| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部 皇都編
  第二十二章―明かされる因縁―#4


「よう、リゼ、アレド」
「…おはようございます、リゼさん、アレドさん」

 少し休憩した後───冒険者ギルドへ赴くと、セラさんの傍らにガレスさんがいた。

 魔石の件は、冒険者ギルド───というか、ガレスさんには、もう少し情報を集めてから、状況に応じて相談しようということになったので、今日のところは、普通に挨拶するだけに留める。

「おはようございます、ガレスさん、セラさん」
「おはよう、ガレス、セラ」

 そんなに遅い時間ではなかったけれど、冒険者は朝が早いため、ギルド内は閑散としていた。

「その様子では、緊急の依頼などはなさそうですね」
「ああ、今のところ、リゼとアレドに頼まなければならないようなものはないな」

「では、今日の傾向としては、どの森で狩りを行った方がいいですか?」
「そうだな────エギドには幾つかのパーティーが入っているから…、二人はサデュラの森に行ってくれるか?」
「解りました。目撃情報などは出ていますか?」
「いや、今のところないな」
「そうですか。ありがとうございます、ガレスさん」

 私はガレスさんにお礼を言うと、レド様に向き直る。

「それでは───今日は、サデュラの森に向かいましょうか」
「解った」



 今日は、何事も無ければ、この通常の狩りの後で“デファルの森域”に出向き───ジグとレナスの魔獣討伐の訓練に併せて、私とレド様も魔術を使用した戦闘訓練を行う予定なので、手っ取り早く、レド様に【索敵】を行使してもらうことにする。

 サデュラの森の入り口に辿り着くと、誰もいないことを確かめたレド様は、早速【索敵】を発動させた。

 レド様の【魔術駆動核(マギ・エンジン)】にインストールされているこの【索敵】は、先の集落潰しでレナスが行使したものとは少し仕様が違い、レド様専用に編み上げたものだ。

 この魔術は、レド様の【千里眼】と【地図製作(マッピング)】を同時発動するようプログラミングされており、私の【心眼(インサイト・アイズ)】を併用したときよりも劣るが、通常の【地図製作(マッピング)】よりも広範囲をカバーでき、得られる情報も多い。

 レド様の正面に、縮小されたサデュラの森全体の【立体図(ステレオグラム)】が現れた。

「これは、何度やっても面白いな」

 楽しそうなレド様に、私は口元を緩めながら、レド様が創ってくれた【立体図(ステレオグラム)】を確認する。

 昨日、ブラッディベアの変異種の報酬を受け取りに行った際に聞いた限りでは、二日前にこのサデュラの森で、小規模だが集落潰しがあったばかりということなので───やはり、まだ新たな集落はできてはいないようだ。

 そのためか、今この森に入っている冒険者は私たち以外、誰もいない。

「こちらに、オーガが数頭、点在していますね。寄り集まって集落を造る可能性がありますので、今日はこちらを叩いておくことにしましょう」
「こっち側にいるオークやオーガはいいのか?」
「はい、そちらは残しておきます。コカトリスやオーク、それにオーガは食肉として需要がありますから、私たち冒険者は、魔獣は危険なので必ず狩りますが、魔物はなるべく狩り尽くさないようにしているのです。特に、私たちは今、魔物と魔獣の肉を必要としていて、買取をしてもらっていません。それなのに全部狩ってしまいますと、皇都民に食肉が行き渡らなくなってしまいます」

 魔素が極端に少なくて魔物があまり生息していないフィルト王国を除いて、この大陸では、魔物や魔獣の肉を食肉としている。魔物や魔獣の肉には魔素が多分に含まれているせいか、味や栄養価が格段にいいのだ。

