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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第57話

10月23日、6:32――――――



アラミス高等学校による”視察研修”開始日にしてアークライド解決事務所のバーゼル市への出張開始日の早朝、アニエスはレンと共に駅前通りに到着した。



~駅前通り~



「ちょっと早く着き過ぎたかした。オデットやアルベール君は十区だったわね。そろそろ来るでしょう。」

「その…………先輩、すみません。勝手な都合ばかりお願いしてしまって。別行動は増えるかもしれませんが研修はおろそかにしませんから!」

「ふふ、それはいいわ。一応みんなにはもう――――――」

「アニエスさーんっ!!」

「あ…………」

駅前通りで二人が会話していると二人にとって聞き覚えのある声が聞こえ、声が聞こえた方向に視線を向けると停車した車の周囲に事務所の面々が2人を見つめており、声の主――――――フェリは元気よく手を振っていた。

「早いじゃねえか、そっちもこれから出発か?」

「はい、他のみんなと待ち合わせ中で――――――…………!カスタム、終わったんですね?」

ヴァンの言葉に頷いたアニエスだったがヴァンの愛車の荷台の部分が人が座れるように改造されていることに気づいた。

「ああ、リバーサイドの整備屋と協力してなんとか間に合わせてな。」

「いや~、やっぱ広いのはいいぜ。流石にあのリムジンには負けるがよ。」

「定員は5名から8名に増加、”専用端末”も搭載できました。」

「えへへ、いざとなったらアニエスさんとお友達まで乗れちゃいますねっ!」

「あ…………ふふっ、確かに。」

「ふうん、色々と面白いことになっているみたいね?」

ヴァン達の話を聞いたアニエスが微笑んでいる中、レンは興味ありげな様子でヴァンに指摘した。



「そっちもお前さんが率いる時点でどう考えても面白くなりそうだが…………ま、安心っちゃ安心か。現地で何かあった時もそうだが、もし南の”総督府”に用ができた時は”繋ぎ”を頼むぜ。」

「ふふっ、そちらこそよろしく。」

「…………?えっと…………先輩とヴァンさんって…………」

それぞれ互いの事をわかっている様子で会話するヴァンとレンが気になったアニエスは不思議そうな表情を浮かべて疑問を口にした。

「うふふ、実は昔、”ちょっとした”縁があってね♪」

アニエスの疑問に小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンはヴァンに近づいて、アニエスをからかうかのように笑顔を浮かべてヴァンの片腕と自分の両腕で腕組をした。

「!!!?」

(アニエスに”発破”をかける為である事があからさまですね…………)

それを見たアニエスは信じられない表情を浮かべている中メイヴィスレインは呆れた表情で溜息を吐き

「わわっ…………」

「あらあら♪」

「ほう…………お安くねえなァ?」

「フウ…………大切な後輩に”発破”をかけるためとはいえ、さすがにそのやり方はどうかと思うわよ?」

フェリは驚き、ユエファとアーロンは興味ありげな様子で呟き、レンの意図を推測したマルティーナは呆れた表情で溜息を吐いてレンに指摘した。

「3年も前の話じゃねえか。お前さんも悪戯が過ぎんぞ?つーか、そういう悪戯はあのリア充シスコンハーレム剣士にでもしてやってくれ。」

「あん、つれないわね。」

一方ヴァンは全く動じず呆れた様子で呟いた後自分からレンとの腕組を解いた。



「………えっと、詳しい話が気になり過ぎるんですが…………そういえばどうしてわざわざ出発前に駅に…………?」

「ああ、そうだった。」

「アニエス様、こちらを。モーニングのサンドイッチとコーヒーになります。」

アニエスの疑問に答えるかのようにリゼットがモーニングが入ったバスケットをアニエスに手渡した。

「ビクトルさんとポーレットさんからアニエスさんたちに預かりましてっ。たくさん作ったのでお友達とどうぞ、だそうです!」

「あ…………」

「ありがたく頂くわ。うん、美味しそうな匂いね。」

「…………はい、私が保証します。」

「ああっ、何をやってるんだ!?」

モーニングの美味を推測したレンにアニエスが答えたその時聞男子生徒の声が聞こえ、声が聞こえた方向にヴァン達が視線を向けるとアルベールやオデット達――――――アニエスやレンと同じ研修地に向かう生徒達がその場に現れた。



