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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第16話 救出!バードス島

戦闘を終え、一息つく為にアースラ内へ帰還した一同を待っていたのは、高町なのはが機械獣に連れ攫われたと言う知らせであった。
その知らせを受けて皆が驚愕した。その中でも兜甲児の驚きようは半端ではなかった。

「リンディさん、すぐになのはを探しに行きましょう!」

居ても立ってもいられず進言する甲児。だが、その進言をリンディは暗い顔で跳ね除けた。

「残念だけど、それは出来ないわ」
「どうしてですか?」
「なのはちゃんを連れてった後、敵は高度なステルス機能を使ったみたいなの。あらゆるセンサーに引っ掛からなかったみたいで…それで…」

オペレーターのエイミィの言い方が妙に歯切れの悪い。それに苛立ちを感じた甲児が側にあった機器に思い切り手を叩きつける。

「どうしたってんだ? はっきりしやがれ!」
「落ち着くんだ甲児君!」

そんな甲児を宥めるようにハヤタが肩を掴む。だが、その手を払いのけて今度はハヤタに掴みかかってきた。

「あんたは、あんた等は良く落ち着いてられるな? なのはが敵に連れ去られたんだぞ! アイツ、まだシローよりも小さい子供なんだ! 心配じゃねぇのかよ!」
「心配だよ。だけど、だからと言って君が苛立ってて状況が解決するのかい?」
「そ、それは…」

其処で言葉が詰まった。言い返せないのだ。
こんな所で無駄に怒りをぶつけても捕まったなのはが帰ってくる事はない。そもそもそれ自体が無駄な行為だったと言う事は甲児とて理解している。
だが、それでも甲児自身苛立ちを抑えられなかったのだ。その証拠に甲児は付近の壁に頭を何度も何度も叩き付けて自分を責め続けていた。

「畜生、あの時俺が海底でモタモタしてなけりゃちったぁなのはを助けられたかも知れねぇってのに…」
「嫌、どの道無理だろうな」
「何だと!」

今度は隼人がそう言ってきた。壁にもたれかかり涼しげな顔で甲児に言い放つ。

「お前さんが居たのは名古屋だ。例え敵を倒してすぐさま陸路を走った所で現場についた頃にゃ事が終わってる頃だ。どの道お前さんが行った所で状況は好転しやしなかったさ」
「そんなの…そんなのやってみなけりゃ分からないじゃないか!」
「分かるさ。第一、もしなのはが敵に捕まった場面に出くわしたとして、お前その時どうやってそいつを助け出すつもりだ? ユーノの話から察するに相手は強力な電磁ネットを使ってたそうだ。そんなのに絡まれたらマジンガーだって只じゃ済まないだろうぜ」

またしても甲児は返答出来なかった。ユーノの進言が元だったのだ。
なのはを攫った機械獣は捕獲の際に強力な電磁ネットを使用していた。下手にあれに近づけば二の舞になったのは間違いない。

「今、アースラの機能をフル稼働させてなのはちゃんの行方を捜してるわ。だから、今は焦っては駄目よ甲児君」
「……分かりました」

流石に其処まで言われたら言い返せないのかすっかりしおれてしまった甲児が其処に居た。

「元気を出せよ甲児君。まだなのはちゃんが死んだ訳じゃないんだ。必ず助け出せるチャンスは来る」
「リョウ君…あぁ」

竜馬に励まされるのだが相変わらず元気がない。まるですっかり気が抜けてしまっていた。何時もの甲児らしからぬ現状だ。

「お前さん随分あのなのはって子に入れ込んでるみたいだな?」
「そんなつもりじゃねぇよ。只、アイツを見てると何か弟か妹みたいに思えてよ。何故か放っておけなくなっちまってさ…」

甲児にとってなのははシローと同じ様な存在だったのだ。例え血の繋がりがなくとも、自分を頼ってきて来るその姿を見たらどうしても助けたく思えて仕方ない。
それは弟のシローでも同じ事だ。兄としての本能なのであろう。

「とにかく、今俺達に出来る事は次の出撃に備えて万全の態勢になっておく事だと思うよ」
「本郷さんの言う通りだ。こんな時だからこそ疲れてる者は少しでも眠っておいた方が良い。甲児君とユーノ君は少し寝るべきだ」

