同志諸君に告げる。これが理不尽だ!
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第30話後半
前書き
サイト管理者です。第30話「荒らし殲滅プロトコル」(後半)となります。
どうぞ、ご覧ください。
「七大統治者である私が命ずる。撃ち方用意!目標、〈滅びの方舟〉!!」
不気味な仮面を顔に装着する七大統治者のその言葉と同時に惑星破壊兵器、アタックムーン級戦闘衛星、要塞、エターナルストーム級Ⅱ型、エターナルストーム級Ⅱ型改による砲撃とバスターレーザー搭載型によるバスターレーザー砲撃が、今まさに始まろうとしていた。
「滅ぶべし、〈滅びの方舟〉よ。…戦略級超兵器のカウントダウンを開始せよ」
「了解。惑星破壊兵器、アタックムーン級、要塞のカウントダウン開始」
惑星破壊兵器、アタックムーン級戦闘衛星、要塞の発射カウントダウンが始まり、巨大な砲身の砲口にエネルギーが凝縮され送り込まれいき、蓄積されていく。
「クワオアー級改、プロテクト級Ⅱ型、バスターレーザー発射準備完了」
バスターレーザーを搭載しているクワオアー級改、プロテクト級Ⅱ型の発射準備が整い、今か今かと凝縮し蓄積された球体状となったエリスエネルギーを解き放とうとしている。
バスターレーザーは惑星ならび衛星を破壊する力を有しておらず、大陸を破壊出来るかどうかの力、それがバスターレーザーである。
とはいえ、それがプロトコル発動で投入されたクワオアー級改数百隻以上に加え、土星沖・火星沖・地球沖戦で参戦し、健在している同型のクワオアー級改そしてプロテクト級Ⅱ型合わせて約二千五百隻より繰り広げられれば、準惑星ケレスならびに衛星を破壊ないしは惑星を半壊出来る力となる。
「エターナルストーム級Ⅱ型、エターナルストーム級Ⅱ型改、主砲発射準備完了」
クワオアー級改と比べ、全長2000mもあるエターナルストーム級なら惑星なんて余裕だよね、となるだろうが違う。
実のどころ、エターナルストーム級は惑星どころか、準惑星ケレス、そして大陸すら破壊など無理に等しく、そもそも超大型艦艇対処の為のエターナルストーム級である。
そんな艦艇を連れてきても意味あるのか、と疑問となるだろうが意味は確かにある。
まず投入されたエターナルストーム級は進化したⅡ型とⅡ型改。
Ⅱ型は大陸を余裕に破壊可能圏内となり、バスターレーザーを模倣した兵装エーテルレーザーを艦首にある主砲に採用しており、Ⅱ型改は数隻から10隻で準惑星ケレス半壊ないしは破壊可能圏内となる。
「全エターナルストーム級Ⅱ型と改、エーテルレーザー発射!」
そんなエターナルストーム級Ⅱ型とそのⅡ型改が三百隻以上はおり、円柱形の主砲をエメラルドグリーン色に煌めかせると、その一本の主砲から主砲のエーテルレーザーを瞬時に発射する。
光の矢となって、高速で〈滅びの方舟〉へと向かってゆく。
「バスターレーザー発射!」
ククワオアー級改、バスターレーザーが〈滅びの方舟〉へと放たれ、プロテクト級Ⅱ型は大口径キャノン砲を斉射しつつ、バスターレーザーを発射した。
バスターレーザー非搭載型からも主砲が斉射されるが、木星規模の〈滅びの方舟〉相手では豆鉄砲もいいところ。
しかし、それでもバスターレーザー非搭載型から砲撃を続行し、更にはミサイルも投射される。
投射されたミサイルは、ただのミサイルではない。
投射されたのは、核融合ミサイル。
核融合ミサイルはプロテクト発動で投入されたミサイル艦隊と、土星沖・火星沖・地球決戦の一部の艦隊のみ装備されていた。
核融合ミサイルの成果は〈滅びの方舟〉相手では微々たるものであろうが、もし艦艇に命中すればオーバーキルといっても過言ではない代物だ。
「バスターレーザー、敵目標に全て命中を確認」
「エーテルレーザー、敵目標に全て命中」
