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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第四章~災厄のプロトコル~ 第54話

メンフィル帝国領、工学都市バーゼル――――――



~バーゼル理科大学~



「―――――いい加減にしろ!!」

大学の構内で銀髪の少年が歩いていると少年にとって聞き覚えのある男性の怒鳴り声が聞こえ、声に気づいた少年は声の主がいる部屋の扉へと視線を向けた。

「いつまで計算に時間をかけているつもりだ!?」

部屋にいる高圧的な男性は助手達に文句を言っていた。

「で、ですが現状の機材ではこれ以上の精度は無理です!」

「現代物理工学、最新導力工学の見地からも――――――」

「助手風情が私に講釈をたれるのか!?精度不足は分かり切っていたはずだ!”理論”はすでに構築済み――――――どう実現するかは君たちの役割だろう!?南カルバード――――――いや、メンフィル最高の研究室に所属している自覚を持ちたまえ!!」

対する助手達は男性に理由を説明していたが男性は聞く耳を持たず、男性の様子に助手達は暗い表情を浮かべて肩を落とした。

「もういい――――――明朝結果を聞くから可能な限り進めておけ、いいな!!」

助手達の様子を見て悪態をついた男性はその場から去って行った。

「……………………はあ、また徹夜か…………」

「クロンカイト教授に負けたからって余裕なさすぎでしょう…………」

「…………愚痴っても仕方ない…………僕たちは進めるしか…………」

それぞれ愚痴を口にした助手達は作業に戻り、その様子を物陰から見ていた少年はどこかへと向かい始めた。



~同時刻・ヴェルヌ本社~



「は、話が違うじゃないか…………!二人共ザイファ規格の民生化までは付き合ってくれるんじゃなかったのかね!?」

同じ頃ヴェルヌ本社のある部屋ではスーツの男性が机をたたいて信じられない表情で白衣姿の眼鏡の男性と女性にそれぞれ問いかけた。

「すみませ~ん…………本業の研究が押していまして~。一応依頼されていた分まではしっかり終わらせていますけど~。」

「私も持ち分のタスクは消化済み――――――後は例のプロジェクトに充てる予定だ。そちらに専念できずに問題が起きた場合、責任を取っていただけるなら話は別だが。」

「ぐっ、それは…………」

対する二人はそれぞれ正論を口にし、反論できないスーツの男性は唸り声を上げて言葉を失くした。

「異存がなければ失礼する。」

「本当にすみませんでした~。そうだ、向こうから頼まれたあれの改良も進めないと~…………」

反論がない様子の男性を確認した二人はその場から立ち去った。

「ええい、これだから博士の門下は…………!そもそも彼女が無責任にバーゼルを離れさえしなければ…………!この忙しい時にキャラハン教授も訳のわからん研究に没頭しているし――――――」

二人が立ち去った後厳しい表情を浮かべて現状の厳しい状況に頭を抱えていた男性だったが通信の音に気づくとザイファを取り出して通信を始めた。

「なんだ―――…………エトワスとレッドスターが特許訴訟!?とっとと顧問弁護士に仲裁させろ!アルドラとZCFが技術提携…………!?例の”連盟”か――――――内容はどうなっている!?"AF計画"の事前リーク!?タイレルとは協定を結んでいる筈だぞ!?視察研修………もうそんな時期か!?ええい、そんな事まで対応してられるか!はあ………こんな時に限って重なるものだな。」

通信を終えた後次から次へと発生する問題に溜息を吐いた男性は気分転換に外の景色を見つめた。

「どいつもこいつも………いや、待てよ。たしか丁度いいのがいたはずだな。彼女が残していった、もう一人の門下…………今はあの古臭い施設にご執心なのだったか。」

その時ある事を思い出した男性はある施設に視線を向けた。



~天文台~



「シェダル大三角――――――やっぱりこの時間がベストかな。もう少し雲が少なければもっと良かったけど。宿題だった”合”のタイミングはおよそ10ヶ月後か、か…………それまでに帰ってくるといいんだけど。」

