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コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
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第一部 皇都編
  第十八章―惑いの森―#1


「それで───56頭の精霊獣と契約したの?」

 向かいに座るシェリアは、優美で繊細な模様が描かれたカップをソーサーの上に静かに置く。

 その声音は、少し呆れを含んでいた。

「うん…。大変だった────名前を考えるのが…」
「まあ、56頭もいればね…。よく、そんなにつけられたわね」

 【潜在記憶(アニマ・レコード)】を検索しまくりましたよ…。

 だって、皆、【契約】することを物凄く喜んでいて────期待に目をキラキラ輝かせているんだもの…。

 適当につけるわけにはいかないから、真剣に一頭一頭つけさせていただきましたとも…。

 全員と【契約】するのに、昨日一日かかってしまった。

 今日はロイドの授業を受けさせてもらおうと考えていたんだけど、さすがに気疲れがとれず────最近、シェリアとゆっくり話すこともできていなかったのもあって、午前中だけ休息をとらせてもらった。

 休息を申し出たら、レド様を始め、皆に勢い込んで賛成された。
 そんなに疲れているように見えたのかな?

「リゼには本当に驚かされるわね…。ネロを紹介されたときだって衝撃だったのに────現存する精霊獣すべてと契約するなんて」
「そうだよね…」

 まあ、でも、“伝説の精霊王”と【契約】をしたレド様には敵わないけど。

 ちなみに、精霊樹の傍で宙を泳いでいた海の生物たち────あれは、精霊に属するものには違いないが────精霊獣ではなく、アルデルファルムの眷属だそうだ。

 アルデルファルムは、ガルファルリエムに仕えるまでは海に棲んでいたらしく、その頃からの眷属だと言っていた。

 そのため、あの海の生物たちは、アルデルファルム───ひいてはレド様の配下になる。

 あの魚一匹一匹にまで名前をつけることにならなくて────本当に良かったよ…。

「今日も午後、殿下と共にその精霊獣の森に行くのでしょう?」
「うん。色々と決めなければいけないこともあるし…」

 それに────訊きたいこともある。
 それと、専用の工房を置かせてもらえないか、頼むつもりだ。


◇◇◇


 一昨日と同じように、湖にせり出た小さな半島にガゼボを出して、レド様、ジグ、レナスと共に昼食を摂る。

 今日はお弁当ではなく、レド様のリクエスト────オムライスだ。

「ルガレド様、これ、お好きですよね」
「ああ。だって、美味しいだろう?」
「それは美味しいですけど」

 三人は歓談しながらも、あっという間に平らげる。かなり大きめに作ったつもりだったんだけど…。

「ご馳走様、リゼ。今日も美味しかった」
「ご馳走様でした、リゼラ様」
「とても美味しかったです」
「ふふ、それなら良かったです」

 皆、本当に美味しそうに食べてくれるから、嬉しくなる。

 私が作る“洋食”の大抵は、“お兄ちゃん”に教わったものだ。
 “サブカル”に嵌っていた“お兄ちゃん”は、その資金を稼ぐため、近所の“洋食屋さん”でバイトをしていたので───その洋食屋さん直伝のレシピなのだ。

 ちなみにハンバーガーも、“ファストフード”のものではなく、その洋食屋さんで出されていたものを真似ている。



 食休みにお茶を飲みながら、この後のことを話す。

「リゼは、ここに工房を造るつもりなのか?」
「ええ、承諾してもらえるなら。ここは魔素も濃いですし、アルデルファルムがいるから魔物も人間も近寄れないですしね」

 エルフの隠れ里で手に入れたログハウスの手入れをしたいし、他にも創っておきたいもの、造らなければならないものがある。

「それと───できたら【転移門(ゲート)】も設置させてもらえたらと思っています」
「そうだな。それはぜひ頼みたいな」

「レド様の方は?」
「俺は、幾つか、アルデルファルムに確かめることがある。“刻印”のこともそうだが────精霊についてもだな」

 レド様は、アルデルファルムの主となったことにより、精霊を統べる存在となったそうだ。

 それがどういうことなのか────まだ詳細を聴けていない。

「リゼを───皆を護れるような力ならいいんだが…」
「レド様…」

 私を───大事な仲間たちを護りたいと思ってくださる、レド様のそのお気持ちが嬉しい。

「あ、リゼラ様、迎えが来ましたよ」

 レナスに言われて、対岸を見ると、あのときのように白狼───ヴァイスが佇んでいる。

 純白な毛並みが綺麗だから────(ヴァイス)

 結局、白炎様のときと似たような命名になってしまったけど、響きが似合っている気がしたのだ。

「しびれを切らせて迎えに来たか…」
「あの狼も、あの鳥───神に似た気配がしますよね」

 ジグ───“白炎様に似た気配”って何?