ハヤタの意見に二人は勿論反論しようとした。だが、その意見もハヤタのひと睨みで掻き消された。
初めてだった。あのハヤタがあそこまで怖い顔で見たのは。
その顔で見られた二人は肝を潰されたかの様に黙って頷いた。

「ユーノ君、後悔している気持ちは分かる。だけど、そんな気持ちでは救える命も救えなくなってしまう。今は君の体を考えるんだ」
「はい…」

ハヤタは聞かれずとも理解していた。ユーノが心の奥で激しく自分を責め続けていた事を。
あのまま放っておけば、きっとユーノは単独でなのはを探しに行った筈だ。そうなっては返って彼の身も危ない。
そんな事をさせる訳にはいかない為の処置でもあった。仕方なく甲児とユーノはアースラ内に設置された自室に入り其処で少しの間眠りにつく事にした。
その間、残ったメンバーは機体の整備を行ったりレーダーの監視を行ったりしていた。
絶対に見つけ出す。そして助け出す。
皆が同じ思いを胸に抱きながら作業を進めた。だが、結果は得られず、一同の思いとは裏腹に空しく時間だけが過ぎ去っていった。




     ***




先ほどまで其処には巨大なロストロギアが存在していた。しかし、その姿は今は欠片も見当たらない。
既に破壊し終えた後だったのだ。そして、その中にあったであろう青い結晶体「ジュエルシード」は今、フェイトの手に持たれていた。
しかし、本来なら喜べる筈なのに彼女の心は深海の如く黒く曇っていた。

「フェイト、お疲れ様」
「アルフ…」

其処へオレンジの長髪に犬の様な耳を携えた女性が舞い降りてきた。年からして十代後半とも思える。
しかし、頭に生えた耳やズボンから見えている長い尻尾から察するにその女性が只の人間ではない事が一目瞭然でもあった。
そんな女性ことアルフはフェイトの手に持たれていたジュエルシードを見る。

「おっ! 早速封印したんだ。流石私のご主人様。優秀だねぇ」
「私一人の力じゃないよ。あの子の力があったからなんだ」
「あの子? あぁ、前にフェイトが話してた白い魔導師の子だっけ? あの子今はどうしてるの? 見当たらないけど」
「実は…」

フェイトはつい先ほど起こった事をアルフに話した。
巨大なロストロギアを倒す為に白い魔導師こと高町なのはと共闘した事。
そして、ジュエルシードを封印しようとした刹那、地面から現れた機械獣から自分を救う為自ら囚われの身となってしまったなのはの事。
その後の事など、フェイトは全てをアルフに打ち明けた。

「ふぅん、良かったじゃん。これでもうジュエルシードを狙う魔導師は居ないんだし、フェイトもこれからのジュエルシード捜索は楽になるね」

フェイトの気持ちとは裏腹にアルフは諸手を挙げて喜んでいた。
彼女もなのはの事は聞いていた。フェイトと同じくジュエルシードを封印出来る魔導師。つまりはフェイトとはジュエルシードを巡って争うライバルと言う事となる。
そのなのはが敵に捕まったのなら返って好都合と言えるのは事実であった。
しかし、それを聞いたフェイトの顔は更に暗くなっていった。

「あ、あれ? 私何か不味い事言った?」
「アルフ……私、どうしたら良いんだろう?」
「どうしたらって?」

アルフが首を傾げた。

「あの子は本当ならジュエルシードを最優先にする筈だったのに、なのに私の事を何時も気に掛けてくれた。それだけじゃない。あの時私の事を助けてもくれた。あの時、あの子が居なかったら…逆に私が敵に捕まってたかも知れない」
「そりゃ…そうだけどさぁ…あの子も運が無かっただけだよ。フェイトには関係ないって!」
「運が無かった…本当にそれだけで片付けても良いの? あの子が居なかったら、もしかしたら私はあの巨大なロストロギアに殺されてたかも知れない。あの子が居なかったら…今こうして立っていられなかったかも知れない」
「フェイト…あんたまさか」

