金木犀の許嫁
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第四十話 昔の忍者その八
「私今も有名なんはな」
「はい、俺達も知っています」
佐京は真面目な顔で答えた。
「作品も残っています」
「すぐに忘れられると思ってたわ」
「まさか」
「まさかやない、ほんまな」
織田は少し真面目な顔で佐京に話した、その真面目さに彼が本気で思っていることがそのまま出ていた。
「私みたいな作家はな」
「忘れられていましたか」
「そうなると思ってたわ」
「お亡くなりになって」
「ああ、しかし死んで八十年近く経っても」
それでもというのだ。
「作品読まれて名前も知られてるな」
「通っておられたお店も」
「それがな」
どうにもというのだ。
「嬉しいけれどまさかや」
「そう思っておられますか」
「ああ、まだ皆覚えてくれてるなんてな」
それはというのだ。
「まさかや、けどほんま嬉しいわ」
「そうですか」
「ああ、このままずっと覚えてくれて」
そうしてというのだ。
「お店や歩いた場所巡ってくれたら」
「嬉しいですか」
「ほんまな」
微笑んで話した。
「これからもな」
「そうですか」
「ああ、やっぱり覚えてもらってるってな」
このことはというのだ。
「誰かてや」
「嬉しいですか」
「そや」
まさにというのだ。
「文字通り冥利に尽きるわ」
「そうなんですね」
「そんなな、私なんてちっぽけなもんやで」
織田は笑ってこうも言った。
「大阪の片隅で書いてた」
「小説家ですか」
「しがないな」
笑っての言葉だった。
「そうでしかないのにな」
「覚えてもらっていて」
「八十年近くな」
「これからもです」
夜空は少し顔を前に出して織田に話した。
「織田作さんは」
「覚えてもらってるか」
「自由軒も夫婦善哉もあって」
彼が通っていた店達もというのだ。
「生國魂神社に銅像もあって口縄坂に碑文もあって」
「それでやな」
「漫画やゲームにも出ています」
「文豪のか」
「ストレイドッグスやアルケミストですね」
「私も出てやな」
「知られているので」
だからだというのだ。
「本当にです」
「これからもか」
「織田作さんは皆覚えています」
「そやねんな」
「忘れないです」
夜空は確かな声で話した。
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