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人徳?いいえモフ徳です。

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七十五匹目

お父様に連れられ、魔法師団の訓練を見学していると、お昼になった。

「トゥルペさん、お昼ごはんはどうするの?」

「お腹空きました?私達のあげましょうか?それともお城戻ります?」

「あ、いえ、自分の分は持ってるので。いつどこで食べようかなと」

「どこでもいいですよ。なんならそこで食べても大丈夫です」

「みなさんは食べないんですか?」

「普段ならもう食べてますけど、ほら」

トゥルペさんがお父様とアトラさんを指差す。

新人に訓練をつけている最中だ。

上役が仕事中じゃ食べれないか。

「みなさんはお昼どうするんですか?」

「お昼を食べたい者は持ってきてますね」

フライハイトの文化ではお昼ごはんは食べたい者だけ食べる。

食べても食べなくても自由といった感じの文化だ。

そういう所がいかにもファンタジックな多民族国家だなぁと思わないでもない。

ただまぁ、基本的に皆食べる。

なぜなら昼時には街の屋台からいい匂いがするから。

「ふーん。なるほど」

でもここには屋台は来ていない。

「ここで屋台やったら儲かるかな」

その呟いた独り言をトゥルペさんは聞き逃さなかった。

「お?さすがはトルテ・プリンツですね」

「甘味王子ねぇ……」

甘味王子、トルテ・プリンツ。そのほかケーニッヒ、カイザーだの。

仰々しい後半を甘ったるい前半がかき消すネーミングが今の王都での僕の二つ名である。

もっとカッコいいのなかったの?

あと前半も安定せずスナックだったりクーヘンだったりもする。

「ここで甘味売ってもしょうがないでしょ。普通の売店だよ売店」

「訓練中の数百人を賄えるなら、悪くないかもしれませんね。
あと最悪揉めますね」

「そうなんだよねぇ」

持ち運べてすぐ調理できるものor調理状態で持ち運べるもの。

嵩張らないとなおよし。

んー。おにぎりとかかなぁ。

生米で持ち運んでここで炊けば重量は減らせそう。

炊き込みご飯の屋台?

お餅でもいいなぁ。

そんなことを考えていると、お父様が昼休憩の号令を出した。

各々が荷物からおにぎりだのサンドイッチだのを出して食べている。

魔法を使って小鍋でパスタを茹でている剛の者も何人か。

僕も合流したお父様、アトラさん、トゥルペさん、ナルツィッセさん達と昼食を取る。

僕とお父様のお弁当はサンドイッチ。

中身はカツサンド、タマゴサンド、フルーツサンド。

お父様は普段はパン3つくらいを持っていくが、僕が同行すると言ったらメイドが張り切ったのだ。

ちなみにフルーツサンドは僕がつくった。

全部あわせると結構な量だ。

「あら、今日のお昼は豪華ですねブーミ君」

「シラヌイを連れて行くと言ったらメイドがね」

「ふーん……それブーミ君メイドに嘗められてません?」

「本当の事を言ってやるなトゥルペ」

とアトラさんが笑う。

ちなみにアトラさんは急に視察に出ることになったのでお弁当を当然持ってなかった。

なのでサンドイッチを分けてあげた。

「実際僕は婿養子だし、シュリッセルのキッチンメイドの大半は僕より年上だからなぁ」

「そうなの?」

お父様の方を見る。

「うん。シュリッセルのメイドの一部はお母様が建国した時からの古参だよ。シェフと、キッチンメイドとかランドリーメイドとかの専門職の数人がそうだね」

「ん?エリザは?」

エリザはそこまで年いってなかったような?