 だから、鶏や牛、豚なども存在してはいるが食肉として利用されることはなく、鶏は卵を生ませるため、牛は乳牛として飼われているのみである。

 そういった事情で───集落を形成しての魔物の繁殖は危険なため阻止するようにしているが、はぐれが交配する分は放っておくというのが、暗黙の了解となっている。

 私がそう説明すると、レド様は納得したように呟く。

「なるほど。それで───魔物を討伐することを“間引き”と言うのか」

 ちなみに、内包する魔力量のせいなのか魔獣より魔物の方が劣化が早い。そのため、獲物が複数持ち込まれた場合、解体は魔物が優先される。

 ブラッディベアの変異種の解体が遅れたのは、二日前の集落潰しで持ち込まれた魔物が優先されたためだ。

 それに、ブラッディベアの肉は食べることはできるみたいだが、この国では熊肉を食べる習慣がないので、余計に後回しにされたという経緯がある。



 オーガの討伐は、難なく終わった。魔獣化しているならまだしも、ただの魔物───しかも、単体では、レド様の敵になるはずもない。

 すべてレド様が狩ったので、バドさんに選り分けてもらう必要もないため、解体まで済ませた。

 レド様は自分で【解体】を施すのも楽しいらしく、ご機嫌だ。

「解体まで終わっているのに、あまり早くギルドに戻るのは不自然ですので、少し早いですが、ここで昼食を食べてしまいましょうか」
「そうだな」
「そうしましょう」

 レナスも追従し、ジグも頷いた。


◇◇◇


 ギルドに戻ると、室内は、一旦戻って来た冒険者たちで賑わっていた。

 私たちと違って、街が近いのに、戻らずに危険な森の中で昼食をとろうとする冒険者は少ない。

 ちらほらと見知った顔が見えたが、視線は感じるものの───悲しいことに、私に声をかけてくれる人はいなかった。まあ、いつものことなんだけど。

 今日はレド様も一緒だし、余計に声をかけづらいのかもしれない。


 依頼の清算や獲物を預けたい───あるいは午後にこなす依頼を受けたい冒険者で、カウンターはごった返している。

 セラさんだけでなく、二人の受付嬢が入っているが手が足りておらず、ガレスさんもカウンターに入って処理を手伝っていた。

「もうちょっと人が少なくなるまで、あちらで待っていましょうか」
「ああ、そうしよう」

 別に依頼を受ける気はなかったが、レド様と二人で、暇つぶしに依頼書が貼り付けてあるボードへと向かう。

 冒険者は識字率が低く、大抵の冒険者は受付で依頼を紹介してもらうので、これだけ人がいるのにボードの前は空いていた。

「へえ、色々な依頼があるんだな」

 ランクを飛ばして冒険者となったレド様は、実力を伴っていない低ランカーが引き受けるような雑用をした経験がない。討伐以外の依頼が珍しいようで、依頼書を興味深げに眺めている。

「荷物運びと子守は解るが────買い物?」
「その依頼主は、足をケガしているみたいですよ。軽いケガなら、施療院にかかるよりは、治るまで買い物を頼む方が安く済みますから」
「なるほど。こっちは────草刈り?」
「依頼主はご老人らしいですね。自宅の裏に広がる雑木林の手入れをして欲しいようですよ」

「『庭に面した箇所にかぶれる草が生えていて、困っている』───それは困るな。それにしても…、皇都の中なのに、何故、雑木林があるんだろうな?」
「確かに。孤児院の裏にもありますし、どういった経緯で存在しているのでしょうね」

 そういえば、孤児院の裏のあの雑木林────何だかんだと忙しく、まだ手入れができていない。時間を見て、やっておかないと。
 ここ数日ほど会いに行けていないから、白炎様にもお会いしたいし。

 そんなことを考えていたときだった────

 ギルドの扉が大きな音を立てて勢いよく開き、青年が一人駈け込んで来た。

「お、お願いだ、助けてくれ!魔獣が出た…!」

 青年はフードつきのマントを着込んでいて────いかにも旅装という出で立ちだ。

 ガレスさんがすぐさま、カウンターから出て、青年の許へ駆け寄る。

「魔獣が出たのは、何処だ?」
「北門の近くだ。もうすぐ皇都というところで、3頭の魔獣に襲われた」
「魔獣が────3頭も?」

 通常、魔獣は魔獣化に伴って理性を失っているので、群れることはあり得ない。大抵の魔獣は出合い頭に殺し合う。

 それなのに────連れ立って、人を襲った…?