「ひゅ~、見送りっていうか逢引き?出発前にいけないんだ~♪」

「バイト先の恋人!?う、ウソだろおおっ…………!?」

「あるわけないだろうっ!?」

アニエスへのからかいの指摘のオデットの言葉を本気で信じている男子生徒にアルベールは真剣な表情で否定していた。

「も、もう…………そんなのじゃないですからっ!」

「やれやれ…………ま、こっちはそろそろ行くぜ。――――――そんじゃ、バーゼルでな。どっちが先に着くかはわからんが。」

「はい…………!ヴァンさんたちもお気をつけて。」

そして車に乗り込んで出発したヴァン達を見送ったアニエス達は駅で列車を待ち、列車が来ると列車に乗り込み始めた。



~イーディス駅~



間もなく、オージェ州・バーゼル方面行き、長距離旅客列車が発車いたします。アルタイル市、クロスベル方面へのお客様は途中マルテ駅でのお乗り換えとなりますので…………





「長距離列車での旅なんて初めてで、今から楽しみですねっ、レジーニアさん…………!」

「あたしとしては飛行船で向かった方が時間を節約できて効率的だと思うのだが…………まあ、長距離列車はあたしも初体験だし、興味深い事は事実だね。」

「う~ん、楽しみだな~。両カルバード州最先端の工学都市だっけ?」

「ええ、タウンガイドによると”エアロトラム”っていうのもあって…………」

「そ、それよりもアニエス。さっきあの男と何を話して――――――」

「ほらほら、列車が出ちゃうわ。早く乗っちゃいなさい。」

アンリエットとレジーニア、そしてアニエスやオデット、アルベールがそれぞれ会話しているとレンが列車に早く乗るように促した。そしてそれぞれ列車に乗り込み、レンも列車に乗り込もうとしたが乗り込む際にある方向に視線を向けてウインクをし

(ふう…………完全に気づかれているみたいね。メンフィル皇族の”才媛”にして前メンフィル皇帝の”養女”―――――彼女がこの時期に北カルバード入りしたことは決して小さくない意味を持つはず。室長やキンケイド主任…………”現総督府”の思惑もまだわからない。だけど今は責務を果たすだけよ――――――閣下の理念を少しでも残せるように。)

レンが視線を向けた方向――――――アニエスやレン達が乗り込んだ同じ列車内のある席に座っているサングラスをかけた女性はレンの視線に気づいた後考え込み、そして決意の表情を浮かべた。その後列車は出発し、ヴァン達は車で、アニエス達は列車でそれぞれバーゼル市へと向かい始めた。



~車内~



「いや~、流石に8名はキツそうだが車中泊とかもできそうだなぁ。」

「だあっ、せめて靴を脱げ、靴を!シートが汚れんだろうが!

事務所のメンバーを乗せた車がバーゼル市に向かっている中車内ではアーロンが早速改造によって後部座席となった最後尾の後部座席に足を延ばして寛いでおり、アーロンの様子をバックミラーで見たヴァンは運転しながらアーロンに注意し、その様子にフェリ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ふう、でもやっぱりアニエスさんと一緒に乗りたかったです…………」

「ふふ、すぐ機会はあるでしょう。荷台は相応に狭くなりましたが専用端末が載せられて何よりでした。」

アニエスが一緒に乗っていない事に残念がっているフェリの様子を微笑ましそうに見つめながら指摘したリゼットは荷台に載せられている端末に視線を向けた。

「ああ…………やっぱりあの公太子、諸々見越して送り付けやがったな。お前らもああいう手合いには簡単に借りを作らないようにしとけよ?」

「ハッ。鼻歌交じりでカスタムしといて何言ってやがる。」

「うーん、ギルドとわたしたちを使い分けているのは気になりますが。それにしてもバーゼルですか。戦士団でも行ったことはありませんね。」

自分達へ忠告するヴァンにアーロンは鼻を鳴らし、シェリド公太子の事を思い返したフェリはこれから向かう目的地に興味を抱いていた。



「俺も仕事で何回か行ったくらいだな。カルバード南西”オージェ峡谷”の一角にある最先端の学術工業都市――――――中世から続いている大学と職人街とヴェルヌ中心の新市街にわかれている。」

「そのきっかけとなったのがおよそ半世紀前の”導力革命”…………エプスタイン博士の三高弟の一人が持ち帰った技術ですね。」

「あ…………確か中東系のL・ハミルトン博士っていう。」

ヴァンの説明を補足したリゼットの説明から出てきたある人物の名を聞いたフェリは自分が知っている知識を口にした。

「そういやバーゼルは”南”――――――メンフィルの総督府が置かれている都市でもあるんだろう?旧首都の総督府も軽く目にしてきたが、バーゼルの総督府も同じ感じなのか?」

