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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第55話

業務をいくつかこなしたヴァン達は最後に駅前通りに立ち寄り――――――いくつかの細々とした備品を購入し、事務所に戻ることになったが…………



15:30――――――



~駅前通り~



「――――――ちょいと早いが今日の業務はこれで終わりだ。それぞれ事務所に戻るもよし、アニエスはもう帰ってもいいぞ?」

「え…………」

「ハン…………?さっきの”不動”のか?」

ヴァンの指示にアニエスが呆けている中、ヴァンが独自で動こうとしている心当たりがあるアーロンは探るような視線でヴァンに訊ねた。

「ま、大した用じゃないさ。リゼット――――――試用期間も終わりだ。いつまでかわからんがよろしく頼むぜ。」

「はい、こちらこそ備品は運んでおきますので。」

「頼んだ――――――そんじゃあお前らもあんまり遅くならずに帰れよ?」

アニエス達に指示を出したヴァンはその場から立ち去り

「あ…………」

「ハン…………気に食わねぇな。!ハッ、こうなりゃヤツの後をつけてみるか。」

立ち去る様子のヴァンをアニエスが呆けた様子で見つめている中、鼻を鳴らしたアーロンはあることを思いついた。

「ええっ!?で、でもそんな事をしたら…………」

「カマトトぶってんじゃねえよ。…………オメーも気になるんだろ?」

「そ、それは…………でも…………あ、リゼットさんは反対ですよね?プライベートかもしれませんし…………」

アーロンの提案に驚いた後反対しようとしたアニエスだったがアーロンから図星を突かれると気まずそうな表情で答えを濁した後リゼットに確認した。

「いえ――――――…………少々個人的に気になっていた目的地のようです。どうやら先方の都合で、ヴァン様のプライベートでは無さそうですし…………――――何より”自分の時間”を取るよう勧められたので有意義に活用したいかと。」

「え、ええ~っ!?」

「決まりだな――――――そうなると追っては多いに越したことはねぇ。クク、チビや姉貴達にも連絡すっか。」

リゼットの予想外の答えにアニエスが驚いている中不敵な笑みを浮かべたアーロンはザイファを取り出してフェリ達に連絡をしながらヴァンの後を追い始めた。

「…………どうされます、アニエス様?」

アーロンの後を追おうとしたリゼットは立ち止まってアニエスに確認し

「ううっ…………な、仲間はずれはイヤですっ!」

(ハア…………)

確認されたアニエスは複雑そうな表情で自分もヴァンの後を追う事を決め、その様子を見守っていたメイヴィスレインは呆れた表情で溜息を吐いた。

「…………リゼットさんはもうちょっと大人な常識人だと思っていました…………」

「これでもまだ二十歳ですので…………至らぬところはご容赦ください。」

アニエスの指摘に対して笑顔で答えたリゼットはアニエスと共にヴァンの追跡を始めているアーロンの後を追い始めた。フェリ達と合流してヴァン達の尾行を始めたアニエス達だったが尾行に気づいていたヴァンはアニエス達の尾行を撒いてある場所へと向かった。