嫌な予感がした。長年彼女の使い魔をしてきた際に培った勘と言うのだろうか。
こう言う場合に限ってその勘は当たるのだ。そしてそれは今回も当たる事となる。

「アルフ、私…あの子を、高町なのはを助けたい!」
「はぁ、やっぱりそう来ましたか…」

予想通りだと言う事を知りアルフは激しく落胆した。今から助けに行くと言う事は即ち敵の本拠地に乗り込む事になる。
それはかなりの危険を有する事でもあった。下手したら自分達も敵に捕まる可能性があるのだ。
本来なら願い下げでもある。が、そんな事を言ったら恐らくフェイトは一人でも助けに行く筈だ。
それを許したら使い魔の名折れである。

「分かったよ。私もフェイトの使い魔なんだし。こうなったら地獄の先までお供するよ」
「有難う。アルフ」
「どう致しまして。ところで、その高町なんとかって子の場所分かるの?」
「バルディッシュが教えてくれるよ。バルディッシュならあの子のデバイスの信号を辿れるから」

そう言ってフェイトは自身の手に持たれていた黒いデバイスを持ち上げて見せた。
それを聞いたアルフは何も言わず只首を上下に動かすだけであった。





     ***




なのはが連れて来られた場所はとても薄暗く、不気味な施設の中であった。
目の前には長い階段が作られており、その先には巨大なモニターが取り付けられていた。
そして、其処に居たのは青い肌をし、長い髭を蓄えた老人であった。
その老人がゆっくりと階段を下りてなのはに迫ってきていた。
だが、今のなのはに逃げる事は出来なかった。なのはは敵に捕まってしまったのだ。
両手を拘束され、左右には剣を携えた鉄仮面兵士が目を光らせている。少しでも妙な動きをすれば瞬時になのはの体をズタズタに切り裂けるようにだ。

(此処…一体何処なの?)

怯えた小動物の様な気持ちを感じながら、なのはは自分が連れて来られた場所を見ていた。あの後、機械獣ごと飛行要塞ブードに収容されてから長い時間なのはの視界は闇で閉ざされていた。
それから、気づいた時には今の場所に立たされていたのだ。
両手を拘束され、レイジングハートを奪われた状態で。

「Dr.ヘル! ご要望通り魔導師を一名捕獲して参りました」

階段を降り切った老人に向かい軍服を着た男が敬礼して進言した。
だが、その男の体に首と顔はなく、それは彼の手に持たれていた。
そして、その横には男と女が半分ずつで作られた怪人も同様に立っていた。

「ご苦労、ブロッケン伯爵。そしてあしゅら男爵。貴様も褒めて遣わす。貴様が広範囲に渡り邪魔者共をかく乱しておいたお陰で容易く事が運んだわ」
「いえ、そのせいでDr.ヘルのご自慢の機械獣達を無駄にしてしまいました。何なりとこのあしゅらめに罰を」
「己の失態を弁えているのであればそれで良い。今回は不問とする」
「はっ、寛大なるご処置にこのあしゅら、言葉が御座いませぬ!」

深く老人に向かいお辞儀をするあしゅら。そんなあしゅらを一瞥した後、今度はその老人は真っ直ぐなのはの目の前にやってきた。
近くで見ると凄まじい威圧感であった。年齢からして七十代後半とも思えそうなのに其処から見られる威圧感は年不相応であった。
その威圧感に押されたのかなのはは思わず後ずさりする。が、その刹那、両側に居た鉄仮面に肩を抑えられて無理やり止められてしまった。
そんななのはを近くで見ようと老人はなのはの顎を掴むと自分の方に向けて舐めるように眺め出した。

「ふぅむ、まさかこんな子供があのジュエルシードを封印出来るとは…にわかに信じられん事じゃ」

そう言うと、先ほどまでなのはの顎を掴んでいた手を無造作に振り払う。その拍子になのはの首は大きく揺れ動いた。
その後、再びDr.ヘルを見上げる。

「娘よ、貴様の名な何と言う?」
「……」

Dr.ヘルの問いになのはは押し黙った。恐怖で押し潰された訳ではない。だが、何でも敵の言う通りになりたくない。その強い思いがなのはの中にはあったのだ。
そんななのはを見てDr.ヘルは不気味に微笑みだした。