「いや―――――そもそも南カルバード総督府は市内に設置していなく、バーゼルの郊外に設置されている。」

「え…………市内ではなく、郊外に総督府が設置されているんですか?」

アーロンの疑問に答えたヴァンの説明を聞いたフェリは目を丸くして疑問を口にした。



「ああ。理由は色々とあるそうだが、南カルバード総督府はオージェ峡谷の一角に建設されたメンフィル帝国軍による要塞――――――”オージェ要塞”の役割も兼ねているから、”北”の総督府と違い、どちらかというと軍事拠点としての意味合いが強い。」

「要塞の役割も兼ねている総督府ですか…………という事はもしかして、”南カルバード総督”も軍人の方なのですか?」

ヴァンの話を聞いて真剣な表情を浮かべたフェリはあることが気になり、疑問を口にした。

「はい。サフィナ・L・マーシルン総督――――――メンフィル帝国軍の”竜騎士”達による騎士団――――――”竜騎士軍団”の長であり、メンフィル帝国の皇家――――――”マーシルン家”の分家の元当主でもあった女性の総督です。」

「”竜騎士”…………お父さん(アブ)や里の戦士達からも聞いた事があります。”竜”を駆り、空を縦横無尽に駆けて戦える事で空の戦いで竜騎士達に敵う存在はいない事から”空の王者”と呼ばれていると。」

「俺もそいつの噂は聞いているぜ。確か3年前の”大戦”にも参加したらしいじゃねぇか。何でも見た目は若いが、実は婆の年齢って話だろ?」

「お前な…………そんな機会はないと思うが間違っても総督自身もそうだが総督府の関係者の前で、絶対にそんなヤバイ発言はするなよ…………」

リゼットの話を聞いたフェリは真剣な表情を浮かべ、フェリと共に真剣な表情で呟いたアーロンは口元に笑みを浮かべてある話を口にし、その話を聞いたヴァンは冷や汗をかいた後呆れた表情でアーロンに注意した。

「そもそもサフィナ総督閣下の父君――――――リウイ前皇帝陛下は異種族の方であり、異種族やその血を引く方達は私達”人間”よりも遥かに長寿で老化も緩やかであることで、人間でいえば高齢に当たる年齢でも異種族からすれば若い年齢に当たり、また容姿も若々しいとの事ですから、私達”人間”の感覚で異種族の方達を評するのは早計かと。」

「あー、そういや姉貴も長く生きていたから一々自分の年齢を数えるような面倒なことはしていないが、それでもあんな若い見た目で数百…………いや、数千年以上は生きているかもしれない婆だって話を聞いたことがあるな。」

(…………あらあら。今回の件が終わったらじっくりと時間をかけた”お話”が必要のようね、アーロンには…………)

(あらら、懲りないわね~、アーロンも。)

リゼットの話の後にあることを思い出して呟いたアーロンの話を聞いて驚愕の事実を知ったヴァン達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アーロンの身体の中で膨大な威圧を纏って微笑んでいるマルティーナの様子をユエファは苦笑しながら見守っていた。



「お前な…………後でどうなっても知らねぇぞ。」

「あはは………えと、それよりも南カルバード総督も”マーシルン”という事は、アニエスさんの先輩であるあの生徒会長さんとは同じ一族同士として親しいのでしょうか?」

マルティーナがアーロンの身体の中でアーロンが自分を”婆”呼ばわりしている事を聞いている事に気づいていたヴァンが呆れた表情でアーロンに指摘した後苦笑したフェリはある疑問を口にし

「さてな………前にも説明したがメンフィルの皇家は十数家の分家が存在している事で一族の人数も他国と比べれば相当な人数で、その分家は”本国”側――――――メンフィル帝国が擁する異世界(ディル=リフィーナ)の広大な領土の領主としての役目を務めているとのことだから、”本家”に近い立場であるあの仔猫と”分家”の元当主である南カルバード総督が親しいかどうかまではわからねぇが…………さすがに総督に面会する為の”繋ぎ”は可能だと思うぜ。………まあ、この間サルバッドの公太子に目をつけられたばかりなんだからできれば南カルバード総督みたいなメンフィルの権力者との面会なんざ遠慮したい所だがな。」