~areaーc~



時々すれ違うアウトローらしき人々とすれ違いながらヴァンが目的地に向かうとジンが壁に背中を預けて待機していた。

「…………おいおい。ガタイと肩書を考えろよ。」

そこにヴァンが呆れた表情でジンに声をかけて指摘した。

「よう、来たか。いきなり呼び出してすまんな。若いのにはどう説明してきたんだ?」

「あー、何とか誤魔化して振り切った。こういう連絡は事前に頼むぜ。好奇心の強いガキが多いんだからよ。」

「ワハハ、そんじゃあ次からはな。」

「ったく…………――――――で、結局何の用事なんだ。カモフラ程度ならエレインやクラウゼル、後はエルフィードでも事足りるんじゃねえか?」

ジンのマイペースに呆れた様子で溜息を吐いたヴァンは表情を引き締めてジンに用事を訪ねた後ある指摘をした。

「あいつらの腕なら心配はねぇが逆の意味で目立っちまいそうでなぁ。それに――――――”これから”会うヤツの事を考えるとお前さんの方が都合が良さそうだからな。」

「…………おいおい、まさか…………」

ジンの話を聞いて心当たりを察したヴァンは目を丸くした後真剣な表情でジンを見つめた。

「ハハ、一杯奢るからよ。とにかく入るとしようぜ。」

対するジンはいつもの調子で軽く笑った後ヴァンと共にどこかへと向かった。



~十三区・黒芒街~



「”黒芒街”―――――旧首都イーディスの吹き溜まり。昔からあったが、この2年で更に賑わいやがったな。」

「ああ、地図には載っていない”十三番目”の街区。地下に広がる治外法権地域にして、裏の住人のガス抜きの溜まり場…………お前さんとこの若いのにはちょいと刺激が強すぎるかもな。」

周囲を見回したヴァンの感想に頷いたジンはアニエス達を思い浮かべてヴァンに指摘した。

「…………ま、その内にとは思ってるさ。こういう商売をやる以上、知らねぇわけにはいかねぇからな。」

「そうか…………フフ、そんな気はしちゃいたがちゃんと保護者してるじゃないか?」

「うるせえな。…………で、どこに向かうんだ?」

ジンのからかい気味の指摘に若干気まずそうな表情で答えたヴァンはジンに目的地を訪ねた。

「ああ、とりあえずはそこらの飲み屋を覗いていくぞ。一応、気を付けとけよ?」

「ああ、わかってる。」

そして二人は時折襲い掛かってくる半グレ達を撃退しながら飲み屋を見て回っていると、ある人物達が顔を合わせて酒やジュースを飲んでいた。



「…………おいおい…………」

「すまん、待たせたようだな。」

飲み屋のある一角で集まってそれぞれ飲み物を飲んでいる混沌とした面々を目にしたヴァンが表情を引き攣らせている中ジンは全く動じない様子で声をかけた。

「やあヴァンさん、しばらく。”不動”殿もご無沙汰しています。」

「うふふ、さっきぶりね、ヴァンさん。ジンさんは数日ぶりくらいかしらね。」

「…………アークライドとは先日のサルバッド以来だな。」

チョウと私服姿のレン、そしてアリオスはそれぞれヴァンに視線を向けた。

「………ただの付き添いだ、付き添い。こんなロクでもねぇ集まりだとわかってたら、ハナから断ってたが。」

「あら、もしかして私までその”ロクでもない集まり”に含まれているのかしら。だとしたら心外ねぇ。」

「まあ、そう言うなよ。アリオス――――――4年ぶりだな。”キリングベア”同様”中央”との司法取引によって、”エースキラー”の一員としてカルバードで活動しているのは知ってたが。」

呆れた表情で呟いたヴァンにレンは心外そうな表情で指摘し、ジンは苦笑した後真剣な表情でアリオスを見つめて声をかけた。



「…………最後に話したのはヨアヒム・ギュンターによるクロスベル襲撃の数日前の共和国への出張からクロスベルに帰還する際の見送りの時だったな。…………大方イアン先生と共に4年前の事件を起こした俺の”真意”を知りたいといった所か。」

「まあ、それについても否定はできないが…………他のメンバーに任せる事なく、お前さん自らが姿を現してこんなにあっさり会えたってことは”そういう事”でいいんだな?」

アリオスの推測に答えたジンは真剣な表情でアリオスに確認した。

「ああ――――――お前たちが来る前にメンフィル帝国側の出席者であるレン皇女と共に”二代目白蘭竜”やそちらとも確認したが…………特に問題はない。それぞれにとって思惑はあれど、”奴ら”を滅したいという点に関しては一致している。」

「…………なるほどな。つまりは”情報交換”ってワケか。”アルマータ”を追う者同士としての。ここまでの面子とは思わなかったが――――――で、そっちのいかにもやりそうな御仁は?」

