有栖キャロの小学校物語
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第16話 あの事件の裏話です
お兄ちゃんの過去を聞いた次の日………
「キャロとルーは今日学校あるんだろ?シャイデの事は俺達に任せて学校に行ってこい」
「お兄ちゃん!?でも………」
「キャロ、心配しなくても私達で必ず連れ帰ってきますから」
「だけど………」
「メガーヌさん、ゼストさん、キャロをよろしくお願いします………」
「気を付けてね………」
「無理だけはするなよ」
「はい、行ってきます」
そう言ってお兄ちゃん達は行ってしまいました………
「キャロ………レイ兄達が頑張ってるのに、学校でのほほんとしてて良いのかな………?」
お兄ちゃんに言われるがままに学校に来ましたが、授業なんか全く集中出来ません………
ルーちゃんも私と同じみたいで、上の空です。
「……ちゃん、キャロちゃん!!」
「はい!!」
先生の大きな声でやっと気が付きました。
どうやら指されていたようです。
「どうしたの?今日はずっと上の空だけど………何処か調子悪い?」
「いえ………」
「ルー、あなたもよ」
「ごめんなさい………」
「………まあ何かあったなら先生に言いなさいね。じゃあ別の人に………エローシュ」
「返事がないただの小学生のようだ」
机に伏した状態でそう言った。
「夏穂ちゃん、ボケてるからたたき起こしてあげて」
「止めて!?夏穂の起こし方は一瞬天に昇るようなんですよ!?」
「あら良かったじゃない」
「リアルな方です!!決して気持ちよくて昇天………」
そこまで言うとものすごい速さでチョークがエローシュ君の額に直撃しました。
「ノオオオオオオオオオオ!!」
あまりの痛みに床をゴロゴロしてます。
っていうか両隣の人、迷惑そうだな………
「どうしたの2人共?」
休み時間。ボーッとしていた私とルーちゃんにいつものメンバーが集まってきました。
「ううん、何でないの夏穂ちゃん………」
そう言いますが、夏穂ちゃんは疑いの眼差しで私達を見ます。
「はぁ………明らか大丈夫じゃねえだろ………何を悩んでるか俺達に言ってみ?幾分楽になるかもしれないぜ」
エローシュ君が優しく私達に語りかけます。
「私は………」
大丈夫と言いたいのですが、止まってしまいました。
やっぱり私も………
「ねえ、もし家族がピンチの時、子供だからって理由で協力させてもらえなくなったらどうすればいい?」
とルーちゃんがみんなに質問しました。
「………まあ子供には出来ない事も多いし、確かにかえって邪魔になる可能性もある」
エローシュ君の言葉で落ち込む私とルーちゃん。
やっぱり邪魔に………
「だけどそうだったら邪魔にならない事をすればいい。悩んでいるようだったらお茶を入れてあげたり、肩を揉んであげたり…………小さいことでもいいんだ、それが大人達は嬉しく思うと思うぞ」
妙に説得力のあるエローシュの言葉。
私に出来ること………
どこまで何が出来るか分からない………でもやっぱり!!
