな、先ずは地上に降りる事が先だな。レオのその格好もお子様の零治には刺激が強すぎる」
「いや、俺的には結構目の保養に………」
「零治、それ以上先を言ったらアタシが星達に言うぞ?」
「………すみません」
そう謝りながら零治とレイジはゆっくり地上に降りたのだった………
「ほらレオ………」
レイジは地上に着いて早々にレオに自身の白いロングコートを着せてあげた。
ボロボロではあるが体を隠せる分はあるので問題は無い。
「先ずはレオに先に言っておきたい事がある。………俺の本当の名前はウォーレン、ウォーレン・アレスト。そこに居る黒い鎧を着ている奴が有栖零治、記憶の中で勘違いしてたみたいだ」
「ウォーレン………?記憶の中で勘違い………?そんな事いきなり言われてもな………」
ウォーレンの言葉に戸惑うレオ。
「まあそりゃそうだろうな………零治は生前俺の相棒で、魔法が一般にある世界で一緒に仕事をしていた。そして大きな事件に巻き込まれた時、俺は殺された筈なんだけど………」
「先輩は神様のじいさんの事は覚えているんですか?」
「………ああ覚えているよ。そして一緒にお前を見守っていた。初めて話したのは平行世界で大怪我した時だな。あの時はお前があっちに渡りかかってたから何とか踏みとどまらせた」
「それじゃあアタシの事を知っているのは………」
「ああ、見ていたからな」
「夢じゃ………無かったんですね」
「そして二度目は俺のレアスキルだな。それで俺は輪廻転生無く消えるだけだったんだけどな………」
「なのに何で先輩は………?」
「それは俺にも分から無い………一体何で………」
そう話した後、悩む2人。
「何やら到底信じられない話をしているが、取り敢えずそれは置いておこう。先ずはあの化物をどうにかせねばならない。最初に出てきた魔物も本当は魔物では無く、ただ普通に生活していた狐の子供なのだ。ワシはどうしても助けてやりたい。レイ………ウォーレン、ワシに力を貸してくれ」
そう言って頭を深く下げるレオ。
「………何頭下げてんだよレオ。俺はレオの味方だ。力を貸すって言ったろ?俺に任せてくれ」
「ウォーレン………」
「レオ………」
「なあ零治、あの2人いい雰囲気じゃないか?」
「これをシャイデが知ったらどうなる事やら………」
そんな2人を見て、零治とアギトがコソコソと話していたのだった………
「で、先輩どうするんです?」
「先ずはあの化物に大きなダメージを与えてジュエルシードを取り出す。その後は俺と零治で封印だな。狐の方はレオ達に任せる」
「ああ、分かった」
「で、先輩はどうやって封印するんです?デバイスも持ってないのに?」
「あっ………」
「全く、先輩は………」
そう言って零治は懐から一枚のカードを取り出した。
「それは………!!」
「ティーダさんの渡し損ねた先輩への贈り物です」
そう言って投げたカードを受け取るウォーレン。
「ティーダ………ありがとな。………ハーディアス、セットアップ!」
そう言うとウォーレンの体が光に包まれ、現れたのは………
「漆黒のロングコート?」
「何だこの死神みたいな姿!?」
「ティーダさんの意趣返しですって。ただそのロングコートは俺のバリアジャケットの名残りです。あの時使ったんで………何か先輩死ぬ前に金借りました?」
「そう言えばこのデバイスの金、仕事の報酬で払うってティーダに前借りしてたっけ………?」
「完全にそれが原因ですね」
「あのやろう、絶対に払うって言ってたのに………って俺、死んだんだな………」
「だったら仕方がないですよね」
「そうだな、約束を破ったウォーレンが悪い!!」
アギトにまでそう言われて何も言い返せないウォーレン。
「全くこのコンビは………」
ニヤニヤしながら言った零治とアギトに呆れながら呟いたウォーレン。
「………まあいいや、一度死んだ身だし死神も悪くない。………それに俺は黒はそんなに嫌いじゃないしな。ただ零治のブラックサレナとダブるけどな」