ジンとアリオスの会話を聞いて状況を察したヴァンは真剣な表情で推測を口にした後フードの男に視線を向けて正体を訊ねた。



「…………自分については居ないものとして扱って頂こう。偶然飲み屋で行き会わせた旅行者とでも思ってくれればいい。」

「いや、無理があんだろ…………その外套に、この集まりにいる時点で”どこ”関係かは絞れそうな気がするがね。」

フードの男に明らかに無理があり過ぎる嘘に呆れたヴァンは自身の推測で指摘し

「…………」

ヴァンの推測と指摘に対してフードの男は何も語らず黙り込んだ。そしてヴァンがジンと共に空いている席に座るとジンが話し始めた。

「…………実際、アルマータについては探りを入れることすらままならなくてな、先日も、内偵していた地方の遊撃士がいまだに戻らないって報告を受けている。」

「成程――――――煌都の事件以降、黒月(うち)も似たような状況でして。少し前に長老会に”見せしめ”の映像が送り付けられたこともありました。」

「”本国”の方は数日前に”映像じゃなくて生首”が送られてきたそうよ――――――それも、ロレント郊外の大使館のパパ――――――メンフィル大使宛てにね。」

ジンの報告に続くようにチョウとレンもそれぞれアルマータへの内偵が厳しい事を報告した。

「…………そうか。」

「チッ、加速してやがるな…………」

2人の報告を聞いたジンは重々しい様子で頷き、ヴァンは舌打ちをして厳しい表情を浮かべた。

「”エースキラー(おれたち)”の方はそういうのはないが、捜査によって奴らの事を理解する度に警戒度を上げている。――――――もはや奴らはかの”教団”を超える存在で、、必ず一人残らず全て滅しなければならないと俺達は認識して捜査している。」

「ハン、その”教団”を捜査した上、連中を壊滅させる襲撃作戦の”当事者”でもあるアンタが言うと洒落になっていねぇぞ。」

アリオスの話を聞いたヴァンは鼻を鳴らした後真剣な表情で呟いた。



「…………滅するというのの解釈はどうあれ、お互いのスタンスは確認できたか。そちらの御仁はノーコメントみたいだがGIDも独自に動いているようだ。まぁ、あちらさんの”バック”はイマイチ何を考えてるかわからんがなぁ。」

「ロックスミス総督の後釜――――――グラムハート総督か。色々と”黒い噂”は耳にしているが…………”ここを黙認してる”時点で、前総督同様話がわかる人物なのだろう。」

「ええ、ロックスミス閣下も清濁併せのむところはありましたが…………”当代”の方が融通が利いて歓迎されている長老方もおりますねぇ。まあその分――――――いえそれ以上に油断ならない交渉相手とも言えますが。」

「対して”中央”には忠実に従っているように見せて、決して自分の傍には”中央”の関係者達を置かせないようにしている上、”南”への干渉も続けている…………ホント、厄介な人物が北カルバード総督に就任したと思っているでしょうね、”中央”と”本国”の上層部の人達は。」

ジンの言葉に続くようにチョウとレンはある人物についての評価を口にした。

「ふう、俺達からすりゃあ組まれてる時点で大問題なんだがなぁ?」

2人の話を聞いたジンは溜息を吐いた後苦笑しながらチョウに視線を向けて指摘し

「いえいえ、あくまでそちらの規約には配慮させていただいていますので…………」

「って、人の頭越しに腹の探り合いしてんじゃねーよ…………情報交換はともかく俺がいる必要あんのか?」

指摘されたチョウは笑顔で答え、その様子を見守っていたヴァンは冷や汗をかいた後呆れた表情で疑問を口にした。



「ああ。ここからが”俺達”の本題の為、お前がいる必要がある、アークライド。」

ヴァンの疑問に答えたアリオスは立ち上がって全身に闘気を纏い

「…………!アリオス…………」

アリオスの行動に目を見開いたジンは真剣な表情でアリオスを見つめた。

「奴らを滅した後の俺の状況を考えれば恐らくもう2度とないであろう機会に、ちょうどいい場所――――――4年前の事件を起こし事もそうだが、何よりも遊撃士(おまえたち)を裏切った俺の”真意”を知るためにもお前の”泰斗”で聞き出すつもりだったのだろう?」