「バスターレーザー非搭載艦、敵目標に全弾命中を確認」「核融合ミサイル、全弾命中」
「敵目標にダメージは…小」
そんな攻撃をもってしても〈滅びの方舟〉は健在であり、もろに受けたのにも関わらず、ダメージは小さい。
〈スターダスト〉の艦橋で指揮する七大統治者は舌をまきつつも、指令を出していく。
「ガイエンブルク、ガイエスブルク要塞、発射準備全て整いました」
「全要塞、照準修正、誤差+2度」
「重力収束バレル、形成完了。重力バレル強度の強化よし」
「全要塞、発射準備完了」
「了解、護衛艦隊は射線上から一時退避せよ」
「護衛艦隊、側面へと退避完了」
〈滅びの方舟〉後方で発射態勢であるガイエンブルク、ガイエスブルク要塞の射線上から急ぎ護衛艦隊は退避する。
それは、月軌道にいる要塞も同様に発射態勢を執っており、艦隊は要塞の射線上から急ぎ退避する。
「要塞砲、発射せよ!」
七大統治者は要塞砲発射を指令した。
護衛艦隊の退避が完了した直後、ガイエンブルクならびにガイエスブルクから要塞砲が放たれる。
「アタックムーン級戦闘衛星、発射準備完了」
「撃て」
「はっ、…月面弩級砲、発射!」
全アタックムーン級より放たれた3つの光芒は、亜光速のスピードを維持し向かっていく。
月面弩級砲の膨大な黄色の粒子ビームは光の柱にも等しく、〈滅びの方舟〉に”吸収”されていない残骸となって漂うカラクルム級を蒸発させながら、〈滅びの方舟〉の方舟まで向かっていく中、計算されていたかのように要塞から発射されているエメラルドグリーンの光芒は、黄色の光芒と共に〈滅びの方舟〉へと到達し、轟音と共に周辺にエメラルドグリーン色の粒子と黄色の粒子を舞い散らせる。
「エターナルストーム級Ⅱ型、エターナルストーム級Ⅱ型改、エーテルレーザーを発射」
「クワオアー級改、プロテクト級Ⅱ型、バスターレーザーを発射」
「月面弩級砲、撃て!」
エーテルレーザーとバスターレーザーの2発めが発射され、二千をゆうに超えるエメラルドグリーン色の光の矢が、〈滅びの方舟〉へと直撃する中、後から続く形で2発めの月面弩級砲が発射され、その光芒は真っ直ぐと進んでいき、命中していく。
「エネルギー充填中の〈スターダスト〉を除き、全艦隊は攻撃を中止せよ」
「了解。全艦隊、攻撃中止!」
七大統治者の声と同時に、誰もがその変わり果てた〈滅びの方舟〉に見入る。
「〈滅びの方舟〉、損傷あり!損傷ダメージはーーー」
幾度となく重力シールドで波動砲やバスターレーザーから防御し無敵を誇っていた〈滅びの方舟〉に、目で分かる程の損傷があった。
七大統治者は仮面越しで笑みを零さずにはいられなかった。
とはいえ、だ。流石に攻撃してこないのはおかしい。
異常な程に上昇していたエネルギーが未だ健在だ。きっと何かあるに決まっている。
仮面を装着する七大統治者は現在も兵器充填中である〈スターダスト〉の盾となるよう、アタックムーン級、ガイエンブルク要塞に指令し、月軌道のアタックムーン級、要塞は引き続き月と地球の盾となる布陣を継続するよう指令する。
きっと何かあるに決まっている、はないほうが嬉しい、仮面を装着する七大統治者は思うのだが何故だか振り払うことが出来なかった。…だが、七大統治者のその考えは的を当てていた。
「統治者、敵方舟のコアに変化あり。エネルギー収束率を観測!」
「異常な数値です、波動砲をも上回っています計測不能!!」
突如として、コアが紫色を伴ったと思えば不気味な輝きを強めたのだ。
「〈滅びの方舟〉、我が〈スターダスト〉に切っ先を向けています。おそらくはそれが…」
統治者は副官の言わんとしていることを察した。
あれは、〈滅びの方舟〉は攻撃態勢に移行したことを、統治者は嫌でも理解した。
艦尾側?の形状とその切っ先がこちらにあることを確認した統治者は、艦隊を後方に下げるよう指令する。