男性が視線を向けた施設――――――天文台の中にある巨大な望遠鏡で銀髪の少年は星を見ていた。

「カエッテクル?」

その時機械音声らしき声が少年に問いかけた。

「ゴメン、なんでもないさ。」

「GRR…………BOW。」

「『問題ナイカ?』ト告ゲテイル。」

声に対して少年が返事をすると犬の唸り声が聞こえ、声が犬の唸り声を翻訳した。

「…………ふふ、大丈夫。FIOにXEROSも一緒だからね。もう、子供じゃないんだ。グランマ(おばあちゃん)の留守くらいしっかり守らないと。」

声に対して微笑みながら答えて声の主を撫でていた。

「ったく、ガキが一丁前にナマ言ってんじゃねえ。よう、調子はどんなもんだ?」

その時整備服の老人が少年に声をかけた。

「親方…………新型レンズならさっそく試させてもらってます。誤差0.03μa(マイクロアージュ)以内の高精度――――――流石は職人街の皆さんですね。」

「ガハハ、たりめぇだ。博士の宿題の一つだからな。じゃなくてお前さんの話だよ。…………最近、根詰めすぎてねえか?」

「いえ、このくらいは余裕ですよ。…………すみません、いつも気遣ってもらって。でも、いいんですか?上も煩いでしょうに、僕なんかのために――――――」

「だからガキが細けぇことを気にすんな。――――――研究者には研究者の、技術屋には技術屋の本文ってのがある。ましてや博士の秘蔵っ子を手伝わないなんざ、バーゼル職人の名が廃るってもんだろう。」

「…………親方…………ありがとうございます。」

老人の気遣いに少年が感謝したその時通信の音が聞こえてきた。

「と、すみません。…………タウゼントCEO?僕なんかにどうして――――――…………」

ザイファを取り出して通信相手を確認して不思議そうな表情を浮かべた少年は通信を開始したが

「っ…………!?待ってください、どうして急にそんな…………!で、ですがここは博士の――――――っ…………とにかくすぐ伺います…………!」

通信相手からある事を告げられると血相を変え、通信を終えた後は焦った様子で目的地に向かってその場から走り去った。

「タウゼントめ…………ロクでもねえことを考えつきやがったな?」

少年の様子を見ていた老人は真剣な表情で呟いた。



~イーディス・アラミス高等学校・1年A組~



6限目・カルバード史



「―――――およそ百年前、カルバードの王政はもはや限界を迎えつつあった。大陸東部の巨大皇国の崩壊と衰退――――――そしてエレボニア帝国による何度目かのクロスベル併合。更には大規模な飢饉も発生し、貴族による圧政によって民が喘ぎ苦しむ中…………立ち上がったのは当時の王立大学に在籍していた”シーナ・ディルク”と、その盟友たちだった。当時幻想でしかなかった”民主革命”の理念――――――それは若者を中心に人々を惹きつけ、ムーブメントを巻き起こしたという。徹底的な弾圧によって多くの若者が犠牲になり、彼女自身投獄されるなどの憂き目に遭いながら…………やがてシーナは、自ら革命解放軍の旗印となり、旧王制を打ち倒すことに成功した。盟友であった思想家オーギュストの独裁やエレボニア帝国の貴族領邦軍による侵攻なども乗り越え…………シーナ・ディルクは”カルバード共和国”の初代首班に就任、その後も多くの偉業を成し遂げる。中でも代表的なものは――――――クローデル君。」

アニエス達のクラスで歴史の授業をしていた教師はアニエスを指名した。

「はい…………!まずはメンフィル・クロスベル連合による併合後の現代にも続く”カルバード憲章”の宣言、そしてイーディスへの遷都が浮かびますが…………この”アラミス高等学校”の創設と経緯についても注目したいです。彼女の同志である芸術家アラミスを始めとする多くの意見を取り入れたのはもちろん…………隣国リベールの王立学校だけでなく、敵国だったエレボニア帝国の士官学校まで参考にしたとか。人種や国境、主義や思想の隔たりなく多くを取り入れ、”より良い物”へと昇華していく…………共和国となり、その共和国がメンフィル・クロスベル連合により併合された後もメンフィル・クロスベル連合すらも配慮せざるを得なかったカルバードを体現した重要な功績の一つだったと思います。」