そう言って双銃をクルクル回して、腰のホルスターに収めた。
「………じゃあ零治、行くか」
「………そうですね、アギト、ユニゾンだ」
「分かった!!」
「「ユニゾンイン!!」」
そう言った瞬間、2人は光に包まれ、収まるとそこには関節から炎が吹き出す黒い鎧を着た赤い髪の男が現れた。
「赤い髪の男………」
「先輩!!」
「ああ、行くぞ!!」
そう言って2人は麒麟に向かって飛び出した。
「勇者、来てるぞ!!」
「うわっ!?」
アンネローゼの声に反応し、触手の攻撃をトルネイダーを巧みに操り、小刻みに動いて避けるシンク。
「フォトンランサー!」
雷の槍を飛ばして牽制するが全てを触手に相殺されてしまう。
「くそっ、私の力だとこれが限界………もっと強い魔法も時間がかかるし………」
「アンネさん!!」
『プロテクション!』
黄色のバリアで相手から放たれた黒球を防ぐアンネローゼ。
「くっ………重い………!!」
「でやああああああああ!!!」
そんなアンネローゼをシンクは間一髪抱き上げ、射線上から連れ出した。
「ギリギリセーフ………」
本人が言う通り、本当に間一髪で、通り過ぎた直後にプロテクションは壊れた。
少し遅れていたら今度はシンクが直撃していた。
「ありがとう勇者」
「シンクで良いです。それよりどうしますアンネさん?」
「あなたも勝手に略すのね………まあこの際良いわ。それよりどうするかね………私の一番威力のある攻撃をすればあるいはダメージが通るかもしれないけど………」
「けど?」
「レイジと戦っていた時見てたから分かると思うけど時間がかかるのよ………レイジの時はレイジが動かなかったから出来たけど、動く上に私と同じく飛んでいるとなると………」
「なら僕が囮になって………」
「無理よ。さっきの黒球は流石に口からじゃないと無理みたいだけど、あの触手に邪魔されるわ」
「じゃあどうします………?」
「………」
「2人は少し離れてろ!!」
そんな2人に大声で言う声が。
「「レイジ(さん)!?」」
「悪い、俺はレイジじゃ無いんだ。………まあそれはともかく、俺達に任せろ!!」
「俺達………?」
その瞬間、シンクとアンネローゼの前に黒い鎧を纏った赤い髪の男が現れた。
「な、何だ!?」
「敵!?」
「そいつは俺の相棒!!零治、デカイ奴を頼むぞ」
「いつも通りですね、了解!!ラグナル、アギトやるぞ!!」
『『了解!!』』
「グラビティブラスト、チャージ開始!!」
「駄目よ!!そんな事してもアイツが………!!」
「クイックバレット、エクスキューションシフト!!」
そんなウェーレンの声を聞いて、アンネローゼとシンクは麒麟の方を向く。
「なっ!?」
「光の玉弾が麒麟を包囲してる………?」
シンクの言う通り、麒麟を中心に囲むように大量の光の弾が麒麟を包囲した。
「行け!!!」
ウォーレンの一言と共に一斉に四方から襲いかかった。
「凄い!!」
「レイジ、あなた………」
「レイジじゃない、ウォーレン・アレストって言うんだ。………まああの威力でダメージが通るなら俺も余裕が出来るんだけどな………」
「それってどういう………」
「グギャアアアアアア!!!」
怒りとも聞こえる咆哮が辺りに響く。
麒麟はウォーレンの攻撃を受けたが、体には致命傷になるような傷は無く、多少傷があるくらいである。
「やっぱり力不足だよな………」
「レイジさん、どうするんです?」
「ウォーレンだ。このまま俺が囮として敵を牽制し続ける。アンネ、手伝え」
「アンタもアンネって気安く………」
「長いんだよお前の名前は………ってちっ!?」
向かってきた触手を躱し、魔力弾で更に向かってきた触手を撃ち落とした。
「降り注げ、レインバレット!!」
上空に向かってハーディアスを撃つウォーレン。
すると麒麟の上空から魔力弾が雨の様に降ってきた。