「と、とにかく、助けに向かってくれ!仲間が取り残されているんだ!護衛が戦っているが───魔獣を3頭も抑え切れるはずがない…!」

「北門近くの街道か?」
「ああ!」
「仲間と護衛がそこにいるんだな?」
「そうだ!」

 身なりはそれなりで───仲間がいて、護衛もいる。
 おそらく、この青年は商隊の一員だろう。

 レド様と視線を交わし、足早に人だかりを抜け出して、ガレスさんとその青年の傍まで行く。ガレスさんが、近づく私とレド様に気づいた。

「リゼ!アレド!」
「私たちが行きます。魔獣の詳細を教えてください」

 私が言うと、青年は驚いたらしく眼を見開いたが、時間が惜しいのだろう。すぐに答える。

「オーガ2頭と、ブラッディベアだ。巨大化と変貌をしている」
「解りました。────アレド、行きましょう」
「ああ」

 レド様と共に、踵を返す。言うまでもなく、姿をくらませたジグとレナスが、私たちの後ろをついて来る。

「オレたちも後から向かう!頼んだ!」

 背中にガレスさんの声が投げかけられたが、私たちは返事をすることも振り返ることもなく、ギルドを飛び出した。

 前回のとき同様───人通りが途切れた瞬間を狙って、【認識妨害(ジャミング)】を発動させる。

「北門の外まで一気に跳びます。ジグ、レナス、念のため、【認識妨害(ジャミング)】を腕時計のものに切り替えておいて」
「「御意」」

 皇都を囲う石造りの城壁に設けられた門は───朝に開門し、夕方に閉門する。兵士は一応詰めてはいるが、日中、門は開いたままで出入りを取り締まってはいない。だから、わざわざ(くぐ)る意味はない。


 行き先を北門を出たところにある街道沿いの小さな雑木林に定め───私は【転移(テレポーテーション)】を発動した。


◇◇◇


「あれか…!」

 雑木林に跳ぶと、目論見通り周囲に誰もおらず、誰に見咎められることなく【認識妨害(ジャミング)】を解除する。

 街道に出ると、遠目に───2頭のオーガと、ブラッディベアの姿が目に入り、レド様が叫んだ。

 誰からともなく駆け出し、奔りながら、私は【心眼(インサイト・アイズ)】と【把握(グラスプ)】を発動させるとノルンに呼びかける。

「ノルン!分析結果をレド様たちにも共有して!」

───はい、(マスター)リゼラ!───

 【心眼(インサイト・アイズ)】で視る限り、またもやというべきか───今度の魔獣も、魔獣化して変貌している割に内包する魔力が少ない。

 どの個体も大したことはないし、複数相手ではあるが今日はレド様がいるので、そこまでの脅威ではない。

 だけど───やはり、ネックなのは人目だ。

 そこには、商人らしき集団、その護衛らしき集団───そして…、護衛とは別に鎧を着込んだ集団がいた。鎧の胸当て部分に、レーウェンエルダ皇国の国章が彫り込まれている。

 あれは…、この国の───騎士だ。

 何故、騎士がここに────そんな疑問に呑まれそうになるが、今はそれどころではない。

≪今は考えても仕方がない。行くぞ、リゼ≫
≪はい、レド様≫
≪ジグ、レナス、何かあったら援護を頼む≫
≪はっ≫
≪御意≫

 馬車数台の傍に商人らしき集団が群がり、それを囲うように護衛らしき集団が陣取っている。護衛らしき者たちの中には、見るからにケガをしている者が何人か混じっていた。

 今───最前線に立って、3頭の魔獣を相手取っているのは、騎士たちだ。

 騎士は、人数的に一個小隊で───全員、馬から下りた状態で戦っていた。6人の盾役が魔獣化したブラッディベアを抑えているが、2頭の魔獣化したオーガに邪魔をされて、攻撃ができていない。