「ふん、芯は強いようじゃな。じゃが、分を弁えんと早死にする事になるぞ」

指をパチンと鳴らす。すると、両端に居た鉄仮面が腰に挿してあった剣を抜き放ち、なのはの首元に近づける。
刃物から放たれる独特の冷たさが更に恐怖心を煽り立てた。

「もう一度聞く。娘よ、名を何と言う?」
「……た……高町……なのは……です」

震える口調でなのはは答えた。それを聞いた途端、Dr.ヘルの顔色が一辺した。
先ほどまで眉間に大量の皺を寄せて不満そうな顔をしていたのが一辺して狂ったかの様に笑い出したのだ。

「がははははははっ! これは傑作じゃ! まさかあの男にこんな娘がおったとはなぁ!」
「え?」
「知らんか? 教えてやろう。貴様の父、高町士郎とは、かつて此処で出会った事があるんじゃよ」

Dr.ヘルの口から聞かされたのは思いもよらぬ真実であった。
父とかつて此処で会った事がある。一体何を馬鹿げた事を言っているのか?
なのはにはさっぱり理解出来ない話であった。

「信じられんと言う顔をしてるな? 無理もあるまい。まだあの頃はお主も随分小さかったからなぁ。最も、こうして面と向って会ったのは今日が始めての事じゃが」
「お、お父さんを…お父さんを知ってるんですか?」
「無礼者が! 口の聞き方に気をつけろ!」
「構わん!」

怒鳴りつけるブロッケンを黙らせて、Dr.ヘルは再びなのはを見た。

「そう、あれは数年前の事、ワシは古代ミケーネ伝説の謎を紐解く為、かつてミケーネ人が栄華を極めていたと言われる此処バードス島を訪れたのじゃ」




     ***




今から遡る事数年前。
世界にはこんな神話が残されていた。古代ミケーネの巨人伝説。
ギリシャ人の先祖ミケーネ人はかつて、エーゲ海に浮かぶ孤島バードス島を拠点に栄華を極めていた。
その島にはミケーネ人が蓄えた巨万の富が眠っていた。それを狙い各地の豪傑達が攻撃を仕掛けてきた。
だが、ミケーネ人は負けなかった。彼等は人知を超えた巨人を操り迫り来る豪傑達を次々に血祭りに上げて行った。
しかし、そのミケーネ人も相次ぐ天変地異の影響を受け高度な文明を残し滅び去ってしまった。
それから時は経ち、Dr.ヘル率いる調査班はバードス島へ上陸し、其処で古代ミケーネの伝説の巨人を発見したのであった。

「Dr.ヘル、これは正しく」
「うむ、正しくその通りだ兜博士。これぞ我々が長い間捜し求めていた古代ミケーネ人の遺産。古の巨人達だ」

その時、Dr.ヘルの中には一つの仮説があった。古代ミケーネ人が使用していた巨人とはそれはもしや巨大なロボットではないかと。
そして、その仮説は此処で見事に的中したのだ。
それを見つけた調査班は皆歓喜に震えた。

「皆! この巨人を我々の手で再び蘇らせよう!」

Dr.ヘルが音頭を取り、それを受けた殆どの調査班達が何の疑いもなく作業を行った。
誰一人、Dr.ヘルの企みに気づく事なく。
やがて、巨人の修復が完了した時、Dr.ヘルは遂に行動を開始した。

「皆良く聞け! 貴様等の働きのお陰もあって巨人達は無事に完成した。これよりこの巨人達を用いて世界を征服する。今日からこの巨人達を”機械獣”と命名する」

突然の発言に調査班の殆どが動揺した。

「Dr.ヘル。何を言っているんじゃ? それでは我々をどうするつもりなんじゃ?」
「もう貴様等に用はない! この機械獣達の試運転を兼ねて、貴様等を皆殺しにしてくれるわ! やれぃ!」

Dr.ヘルが持っていたバードスの杖を振りかざす。その杖の先から電波信号が発せられ、それと同時に機械獣が一斉に行動を開始。
調査班を次々と殺害し始めたのだ。
勿論、その悪の手は兜博士に迫ろうとしていた。だが、それを防いだ者が居た。

「危ない! 兜博士!」

咄嗟に兜博士に覆いかぶさる形で上に乗り、機械獣の攻撃から兜博士を守った青年が居た。
そう、その青年こそなのはの父高町士郎だったのだ。

「し、士郎君!」
「は、博士…お怪我はありませんか?」
「あぁ、これ位何ともないわい! それより君の方が重症じゃ! すぐに治療せねば」
「わ、私の事は構わず、逃げてください! 沖にボートがあります。それを使えば…逃げれます!」