フェリの疑問に対してヴァンは真剣な表情で考え込みながら呟いた後苦笑を浮かべた。



~列車内~



一方その頃アニエス達はハミルトン博士についての復習をしていた。

「当時は反移民主義的な風潮もそこまで強くは無かったみたいで…………ハミルトン博士の提案は、理科大学と職人街にすぐに受け入れられたそうです。

「そして理科大学と職人組合の産学共同で45年前に”ヴェルヌ社”が創業――――――他国とは違うアプローチで導力技術を発展させてきたわけだな。」

「そういえば”導力車”を作ったのもヴェルヌが最初なんだよね。その後、関連企業として導力車の四大ライセンシーも立ち上がったし。」

「ふふ…………ちなみに導力鉄道はエレボニア、飛行船はリベールが最初になるわね。歴史や背景も含めて紐解いていくと中々考察しがいのあるテーマかしら。」

「なるほど、レポートの参考にします。」

「そこから導力技術は映画の発展にも繋がっていくんだねぇ…………!」

「フン…………テーマとしてはありきたりすぎじゃないのか?」

「もう、水を差さないの。」

「ふむふむ…………どれも興味深いね。」

「あはは………勉強になりますけど、レポートが大変になりそうですね。わたしも置いていかれないようにしないと…………!」

アニエス達のハミルトン博士についての復習の会話を聞いていた他の生徒達がそれぞれ聞いている中レジーニアは真剣な様子でメモを続け、レジーニアの言葉に苦笑しながら答えたアンリエットはすぐに真剣な表情になってメモをしていた。

(フフ、学生って感じね。私もあれくらいの頃は…………――――――って私もまだ21!まだまだ負けてられないわね…………!)

一方アニエス達の会話を近くの席で聞いていた女性は自分の昔を思い浮べて微笑ましげにしていたが、すぐに自分の年齢を思い出して我に返った。



~車内~



「その意味では、3年前の”大戦”も新たな技術の転換点(ターニングポイント)だったろうな。各国の技術戦争は最大限まで高まり、エレボニアに至っては”人型兵器”まで生み出し、メンフィルとクロスベルに至っては導力技術と異世界特有の技術――――――”魔導”を組み合わせた兵器を生み出した。」

「ああ、エレボニアのは”機甲兵”っつう甲冑みてぇなデカブツで、メンフィルとクロスベルはいくつかあるが一番目立っていたのは”歪竜”っつう竜の姿をしたデカブツだったな。」

「はい…………どちらもわたしも一度見ましたけどホント驚いちゃいました。」

「戦争は技術を進化させ、技術また戦争を進化させる…………かつてエレボニアに侵略されたリベールが軍用飛行艇を生み出したのも同じですね。」

ヴァンの話を聞いたアーロンとフェリがそれぞれ心当たりを思い出している中、リゼットは静かな表情で実際の話を口にした。

「ま、いずれにせよカルバードがエレボニアに先端技術で一歩遅れてたのは確かだろ。あくまで3年前までは、だろうが。」

「エレボニアへの対抗心もそうだが大戦後の”中央”による援助金、カルバードをクロスベル帝国と共に滅ぼしたメンフィル帝国が筆頭株主になったことによる重圧が技術革新を加速したのは間違いねぇ。俺達が使う”ザイファ”―――――カルバード両州全土に広まる”導力ネット”。噂じゃ北・南のカルバード両州軍もそうだが、”中央”や”本国”の軍も兵器の大規模な”世代交代”を進めているらしい。それを強力に推し進めているのが――――――」

アーロンの言葉に続くように話を続けたヴァンはある人物の名前を口にしようとした。



~列車内~



「―――ロイ・グラムハート総督!我らがイケオジガバナーってわけだな!」

「ふふっ、なにその呼び方。でもスクリーン映えしそうだよね~。」

「エレボニアの総督程ではありませんが、エレボニアでも名が知れ渡っていますね…………エレボニアの総督と違って色んな意味で、ですけど。」

「…………そうでしょうね。」

「「……………………」」

ヴァンが口にしようとした人物の名前を口にした生徒達が盛り上がっている中エレボニアからの留学生――――――ユリアンは意味深な様子でその人物の事を口にし、エレボニアからの留学生の言葉にアニエスが同意している中レジーニアは静かな表情で、アンリエットは複雑そうな表情でアニエスを見つめていた。

「ま、まあそれだけ国際的にも重要な役割を果たしてるって事で。」

「クロスベル帝国による併合後の難しい情勢下で立派に舵取りをしているんじゃないか?」

(フフ…………)