「よろしい、彼女を語る上で外せない要素だろう。」

指名されたアニエスは立ち上がって答えを口にし、教師が答えに頷くとアニエスは着席した。

「さて、我が校の初代学長でもあるアラミスだが、彼の作品は芸術史にも多大な影響を――――――」

(今日もイケてんなぁ~、アニエスちゃんは!)

(うーん、相変わらず絵になるなぁ…………)

教師が授業を再開している中生徒たちの一部はアニエスに注目し

(いや~、ライバルが多そうだねぇ。)

(う、うるさいっ、授業に集中しろ。)

生徒たちのアニエスに向ける憧れの言葉が聞こえていたオデットは近くの席にいるアルベールをからかい、からかわれたアルベールは答えを誤魔化した。





放課後――――――ホームルーム



「えー、いよいよ来週には”視察研修”が迫っているが…………まだ行き先を選択してない者も数名いるようだね。4月にあった”学藝祭”と同じく、生徒の自主性に任されたカリキュラムだ。宿泊先の予約もあるから週明けまでには届を出すように。それじゃあ、学級委員。」

「はい。起立――――――礼。」

その後ホームルームが終わると生徒たちはそれぞれ”視察研修”について話し合っていた。

「やっぱ大本命は帝都のクロスベルだろ!」

「うんうん、あの”アルカンシェル”も見てみたいもんねー!」

「ふむ、確かに気になりますけどできればカルバードならではの場所が…………」

「オラシオンとか絶対綺麗だよね~。ホント今から楽しみ!」

「ラングポートかメッセルダムもいいよな!海とか見てみて~!」

「うーん、映画祭もあったしサルバッドも気になってるんだけど…………」

「ねえねえ、レジーニアさんとアンリエットさんはどこにしたの~?」

「実はまだ決めかねていてね。クロスベルは行った事があるから、とりあえずクロスベルを除外することは決めているよ。」

「私もレジーニアさんと同じ状況です。クロスベル以外はどこも訪れた事がない場所ですから、どこにすべきか迷っています。」

生徒達がそれぞれ『視察研修』について話し合っている中教室を出たアニエスはアルベールやオデットと共に生徒会室に向かった。



~生徒会室~



「それで、何を悩んでるの?」

「え、えっと…………別に悩んだりはしてないけど。」

オデットに問いかけられたアニエスは戸惑い気味に答えた。

「アラミス1、2年時の独自カリキュラム、『視察研修』――――――まあ、あくまで選択制だからあえて行かない生徒もいるみたいだが。まさか…………行くかどうか迷っているのか?」

「あはは………………二人にはお見通しですね。その、もう知られてますし隠すまでもないことですけど…………バイト先の状況もまだわからないのでギリギリまでは考えようかなと。」

アルベールの問いかけにアニエスは苦笑しながら答えた。

「…………やっぱりか。」

(ヴァン達はむしろ、自分達の事は気にせず、アニエスの行きたい場所に行って来いと言うでしょうけどね…………)

「なんか出張とか多いみたいだしね~。でも、新しい人も入ってきてるんでしょ?サービスコンシェルジュ?さんだっけ。あ、すっごい美人らしいから後れをとりたくないのかな~?」

アニエスの答えを聞いたアルベールは呆れた表情で腕を組み、メイヴィスレインは静かな表情で推測し、オデットは苦笑した後からかいの表情でアニエスに訊ねた。



「そ、そういうのじゃなくてっ。」

(ぐっ…………)