アタックムーン級、全要塞は盾となる布陣を継続。
1分が経過した時、”それ”が〈滅びの方舟〉からやって来た。
「〈滅びの方舟〉、巨大エネルギーを放出!」
〈滅びの方舟〉の艦尾側?から、波動砲をも上回る強大なエネルギーが開放され、開放されたエネルギーは宇宙空間を席巻した。
薄紫色、あるいはピンク色にも近しい輝きは巨大なエネルギー流となって、〈スターダスト〉の盾となっていたアタックムーン級、ガイエンブルク要塞、ガイエスブルク要塞へと襲い掛かった。
直径が40kmあるガイエスブルク要塞はエリスフィールドを展開していたのにも関わらず、その防御を嘲笑うかのようにガイエスブルク要塞を2つ飲み込み、直径が準惑星ケレスと同等の900kmあるガイエンブルク要塞は耐えたかと思えば、貫通し巨大な穴を形成してしまい、その直線上にいた同型のガイエンブルク要塞もを同様に貫通そして巨大な穴が形成し、少しして爆散した。
爆炎の塊と爆散の余波に巻き込まれた3つのガイエスブルク要塞が爆散したガイエンブルク要塞の近くにおり、エリスフィールドを展開しつつ回避行動の最中で飲み込まれ爆沈してしまい、その周囲に展開していた30隻のエターナルストーム級Ⅱ型と数十隻のバスターレーザー搭載艦が巻き込まれてしまった。
〈滅びの方舟〉から放たれたピンク色のエネルギーの速度は落ちてはいるものの、止まることなく〈スターダスト〉の正面で防御の構えを執るアタックムーン級〈アインス〉にピンク色のエネルギーが衝突する。
ピンク色の粒子を舞い散らせる。
アタックムーン級は標準装備されているエリスフィールドに加え、多数の偏向シールド、そして重力シールドを装備している。
これらの防御兵装は、惑星破壊兵器の攻撃を防御することが可能であり、難なく受け止めることが出来る…筈だった。
ピンク色のエネルギーがアタックムーン級〈アインス〉の中央へと到達し衝突。
やがてそのピンク色のエネルギーは花を咲かせるように拡散し、〈スターダスト〉に直撃することは無かったが、後方で待機していた艦隊に拡散されたエネルギーが当たってしまい、エターナルストーム級Ⅱ型とⅡ型改を除き、数百隻以上が大破ないしは撃沈されてしまう。
「アタックムーン級〈アインス〉、中破」
だがそんな惑星破壊兵器を防ぐ筈のアタックムーン級〈アインス〉は中破状態となってしまい、統治者は驚天動地の動揺を感じた。
この攻撃により、全てのガイエスブルク要塞(月軌道に展開しているのは除く)と2つのガイエンブルク要塞が撃破され、アタックムーン級は中破状態となった。
「アタックムーン級〈アインス〉、後退せよ」
アタックムーン級〈アインス〉は月面弩級砲を〈滅びの方舟〉へ睨んだまま、後退していく。
そして、遂に…、
「〈スターダスト〉、前へ」
惑星破壊兵器〈スターダスト〉が動き出だした。
アタックムーン級と入れ替わった〈スターダスト〉はいつでも発射出来る状態である為、後は統治者より指示が下されるだけだった。
「オメガ・アナイアレイション・ランス、発射せよ」統治者より発射指令が下される。
オメガ・アナイアレイション・ランス。
惑星破壊兵器のコア内に設置された巨大な反応炉によって駆動され、地殻の下に存在する多数のシステムによって制御されている強力なエネルギー兵器
巨大な反応炉からこの超兵器オメガ・アナイアレイション・ランスに供給され、使用されれば目標は跡形もなく破壊される。
「発射!」
それが今、発射された。
紅の光芒が、〈滅びの方舟〉を襲い、閃光が宙域を覆った。
ズォーダーは、自分の身を置く方舟の中枢にて、ミドガルドの〈スターダスト〉からの攻撃を、忌々し気に注視していた。
「テレサめ……」
何故、あのような存在がいるのか?
何故、あのような存在を気づくことが私は出来なかったのだ?