「………フフ、やはりお前さんには見抜かれていたか。」

アリオスの問いかけに対して不敵な笑みを浮かべて答えたジンもアリオスのように全身に闘気を纏って立ち上がった。

「って、アンタ予想してやがったな!?冗談じゃねえ、化物同士の立ち合いなんかに――――――」

2人の様子を見たヴァンは表情を引き攣らせてジンの頼みを断ろうとしたが

「うふふ、そうなると流れ的に考えてヴァンさんと”二代目白蘭竜”さんも付き合ってあげたら?貴方達殿方にとってお得意の”交流”でしょう?お互いのことをわかり合う為の。」

「おいっ、どういう流れでそうなるんだよっ!?」

「フフ、達人同士の立ち合いに水を差すのも気が引けますが――――――”不動”殿にヴァンさんの手並みを拝見できるのなら仕方ありませんねぇ。」

レンの提案に表情を引き攣らせて声を上げ、チョウは静かな笑みを浮かべて呟いた後立ち上がってレンの提案に載る事を口にし

「って、オイ!?」

チョウの答えにヴァンは再び表情を引き攣らせて声を上げた。



「すまんなアークライド…………”そういうわけ”で付き合ってくれ。俺とコイツだけじゃタガが外れて周りにどれだけ被害を出すか判らんからな。」

「ッ…………~~~っこの熊野郎…………!!」

ジンの言葉に唇を噛み締めたヴァンは仕方なくレンの提案に載る事を決め、ジンと共にアリオスとチョウと対峙した。

「立ち合いは自分が引き受けよう。方々、存分にやり合われるがよい。」

「クスクス、見た目の割にはなかなかがノリがいいオジさんね♪」

「そんなにノリがいいんだったら、俺の代わりに入れよ!?」

「フフ…………それはまたの機会という事で。」

立ち合いを申し出たフードの男にレンはおかしそうに笑いながら、ヴァンは疲れた表情でそれぞれ指摘し、その様子をチョウは面白そうに見守りながら呟いた。

「「はあああああああっっ…………いざ――――――尋常に勝負!!」」

そして互いに力を溜めたジンとアリオスは宣言をした後戦闘を開始した。ジンとアリオスの立ち合いは凄まじく、二人と比べればヴァンとチョウの立ち合いは児戯のように見える程だった。



「また腕を上げたようだな。準S級…………何故受けない?」

「現役時、S級を断り続けたお前さんにだけは言われる筋合いはないが…………まだ足りんというだけさ…………お前さんをここで止められれば少しは自信がつくというものだがな…………!」

アリオスの問いかけに対して答えたジンは不敵な笑みを浮かべ

「――――――なるほど。ロイド達に続いて、お前も俺を自分の成長の”踏み台”にするという事か。ロイド達が俺という”壁”を超えたように、お前も”壁”を超えられるかその身で試してみるがいい!」

対するアリオスは静かな笑みを浮かべて呟いた後ジンに太刀を向けて宣言し、更に全身に凄まじい闘気を纏い、ジンもアリオスのように全身に凄まじい闘気を纏い始めた。すると二人の凄まじい闘気によって地鳴りが起こり始めた。

