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人徳?いいえモフ徳です。

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七十四匹目

 
前書き
院生って忙しいね
AIで生成したクーコ一派のイラスト。
細部がおかしかったり、刀の位置が左右逆だったりするけど、あくまでも参考ってことで。



 

 
木箱の上に座り、トゥルペさんの説明を聞く。

「というわけで。ちょっと態度の悪い輩も混じってるので、わからせるのを手伝ってください」

トゥルペさんの説明によると、魔法以外の訓練に消極的なやつがいるとのこと。

特に武器術の訓練に不真面目な連中は最近入った連中らしい。

「それって試験とかで落とさないの?」

「この手のクサる輩は魔法にプライドがある者です。
なぜそんな自分が武器術を覚えねばならないのかと。
クサるのは入ったあとですね。
なのでシラヌイ君。”魔法だけでは”ぜったいに敵わない存在もいるということを理解させねばならないのです」

「それが僕?」

「はい。エルフよりも上位の半精霊種。しかも人語が通じてこちらに協力的で手加減もしてくれる」

「手加減はわかんないよ?いままでしたことないし。
僕の持ってる魔法は、防御か、捕縛か、そうでないなら敵を一撃で葬る魔法だよ」

僕の仕事はクーちゃんの護衛。

王家の暗部が護衛についてるから半分御飾りではあるが、それでもその仕事をこなせるだけの魔法力はあるつもりだ。

暗殺者や襲撃者、現代世紀でいえばテロリストと呼ばれる存在たちからクーちゃんを守り、その後はテロリストを一掃せねばならない。

「大丈夫ですよ。防御魔法くらい貼れますから」

一通りの説明を受け終え、コートの端っこに向かう。

コートの大きさはテニスコートより若干細長いくらいで、その端っこから撃ち合う。

魔法使いの決闘的なやつである。

ただしスタートしたらどう動いてもいいし、なんなら飛んでも土に潜ってもコートから出てもいいらしい。

じゃないと魔法剣士とか不利だし。

指ぬきグローブと一体化した革製の籠手を嵌める。

露出した指に杖代わりの指輪を嵌めていく。

分子サイズの魔法陣を幾重にも刻んだ特別製。

Multiple Magical Molecular bond Material‐分子結合多重魔方陣素材、通称クォドム(4M)。

現状の僕の魔法関連の最高傑作だ。

全ての指に指輪をつけ終える。

ブーツの裏側には錬金術用の魔法陣を刻んである。

戦闘準備完了だ。

対戦相手を見る。

線の細い、若い男だ。

茶髪で、年は18くらい。

種族は人間かな?