「ふふ、盛り上がってるみたいね。」

オデットの問いかけにアニエスが若干焦った様子で答えるとその様子を見ていたアルベールが唸り声を上げるとレンが部屋に入ってきた。

「あ、レン先輩!」

「ふう………お疲れ様です。」

「ええ、今日もよろしく。ちなみに私も今年編入だから視察研修には行くつもりでね。もし、同じ行き先だった場合、宿の手配の融通は利かせてあげるわ。ギリギリまで迷ってもいいわよ?バイト先との兼ね合いを考えたいなら♪」

「もう…………でもありがとうございます。」

からかいも込めたレンの気遣いにアニエスは困った表情を浮かべた後感謝の言葉を口にした。



「うーん、でもやっぱりあたしはアニエスと一緒がいいかなぁ。だからアルベールもまだ決めてないんだよね~?」

「し、慎重に考えてるだけだっ。ちなみにヘイワーズ先輩はどちらに…………やっぱり人気のクロスベルですか?」

オデットにからかい気味に尋ねられたアルベールは答えを誤魔化した後レンに確認した。

「ふふ、そこは馴染みがあるし知り合いも多いから逆に外すつもりよ。かといって煌都や古都にも何回か行ってるし、サルバッドも映画祭が終わっちゃったし…………」

(うーん、先輩って一体…………)

(相変わらず謎の多い人だな…………)

レンの答えを聞いたオデットとアルベールはそれぞれ改めてレンの謎の多さを知って冷や汗をかいた。

「だから――――――”あの街”に改めて行きたいと思っているわ。カルバードの学問と技術の枠を集めた歴史と革新に触れられる唯一無二の都市にして南カルバードの総督府が置かれている都市。ザイファ規格に導力ネットワーク、それ以外も含めて見所満載でしょうし♪」

「あ…………」

「それって――――――」

ウインクをして答えたレンの話を聞き、レンの『視察研修』の目的地がどこであるかを悟ったオデットは呆けた声を出し、アニエスは目を丸くした。





10月18日――――――



11:03



リゼットがアークライド解決事務所の押しかけSCになってから数日後、私服姿のリゼットは事務所の上にある自分が借りた部屋で端末を使ってある人物と通信をしていた。



~旧市街・リゼットの私室~



「報告は読ませてもらった――――――成程、おおむね順調のようだね。旧首都圏での現地サポート・オペレーション業務も問題なさそうだ。アークライド解決事務所への出向――――――緊急案件以外は君の判断に任せよう。」

「ご承認、ありがとうございます。”A"案件については例外を除いて引き続きご報告させて頂きますので。」

「ああ、そうしてくれたまえ。――――――”例外”というのが想定以上に多くなりそうなのが気にはなるがね。」

「…………恐縮です。ですが――――――」

「ああ、咎めているわけではないよ。それについては”規定”の範疇内だ。流石に3年前にメンフィル・クロスベル連合によって滅ぼされたという”某組織”のように執行権限者に”全ての自由を認める”のは無理だがね。」

「…………ええ、企業活動に馴染まないのは確かかと。」

「こちらとしてはヴァン・アークライドと専用ホロウの挙動も気になるが…………それとは別に、”君自身”の経過と実践データについても期待している。宜しく頼むよ――――リゼット・トワイニングSC。」

「…………かしこまりました・ゾーンダイクGM(ゼネラルマネージャー)。(…………マルドゥック――――――所属してなお底が見えませんね。実利を優先しながら、虚実を徹底的に使い分けて輪郭をぼかす在り方…………)…………言えた立場ではありませんか。」