「そんでもってもう一撃!!サークルブラスター!!!」
先ほど放った魔力弾と一緒にスフィアを飛ばしていたウォーレン。そのスフィアからレーザーの様な砲撃が麒麟を襲う。
「そして………これがラスト!!スパイラルブラスター!!」
双銃を束ね、チャージした二重に重なった砲撃は真っ直ぐ麒麟の体に直撃し、
「グギャアアアアアアアアア!!!」
大きな悲鳴と共に麒麟の体を貫通した。
「通った!?」
「零治!!!行け!!!」
「アギト、ラグナル行くぞ!!」
『イエスマスター!!』
『ぶっぱなせ!!』
「『『グラビティブラスト、フルバースト!!!」』』
零治の放った砲撃魔法は麒麟を完全に飲み込んだ………
「何あれ………?」
「高威力の砲撃魔法、あれなら………」
戦闘が行われている天空闘技場、その入り口付近で一緒にいるミルヒオーレとアリシアが話した。
「こうまりょくの砲撃魔法?何それ?」
「………簡単に言えば威力が大きい攻撃」
「なるほど………」
「ふっ………」
「………今バカにしてなかった?」
「してない」
エクレールに睨まれそっぽを向くアリシア。
「あはは………でもこれでどうなるのアリシアちゃん?」
そんなエクレールに苦笑いしながら優しく声をかけるミルヒオーレ。
「あの魔力を受けてジュエルシードは体から出てくると思う。そうなったら後は封印してくれれば………」
「でもそれはどうやれば………」
「レイに任せてあなた達は離れた方がいい」
「えっ!?ですが………」
「もうあなた逹が介入できる事態じゃ無くなった。レイの邪魔になるだけ。それに………!?」
「アリシアちゃん?」
体が一瞬かくんと反応し俯くアリシア。
「彼らの邪魔になるので出来るだけこの場から離れててください」
そう言ってアリシアは空へと飛んでいった………
「よし、流石零治」
相変わらず………いや、前よりも強い砲撃魔法が放たれた。
奴もうごかない。
さて、後はどうやってジュエルシードを回収するかだが………
「先輩!?様子が!!」
零治にそう言われ、麒麟の方を見ると麒麟の体から小さな光が9つ出てきた。
「これがジュエルシード………」
青白く綺麗な光を灯す宝石達は真っ直ぐ上にゆっくり上がっていく。
「先輩、シーリングモードあります?」
「お前………俺の魔力量であれだけの数を封印しろと?むしろ魔力ならお前の方が………悪い、デバイスポンコツだったな」
『誰がポンコツですか!?』
「だったら先輩のデバイス貸してください。ハーディアスを使って封印します」
「そうかその手があったか」
零治に言われ、俺はハーディアスを解く。
「って先輩!!デバイス無いと飛べないのでは………あれ?」
「別にデバイスが無くたって空は飛べるさ。足場を魔力で作ったりすればな」
「………ちっ」
「何で舌打ち!?」
『ってか2人共喧嘩してる場合じゃねえぞ!!何かジュエルシードの様子がおかしい!!』
零治のユニゾンデバイス、アギトちゃんに言われ、俺達はジェルシードの方を見る。
「………」
「「………誰?」」
そこには全身青白いクリスタルで覆われた男が1人現れた………
「何だあれ!?」
「狐は………?」
麒麟から小さな狐へと姿を変えた妖狐は真っ直ぐ塔の下へと落ちていった。
「先輩………」
「シンク、アンネ、狐を拾って下にいるレオの所へ。そしてレオ達を連れてアリシア達と合流し、直ぐにこの塔から出来れば離れてくれ」
「えっ、でも………」
「アンタたちを置いてなんて嫌よ!!私だって戦える!!」
「悪いが、アイツは絶対にヤバイ。頼むから言うことを聞いてくれ………」
「俺からもお願いします、絶対に先輩を連れて帰りますから………」
零治に言われて渋々アンネを納得し、狐を抱いてレオの所へ降りていく2人。
「先輩、前衛は俺が行きます。後衛は任せますね」
「ああ、任せろ」