アニエスの内心を察していたオデットとアルベールはある人物についての話を終わらせようとし、その様子をレンは微笑ましそうに見守っていた。

「というかさすがにエレボニアの総督を比較対象にするのはどうかと思うぜ?」

「何といっても当時17歳という若さで3年前の大戦を終結に導いて世界を救った”現代のゼムリアの大英雄”様だもんね~。しかもすっごいイケメンで”剣聖”って二つ名で呼ばれている程剣の腕も凄腕って事でしょ?おまけに”総督”を務められる程政治能力も高いんだから、まさに天から二物どころか、万物を与えてもらっている”超人”みたいな人だもんね~。」

「…………確かにエレボニア総督には英雄的な部分の印象が強いし、エレボニアの王家や政府と良好な関係を築いて敗戦後のエレボニアを上手く治めている上、エレボニア総督が3年前の大戦での活躍の件で”本国”――――――メンフィル帝国から信頼されているからこそ大戦で敗戦し、メンフィル帝国に”保護”される立場になったエレボニアへのメンフィル帝国からの干渉がほとんどない事はエレボニア人として尊敬していますし、感謝もしていますが、だからと言って”好色皇”という二つ名で呼ばれている程のクロスベル双皇帝の片翼のように”好色家”な部分があることに関してはさすがにどうかと思いますけどね。」

「そういえばエレボニア総督――――――リィン・シュバルツァー総督って十数人の”婚約者”がいて、その中にはエレボニアのお姫様のアルフィン王女殿下も含まれてい上そのアルフィン王女殿下はシュバルツァー総督お付きの侍女としてシュバルツァー総督にお仕えしているんだっけ。」

「やっぱりエレボニア人としては、祖国の”至宝”とまで称えられた姫君が祖国を敗戦させた敵国の英雄が侍らす女性の一人になったことは複雑なんですか?」

一方リィンの話に移るとオデットは興味ありげな表情を浮かべ、アルベールは心配そうな表情でリィンについて何か思う所がある様子で答えたユリアンに訊ねた。



「別にそこまでは思っていません。”大戦”の件は、シュバルツァー総督が開戦前から敗戦が明らかだったエレボニアを救う為に大戦で連合側として活躍したからこそ、そんなシュバルツァー総督に配慮したメンフィル・クロスベル連合がエレボニアによる連合への賠償は常識では考えられないくらい穏便な内容に変更したとの事ですし、王女殿下の件にしても、王女殿下ご自身が内戦時にシュバルツァー総督から受けた恩を返す為やシュバルツァー総督と同じ目的――――――エレボニアを救う為もありますが、オズボーン元宰相の野心によって暴走したエレボニアを止めるためにシュバルツァー総督と共に連合側として従軍なされたとの事ですし、そもそも王女殿下ご自身が内戦時からシュバルツァー総督への秘めた想いを抱いていたとの事ですから、お二人が結ばれることについては特に思う所はありません。前置きが長くなりましたが、要するに僕が言いたいのはシュバルツァー総督には伴侶が多すぎるという事です。”英雄色を好む”という諺が昔からありますし、僕も貴族の子息ですから貴族の子息でもあり、将来”公爵”の爵位を授けられる事が約束されている事で大貴族の当主に就任することが決まっているシュバルツァー総督が複数の伴侶を迎える事については理解できますが、幾ら何でも14人は多過ぎるという事を言いたいんです!」

「(ふふっ、”情報局”もそうだけどメンフィルの諜報部隊や”斑鳩”によるエレボニア人のリィンさんについての印象の”情報操作”が上手くいっている様子で何よりね。)――――――その情報、古いわよ。最近私が知った話だと、シュバルツァー総督は婚約者を更に3人増やしたそうよ?」

ユリアンの話を聞いて苦笑を浮かべたレンは小悪魔な笑みを浮かべてある情報を口にし

「あはは…………」

「ええっ!?という事は婚約者が17人って事になるじゃないっすか!ただでさえ多いハーレムを更に増やすとか、マジで羨ましい~!」

「そういえばレジーニアとアンリエットもレン先輩と同じメンフィル帝国からの留学生だったよね?という事はもしかして、レン先輩の話にあったシュバルツァー総督の新たな婚約者の人達についても知っているの!?」

「ひゃいっ!?え、えっと、えっと、それは…………」

「君は狼狽え過ぎだよ。――――――確かに知ってはいるけど、あたしとアンリエットが話に出た”大英雄”殿の新たな伴侶について知っている知識はヘイワーズとそれ程変わらないよ。」