その時の士郎は既に瀕死の重症を負っていた。
まともに歩ける状態ではない。そんな人間を連れては足かせにしかならないのは火を見るより明らかだった。
だが、それでも兜博士は士郎を捨てるつもりは微塵もなかった。

「馬鹿言え! お主やっと三人目が生まれたと舞い上がっておったではないか! その娘に寂しい思いをさせては父親失格じゃぞ!」
「ですが、このままでは私達二人共殺されます」
「なぁに、細工は流々仕上げをごろうぜろじゃ! アイツがこうする事なんぞこの兜十蔵。見抜ける筈がないわい!」

そう言うと兜博士が懐からあるスイッチを取り出しそのボタンを押す。
すると、後ろから迫ってきた機械獣達が突如その場で自爆し始めたのだ。
それは兜博士が事前に仕込んでいた小型の自爆装置だった。

「お、おのれ~、兜十蔵めぇぇぇ! まさかこんな装置を作っておったとは…」
「馬鹿たれめぇ! そう簡単に殺されて溜まるかい! 今回は大人しく引き上げてやるが、次はあべこべに貴様の寝首をかいてやるから覚悟せい!」

言いたい事を言い終えた十蔵は士郎を連れて遺跡を後にした。
追いかけたかったが、先ほどの自爆装置の為に機械獣は殆どが壊滅してしまい追撃出来る戦力はなかった。
その光景を前にDr.ヘルは苦虫を噛む思いであった。

「おのれぇ、兜十蔵めぇ、高町士郎めぇ、奴等さえ居なければワシの野望も達成出来たと言う物を…」

怒りと悔しさを胸にいきり立つが後の祭りであった。
結局機械獣を一から組み立てる事となってしまい、Dr.ヘルの計画は大きく遅れる結果となってしまった。
その頃、沖に辿り付いた十蔵と士郎はボートに乗りバードス島を後にしていた。
ボートを自動運転に切り替え、その間十蔵は士郎を出来る限り手当てしていた。

「しっかりせい! こんな所で死ぬなんぞ間抜けすぎるぞ!」
「は、博士…貴方の護衛を出来て…光栄でした…」
「馬鹿もん! 何を弱気になっとるんじゃ! ワシの目の黒い内は絶対に殺させんぞ! しゃんとせぃ!」

十蔵博士は必死に士郎を叱咤激励して死なせない努力をした。
その甲斐あって地元に辿り付いた後、重症ではあった物の一命を取り留める事が出来たのだ。
尚、その際の高町士郎の治療には兜十蔵博士が携わっていたと言う話も専らであった。




     ***




「今にして思えば、あの時貴様の父さえ居なければワシの計画は全て完璧に進んでいたのじゃ。兜博士を殺し、世界中の人間をワシの奴隷に出来たと言うものを…」

話し終えた頃にはDr.ヘルの顔は憤怒の如く怒り一色の顔色をしていた。その顔を見た途端なのはは自分の肝を握りつぶされた感覚を覚えた。
恐怖で体は震え上がり、奥歯は振るえ、目からは涙が零れそうになっていた。そんななのはを見ていたのかいないのか、Dr.ヘルは自身の顎を摩りながらなのはを見る。

「本来なら魔導師を洗脳してジュエルシード捜索に使おうと思っていたが、計画を変更するか」
「と、言いますと?」
「お前たち、この娘を牢獄へ入れておけ。ワシはこれからこの娘の持っていたデバイスの研究に入る。それが終わった後…その娘を貴様等鉄仮面と同じように改造してくれるわ!」
「!!!」

なのはを指差しDr.ヘルは宣言した。それは即ちなのはを殺して鉄仮面へと改造しようと言う事なのだ。
このまま此処に居ては自分は殺されてしまう。逃げなければ。
だが、そう思った時には既に遅く、鉄仮面に抱えられてそのまま運び去られている最中であった。

「い、嫌! いやいやいやぁ! 離して! 離してぇぇぇ!」
「ジタバタするな。どの道貴様に助かる道などないんだ。諦めるんだな」
「いや、いやいやいや、いやあぁぁぁぁぁぁ!」