◇◇◇


<<<ルガレド、リゼラ───ジグ、レナスも、よく来てくれました>>>

 精霊樹の下にいるアルデルファルムが、首を擡げて、迎えてくれる。

 アルデルファルムの性別は聴いていないけど、私たちを見る目には、どこか母性のようなものが窺えた。

「こんにちは、アルデルファルム」

<<<…重そうですね、リゼラ>>>

 私が挨拶をすると、私の様子を見たアルデルファルムが言う。

 そう───私の肩や頭には、森を通り抜けるときにくっついてきた小型の精霊獣たちが乗っかっている。

 まあ、普通の獣ではないからか、そこまで重くないし、可愛いからいいんだけどね…。

「アルデルファルム、今日は話を聴かせて欲しい」

 レド様の言葉に、アルデルファルムはゆっくりとその長い首で頷いた。

 アルデルファルムの傍に、レド様が共通のアイテムボックスから、私が創って入れておいた円いテーブルとイスを取り寄せ、座る。

 私は、テーブルの傍の地面に座った。すると、すかさずヴァイスが横に伏せ、私の膝に頭を載せた。

 純白に輝く毛並みを梳くように撫でてあげると、ヴァイスは気持ち良さそうに、眼を細める。…可愛い。

「「「…………」」」

 ふと奇妙な沈黙に気づいて、顔を上げると────何故か、レド様とジグとレナスが、白炎様に相対しているときのような眼で、こちらを凝視している。

「ええっと…、アルデルファルムとお話をされないんですか?」
「………する」



<<<それで、何を聴きたいのですか?>>>

「まずは、精霊についてだ。どういった存在なのか、その主となるということはどういうことなのか、聴かせて欲しい」

<<<精霊とは、魂魄に魔素を纏う───いえ、融合させた存在を言います。人間は、肉体に宿った魔力を介して魔法を施しますが───精霊や精霊獣、そしてエルフは、魂魄を介して魔法を施します。
精霊獣もエルフも精霊が肉体を持った存在で───精霊は、魂魄のみの存在なのです。精霊は見えないだけで、どこにでも存在します。力の強い精霊は自我を持つものもいますが、大抵の精霊は自我を持たず、ただ宙を彷徨っています。ルガレド───貴方は、それらを従わせることができるのです>>>

「従わせる────というのは?」

<<<そうですね…、例えば魔法を行使するとき、自分の魔力だけでなく精霊に加勢させることができます。あるいは、精霊に命じて魔法を使わせることができます>>>

「精霊に加勢させるのは、俺だけでなく───リゼや他の者にもさせることはできるのか?」

<<<ええ、勿論。その場にいる精霊にそのように命じてさせることもできるし、自我を持つ精霊を付かせることもできます>>>

「それは───いいな」

 レド様は、嬉しそうに呟く。おいそれとは魔術を使えないから、魔法を強化できるなら、これはとても助かる。

<<<そういえば────貴方たちが【案内(ガイダンス)】と呼ぶあれも、生まれた過程が異なるようですが、精霊ですよ>>>

「え?」

 レド様とアルデルファルムの話を邪魔しないように黙っていたけど、アルデルファルムの思わぬ言葉に、私はつい声を上げてしまった。

 【案内(ガイダンス)】が“能力”ではなく────精霊?

「リゼ、どうした?」
「あ、いえ、意外な事実だったので…」
「まあ、確かにな」
「すみません、話を続けてください」

 後で、【現況確認(ステータス)】で確かめてみよう。



「精霊のことは理解した。それでは────あの刻印のことを聴かせてくれ。アルデルファルム、あれは何だ?誰に、どういった経緯でつけられた?」

 レド様が切り出す。

 確かに───それは気になるところだ。

<<<あれを刻んだ者が何者かは、私も知りません。私はガルファルリエムに貴方の───いえ、ガンドニエルムの世話を任され────傍に侍り、彼がこの世を去った後、眷属や精霊獣たちと隠棲していました。
そこに突如現れた者たちに、どうやってか身体の自由を奪われ、刻まれたのです。どうにか身体の自由を取り戻し、眷属たち、精霊獣たちと共に、その場でその者たちは撃退できましたが、刻印を消すことはできず────それから、しばらくはあの刻印により力を搾り取られていました。しかし、あるときを境に、ぱったりとそれが途絶えたのです>>>

 あれは、【心眼(インサイト・アイズ)】によれば────強制的に“聖女”に加護を与える【契約魔術(コントラクト)】だった。

 “聖女”────神の加護を受け、奇跡の御業(みわざ)である“神聖術”を行使できるという───伝説の存在。

 あれは、そうやって造られた存在だったということ?
 それとも────伝説の“聖女”を再現したかった?

「アルデルファルム、お前に加護を与えられた者は────魂魄の位階が上がるのか?」

 何か思い当たる節でもあるのか────レド様が、アルデルファルムに訊く。

<<<ええ。神ほどではありませんが、私は神に次ぐ位階の魂魄を持っておりますので>>>

「やはりか…」
「レド様?何か、心当たりでもあるのですか?」

「俺とリゼの【契約】────あれは、ただ主と守護者が誓いを立てるだけのものにしては、不自然だと思わないか?」
「…ええ、それは私も思います」

 支援システムだけでなく────ジグとレナスの件もあって、あの【契約】自体に違和感を感じてはいた。

「主と守護者を魔術で繋ぐのも目的の一つではあるかもしれないが…、あの【契約】の真の目的は、魂魄の位階を上げることではないか───と、俺は考えている」

 確かに、それならしっくりくる。

 魂魄の位階を上げれば────延命、魔力の増大、技能の昇華など、メリットは計り知れない。

 【配下(アンダラー)】との【契約】だってそうだ。

 あれは───あれの目的は、ジグとレナスのように───主と契約してその魔力により、配下の魂魄の位階を上げるためだとしたら────魂魄の位階が上がった存在を増やすことだとしたら────

「それなら…、アルデルファルムにあの刻印を刻んだのは────」

 アルデルファルムに刻まれていたのは────あれは、【契約魔術(コントラクト)】だった。

「おそらく…、古代魔術帝国か、それに(くみ)する者ではないかと思っている」

<<<その───“古代魔術帝国”というのは?>>>

 そうか───隠棲していたアルデルファルムが、人間の国の興亡など知るわけもない。

「約1500年前まで、この辺りを支配していた人間の国です」

 聴いても興味が湧かないのか、アルデルファルムはただ首を傾げた。

 まあ───刻印も消えたことだし、アルデルファルムにとっては、どうでもいいことなのかもしれない。
 
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