レンが口にした情報を知っているアニエスが苦笑している中男子生徒の一人が驚きの表情で声を上げ、オデットは興味津々な様子でレジーニアとアンリエットに訊ね、オデットに訊ねられたアンリエットは思わず驚きの表情で声を上げた後必死に答えを濁し、その様子を苦笑しながら見つめて指摘したレジーニアは落ち着いた様子で答えた。

(…………確かに現総督府はこの上なく上手くやっている。……でも、それは――――――)

生徒達がリィンの話について盛り上がっている中、女性は現北カルバード政権の方針によって発生している問題点について考え込んでいた。



~車内~



「いずれにせよ、大規模な資金流入や情勢変化は”歪み”として現れやすい。今回起きてるっつう”何か”に関係があるかはわからねぇが――――――」

車内では女性が考えている問題点についてヴァンが口にし

「鼻は利かせておけっ、ですね?」

「小娘の遺産の”反応”もある。んなことは端からわかってるんだよ。」

「ザイファを始めとする、様々な重要プロジェクトに関する動向――――――アルマータ以外の各種勢力の兆候も”嗅ぎ分け”られるよう致しましょう。」

フェリやアーロン、リゼットはそれぞれヴァンが言葉にしようとした続きを口にした。

「はいっ、アニエスさんも一緒に!」

「ったく…………――――――ああ、それでいい。」

助手達の物分かりの良さにヴァンは苦笑を浮かべていた。



その後ある程度進むとヴァンは運転手を交代し、運転手はリゼットが務めていた。



「うーん、リゼットさんの運転はまさに正確無比って感じですねっ。さっきから必要最低限の動きで”流れ”を掴んでいる気がします。」

「ライン取りな。マルティーナも安定した運転だが、お前さんのはマルティーナ以上にライン取りも完璧で見事なモンだぜ。」

「ふふっ、恐れ入ります。」

フェリとヴァンの感想にリゼットは静かな笑みを浮かべて答えながら運転をしていた。

「ハッ、さすが国際免許なんてスカしたモン持ってるじゃねえか。ま、俺が5だとしたらアンタと姉貴にはそれぞれ2ずつくらいは運転を任せてもいいぜ?」

「ああ、そんくらいは…………――――って俺が1かよ!?」

アーロンの感想や今後の運転の比率に頷きかけたヴァンだったがすぐに自分の比率が最も低い事に気づくと声を上げて突っ込んだ。

「所長なんだからドンと構えとけって。…………クククッ、ご自慢の愛車、若いテクで存分に()かせてやるからよ。」

「て、てめぇ…………力任せのテクで俺の相棒を満足させられるとでも――――――」

「アーロン様、ヴァン様もフェリ様がいるのでそのくらいで。」

「…………?(そういえばアニエスさんは今頃どのあたりかな…………?」

下品な会話をし始めたアーロンとヴァンへのリゼットの注意の意味が理解できないフェリは首を傾げた後アニエスの事を考えていた。





~列車内~



列車内では長距離の移動で疲れたのか大半の生徒達が眠っている中、アニエスが曾祖父が残した日記を読んでいると眼鏡をかけて何かの書物を読んでいたレンがアニエスに声をかけてきた。

「――――――曾お祖父さんの遺したものだったかしら?研修にも持ってくるなんて、肌身離さずって感じね。」

「大切な物ですから…………?これがあったから、今の私がいる…………そう言っても過言じゃありません。…………最近は考えさせられるような事も多くなっちゃっていますけど…………」

「…………ま、いいんじゃない?少なくとも”後悔”だけはしていないみたいだし。」

「…………はい。それは間違いありません。”決めるのはお前だ”って言ってくれた人もいますから。…………悼ましいこともありましたが、多くの繋がりを得て世界が広がりました。私を育んできたカルバードという故郷を様々な角度から識ることもできて…………今、”この国を動かしているあの人”にどう向き合うか――――――少し見えてきました。」

レンの指摘に頷いたアニエスは今までヴァン達と共に関わってきた”裏解決業務”を思い返した後、ある人物について思い浮かべた。

「…………ふう、隠す気ないのかしら?この子たちとだけの秘密なんじゃなかったの?」

一方アニエスの言葉に出てきたある人物が誰の事を指しているのかに気づいていたレンは呆れた表情で眠っているオデットとアルベールを見つめながらアニエスに指摘した。

「あはは、そうですね。でも――――――先輩にならって不思議と思えてしまって。というか先日の件で先輩の”正体”を知った後に気づきましたけど、そもそも先輩は”私の父親が誰なのかを私と初めてお会いした時点で知っていたのじゃないですか?”」

