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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第220話:導かれた逃走

 颯人が何者かに操られているミラアルクとの戦闘に突入したのと同時刻、街には無数のアルカノイズが出現していた。場所はちょうど奏達が居る場所の直ぐ近く。それ故、報せを受けた奏と響は未来とエルフナインを逃がし自分達はアルカノイズを殲滅し街と人々を守るべく戦いに赴いていた。

「奏さん、翼さんはどうするんです!?」
「分かってる! だけどこの状況じゃ、ゆっくり翼を探す事も出来ないだろッ!」

 些細な事から口論となってしまい、席を外してしまった翼。自身の感情を制御しきれなかった事で彼女を追い詰めてしまった事に罪悪感と責任を感じた奏は、我に返ると直ぐに翼の後を追おうとした。が、そのタイミングでアルカノイズが街に出現。あおいや朔也と言った何時ものオペレーターではない女性オペレーターの声に急かされるような形で戦いに赴いた2人は、なし崩し的に翼の事を放置せざるを得なくなってしまっていた。

 その事が2人の焦りを加速させ、奏にしろ響にしろ心配などの雑念が邪魔をして何時もの動きが出来ずにいた。

「うわぁっ!?」
「響ッ! クソッ!」

 普段であれば木っ端の様に蹴散らせるアルカノイズ。それもパヴァリアとの戦いで出てきた特殊な能力を持つような個体ではない、そこらの雑魚と言っても過言ではないアルカノイズを相手に手を焼かされる2人。それでもギアの性能とこれまでの戦いで培ってきた経験で何とか持ちこたえてはいた。

「チィ、流石にこの数は2人だけだとなかなかにハードだな。翼の奴は大丈夫かな?」

 迫るアルカノイズの攻撃を捌きながら、奏は一足先にカラオケボックスから出ていった翼の身を案じていた。この状況、翼も当然報せは受けているだろうし戦っている筈なのだが、合流してくる気配もなくどこで何をしているかが分からない。

 これは少しマズいかと思い、響が本部に翼の所在について聞いた。

「あの、すみません! 今翼さんどこに居ますか?」
『SG-r03'、SG-r01は近辺で問題なく活動中。そちらも行動を続行されたし』
「いえ、ですから! 翼さんが何処にいるのかを聞きたいだけなんですって!」
『SG-r03'、作戦行動に不必要な質問は控える様に』
「あの、ちょっと!?」

 聞く耳持たず、今本部で管制をしているオペレーターは、響の質問には一切答えずただ只管に戦えとしか言ってこない。響と本部との通信は当然奏の耳にも入っており、その会話の内容に奏は苛立たし気に舌打ちをした。

「チッ、役立たず……」
『SG-r03、何か言いましたか?』
「何でも無いよッ! 響、今は目の前の敵に集中しろ! 何の意味もなくアルカノイズが暴れるなんて事ある訳がない!」

 今のところ暴れているのはアルカノイズだけだが、自然発生しないアルカノイズが意味もなく暴れるなどある筈がない。何処かで何らかの目的を持ってアルカノイズを使役している錬金術師が居る筈だ。

――向こうの錬金術師は残り2人。そのどっちかがコイツ等を指揮してる。でも何の為に?――

 パッと考えられるのは、連れ去られたミラアルクの奪還である。この攻撃は囮で、本命は本部に直接攻撃を仕掛ける事であると考えられなくもない。
 だが今本部には颯人が控えている。一応軟禁されていると言う形ではあるが、それでも本部が直接攻撃されるような事態になれば彼も動く筈だ。それに本部には輝彦もいる。そこを直接襲撃すると言うのは、正直に言って賢い選択とは言い難い。

 今ジェネシスに与している3人の錬金術師。彼女達は決して強敵と言う程の存在ではない。能力は厄介だが、奏達が本気で戦えばどうにかできる程度の手合いだ。だが彼女達はそれを自覚し、罠を張るなど策を巡らせて狡猾に動く印象が強かった。