無駄だと知りつつも必死に暴れ、泣き喚いた。しかしその声が誰かに届く筈もなく、なのはは薄暗い牢獄の中へと連れて行かれた。
数日後には高町なのはと言う少女はこの世から消え去る運命となったのだ。




     ***




暗く何もない空間。そんな中を甲児はひたすらに走っていた。
何故自分が此処まで走っているかは分からない。只、走らなければ何か大切な物を失ってしまうと思えたからだ。
やがて、走り続けていた甲児の目の前にポツンと小さな何かが現れた。此処からでは何なのか分からない。もう少し近づくしかない。

「あれは…あいつは!」

其処に居たのは間違いなくなのはであった。甲児に対して背を向けている。どうやら無事だったようだ。甲児の中で喜びの思いがこみ上げてくる。

「なのは! お~い、なのはぁ!」

甲児が名を叫び近づく。だが、なのはは全く反応しない。明らかに様子がおかしいが今の甲児には然程気にならなかった。

「どうしたんだよなのは。黙り込んじまってよ」

そう言ってなのはの肩を掴みこちらに振り向かせた。が、その時のなのはを顔を見た甲児は凍りついた。
其処には確かになのはが居た。だが、頭半分が切り取られ、ハッキリ見えた脳の上から改造を施された跡が出来上がっていたのだ。
そして、切り取られた箇所からは血がドクドクと流れ出ていた。

「な、なのは…お、お前…」
「甲児さん…甲児さん…こうじさん…こうじさん…コウジサン…コウジサン…」

なのはが手を伸ばしてこちらに迫ってくる。その際には仕切りに甲児の名を呟いていたが、呂律が回ってないのか徐々におかしな言葉へと変わっていく。
最終的には何を言っているのか分からなくなってしまった。




「うわああぁぁ!」

飛び起きた時、其処は甲児の自室であった。どうやら夢だったようだ。
しかし嫌な夢だった。体に触れてみるとジワリと汗で体が濡れてる事に気づいた。
体が汗を搔いた為か異様な気持ち悪さを感じた。

「くそっ! こんな時に寝てられるかってんだ!」

側の壁を叩き、ベットから飛び起きる。何時までも寝てる場合じゃない。体の調子を計ったが特に問題は見当たらない。ならば起きても問題はない。
そう思った甲児は部屋から飛び出した。
すると其処には自分と同じように部屋を飛び出していたユーノが居た。

「お前…」
「甲児さん…もしかして甲児さんも?」
「あぁ、嫌な夢を見ちまったもんでな」
「僕もです」

どうやら二人揃ってなのはが最悪な結果になった夢を見たようだ。あんな夢を現実にさせる訳にはいかない。
絶対にそうさせる訳にはいかないのだ。




     ***




Dr.ヘルが所有する研究室。その中には一際巨大なカプセルが取り付けられており、その中にはなのはのレイジングハートが入れられていた。
Dr.ヘルはこのレイジングハートの性能を分析し、あわよくば中に入れられているジュエルシードを手に入れようとしていたのだ。
しかし、研究は思うように進んでおらず、Dr.ヘル自身も苛立ちを感じ始めていた。

「いい加減素直に情報を提供したらどうじゃ? その方が貴様も楽になれるじゃろうて」
【お断りします。例え破壊されたとしても貴方に情報は提供致しません】
「ふん、強情な奴じゃ! それならそれでやりがいがあると言う物じゃが、さすがに飽きてきたわい」

そう言うとDr.ヘルはカプセル内の電圧を更に上げた。レイジングハートから電子が狂っていくような音が響きだした。

「ほれ、いい加減白状せねばお主の電子機器が破損してしまうぞ。そうなればあの小娘に用はない。バラバラにして鮫の餌となって貰うだけじゃ!」
【グガ……グガガ……】

何度言われようともレイジングハートは頑固を貫き通していた。
その様を見たDr.ヘルの我慢も流石に頂点に達したのだろう。
電圧レバーに手を掛けだす。

「もう良いわぃ。そう来ると言うのなら最早貴様に用はない。貴様もあの小娘同様海の藻屑となるが良いわ!」

電圧レバーを最大にまで上げようとする。
だが、その刹那であった。背後から何か気配を感じた。今まで感じたことのない気配だ。あしゅら男爵やブロッケン伯爵の物とは違う。
生々しい気配だった。