「ちょ、まてやオッサン共…………!?」

その様子を見ていたヴァンは表情を引き攣らせて制止の声を上げ

「おいおい…………これって…………」

「…………な、なんかヤバいんじゃ…………逃げ――――――あ、足が動かねえっ!?」

本能で二人の立ち合いによって相当不味い事に陥る事を悟った見物人達だったが、身体自身が感じる恐怖によって足が動かなかった。

「これは止められなさそうですねぇ。」

「フム…………立ち合えて光栄だ。」

「フフ、こんな”お茶会”は初めてね。」

一方チョウやフードの男、レンはそれぞれ呑気そうな様子で二人の立ち合いを見守っていた。



「「はあああああああっ…………!!」」

そして二人が更に闘気を練って互いに攻撃を仕掛けようとしたその時

「――――――いい加減になさい。」

「「ッ…………!?」」

突如響いた女性の”喝”によって驚いた後”喝”を口にした人物へと視線を向けるとキリカが腕を組んで厳しい表情で二人を睨んでいた。

「おや…………」

「あら…………」

「アンタは…………」

キリカの登場にチョウやレンは目を丸くし、ヴァンは驚き

「キリカ…………!」

「…………以外と早かったな。」

ヴァンのようにジンも驚いている中アリオスは静かな表情で呟いた。

「男同士、積もる話でもあるだろうと気を使って見逃してあげてれば…………――――――準S級に剣聖がいい歳して何をやっているのかしら?」

「ま、まあ待て!元はと言えばレンがだな…………」

「…………その割にはお前も彼女の提案に意欲的な様子であったが。」

キリカの注意に対してジンは言い訳をし、アリオスは静かな表情でジンに指摘した。



「…………ガキの喧嘩かよ。」

「クスクス、ジンさんもそうだけど”風の剣聖”さんの意外な姿を後でエステル達に教えたらどんな反応をしてくれるのかしらね♪」

「フフ、残念です。最後まで見届けたかったものですが。”飛燕紅児”殿の気当たりも見事でした。」

ジン達の様子を見守っていたヴァンは呆れ、レンはおかしそうに笑い、チョウは若干残念がった後キリカに感心していた。

「――――――解決屋さんは先月ぶりね。ジンに巻き込まれたみたいだけど。レン皇女も先月ぶりだけど…………6年前のような多くの人々に迷惑をかける”お茶会”は控えてもらえないかしら?それとチョウ”社長”…………帝都方面はいいのかしら?」

ヴァン達に近づいたキリカはヴァン達を見回してそれぞれに声をかけた。

「ええ、そちらはチキ殿と二代目支援課に丸投げしてきましたので。」

「サラっと言ってんじゃねえよ…………――――――アンタはアンタで妙な客人を連れてるみたいだが。」

キリカに対して答えたチョウの話に呆れたヴァンはキリカの背後に控えているそれぞれフードを被って顔を隠している怪しげな二組に視線を向けた。

「ああん………?アタシらに文句あんのか?北カルバードの裏解決屋(スプリガン)――――――いや、”崑崙流”の落ちこぼれ伝承者が。」

「ったく、相変わらずだな…………」

厳しい表情で自分を睨んで指摘したフードの娘の言葉にヴァンは苦笑し

「まあまあ、セリスさん。すぐにガンつけるのは良くないですよ。いくら表と裏の間でフラフラしている、どこの馬の骨とも知れない人だからって。」

「アンタも相変わらずだな、オイ…………」

「アタシはそこまで言ってねぇぞ…………お前の方がヒデーじゃねえか。」

取りなすようにしながらもヴァンへの痛烈な皮肉を口にするフードの青年の言葉にフードの娘と共に冷や汗をかいたヴァンは疲れた表情で、娘は呆れた表情でそれぞれ青年に指摘した。



「ほう…………?」

「フム…………」

三人のやり取りをチョウとジンはそれぞれ興味ありげな様子で見守っていた。

「いや、それにしても案内してもらった甲斐はありますね。三大拳法の使い手と、かの”大英雄”殿が率いた”伝説の部隊”の参謀にそのかの”大英雄”殿と同じ”八葉”を極めた”剣聖”――――――それにまさか貴方とこんな場所でお目にかかるなんて。」

「……………………」

ジン、チョウ、レン、アリオスを順番に見回した青年はフードの男を見つめ、見つめられた男は何も語らず黙っていた。

「ハッ…………最近チョロチョロと妙な動きをしてると思ってたが。まさか”中央”や”本国”とヨロシクやってるとはいい度胸してるじゃねえか、アア?」

「…………何の事かわかりかねるな。自分は通りすがりの旅行者――――――彼らとは”偶然”居合わせたにすぎない。捨て置いていただこうか、オルテシア卿、バルタザール卿。」