審判はアトラさんが行う。

準備完了の合図を送る。

「ではこれより模擬戦を執り行う。立会人はここにいる全て!」

つまり負けても文句言うなと言うことだ。

そして僕は目の前の男を負かさねばならない。

「試合!開始!」

「「……」」

お互い様子見を選択し、決闘は静かに始まった。

「障壁」

とりあえずバリアを貼る。

くいくいと手で挑発してみる。

相手が杖を構え、詠唱を開始した。

腹話術のように唇の動きと声を最小限にして詠唱している。

魔法戦の心得というやつだろうか。

数秒の詠唱で、相手が撃ってきたのは雷魔法だった。

相手の杖からピッシャァン!と紫電が迸った。

「バリア貼っててよかった」

紫電は障壁に遮られ、こちらには届かない。

テスラコイルのそれのようにバリア表面を舐める紫電。

「お返しだ」

指輪に込めた魔法を呼び出す。

任意の形の氷を作り出して風魔法で打ち出す僕の得意魔法。

今は模擬戦なので、氷柱の先端を拳状にしておく。

紫電を受け止めつつ、氷の拳を50個ほど作り出す。

大人の腕くらいのそれらを一気に打ち出す。

紫電が止まる。相手は障壁を展開すべく詠唱しようとしたが、もう間に合わない。

相手は詠唱をやめて、横に大きく飛び退いた。

だがそれも間に合わない。

最初から詠唱せず避けていれば逃げ切れただろう。

50の氷の拳による面制圧の殴打。

大半が外れたが、命中した数発で相手は後ろにぶっ倒れた。

魔法使いなら無意識の障壁があるから致命傷は受けてないだろう。

「勝負あり。敗者はさっさと捌けろ。次の者!」

「ぼく連戦?」

「余裕でしょう?」

あ、文句は受け付けない感じですね。

初戦の相手は倒れたままずりずり引きづられて退場した。

次に出てきたのは青髪の女性。

いかにも水系使って来そう。

「試合開始!」

彼女の周りには、さっき僕が撃った氷が散らばっている。

彼女はそれらをも利用して、氷のゴーレムを作り出した。

さっき僕が撃った分と、彼女が新たに作り出した分。

できたゴーレムは2.5メートルくらいの大男だ。

そのうえ手先は泥を巻き込んだ氷水がドリルのように回転している。

「そーきたかー」

つくりだした水の制御優先権でゴーレムを奪ってもいいけど、それじゃあ面白くない。

左足のブーツに魔力を込める。

発動する術式はゴーレム生成。

土の中のケイ素と酸素と炭素だけを抽出し、結合させる。

自分のすぐ隣に形をつくる。

石英ガラスでできた身の丈2メートルの甲冑を被り、ダイヤモンド刃の剣を提げた女性型ゴーレム。

純結晶女騎士‐クリスタライト・メイデン。

「ティア」

『りょうかいますたー』

懐にしまっておいたピンポン玉サイズのスライムコアを取り出し、クリスタライト・メイデンの胸に嵌める。

「その氷のデカブツを破壊しろ」

『イエスマイロード』

純結晶女騎士の全身にはスリットがあり、そこに魔力の媒介となる水を通すことで全身を操る。

魔法で作り出された水が全身に行き渡る。

カシャン、シャランと風鈴のような音と共に、純結晶女騎士が居合の構えを取る。

純結晶女騎士を構成する物質はスライムコア、水、石英ガラス、そしてダイアモンド。

そのダイヤモンドでできたエッジを持つ一振りの剣に手をかける。

「ティア。僕の魔力量はわかってるね?たぶんまだ連戦するから使いすぎないように」

『問題ありません。一撃で仕留めます』

純結晶女騎士の背部にあるフレキシブルスラスター。

背中に一対備わった単純な箱型のそれの中に、空気が圧縮される。

風属性魔法と火属性魔法の複合魔法”ジェット”。

さらに全身の小型スラスターにもジェットによって空気が圧縮される。

加えて刀身。

4M製の刀身が魔力を纏う。

『征きます』

純結晶女騎士が居合斬りとともに風刃抜刀を発動。

居合とともに放たれる真空の斬撃。

それだけではない。

抜刀の勢いのまま、全身のスラスター内部に圧縮した空気を開放と同時に熱し膨張させる。

得られた莫大な推力を以て前方へ飛翔する。

風刃抜刀で真っ二つに切り裂かれたゴーレムが地に崩れるより早く。

純結晶女騎士が地に足をつけ、急制動。

純結晶女騎士の抜いた剣の鋒が対戦相手の首筋に当てられた。

『勝負あり』

ゴゴン、ガララ、パシャンと崩れ落ちたゴーレム。

