高級軽トラ
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第二章
「フェラーリあるかい?」
「フェラーリですか」
「そちらですか」
「テスタロッサな」
笑顔で言うのだった。
「あるかい?」
「はい、こちらに」
「どうぞ」
二人は客に冷静に応えた、そうしてだった。
そのフェラーリを紹介して商談を進めた、老人は上機嫌でその商談に頷いて快諾さえした。その後で。
軽トラに乗って帰った、だが。
その軽トラを見てだ、麻衣は久美子に言った。
「あの軽トラ只の軽トラじゃないわ」
「そうなんですか」
「全部特注、一から造ってもらったね」
「オリジナルですか」
「だから他の軽トラとは全く違うわ」
そうだというのだ。
「性能がね」
「そうなんですね」
「あんな車を持っているなんて」
それこそというのだ。
「かなりのお金持ちね」
「そうですか」
「きっとね」
こう言うのだった、そして。
後日だ、二人は店長からその客の話を聞いて頷いた。
「山幾つも持っていてね」
「林檎園に椎茸に」
「それに木材も売ってね」
「田んぼも畑も広い」
「そんな人だったのね」
「大地主さんでもありますね」
「だからフェラーリ買って」
そうしてというのだ。
「軽トラもね」
「特注の凄いものですね」
「ええ、私前に軽トラで来てもって言ったけれど」
「お客様を車で判断するなと」
「流石にああした軽トラを持つ人ははじめてよ」
「そうなんですね」
「お金持ちは違うわ」
心からだ、久美子に言った。
「軽トラもね」
「そうですね」
「軽トラで来たと言っても」
「そうした意味でも馬鹿にしたら駄目ですね」
「ええ、本当にね」
二人で話した、そうしてだった。
それからも働いていった、二人共客を車や他のことで差別することはなかった。そうして働いていき真面目だと評価された。
高級軽トラ 完
2024・10・25
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