「何者じゃ!」

振り返ったDr.ヘルが見た者。それは、自身に向けて光の刃を放つフェイトの姿であった。




激しい爆発が起こった。その振動はなのはの閉じ込められている地下牢獄までも伝わってきた。
一体何が起こっているのだろうか?
疑問に感じたなのはは僅かに見える鉄格子の所から外を伺おうと顔を覗かせた。
以前と変わらず牢獄の外には二人の鉄仮面が見張りを行っている。

「ねぇ、何があったんですか?」
「知るか! 我等が知る事じゃない!」
「貴様は大人しく其処で座っていろ!」

なのはの問いに鉄仮面達は応える気などなかったようだ。
これでは情報を仕入れる事など出来る筈がない。しかし、だからと言って何時までも知らないままではいられない。
とは言え、今のなのはにはレイジングハートがない。これでは牢獄の扉をぶち破る事など出来る筈がない。
そんな時だった。外の方で何かが殴られる音が響いた。驚き、再び外を見る。すると、其処には先ほどまで見張りをしていた鉄仮面達が倒されており、代わりにオレンジ色の長髪の女性が立っていた。

「やれやれ、何処に居るかと思ったらこんなとこに居たんだ。あんた…」
「え? 貴方は、一体…」
「下がってな、ちょいと乱暴に破るからさ」
「は、はい!」

女性が言う通りになのはは下がる。すると女性は驚いた事に素手で扉をぶち破ってしまったのだ。明らかに人間の成せる業じゃない事は一目瞭然であった。

「す、凄い…」
「ほら、ぼぅっとしてないで早く逃げるよ。家のご主人様がどうしてもあんたを助けたいって言うもんだから来たけど、こんなとこ何時までも長居したくないからねぇ」
「は、はい!」

女性に無理やり掴まれる形でなのはは牢獄を出る。だが、その時には夥しい数の鉄仮面達が剣を抜き放ち迫ってきていた。

「ちっ、もう来たってのかぃ!」
「そんな、どうしよう…」
「しょうがない、ちょいと乱暴に行くか、しっかり捕まってなよ!」
「え? 一体どう言う…」

女性の言葉に疑問を感じたなのはが女性を見た時、其処に女性の姿はなく、代わりに同じ髪の色をした巨大な狼が其処に居た。

「え? えええぇぇぇぇ! 一体何がどうなってるのぉ!?」
「ゴチャゴチャ言ってないで早く背中に乗りな! 急いで逃げるんだからね!」
「は、はいぃぃ!」

言われるがままに背中に跨りしっかりとしがみつく。するとその狼は脱兎の如く道を駆け抜けていった。なのははそんな狼に必死にしがみつくだけでも精一杯であった。

「は、速いいぃぃぃぃぃ!」
「我慢しな! 捕まって切り刻まれたくなきゃねぇ!」

そう言われたら黙って従うしかない。一時の苦労と一瞬の死。どちらが得なのか、幼いなのはでもそれは理解出来た。まだ死にたくないのだ。
どれ位走った辺りだっただろうか。気がつけばバードス島の端の海岸にたどり着いていた。其処でようやく女性も止まり、それと同時になのははその背中からずり落ちてしまった。

「つ、疲れた~」
「ほら、しっかり立ちな。もうすぐ家のご主人が来るからさ」

女性がそう言いつつも元の姿に戻る。それから幾分も経たない内に別の方から爆発が起こり、その中から金髪の少女が出て来たのだ。その少女になのはは見覚えがあった。

「フェイトちゃん!」
「アルフ、無事に助け出せたんだね」
「見くびらないでよぉフェイトォ。あんな奴等に追いつかれる程私鈍足じゃないよぉ」

なのはの事は蚊帳の外の様にフェイトとアルフと呼ばれた女性は互いに会話を交えた。
それがひと段落すると、フェイトはなのはの前に歩み寄り、そしてなのはの手にそっと何かを手渡した。それは、紅く輝くレイジングハートであった。