対戦相手がペタリと座り込む。

「そら次!」

とアトラさんが言うが誰も出てこない。

そりゃそうだ。

遠距離は通じない上に、近接に持ち込むには護衛のゴーレムを潰す必要がある。

我ながら戦いたくない相手だ。

「居ないのか。なんだ腰抜けめ。そんなんで魔法師団の団員が務まるか。
ナルツィッセ!手本を見せてやれ!」

教官モードに入ったらしきアトラさんが新人達を叱責したかと思えば、トゥルペさんの側近の名を呼んだ。

正面の、定位置についた女性。

さっきまで一緒にいた獣人のお姉さん。

青みがかった灰髪の。

キリッとした顔立ち。

ショートカットからピョコンと立った”狼”耳。

「ごめんね。シラヌイ君。ご指名だからさ」

彼女は杖を持っているが、装飾の少ない棒のようなデザイン。

さらに僕のように指輪をつけていたり、腕輪足輪の類をつけている。

たぶん杖はブラフ。

彼女が僕に似たスタイルだとすれば。

「試合開始!」

思い切り防御を固める。

伝承の竜の吐息すら弾くであろう十重二十重の障壁。

予想通り、杖はブラフだった。

彼女の初撃は投擲だった。

杖を用いたそれは、僕の防御のほぼすべてを貫通した。

残り2枚になった障壁。

それに対し、彼女は超加速で迫り、杖の尻を思い切り蹴った。

脚に魔力を集めて地面を割く。

開いたゲートに、重力に身を任せて落ちる

「うにゃぁ⁉」

アイテムボックスの応用で異空間に逃げる途中。

障壁を貫通した杖が、ぼひゅっと頭の上を抜けていった。

一拍遅れていたら死んでたかも。

「こっわ‼」

閉じる異空間と現世のゲートの隙間から、砕け散る魔法障壁とナルツィッセさんのローブの内側が見えた。

「黒だと⁉」

ちょっと得した気分。

ってそんな場合じゃねぇ!

急いでゲートを閉じる。

異空間内で指に魔力を集め、ゲートオープンの用意をしつつ背部に魔法障壁で翼をつくる。

飛行機のような翼だ。

付け根には推進用の箱。

ジェットを発動させるためのスラスターだ。

ゲートオープンし、通常空間に出たと同時にジェットを発動。

ゴォっという音と共に急加速。

出た先はバトルコートの中心から上空20M。

音に反応したナルツィッセさんが上を見上げ、手のひらを向けてくる。

「破ッ‼」

放った攻撃は単純な魔力弾。

しかも魔力放射のおまけ付き。

丸い魔力弾の後からマズルフラッシュのような魔力放射が追従している。

うん。ほぼ対空確殺コンボだな。

魔力弾で攻撃しつつ、魔力放射で相手の魔法を狂わせる。

飛行系魔法相手にはめっぽう強いだろうな。

こちらは魔力弾を避け、障壁で魔力波を遮断する。

すこし術式が影響されたが、バランスを崩すほどではなかった。

ジェットで機動戦を仕掛けるが、こちらの攻撃は当たらない。

あちらの攻撃は僕の障壁を破れない。

こちらが相手の攻撃にわざと押されて威力を受け流しているのもある。

直撃でかつ防げない攻撃はアイテムボックスの応用でゲートを開き相手に返すが、当然避けられる。

千日手になってきて、これ以上やると互いに相手に重傷を負わせかねないまでエスカレートした頃。

「そこまで!」

アトラさんが静止する。

「これ以上は”周り”の被害が洒落にならん」

よく見るとコートがボコボコだし、結構な人数が障壁を貼っている。

僕とナルツィッセさんの魔法攻撃の流れ弾だ。

それもたぶん方向的にだいたい僕のやつ。

僕が地上に降りるとトゥルペさんが迎えてくれた。

「お疲れ様でした」

「いえ、僕も思いっきり動けて楽しかったですよ」

「ふふ、そうですか。それはよかった」

アトラさんとナルツィッセさんは新人へお説教中みたい。

結構素直に聞いてるっぽい。

指輪を外し、アイテムボックスに放り込む。

場外に置いといた純結晶女騎士からコアを外し、これもアイテムボックスに突っ込む。

もったいない精神で作るたびここに入れてるが、多分中に同じのが30はある。

収納するたび、次こそここから出して使おうと思うのだが、いざ使うときとなると見栄え重視でその場で錬成してしまう。

一通り落ち着き、しばらく訓練の様子を見学する。

お昼になった。

お腹すいたなぁ。
 
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