「ああ、長命なメイドは全員シルキーでね。メイド長には絶対になりたがらないそうだよ。
だからメイド長は中堅のベテランが務めてるんだ」

「そうなんだ」

知らなかった。

メイドの中にやけに強そうなのが居ると思ったらそういうことか。

ご飯を食べつつ、周りを見渡し、他の団員の様子を見る。

あ、いいこと考えた。












師団の訓練を見学し、お父様と帰宅。

夕食の後、僕はキッチンに来ていた。

見学中に構築した魔法がある。

目の前にはメイドに用意してもらった野菜と川魚のスープ。

それを4M製の鉄皿によそう。

4Mで刻んだ術式は強度上昇だ。耐圧、耐熱、耐引掻きの効果がある。

構築した魔法を記した魔導メモを手にもつ。

これは魔導書の材料となる、魔法の発動補助体となる紙だ。

言ってしまえば製本されてない魔導書。

この紙だけでも結構なお値段だが、サニャトリウムや屋台の収入でガッポガポなので問題なし。

紙に魔力を流し、魔法の名を唱える。

「フリーズドライ」

発動すると、よそった物がカチコチに凍りついた。

開発した魔法はフリーズドライ。

一定空間内の物体を急速に冷凍し、同空間内の空気を抜きつつ、氷を昇華させる魔法。

分類的には中級の複合術式。

対象は物体ではなく空間。

急速に氷が昇華し、余計な水蒸気が結界外部に押し出され、白く凍る。

30秒程で水分が出なくなった。

「解除」

フリーズドライのエリアを解除する。

残されたのはカスカスの具とスープだった粉末。

「うーん。失敗…とまではいかんが」

魔法でつくったお湯を注ぎ、20秒ほど待つ。

スプーンで掬って食べてみる。

一応食感もある程度復元されてるが…。

全然食える味だが、結構劣化している。

一度アストラルポーチに入れて鑑定するとわかるが、栄養素や旨味成分や細胞構造が壊れている。

「んぁー。スープに状態固定かけてみるか」

左手のスプーンで失敗作のスープを食べつつ、右手でメモに追記する。

数行なので、即座に追記が終わる。

別の皿にまたスープをよそって、魔法を発動。

「フリーズドライ」

よそったスープがカチコチに凍りつき......。

「あー。そうなるか」

魔法は失敗。

凍りつき、真空状態までは行ったが、水分が飛ばなかった。

「解除」

メモに更に追記。

構造強化の対象から水分を除外。

僕の魔導書はプログラミング的な書き方なので、除外したいときは一文加えるだけでいいのだ。

「フリーズドライ」

今度はしっかり発動し、障壁の空気穴から白い水蒸気が出た。

失敗作のスープを食べ終わると同時に、水蒸気が出なくなった。

「解除」

結界、減圧、低温、構造強化の全てが消える。

「成功っぽいなぁ」

一度アストラルポーチに入れて鑑定すると、構造も、栄養素も旨味成分も壊れていないようだ。

再びお湯を注ぎ、スプーンで掬う。

「うん。美味しいな」

ちゃんと野菜や魚の食感が復元されている。

「ふう。お腹いっぱい」

夕食後にスープ2杯は結構きついかも。

「んぉー……」

閑話休題。

これを練兵場で売ろうかと考えたが。

「無理かなぁ」

コストがかかりすぎる。

物質的ではなく、人的コストだ。

この魔法僕以外習得できるんだろうか。

無理っぽいよなぁ。

中級魔法だぞ中級魔法。

しかも属性複合型で結界術。

これ作れるレベルの人材に払う金も考えると商品化は無理だ。

後ろを振り向く。

僕の行動を面白そうに見ている十数人のメイドたち。

いや集まりすぎだろ。

明らかにキッチン担当じゃないのもいるじゃん。

何してんのさエリザは。暇じゃないでしょ貴女。

「どうされましたか?お坊っちゃま?」

「お前達の中で、今の魔法使えるの居る? 今は理解できなくても、教えたら出来そうなのも含めていいから」

と尋ねるとメイド達は顔を見合わせた。

手を上げたのは数名。

例の強そうなメイドとエリザと他数名。

前者はお父様が言ってたシルキーメイドだろう。

「そうか。やっぱそうなるよな」

エリザが前に出る。

「シラヌイ様以外だと、先程の数倍の魔力を必要とするでしょう」

「わかってるよ」

「保存食のように見えましたが、新商品ですか?」

「そのつもりだったんだけどね。加工用魔法を使えそうなのがこれじゃお蔵入りだろうね」

「そうですか……」

ま、使えるとして。

「家で使うくらいかなぁ」

さっき挙手した中にシェフとキッチンメイドがいたなぁ。

圧力鍋魔法も覚えれた彼女たちだ。

フリーズドライもいけるだろう。

「今から仕組み教えるから近くに来て。さっき手を挙げなかった者も聞きたかったら来て」

その日はメイド達にフリーズドライの仕組みや、応用の野菜パウダーなどを教えた。

教え終わる頃にはもう夜遅くて、眠かった。





数日後

「なんか、フリーズドライが調理技術の秘奥扱いになってるんですけど……」

 
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