イクラ丼と母
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第二章
ふとだ、時貞は母が食べるイクラ丼を見て言った。
「烏賊の塩辛にカニカマも一緒だね」
「ああ、おかずのな」
父も言われて気付いた。
「そうだな」
「イクラ少ないね」
「どうしたんだ?」
「実はこの前人間ドックの診察の結果が来たの」
忍は家族に苦笑いで答えた。
「そうしたら乳酸値が高くて」
「乳酸って何?」
「身体にあるものでこれが高いとね」
母は息子の問いにも答えた。
「痛風って病気になるの。女の人はあまりならないけれど」
「なるんだ」
「そうなの、これが凄く怖い病気で」
それでというのだ。
「そよ風が当たっただけで身体が痛いのよ」
「そうなんだ」
「だからね」
「お母さん痛風にならない様になんだ」
「イクラを沢山食べると乳酸が増えるから」
身体の中のそれがというのだ。
「だからね」
「あまり食べないんだ」
「今はね、ビールも飲まない様にするわ」
「ビール好きなのにな」
夫がこちらの話をした。
「それでもか」
「これからはワインや焼酎にするわ」
「そうなんだな、けれど痛風になるのはビールが一番問題だから」
それでというのだった。
「ビールを止めてイクラは食べていいんじゃないか?」
「いいの?」
「滅多に食べないし」
高いからだというのは敢えて言わなかった。
「いいんじゃないか?」
「そうなのね」
「だからもっと食べたらどうだ」
「そうしたらいいの」
「ああ、どうだい?」
「そうね、じゃあビールを完全に止めて」
そうしてとだ、妻は夫に答えた。
「今日はイクラ食べるわ」
「そうしような」
「じゃあ皆で食べよう」
笑顔でだ、息子も言った。
「イクラ、それに塩辛もカニカマもね」
「そうしような、皆で楽しもう」
夫も言った。
「そうしよう」
「それじゃあね」
こう話してそのうえでだった。
一家でイクラを楽しんだ、塩辛もカニカマもだ。そして忍はビールをワインや焼酎に切り替えた。すると乳酸値は減って安心したのだった。
イクラ丼と母 完
2024・11・16
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