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アナーキズム

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第三章

「一体」
「ですから危険ですよ」
「危険なんてあるか、あるのは完全な自由や」 
 政府も法律もお金もない、縛るものが全くないとだ。こう言ってだった。
 木与波羅はその地域に意気揚々と移住した、周りは誰もが必死に止めたが話は聞かなかった。そうしてだった。
「そうか、あそこに行ってすぐにか」
「暴漢に襲われて身ぐるみ剥されてです」
 鍬田に二人の共通の知人が話した。
「それで、です」
「その後で殺されたんだな」
「死体は野ざらしで」
 そうなってていうのだ。
「あそこがようやく落ち着いて多くの遺体を回収しまして」
「遺体のDNA鑑定をするとか」
「わかりました」
 その時にというのだ。
「わかりました」
「そうですか」
「はい、そして」
 それにというのだ。
「この前遺骨が遺族に渡されて」
「葬式は僕も出たよ」
 鍬田は苦い顔で答えた。
「遺族の人達は皆馬鹿だったと言っていたよ」
「そうでしたか」
「僕もそう思うよ」
 鍬田自身もというのだ。
「本当にね」
「そうですか」
「政府や法律がなくてね」
 そうでなければというのだ。
「誰が弱い人を守って悪人を裁くのか」
「警察や軍隊もないとですね」
「治安を守るのか。福祉や教育だってね」
「必要ですね」
「完全な自由じゃないよ」
 無政府主義はというのだ。
「もうならず者が好き放題やる」
「そうした社会ですね」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「最悪の社会だよ」
「あの地域がそうだった様に」
「それこそ命なんてね」
 それはというと。
「塵芥だよ」
「それに等しいですね」
「彼はそれがわからなかった、だからね」
 それでというのだ。
「死んだんだ」
「そうなったのですね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのだった。
「僕も馬鹿だとしか言えないよ」
「あの人は」
「そうだよ、じゃあ行って来るよ」 
 鍬田は知人に告げた。 
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