「行こうキャロ。私達も手伝おう、私達の出来ることを………」
「うん!!」
そう言って私達は帰り支度を始めました。
「キャロちゃん?ルーちゃん?」
私達の行動が理解できなかったのか、真白ちゃんが不思議そうに私達を見てます。
「ありがとうエローシュ君、私達早退するね」
「えっ!?キャロ!?ルー!?」
夏穂ちゃんが私達を止めようとしましたが、エローシュ君が肩を掴み止めました。
「ごめん、やらなくちゃいけない事があるんだ」
「分かってる、行ってこい!先生には俺達が言っておく!」
「うん、エローシュがね」
「え!?」
「エローシュ、任せた」
「佐助!?」
「エローシュは優しいね、2人の為に身を呈して………」
「えっ!?俺、何されるんですかねエリオさん?」
「伸也君の事は絶対忘れないから………」
「いや、だから何されるの俺!?」
本当にいいお友だちを持ちました………
「ありがとう、みんな!!行ってきます!!」
「エローシュ、今度弁当のおかず取らないから!!」
「普通あげるとかじゃね!?」
そんなエローシュ君の突っ込みを最後に聞いて私達は教室を出ました………
「行ったね………」
真白が2人が出ていった廊下を見て呟く………
「ああ、さてと………」
そう言ってエローシュは歩き出す。
「職員室に行くの?」
「ああ、俺達の担任は結構融通が聞くから許してくれると思うけど、一応約束しちまったしな………」
エローシュがそう言うと夏穂が無言でエローシュの隣に着く。
「あれ?俺が行くんじゃ無いのか?」
「私も行くわよ。1学期のあの時みたいに柏山先生が居たら面倒でしょ?エローシュは意外と大人相手だと熱くなるし………」
「僕も行く。エローシュと夏穂2人共冷静さが無い………」
「まあ佐助には勝てないわよ………」
「お前はもう少し感情を表に出すべきだ」
「………努力する」
「エローシュ、僕も………」
「私も………」
「2人はここに居てくれ。あんまり多く行っても仕方ないし………」
そう言ってエローシュ、夏穂、佐助は教室を出ていった………
「ねえ真白ちゃん、さっき言ってた柏山先生って?」
「そうか、エリオ君達は1学期に居無かったもんね………実は………」
1学期、5月………
「全く!!担任の貴方がしっかりしなくてどうするんだ!!」
「済みません………」
あの時はね、小学校始まって5月の終わりに行った遠足での出来事だったの。
その時は動物園に行ったんだけど、その昼食後の自由時間の時に起きたの………
「いくら自由時間だと言っても、担任が一緒に生徒達と遊んで、監視を疎かにしてどうする!!私達は生徒を預かってる身なんだぞ!!」
「済みません………」
細野先生が隣のクラスの柏山先生に頭を下げて一生懸命謝っています。
事の発端は私達のクラスメイトが迷子になったのが原因でした。
自由時間の間、公園の中で自由に遊んで良い事になっていたのですが、その内、男の子グループ3人が公園から出て、隣のアスレチックエリアまで行ってしまったのが原因でした。
時間になっても帰ってこないので、先生が慌てて探し、何とか見つかったのですが、学年主任の柏山先生がカンカンになって、生徒が居るその場で怒っているのでした。
「………全く、ありえねえだろ………」
「そんな様子を見ていた隣の伸也君の冷めた目は怖くて、今でも忘れられない程怖かった………」
「そんなに怒ってたんだ………」
「伸也君は何だかんだ言って細野先生が好きだから………」
「あんた、いい加減にしろよ、細野先生を晒し者にするようにいつまでもガミガミと………アンタ恥ずかしくねえのか?いい大人がよ?」
「………何だと?」
伸也君はその場で立ち上がり、睨めつけて言いました。
その雰囲気がいつもと違う事にクラスメイト全員気がついていたと思います。
だってその時、先生に対してもの凄い喧嘩口調だった事に誰も突っ込みませんでしたから………
「お前、名前は?」
「江口伸也」
「細野先生、あの生徒の言葉遣いは何ですか?先生に対してあの態度………ちゃんと指導は………」
「大丈夫、この口調はアンタだけだから」
そう言った伸也君を柏山先生は怒りを堪えながら見てました。
「だってそうだろ?先生とは思えない行動してんのに、まさか他の先生と同じ様に呼んでもらえると思ってたのか?」
「………私が先生と思えないだと?」