異様な雰囲気を持つ、宝石男に自然と軽口が無くなる2人。
「OK、油断するなよ」
「先輩こそ………」
「我は世界の破壊の望みし者の願いを叶える為に現れた者………クリスタラーとでも名乗ろうか………」
そう言うと両手の手のひらを零治とウォーレンに向ける宝石男。
「零治!!」
『ファイヤーウォール!!』
いきなり発射してきた砲撃を炎の壁が壁になり、零治は瞬時に転移して何とか避ける事が出来、遠くにいたウォーレンもかろうじて避ける事が出来た………が。
「嘘だろ………」
ウォーレンの避けたレーザーはそのまま地面に突き刺さり、大きなクレーターを作った。
「ふむ………流石にあれくらいの攻撃では破壊出来ないか………まだ完全にこの体を構成出来きれていないか………」
「くっ………!!」
ウォーレンが魔力弾を連射するが、まるで水をかけられたように直撃した瞬間拡散してしまう。
「魔力弾を弾いた!?」
「それじゃあ魔力の攻撃じゃ駄目って事ですか!?」
「いいえ違います、魔力の攻撃は通ります。ただ弱い攻撃は駄目って事だけです」
2人に声を掛けたのはアリシア。
いつの間にかウォーレン達の近くに来ていた。
「アリシア、危ないから下がってろ!!………ってか何で飛んでるんだ!?」
「私はアリシアであってアリシアではありません。この子の体を借りて話しかけています」
そんなアリシアの言葉が理解出来ないウォーレンと零治は不思議そうに首をかしげている。
「………まあ無理も無いですね、私はこの世界にやって来たジュエルシードの10個の内の1つ。アリシアの命の代わりなっている物です」
「命って………取り敢えず零治、転移でこの場から一体離れるぞ」
「あっ、はい………」
混乱しながらも転移でその場から離れる。
そして転移した先はクリスタルで覆われた男から1キロ程離れた地上に降りた。
「到着………ってかアリシア!?何で生きてるんだ!?だって元々死んでて、そのためにフェイトが造られて………プロジェクトFもアリシアの為に出来たものであり………」
先ほど話していたのにも関わらず今頃気がつく零治。
「落ち着いて下さい零治さん。長々と話している暇も無いんです………先ずはあれを止めなくちゃなりません。あれはジュエルシードが間違った方向に力を発動させてしまった姿」
「間違った方向に発動?元々ジュエルシードは高エネルギー体なんだろ?」
零治がそう言うとクスクスと笑い始めるアリシア。
「なあアギト、もしかして俺ってバカにされてる………?」
『いや、多分違うと思うけど………』
「ごめんなさい、私の事よく知ってるなって思ったので。その知識もあなたの前世での記憶ですか?」
「!?お前………」
「だけど少し違います。確かに次元震を起こせるほどのエネルギーの結晶体ではありますが、私達には自我があるんです」
「自我が………?」
「それが願いを叶える宝石と勘違いさせる原因でもあるのです」
「願いを叶える………か。だが自我があるのならちゃんと願いを叶えることだって出来るんじゃないのか?」
ウォーレンにそう言われ、顔を横に振るアリシア。
「それは出来ないんです。私達に対して願う願いはいつも私達の思いとは関係無く歪めた結果を招いてしまう。それは私も同じで、私に願った願い、『アリシアを生き返らせて』そんな願いを歪めて叶えてしまいました」
「歪めて………その願いってまさか………!!」
「そう。アリシアの母親、プレシア・テスタロッサ本人です。彼女の願いは歪められ、『その命を対価として命を生き返らせる』結果となりました」
「そんな事が………」
「それが出来る力を持つのが私達ジュエルシードなのです」
そう説明を終えると、クリスタラーへ視線を向けるアリシア。
クリスタラーは力を試すように地上に向かって攻撃を繰り返し、その度に地面はえぐられていっている。