「これは!」
「取り返してあげたよ。あの時…私を助けてくれたお返し」
「有難う、フェイトちゃん!」
「う、うん…」

改めて礼を言われると異様なくすぐったさを感じたのか、フェイトの頬が少し赤く染まった。しかし、何時までも此処に居る訳にはいかない。既に鉄仮面達が外に出ようとしている。

「なのは、私に掴まって!」
「え?えぇっと…」
「レイジングハートは修理しないと使えない状態みたい、それじゃ君は空飛べないみたいだし、だから」
「うん!」

頷き、なのははフェイトにしっかりとしがみついた。それを確認したフェイトとアルフは大空へと舞い上がった。
グングン高度を上げていき、バードス島がもう豆粒ほどの大きさにまでなっていた。
此処までくればもう機械獣が追って来る事はない筈だ。後は日本まで戻れば奴等も迂闊に手を出せなくなる筈。
そう思っていた。その刹那だった。
突如として周囲に爆発が起こった。
驚いた一同が見たのは、空を飛ぶ機械獣軍団であった。

「そ、そんな…機械獣が空を飛んでる!」
「馬鹿な奴等め! 我が主Dr.ヘルは既に大空を制したのだ! 最早貴様等に逃げ場などはない! 諦めて二人纏めてバードス島へ戻るが良い!」

その奥には飛行要塞グールがあった。そして其処にはブロッケン伯爵が居た。

「わっ、あの時の生首さん!」
「誰が生首じゃ誰が! 我輩の名前はブロッケン伯爵だって前にも言っただろうが!」

なのはの言葉に怒りを露にするブロッケン。どうやら相当気にしてるようだ。

「でもさぁ、自分で自分の首持ってたらそりゃ生首って言われても仕方ないんじゃないのぉ?」
「うん、私もそう思う」
「まだ言うか貴様等ぁ! えぇい、もう容赦せんわ! 機械獣軍団よ! 少々手荒でも構わん! そいつらをとっ捕まえろ!」

ブロッケンが命じると共に機械獣軍団が一斉に襲いかかって来た。
空を飛ぶ機械獣を相手に魔法少女では部が悪い。此処は逃げるのが一番だが、生憎逃げ道は全て塞がれている。
絶体絶命的状況であった。

「こうなったら…アルフ、あれやるよ」
「マジで!? こんな時にあそこ行く気? この子だって居るってのにぃ?」
「どの道このままじゃ私達も捕まっちゃう。そうなったら全てが水の泡になっちゃう。そんなの私は嫌だ! だから行こう」
「ぐっ…やるしかないってかぁ」

とても嫌そうにしているアルフだが、今はそんな事言ってる場合じゃないのは確かだった。仕方なくそれに従う事にしたようだ。

「行くよ、次元転移!」

フェイトが意味不明な呪文を唱え始める。するとその周囲に巨大な魔方陣が浮かび始める。

「ぬっ、何をする気かしらんが! そうはさせるか! 機械獣軍団よ! 一斉に掛かれぃ!」

急ぎ機械獣を向わせるもその時には時既に遅し。眩い閃光を放った後、その場には誰も居なくなっていた。

「き、消えただと? 馬鹿な! そんな不可思議な事があると言うのか?」

初めて魔法を目の当たりにしたブロッケン伯爵は驚きっぱなしであった。しかし居なくなったのでは探しようがない。

「ぐぅっ、何たる失態…よもや折角捕まえた魔導師を逃がしてしまうとは…仕方ない、今空飛ぶ機械獣を見られる訳にはいかん。撤退だ!」

どうやらまだ空飛ぶ機械獣軍団は試験用のようだ。それを今日本の戦力に見られるのは非常に不味い。
そう判断したブロッケンは急ぎ軍を引き上げさせていくのであった。



だが、引き上げていく軍勢を虚空の彼方から見つめる存在があった。
それらは、白いローブを纏った怪物であった。

「二人の魔導師が出会ったか、これで闘いは更なる局面へと傾く…だが、どの道世界のいく末は変わらん。この世界を制するのはDr.ヘルでも恐竜帝国でも、ショッカーでも、異星人達でもない! 我等【ゴルゴム】なのだ!」




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

少女はもう一人の少女に連れられてある場所にやってきた。
其処で少女は思いがけない事実を知る。

次回「時の庭園」

お楽しみに 
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