次々と疑問が湧き、ズォーダーはより”彼女”を憎む。
相手は…テレサだ。
高次元世界にいるだけで、何も出来よう筈も無かったテレサは、よもや地球の〈ヤマト〉と同じくミドガルドが〈滅びの方舟〉を阻止することを見通していたというのか?
ふざけるな!千年の絶望、慚愧は全て無駄だというのか?
それに加え、だ。
〈滅びの方舟〉は、ミドガルドの攻撃に対し防衛策を実行しない。攻撃は一回は可能であったのにそれ以降は何故出来ない?
何故だ、何故、己と一体化した筈の〈滅びの方舟〉は、指示を受けつけない?
何故、何故、何故、何故!
「テレサめ…ッ!!」
憎しみを含めた言葉を放った直後、”彼女”の声が聞こえた。
「ごめんなさい」
「ッ――!?」
ギョッとして振り返るズォーダー。
そこには、方舟に身を捧げる際に共に生贄となったサーベラーが、何故か黒髪の姿で立っていた。それは、桂木透子として潜り込んでいたサーベラーの純粋体のコピーであった。
「サーベラー……お前が……? 」
制御機能は掌握していた筈なのに、まさか、奪取したとでもいうのか?
ズォーダーは驚きを隠せずにいた。
「私が、〈滅びの方舟〉を蘇らせてしまったばかりに……愛しい貴方に千年もの憎しみを抱え続けさせてしまった」
「……違う」
ポツリと、ズォーダーは否定する。それでも、サーベラーの口は止まらない。
次第に、耐え兼ねたのか、涙がポロポロと溢れ始める。これまで、ズォーダーが幾度となくサーベラーの命を奪った際に見てきた涙であった。
それを見たズォーダーは、己の内にある憎しみと絶望に対する感情が揺らいでいく。
愛を育んだ女性を奪われた事に対する、激しい憎悪で動き続けて来たズォーダーであったが、それは同時に、サーベラーに対しても相応の時間と記憶を重ねさせてきた証しであり、…彼女を己の手で殺した記憶も重ねている。
サーベラーも、記憶が戻るたびにズォーダーを静止し、彼に殺される記憶があり、重ねていった。
既に〈滅びの方舟〉の崩壊が始まっている。
「私が止めるべきだったのです。あの時、最初に〈滅びの方舟〉を見つけた時に。貴方には、そのような感情を持って生きて欲しくなかった。……なのに、私は…貴方を止めることが出来なかった」
そう語る彼女の姿が、やがてあの生きていた頃の、オリジナルのサーベラーの姿に代わっていた。
自分が押し付けたに等しい行為を、サーベラーは自分の責任だと涙を流す姿に、ズォーダーも耐え兼ねた。
「違う!」
今度は、ハッキリとした口調で、サーベラーの謝罪を遮る。
気づけばズォーダー自身の頬にも、流す事など絶対に無かった筈の涙を、彼はサーベラーと共に流していた。
「お前は、この私の願いにただ従っただけなのだ」
「しかし――!?」
ふと、サーベラーの身体を抱き寄せるズォーダー。それに驚くサーベラー。
この千年もの間、決して行わなれなかった抱擁だった。
ズォーダーは、逞しい腕と胸板に、サーベラーを出来る限り優しく、だが思いを強く乗せて包み込んだ。
「もういい」
驚き、ズォーダーを見上げるサーベラーであったが、ふっと笑みを零して、両手で彼の頬を優しく添える。
戦う事しかしなかったズォーダーが、より人間らしく、愛する事を覚えた、素晴らしいあの時代へ生きた彼が戻ってきた瞬間だった。
「もう、いいんだ……」
崩壊を告げる音が聞こえる中、少しして二人を包み込む強烈な光が漏れ始める。
しばらくすると、光のせいでお互いの姿は見えなくなってしまうが、二人にとっては些末な事。
それでもお互いが、そこにいるという暖かな感覚だけは伝わり続けている。それで充分なのだ。
命の灯が尽きるその瞬間まで、抱きしめるズォーダーとサーベラー。
「私は、お前をずっと、愛しているぞ、サーベラー」
「ふふっ、その言葉、そっくりお返しします、あなた」
そして二人の男女は、肉体が消滅する最後の最後まで穏やかな気持ちのまま――――生涯を終えた。
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