娘に睨まれて指摘されたフードの男は明らかな嘘で答えを誤魔化した後指摘した。

「って認めてんじゃねーか!?」

「あはは、面白い人だなぁ、”副兵長”さんは。」

男が口にした自分達の名前に娘は思わず突っ込み、青年は呑気に笑っていた。



「お前も大変だな。跳ねっ返り達の面倒とは。」

「まあ、一応協定は結んでいますので。それに”そちら”には打ってつけでしょうし。」

アリオスの指摘に対してキリカは苦笑しながら答えた後意味ありげな指摘をした。

「―――――コラ、誰が跳ねっ返りだって?」

その時2人の会話を聞いて自分達が”跳ねっ返り”呼ばわりされたことが気に入らなかった娘はアリオスに近づいて自身の背に背負っている得物である大剣型の法剣に手をかけた。

「”中央”との取引でかつてのようにブイブイ言わせてるみてーだが、いい気になんなよ、”風の剣聖”のオッサン。そこの堅物と”まとめて”思い知らせてやってもいいんだぜ?」

「……ふむ。そちらの”旅行者”の口ぶりから察するにお前はヘミスフィアの”同胞”なのだろう。それを考えるとかつてのロイド達やヘミスフィアと同年代でありながらもその身に秘める”力”に振り回されていないようだな。」

娘の挑発に対してアリオスは静かな表情で娘を見つめて自身の推測を口にしたが

「…………27だ。」

「なに…………」

娘が口にした娘自身の年齢を聞くと僅かに驚きの表情を浮かべた。



「アタシは27だ、文句あるか?」

「…………すまないな。どうやら償いの日々によって、剣の腕は鈍っていなかったようだが人を見る目は鈍ったようだ。」

娘の言葉に対してアリオスは謝罪し

「殺す。」

アリオスの謝罪は娘にとっては怒りを抱く言葉だったのか、娘は全身に闘気や怒気を纏った。

「あーあ、踏んじゃいましたねぇ。背と童顔だけは禁句なんですから。」

「リオン、てめーも殺す。」

その様子を見守っていた青年は呑気そうな様子で呟き、青年の呟きが聞こえていた娘は青年を睨んだ。

「収拾がつかなくなってきたわねぇ…………という訳でヴァンさんが相手をしてあげたら?」

「何でだよっ!?」

「やれやれ…………」

レンの提案にヴァンは思わず突っ込み、収拾がつかなくなってきたことにジンは溜息を吐いた。

「あっ………いました!」

その時聞き覚えのある声が聞こえると何とアニエス達がその場に現れた。



「なっ…………!?」

「あら。」

「ヴァンさん…………!――――――って、ええっ!?」

「………どうやら様々な異なる勢力による会合の為に私達を撒いたようですが…………まさかその会合の面々に貴女までいる事には私も驚きました。」

アニエス達の登場にヴァンが驚き、レンが目を丸くしている中アニエスはヴァンに心配そうな表情で声をかけた後周囲にいる面々に気づくと驚きの表情で声を上げ、静かな表情で周囲の面々を見回して呟いたメイヴィスレインは真剣な表情でレンを見つめ

「チョウ…………!?つうかなんだそのカオスな面子!?」

「おやアーロン、一月ぶりですねぇ。マルティーナ殿とユエファ殿もお元気そうで何よりです。」

「フウ…………こんな時でも平常心なのは相変わらずね、チョウ。」

「フフ、その様子だとアーロン達がここを嗅ぎつけるのも予想していたみたいね?」

アーロンもアニエスに続くように周囲にいる混沌とした面々に気づくと驚きの表情で声を上げ、対するチョウは呑気そうな様子でアーロン達に声をかけ、チョウの様子に溜息を吐いたマルティーナはユエファと共に苦笑していた。

