豊穣の女神
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第一章
豊穣の女神
サテトは豊穣の女神でありクヌム神の妻である。中年の人間の女の姿でありその冠には二本の羚羊の角がある。
その豊穣の女神についてだ、ある人間の子供が思って言った。
「豊穣の女神様なのに子供いないんだ」
「そうだよ」
年老いた神官が子供に応えた。
「あの女神様はそうだよ」
「そうだよね、子供がいないのに」
それでもとだ、子供は神官の言葉を聞いて言った。
「どうして豊穣の女神様なのかな」
「それはあの女神様を見ればわかるよ」
「サテト様を?」
「そう、そうすればね」
神官は子供に優しい声で話した。
「わかるよ」
「そうなんだ」
「よく見れば」
サテトをというのだ。
「それでね」
「それじゃあ」
子供は神官の言葉に素直に頷いた、そうしてサテトの働きを見ることにした。
サテトは夫の創造神クヌム、雄羊の頭を持ちろくろの前に座っている彼に対して強い声でこう言った。
「そろそろです」
「今年もその時になったか」
「はい、ですから」
それ故にというのだ。
「務めを果たします」
「そうするな」
「宜しいですね」
「そうしなければならない」
これが夫神の返事だった。
「何があろうとも」
「人そしてあらゆる生きものの為に」
「そなたが務めを果たさねば」
サテトがとだ、クヌムは自分の前に向かい合って座る妻に告げた。
「この世はどうにもならない」
「豊穣がもたらせられないので」
「だからだ」
それ故にというのだ。
「ここはな」
「はい、務めを果たします」
妻神は確かな声で答えた。
「これより」
「宜しく頼む」
夫神はその彼女に強い声で告げた、そうしてだった。
サテトは自身の治める場所から多くの水を放った、その水はナイル川の水源でありおびただしい水がだった。
ナイル川を流れた、それによってだった。
洪水となったその水が肥沃な土と泥をもたらした。その土と泥がだ。
「おお、有り難い」
「これで今年も畑をもうけられるぞ」
「麦を作るのだ」
「他の作物もだ」
「家畜も育てよう」
「今年もサテト様の恵みがもたらされたぞ」
「多くの土や泥が」
サテトがもたらしたものを喜ぶのだった。
「見事な豊穣だ」
「サテト様がまた我等の暮らしを支えて下さる」
「まさに豊穣の女神様だ」
「何と有り難い女神様か」
エジプトの者達は口々に言ってだった。
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