 策を巡らせることを得意とする者達が、囮等と言う安易な策だけで本部攻撃などと言う愚を犯すとは思えない。となると、この攻撃には別の意図がある。

 奏がそこまで考えた所で、通信機の向こうが俄かに慌ただしくなった。

『え? ちょ、何をッ!?』
『貴様何をしているッ!』
『オーディエンスの出番はここまでだ。悪いが、全員暫く大人しくしていてもらうぞ』

 通信機から輝彦の声が響いたかと思ったら、次の瞬間彼が魔法を使った音声が耳に響く。

〈スメル、ナーウ〉

 その音声が届いた次の瞬間、奏達の耳に入ったのはオペレーターや査察官らの阿鼻叫喚の悲鳴だった。

『く、くさっ!? なになになにっ!?』
『ぐぉぉぉぉっ!? な、何だこれはぁぁっ!?』
『ゲホッ!? ゲホゲホッ!?』

「何だ何だ? 何が起きてる?」

 通信機越しでは何がどうなっているのか分からないが、兎に角発令所の中が酷いことになっているのだろう事だけは声だけで分かった。

『クソッ!? 出ろッ! ここから出ろッ!』
『あれ? あ、開かないッ!? 扉があかないッ!?』
『出してッ!? 出してくれぇッ!?』

 まるでパニック映画もかくやと言う阿鼻叫喚の声は、誰かが向こうで通信を切ったのか唐突に聞こえなくなる。そしてそれと入れ替わる様に、今度は聞き慣れたオペレーターであるあおい達の声が響いた。

『2人共、お待たせ!』
「友里さんッ!」
「あれ? 発令所今大変な事になってるみたいだけど、そっちどうなってるの?」

 先程の通信を聞く限りだと、発令所は阿鼻叫喚の地獄のような状況となっている筈。それなのにあおいは何てことは無い様な感じで通信をしてきたので、一体どういう事かと奏が首を傾げた。
 それに対し、朔也が苦笑交じりの声で答えてくれた。

『実はあの後、輝彦さんに呼ばれてさ』

 朔也曰く、輝彦は政府から送られてきた査察官達を一網打尽にする為の策を練っていたらしい。彼が発令所で控えていたのは、万に一つも査察官が何処かへ姿を消したりしないようにと目を光らせる為だった。鼻が利く査察官の男は、輝彦が目を光らせている事に気付いていたらしく怪しい動きを見せず大人しくしていた。或いは、先程颯人が彼に化けてやってきた事で、自分に成りすまされる事を警戒していたらしい。

 それが命取りとなった。輝彦は彼らが一塊になっている所で、全員を行動不能にした状態で発令所と言う檻の中に閉じ込めたのだ。

『で、暫く発令所が使えなくなるだろうからって事で、俺達は臨時の移動指揮車で待機してたんだ』
「なーるほど。流石は義父さんだ」

 そう言う事なら、もう遠慮はいらない。変な目で見られる事への心配も、余計な指示に振り回される心配もなかった。

「悪い、友里さん! 早速だけど、翼は今どこに居るッ!」
『ちょっと待って……あッ!』

 奏の要請に即座に翼の現在地を調べてくれたあおいの口から、焦りと驚愕の混じった声が上がった。その声に何やら嫌な予感を感じて奏の胃が縮む。

「何? どうしたの友里さん?」
『翼さんの位置を検知しましたが、そのすぐ近くに未来ちゃんとエルフナインちゃんの反応も検知したわ! それに、これは……!?』
『翼ちゃんの傍に、魔法使いの反応を検知! 恐らく敵の魔法使いと対峙してる!』
「「ッ!?!?」」




 奏と響がアルカノイズとオペレーターに悩まされていた頃、翼も1人単独行動をしていたところでアルカノイズの襲撃に遭遇。まだ避難が終わっていない人々を逃がす時間を稼ぐ為、単身シンフォギアを纏って迫るアルカノイズを果敢に切り裂き応戦していた。

「ハァァァッ!」
[千ノ落涙]

 広範囲の敵を一度に攻撃できる、翼の数少ない技の一つである千ノ落涙により無数のアルカノイズが切り裂かれる。主に砲撃型のアルカノイズを狙って放たれた無数の剣が、アルカノイズを次々と無力化し赤い塵を周囲に撒き散らす。