「…………ええ、それについては否定しないわ。一応念の為に言っておくけど、”その件”が理由で貴女と仲良くなったわけではないわよ?こう見えても”立場”と”プライベート”は使い分けるようにしているもの。」

アニエスの指摘に対して静かな表情で答えたレンはアニエスにある念押しをした。

「ふふっ、そのくらい言われなくてもわかっていますよ。4月に初めてお会いしたのにいつもいつも良くしてくれて…………ヴァンさんの所を訊ねるきっかけもいただきました。あ…………それであの時、導力ネットで事務所のことを?」

「クスクス、そういうこと。ちなみに彼とは3年前に”依頼”で知り合って、その数ヶ月後の”とある人物”の提案によって開かれた”親睦会”で会ったきりでね。春に私が北カルバードに留学に来たことも知らなかったくらいだから安心なさいな。」

「べ、別に…………でも、それじゃあどうして腕を…………」

レンの話を聞いたアニエスは答えを誤魔化した後複雑そうな表情で出発前の出来事を思い返した。



「その反応が見たかったから♪」

「!も、もう…………」

レンのウインクによって自分はからかわれた事に気づくと溜息を吐いた。

「…………でも、ちょっと嬉しいです。多分…………その時にヴァンさんに凄く良くしてもらったんですよね?」

「え…………」

アニエスをからかっていたレンだったがアニエスの口から出た意外な問いかけに呆けた表情を浮かべ

「だからこそ私にも”紹介”してくださったんでしょう?先輩がいつも私達のことを考えてくれているのは知っていますし。よっぽど信頼に足る人じゃないと近づけたりはしないでしょうから。」

「えっと…………(何か盛大な勘違いをされているみたいだけど…………ま、そっちの方が面白そうね♪)…………ふふっ、それに関してはご想像にお任せするわ。私が出会ったのは裏解決屋を始めたばかりの頃で…………ぶっきらぼうで、実力が足りてなくて…………でも、必死に足掻いて私の依頼を成功させてくれた。」

アニエスの指摘を聞いたレンは冷や汗をかいて困った表情を浮かべたがすぐに気にせず話を続けた。

「そう、だったんですか…………ふふっ、ヴァンさんは昔からヴァンさんなんですね。それに先輩も…………」

「…………北カルバードに留学して、貴女たちと知り合って――――――何の因果か生徒会長を引き受けてこうして視察研修を引率したりして。不思議なものね、”縁”っていうのは。」

「はい…………」

「ああ、そういえばあの人、甘い物好きは変わっていないの?私の依頼を請けていた頃も、街に出る機会があれば必ず甘い物をたくさん買っていたようだけど。後車にもやたらうるさかったようだけど…………」

「ふふ…………なんだか、昔より悪化してるみたいですね。よく知る方の言葉によれば、ですけど。」

「ああ、噂の”A級”さんね。何やら只ならぬ関係みたいじゃない?実際そこの所はどうなの?うふふ、気になっているんでしょう?」

「そ、そんなことは…………えっと、ある程度は…………」

(”ある程度”どころか、”相当”でしょうが…………)

意味ありげな笑みを浮かべたレンにからかわれたアニエスがレンから視線を外して複雑そうな表情で答えている中”天使”の為、アニエスの”本心”にも気づいているメイヴィスレインは呆れた表情で溜息を吐いた。

(うーん、起きそびれちゃったわね。レン先輩の話も気になるけど…………なんか後れを取ったみたいだし、あたし達も精々アニエスのバックアップをしますか…………!)

(フン…………あのバイトを認められるわけじゃないけどな。…………今回は同じ場所にいるんだ、友人として目を光らせてやるさ――――――)