通信を終えた後少しの間考えていたリゼットは苦笑を浮かべながら呟いた。するとその時ガレージの開く音が聞こえてきた。

「さて、わたくしも本日の業務を始めましょうか。」

ガレージの開く音に気づいたリゼットは立ち上がっていつもの仕事服姿に着替え始めた。



~ガレージ前~



「~~~~~♪」

「あっ、ここにいた――――――ご機嫌ですね、ヴァンさん!」

ガレージ前でヴァンが鼻歌を歌いながら自車の整備をしているとフェリが声をかけてきた。

「おう、授業はもう終わりか?」

「えへへ、つつがなく。お仕事前に整備ですか?ヴァンさんもマメですよねっ。」

「ま、大切な相棒だからな。そういやお前ントコの団も移動は導力車が中心だっただろ。親父さんとか拘ってんじゃねぇのか?」

「ん、どうでしょう。”レノ”の導力車を使ってましたが。あ、タイヤとか”だんぱー”とかには拘っていた気がします。」

ヴァンの質問を聞いたフェリは故郷での父親の車に対する拘りを思い返していた。

「山岳地や砂漠だとどうしてもなぁ。ちなみに前回、砂丘で安定して走れたのも入念なチェーンナップあってこそだぜ?」

「なるほど…………よくわかりませんけどっ。」

「ぐっ、いいか足回りっつーのおはカスタムの中でも特に重要で――――――…………」

自慢の自車の改造についてあまり興味がなさそうな様子でいるフェリに唸り声を上げたヴァンは更なる説明を始めたが、対するフェリは興味を抱いていなく、ガレージの中にあるシートに包まれた何らかの物体に気づくとヴァンに訊ねた。

「あれは…………?」

「ああ、午前中にエルザイム方面から届いてな。例の公太子からのプレゼントだ。」

「ああ、そういえば…………」

ヴァンの話を聞いたフェリはサルバッドでの去り際のシェリド公太子のある言葉を思い出した。





―――――報酬には色をつけさせてもらった。後日届けさせるから楽しみにしてくれたまえ。



「特注された最先端素材のパーツ…………さすが跡継ぎ、こんなモンを用意するとは。人も増えてどうしようかってところにお膳立てされたのは気にくわねえが。」

シェリド公太子から届いたプレゼントの”中身”を知っているヴァンは現状の自分達の状況を考えた上でのプレゼントであると気づいていた為皮肉気な笑みを浮かべた。

「ああ、なるほど…………後部座席を追加するパーツですか。」

ヴァンの話を聞いてプレゼントの中身を察したフェリは納得した様子で呟いた。

「お――――わかんのかよ?」

「前にも言いましたけど…………戦士団を出て独立した兄がいまして。去年、里に顔を出した時に乗ってた車に同じようなパーツが付いていたんです。今は別の車に乗ってるかもですけど。」

「なるほどな…………まあ、まだ乗ってるんじゃねえか?」

「…………?えへへ、そうかもですね。」

ヴァンが自分の兄を知っているような口ぶりに一瞬不思議そうな表情を浮かべたフェリだったがすぐに気にすることなく、無邪気な笑みを浮かべた。



「―――――ヴァンさん。フェリちゃんもこちらでしたか。」

その時2人に近づいてきたアニエスが2人に声をかけた。

「あ、アニエスさんっ。」

「毎度毎度の10分前行動か、もう少し緩くてもいいんだぜ?」

アニエスの几帳面さにヴァンは苦笑しながらアニエスに指摘した。

「ふふっ、そう言われましても染みついているので…………」

「ふあああっ、そんじゃ俺は二度寝させてもらうかね…………」

ヴァンの指摘にアニエスが苦笑しながら答えたその時眠そうな様子で呟いた聞き覚えのある声を聞いたヴァン達が見上げると自室の窓を開けたアーロンが壁際によりかかっていた。

「…………テメーはもっと見習え。毎晩毎晩、朝帰りしやがって。ちょっとはわざわざテメーの身体から出て毎晩テメーの帰りを待ってくれている(マルティーナ)もそうだが、母親(ユエファ)にも気を使えや。」

「ハッ、俺の勝手だろーが………」

「もう、アーロンさんは…………もうすぐお昼ですよ?」

「そーだそーだ!」

アーロンにアニエスが呆れた様子で指摘したその時アニエスに続くようにユメの声が聞こえるとユメと共にリゼットやビクトルがヴァン達に近づいた。



「ふふ、皆さんお揃いで何よりです。」

「お前ら、込み合う前にとっとと食っていきやがれ!」

「やがれ~!」

「えへへ、いただきます!行きましょう、みなさん!」

「おう。ったく…………すっかり賑やかになっちまったな。」

「ふふ、本当に。」

ビクトルとユメの言葉に答えたフェリがビクトル達と共にモンマルトに向かう様子を見守ったヴァンは苦笑を浮かべながら呟き、ヴァンの言葉にアニエスは微笑みながら同意した。