 それどころか───攻撃役であるはずの騎士たちは、ブラッディベアを抑える盾役にオーガ2頭を近づけないよう、剣や戦斧で抑えるので手一杯のようで────膠着状態に陥っている。

≪どうしますか、レド様≫

 魔獣の討伐で───しかも騎士との共闘なら、レド様に指示を仰ぐ方がいいだろう。

≪騎士が抑えているうちに、1頭ずつ屠る。あのオーガを抑えている騎士たちが一番危うい。リゼは、あのオーガを。俺は、あのブラッディベアをやる≫
≪解りました≫

 レド様はブラッディベアに───私はオーガの1頭に向かって奔り出す。

 2頭のオーガは、巨大化した上で、上半身が下半身に比べ異様に発達している。前世でいう“逆三角形”の体形だ。頭が不自然なほど大きく、毛に覆われた胸板は下半身の2倍以上はありそうだ。

 さて、どうするかな。

 弓でも取り寄せたいところだけど───商人たちとその護衛たちが、近づくレド様と私に気づいたらしく、こちらに目を向けている人もいるから、下手なことはできない。ここは────魔法を使うことにしよう。

 目的のオーガに、ある程度まで近づくと────私は、立ち止まって跪き、両手を突いた。地中の魔素を操って土を隆起させ、オーガへと向かわせる。

 瞬く間に隆起した土は、まるで蛇が鎌首を擡げるようにオーガに迫っていく。オーガに届く寸前、私は固定魔法【結界】を応用して、地中の魔素を結合させた。硬くなった土は、オーガを突き飛ばす。

 応対していた騎士たちが、驚愕のあまり一瞬動きを止めたのが見えた。

 私は再び奔り出して────自分で造り上げた土の道を駆け上がって跳び、飛ばされたオーガを追う。

「!?」

 突然、もう1頭のオーガが、相対する騎士たちから離れ、私の行く先を塞ぐように身を乗り出してきた。

 他の魔獣を庇うような────そのあり得ない行動に、私は虚を衝かれる。

「リゼ!」
「大丈夫です、レド様!」

 それなら────先にこいつをやるだけだ。
 ただ、首を刎ねるには私の位置が高すぎる。

 魔物も魔獣も眼球は高く買い取ってもらえるいい素材なのだけど────仕方がない。

 私は、【対の小太刀】を抜くと、それぞれをオーガの両目に突き刺した。

 皮膚よりは柔らかいとはいえ、魔力で強化されている眼球はそれなりに硬い。私は両腕に力を籠めて、脳に届くよう深く刃を押し込んだ。

 私を捉えようとして振り上げられていたオーガの太くて毛深い両腕が、力を失くして落ちるように下がる。

 命を失ったオーガは、ゆっくりと後ろに倒れていった。


 私はオーガの両目から小太刀を素早く引き抜くと───傾いだオーガを蹴って、再び跳び上がる。

 倒れゆくオーガの先には───先程、私が魔法で突き飛ばしたオーガが待ち構えていた。

 もう1頭のように、両手で私を捉えるつもりだったみたいだが、それを予測して高く跳んでいた私は、オーガの頭を飛び越えざま、身を捻った。オーガの後頭部に蹴りを放つ。

 オーガは、上半身が重いこともあり、あっけなく前のめりに倒れ込んだ。

 すかさず───すでにブラッディベアを討伐し終えていたレド様が、両手剣でオーガの首を斬り落とす。

 私は難なく、首を落とされたオーガの背中に降り立った。

 そして───2頭のオーガ、それにブラッディベアが、完全に絶命しているか、確かめるために見回す。

 今回のブラッディベアも、両腕と爪が異様に発達していた。


 レド様は、ブラッディベアの両腕を斬り落とした後───片足を斬って、倒れたところを同様に首を斬り落としたらしい。確か、以前も同じようなやり方をしていたな。

 私のように跳躍しないで倒すなら、巨大化している二足歩行の魔獣を討伐するには一番効率がいいやり方かもしれない。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