「おいおい…………撒いたはずなのにどうして…………」

「まったく…………中途半端に関わらせるからこうなるのよ。」

一方アニエス達の登場にヴァンが困惑していると聞き覚えのある女性の声が聞こえた。すると声の主――――――エレインがリゼットと共にその場に現れた。



「エレイン…………」

「ふう、お前さんも来たのか。」

「ちっ…………って、ありゃあ3年前の時の――――――」

「”乙女”殿でしたか。…………?隣の女性は――――――」

エレインの登場にヴァンが呆け、ジンが苦笑している中アニエス達の登場によって戦う気が失せた娘は舌打ちをした後青年と共にエレインとリゼットを見つめた。

「…………アニエスさんたちが貴方を探してるのを見かけてね。ちょっと迷ったけど――――――心当たりがあったから連れてきたわ。」

「申し訳ありません…………ここまでの状況になっているとはつゆ知らず。ですが成程――――――興味深い場所ですね。」

エレインが理由を説明した後謝罪したリゼットは興味ありげな様子で周囲を見回した。

「ふう、お前さんにはいずれ案内するつもりだったが…………――――――つーかエレイン!なんでわざわざ連れてきやがった!?あれだけ危険に近づけんなって――――――」

溜息を吐いたヴァンはエレインに注意しかけたが

「ハッ、今更だろーが。寝ぼけてんじゃねーぞジジイ。」

「…………見たところ子供もいないわけではありませんし。」

「私達への配慮もわかりますが…………ただ遠ざけられるのは、寂しいです。」

「それに”貴方が危惧している時”の為に契約天使(わたしたち)がいるのをお忘れですか?」

「う…………」

助手達の正論やジト目のメイヴィスレインの指摘に反論できず、反論できず思わず唸った。



「いや、すまねぇな。巻き込んじまったみたいで。だがいいきっかけにはなっただろう?

「クソ、どの口が…………」

「そうですよ、ジンさん。私達に一言の相談も無しで――――――さすがに独断専行が過ぎるのでは?」

謝罪するジンにヴァンが悪態をついている中エレインはジト目でジンを睨んで指摘した。

「い、いや、それはだな…………」

「…………やれやれ。」

エレインに睨まれたジンが言い訳をしようとしている様子を見ていたキリカは呆れた様子で溜息を吐いた。

「――――――今日の”本題”である顔合わせは済んだ。今の俺はお前たちにこれ以上用はない。」

「アリオス…………」

自分達に背を向けて去ろうとするアリオスをジンは真剣な表情で見つめ

「――――――また機会があれば会いましょう。…………恐らく次に会う時が来るとすれば堀の中ででしょうけど。」

「フッ…………」

ジンに続くようにキリカもアリオスに声をかけ、キリカの言葉に静かな笑みを浮かべたアリオスはその場から立ち去り

「――――――それでは見知らぬ方々、自分も失礼する。」

「ハン…………ま、挨拶はこんな所か。案内すまねぇな、室長さん。アタシらも一足先に失礼するぜ。”不動”に”乙女”、”殲滅天使”―――――そこの眼鏡に裏解決屋もまたな。」

「またお会いする機会もあるでしょう。――――――”A"の動向次第ではね。」

アリオスに続くようにフードの男達もそれぞれヴァン達に声をかけてその場から立ち去った。



「――――――さて、一段落したところで。残った顔触れで改めて”情報交換”といきましょうか?」

「アンタはマジでブレねぇな…………」

「ちなみにアニエスもそうだけど、アーロンさんもこれ以上貴女達や私達が目立たない為にもそれぞれの”天使”さん達を一旦自分の身体に戻してあげてね♪」

その時手を軽くたたいたチョウが提案し、チョウのマイペースさにヴァン達と共に冷や汗をかいたアーロンは呆れた様子で指摘し、レンもチョウに続くようにアニエスとアーロンにある指摘をし

「あ、はい。――――――って、それで先輩までこの場にいる理由を誤魔化されませんからね~!?」

レンの指摘に反射的に頷いたアニエスだったがあることに気づくとジト目でレンに指摘した。



その後メイヴィスレイン達をそれぞれの身体に戻した後アニエス達を加えたヴァンはキリカ達との情報交換を始めた――――――





 
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