一方既に目覚めていたオデットとアルベールはそれぞれ目を閉じながら小声でアニエスに関する会話をしていた。



その後列車と車、それぞれバーゼルに到着しようとしていた。



――――――次は終点、メンフィル帝国領オージェ州バーゼル駅です。どなた様もお荷物をお忘れになりませんよう…………



「あ――――――」

「ふふっ、ようやくね。」

列車内に聞こえてきたアナウンスを耳にしたアニエスとレンはそれぞれ天井を見上げた。



~車内~



「――――――そろそろだな。」

「おっ…………」

「出口ですね。」

一方トンネル内を走っていたヴァン達の車もトンネルを抜けてバーゼルの近郊を走っていた。



13:05――――――



「わぁ…………!ヴァンさん、これが…………!」

「オイオイ…………こうなってんのかよ。」

「左手が新市街、右奥に見えるのが伝統的な職人街ですか…………」

「ああ――――――で上にあるのがバーゼル理科大学ってわけだ。このままぐるって回ってヴェルヌ本社前の駐車場に止める。早速CEOとご対面と行くぞ。」

バーゼルに到着したヴァン達の車がヴェルヌ本社に向かっていたその頃、駅から出てきたレン達はそれぞれ駅から見える周囲の景色を見回していた。



~バーゼル駅前~



「凄いな…………峡谷地帯の真ん中にこんな街があるなんて。」

「そこのビルが”ヴェルヌ社”かぁ、さすがメチャクチャ大きいわね~!」

「そうかい?あたしは”ラインフォルト社”の本社ビルを目にした事があるが、アレと比べると規模は小さいよ?」

「あ、あの~、レジーニアさん。そういう事はせめて小声で口にすべきだと思うのですが…………」

アルベールが周囲の景色に興味を抱いている中”ヴェルヌ社”の本社ビルを見つめてはしゃいでいるオデットに首を傾げて指摘したレジーニアの指摘にその場にいる多くの者たちが冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アンリエットは冷や汗をかきながらレジーニアに指摘した。

「へ~、”ラインフォルト社”の本社ビルを見た事があるってことはレジーニアは元エレボニア王国領の”ルーレ市”にも訪れた事があるんだね~。後で”ルーレ市”の話とかも聞かせてね~。あ、それよりももしかして向こうに見えてるのが”エアロトラム”ってヤツ?」

一方レジーニアの話を興味ありげな様子で聞いていたオデットの興味は市内の数ヵ所で動いているロープウェーのような乗り物に向けられていた。

「なるほど…………王都のドラムと全然違いますね。」

「バネぇわバーゼル、マジリスペクトだぜ!」

生徒達がバーゼルの様々な部分に興味を抱いたり興奮している中アニエスの視線はふと自分達の近くにある建物へと向けられた。



(これは…………導力車の展示場なのかな?うーん、ヴァンさんが見たら入り浸っちゃいそうな気が…………)

(その意見に関しては同感ですね。)

建物を見つめながらある予想をして苦笑しているアニエスの推測にメイヴィスレインは呆れた表情で同意した。

「はいはい、それじゃあホテルのチェックインに行くよ。」

「荷物を置いたらヴェルヌ社にご挨拶に伺いましょう。」

そして引率の生徒とレンの指示によってアニエス達がヴェルヌ社に向かっている間に市内に入ったヴァン達の車はヴェルヌ社の駐車場に駐車した後ヴァン達はそれぞれ車から出てきて周囲を見回していた。



~ヴェルヌ社前~



「なるほど…………区画整備された”実験都市”って感じだな。」

「そちらがヴェルヌ社ですか…………!旧首都のビルよりも大きいですねぇ。ちなみにそちらがアラミスの方々が泊まられるホテルのようですね。」

「ふふ、カルバード両州最大の企業ですから。」

アーロンが興味ありげな様子で周囲を見回している中ヴェルヌ社のビルを見つめてはしゃいでいるフェリを微笑ましそうに見つめているリゼットが説明した後近くにあるホテルへと視線を向けて更なる説明をした。

「あ…………そっか、今回は泊まる場所は別々なんですね。」

「ハン…………俺達は例によって職人街の方の宿だったか。」

「……………………」

「ヴァンさん?」

「あん………?”モーターパピリオン”―――――導力車の展示場かなんかか?ったくガキかっつーの。」

(貴方も他人の事は言えないでしょうが…………)

(ふふっ、男はいくつになっても子供っぽい所があるから仕方ないわよ♪)

真剣な表情で黙ってある建物を見つめているヴァンが気になったフェリが不思議がっている中ヴァンが見つめている建物の看板に書かれている字を読んだ後ヴァンが真剣な表情で建物を見つめていた事情を察したアーロンは呆れた様子でヴァンに指摘し、その様子を見守っていたマルティーナは呆れた表情で溜息を吐き、ユエファは苦笑していた。

「ま、なかなかアガる施設だぜ?後で連れて行ってやるよ。そんじゃ、中に入るとすっか。」

そしてヴァン達がヴェルヌ社へと向かい始めるとその様子をヴァンが視線を向けていた場所にいた女性が見つめていた。

(…………本当に鼻が利くわね。主任の関係者なら納得だけど。まあいいわ、こちらはこちらで早速動かせてもらいましょう。)

その後社内に入ったヴァン達は受付に事情を説明した後受付に指示をされた場所へと向かった――――――

 
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