「早くジュエルシードを止めなくてはなりません。でなければこの世界を完全に破壊するまで破壊し続けるでしょう。『過去を変えたい』それは即ち今の世界の否定を意味します。そして更にあの狐が纏っていた邪気を吸って更に強大になってしまいましたから………」
「だけど、あんな高エネルギー体のアイツを倒す方法なんてあるのかよ?」
「………あります。その為にはウォーレンさんの飯綱が必要になります」
「この刀か………」
腰にかかっている刀を見てそう呟くウォーレン。
「だけどこの刀は魔を斬る刀だろ?そんな刀でアイツを破壊出来るのか?」
「その刀は魔を斬るだけではありません、その刀は封魔刀。魔となる邪念を封じてきた刀です。邪念を生み出す私は直ぐに分かりました。そこ刀は天敵だと………」
そう言って飯綱を見つめるアリシア。その目は少し悲しそうだった。
「それならアイツを………!!」
「ええ封印出来ます」
「後は先輩次第ですね」
「………プレッシャーかけるなアホ」
そう言いながらもウォーレンは鞘から刀を抜く。
「ですが、その刀はまだ完全に目覚めていません。まだ眠ったままの様です」
「「………は?」」
「いえ、ですからまだ眠ったままだと………」
「先輩………?」
「何で俺を見るんだよ!?別に俺のせいじゃ無いっての!!」
「でも何でなんだ………?」
「ずっと使い手がいない内に力を失ってしまったのだと思います」
「………まあ貰い物なのに武器庫に放置されてた位だからな」
「だけど今は違います。今はその使い手がいますから………今は目覚めていなくても飯綱が答えてくれると思います」
「………」
「いや、信用しろよ零治………」
零治に冷たい目で見られ、たじろぐウォーレン。
「お願い、あれを止められるのはウォーレンあなただけ………お願い、みんなを止めて………」
悲しそうな目でウォーレンを見つめるアリシア。
「………任せろ、レオとの約束もあるし、こんな所で死ねないからな」
「約束………?先輩、シャイデがいるのに浮気ですか?」
零治が茶化すように言うがウォーレンは真面目な顔で零治を見つめた。
「先輩?」
「シャイデには悪いと思っているだが、俺はもう………」
「不味いです………」
ウォーレンが大事な話をしようとしたときアリシアが遮った。
2人はアリシアの視線の先、クリスタラーの方へ顔を向ける。
『マスター、あのクリスタラーの魔力が徐々に増大していってます。このままだと本当に手に負えなくなります………』
「はい。そのおしゃべりなデバイスさんの言うとおりです、早く何とかしなければ………」
『お、お喋り!?』
「まあ否定はしないが確かに不味い感じだな」
「そうだな、お喋りは否定しないが急がないとな」
『2人共!?』
ラグナルが叫んで意義を唱えるが誰もが無視をする。
『もういいです………』
すねたラグナルにクスクスと笑い始める3人。
緊迫感に包まれていた3人の雰囲気が少し柔らかくなった。
「それじゃあ行くか零治………」
「今度はいつもの逆ですね、俺が時間稼ぎで先輩が止めを刺すって形ですね」
「悪いがあの化け物を止めておいてくれ」
「任せてください、バルトマンにも勝ってるんですから。………早く準備しないと俺が倒しちゃいますよ?」
「それはそれで俺が楽で助かる」
そう言った後、互いに笑い合う2人。
そして柔らかい雰囲気は消え、再び真面目な顔になった。
「………また会えて嬉しかったです先輩」
「俺こそ………たくましく、強くなったな零治。頼むぞ、相棒………」
その言葉を聞いた零治は一瞬笑みをこぼして空へと向かった。
「ウォーレン………零治さんとはどんな関係なのですか?」
「………俺の息子になるはずだった一番の相棒かな………」
まるで大きく立派になった息子を見るような父親の様に嬉しそうにそう返したのであった………
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