「アンタさ、周り見えてるか?せっかく楽しい遠足をアンタが台無しにし、全てのスケジュールをずらし、まさかの全員の目の前で説教だ?今日はアンタの説教公開日か?呆れて最後まで聞いてられなかったぜ………」
「この………!!」
鼻で笑われ、柏山先生の顔は怒りで真っ赤になってました。
今にも殴りかかろうとしてるくらいです。
「俺、間違った事言ってるか?その足りない頭で考えてみろ?今何時だ?3時だぜ?迷子を探してた時間が約15分位。それくらいなら最後の湖を回る時間も取れたのに、アンタの長ったらしい説教のお陰で、急いで回らないと、帰るのが夜になるぜ」
「ぐっ………!!」
「それに細野先生だけを怒るのは筋違いだぜ、アンタだって大きな木の下で本読んでたじゃねえか」
「わ、私は本を読みながら見ていたのだ!!」
「へえ〜なら自分のクラスの生徒が何処で何を何人のグループで遊んでいたか分かるよな?」
「ぐぅぅぅ………」
「ほら、言ってみろよ!それとも自分が困るとだんまりになるのか?」
「もういい!!早くバスに移動するぞ!!今からなら間に合う!!」
そう言って生徒達を誘導する柏山先生。
「おい!!この………」
「伸也!!」
更に言おうとした伸也君を細野先生が止めました。
「いいや、いくら先生の頼みでも………」
「………」
「………分かりました先生。だけど最後に………」
そう言って柏山先生に近づく伸也君。
「俺達は細野先生が大好きだ。もう一度今日みたいな事してみろ、次は俺達のクラス全員が敵になるからな」
そう言って私達の方へ戻って来ました。
「………」
静かに座る伸也君に誰も声をかけられませんでしたが、2人だけは違いました。
「エローシュ久しぶりにキレた………」
「確かに珍しかったわね」
「だってあり得ないだろ。確かに細野先生も悪かったけど、だからって晒し者にするようにみんなの前で怒るか普通?あんなの先生のすることじゃねえよ!!」
腕組みし、その場所から柏山先生を睨む伸也君。
「良いのよ、ありがとうねエローシュ」
そんなエローシュ君に優しく話しかける細野先生。
「………別に」
恥ずかしいのを隠すようにそっぽを向き、口を尖らせる伸也君。
さっきの伸也君とは違い、いつもの伸也君でした。
「さあ、私達もバスに乗りましょう!!」
細野先生の一声で私達もバスに乗りました………
「その後はエローシュ君が盛り上げてくれたお陰で楽しく遠足を終えられたんだ」
「………本当に凄いよね、エローシュって」
真白の話を聞いていたエリオは真面目な顔で呟いた。
「エローシュには言葉で人を惹き付ける力がある。いつもはバカやっているようにしか見えないけど………でも夏穂ちゃんも佐助もキャロもルーも真白ちゃんも僕も当たり前のように一緒にいる。………まるでレイ兄みたいだ」
「レイ兄って………」
「うん、レイ兄はキャロのお兄ちゃん。エローシュみたいな変態じゃないけれど、いろんな人を引き寄せるんだ。僕もそうだけど、キャロもルーもレイ兄が大好きだし、レイ兄が好きな人は多いと思う。誰に対しても優しくて、強くて………僕もレイ兄みたいにみんなを守れるようになりたいんだ!」
「尊敬してるんだね、そのレイ兄って人を………」
「うん………」
「たっだいま〜!!」
そんな話をしていると元気に教室にエローシュが入ってきた。
後ろにいる夏穂と佐助はホッとしている。
「お帰り、どうだった?」
「おう、エリオ!あのクソ教師居なかったぜ!!」
「まあそれでも来るかどうかひやひやした………」
「確かにスリルがあったわね………」
「で、キャロ達はどうなったの?」
「大丈夫、細野先生も気になったみたいで、早退にしとくって」
「よかった………」
エローシュにそう言われ嬉しそうに笑う真白。
「それよりも2人で何を話してたんだ?」
「遠足での事」
「「ああ………」」
「あの時ね………思えばあの時から柏山に目を付けられてんだよな………」
「エローシュが大人げないから………」
「いや、でもな………」
頭をかきながら困った顔をするエローシュ。
「でもかっこよかったよ」
そう言う真白の言葉にエローシュの表情は一転して真っ赤になり、
「別に………」
いつかの表情と同じになった…………
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