その後、”モンマルト”で早めの朝食を取ったあと…………ヴァンたちは改めて事務所で本日の活動の指針を決めることにした。



~アークライド解決事務所~



「―――――本日でわたくしの”試用期間”最終日となります。皆さま、改めてご教授いただければ。」

「あはは………………もうすっかり事務所のことを把握されてますし。」

「逆に教わってばかりですっ。」

「めんどくせー事務仕事も全部片づけやがったからなぁ。そろそろ所長業もやらせるかよ?」

リゼットの挨拶に対して試用期間の間にリゼットの有能さを改めて知ったアニエスは苦笑し、フェリは尊敬の眼差しでリゼットを見つめ、アーロンは感心した後からかいの表情でヴァンに視線を向けて問いかけた。

「それはもういいっつーの!…………いやまあ、実際助かってるぜ。ま、お前さんは助手っつーよりハイパーアシスタントだろうしな。――――――ただまあ、他の業務もあるだろうしそこまで完璧にやらなくてもいい。コイツらの為にもならねぇし少しは自分のために時間を使ってくれ。」

「ですが…………」

「えっと、私も頑張って追いつけるようにしますので…………!プライベートも大切ですし、少しは私にも負担させてください。」

「はいっ、わたしも頑張ります!」

「あ?メンドくせーな。やりたいヤツにやらせときゃいいだろ。チビはともかく誰かさんは焦りなんかもあるんだろうからなぁ?」

ヴァンの教えに対してリゼットが真剣な表情で反論しようとしたその時アーロン以外の助手達はヴァンの意見に同意するようにリゼットが負担している仕事を自分達にもさせてもらうように申し出、対するアーロンは面倒そうな様子で答えた後意味ありげな笑みを浮かべてアニエスを見つめた。



「そ、それは…………」

「むっ。アーロンさんこそ少しは事務所の分担をすべきかと!やっぱりムラが多いので戦力としてもまだ不安定ですし。」

アーロンの指摘にアニエスが気まずそうな表情で答えを濁している中フェリは頬を膨らませてアーロンに指摘した。

「ほう、やんのかチビ?」

「のぞむところですっ!」

「ああもう、二人共…………」

「皆様の方こそ、学業や趣味など大切にして頂きたいところですが…………――――――わかりました、お言葉に甘えて自分の時間も取らせていただきます。」

いつもの調子で喧嘩を始めようとするアーロンとフェリの様子にアニエスが呆れている中その様子を見守っていたリゼットは静かな表情でヴァンの教えやアニエス達の申し出を受け入れる事を口にした。



「ああ、そうしてくれ。――――――そんじゃあ今日の業務だがリゼットに加え、アニエスも来てもらう。導力杖もアップデートしたばかりだし”新サービス”に慣れてもらうためにもな。」

「…………!わかりました!」

「う…………たしかにわたしたちよりはるかに適任ですね。」

「フン…………俺はその気になりゃ、速攻でモノにしてみせるけどな。」

「クク、ムラッ気が多いと意外と苦労する分野だろうがな。どの道お前たちのうち一人には来てもらうつもりだ。留守番役は事務仕事やら買い出しだ。サボんじゃねーぞ。」

「もちろんですっ。」

「へっ、いいから選べや。」

こうして…………リゼットを加えたヴァン達はいつものように”アークライド解決事務所”の業務を開始した――――――



 
 

 
後書き
界の軌跡はまだようやく第二部に入った所ですが、攻略サイト見ていますから界の結末はある程度予想できています。なのでその結末考えると、次回作でどういう結末になるかわかるまでは界編の改変等はできませんから、黎の陽だまりは現在の予定だと続いても黎Ⅱ編までで、それ以降は界の次回作クリアまで更新はストップする予定です 
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