 一見順調そうに見える戦いを繰り広げる翼であったが、しかしその心中は決して穏やかとは言い難かった。

「はぁ、はぁ……くっ!」

 少しでも動きを止めると、先程の奏との口論が頭に浮かんでしまう。奏にあんな風に怒鳴られたのが酷く久し振りで、思わず逃げる様にあの場と立ち去ってしまった。その際一瞬だけ見えた、奏のやってしまったという顔が頭から離れない。あそこで逃げ出す様な事をせず、もっと奏とちゃんと話し合っていればと思わずにはいられなかった。

 雑念に囚われていたからだろうか。彼女が動きを止めた隙を突いて、何体かのアルカノイズが群がる様に襲い掛かって来る。それに気付いた翼は、咄嗟に雑念を振り払うように大剣に変形させたアームドギアを振るい迫るアルカノイズを一度に複数体切り裂いた。

「ハッ!」

 まるで八つ当たりの様な、破れかぶれにも見える攻撃。だが雑魚のアルカノイズ程度が相手であればこれでお十分なものであった。彼女が振り回す大剣により、アルカノイズが撫で斬りされ塵となって消えていく。

 そんな時、彼女の耳に聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえてきた。

「きゃあっ!?」
「未来さんッ! 大丈夫ですかッ!」
「ッ! なっ!?」

 翼が声のする方を振り返ると、そこに居たのはカラオケボックスに置いてきた筈の未来とエルフナインであった。2人の姿に翼は困惑を隠せなかった。

「2人共、何故ここにッ!」
「す、すみません!? 僕達も急いで逃げようとしてたんですけど……」
「行く先々にアルカノイズが出てきて、それから逃げてたら気付いたらここに」
「何だと……!?」

 何たる不運だと翼は頭を抱えたくなった。この突然の襲撃に、逃げ遅れた人々が数多くいるだろう事は想像がついた。だがよりにもよって、戦いの余波に巻き込まれまいとした2人がこんな所にまで迷い込んでしまうとは思ってもみなかったのだ。

 翼は迫りくるアルカノイズから2人の身の安全を守りつつ、本部に通信を送り安全に逃がせるルートの検索を行わせた。

「本部ッ! こちらに避難誘導を要する非戦闘員2名を確認! 急ぎ安全に脱出させられるルートの検索を求むッ!」

 普段あおいや朔也にするように、後方の支援を信じて送った通信。俯瞰的にこちらを見る事の出来る本部であれば何らかの安全なルートか策を考えてくれるだろうと思っていた翼であったが、返ってきたのは予想外の答えであった。

『SG-r01、現在周辺はアルカノイズに囲まれて安全なルートは存在しない。貴官には増援が向かうまで避難民の安全確保を命じる』
「なっ!?」

 翼は思わず言葉を失った。これがあおいや朔也であれば、比較的敵の包囲が薄い場所や踏破に適したルートの検索、ないし誰が増援に来てくれるか位までは教えてくれたはずである。だがこの時返ってきたのはあまりにも無情な指示。いっそ投げやりとも取れるその内容に、翼も黙ってはいられず抗議する様に再度的確な指示を請う。

「本部、それでは指示が曖昧過ぎるッ! せめて周囲の敵の展開状況などをッ!」
『SG-r01、その場で待機していなさい。指示に従わない場合、行動権を凍結し拘束する事になります』
「くッ……了解」

 何を言っても無駄と判断したのか、翼は本部との通信を切ると周囲を囲むアルカノイズに向け剣を構えつつ未来とエルフナインを背後に庇う様に立つ。
 守られる形となった2人は、自分達が翼の邪魔となってしまっている状況に申し訳なさを感じずにはいられず身を寄せ合いながら暗い表情で頭を下げた。

「翼さん……ゴメンなさい。私達の所為で、邪魔を……」
「気にするな。2人共、私の大切な仲間だ。立花と奏なら必ずこちらに気付いてくれる。それまでの辛抱だ!」

 自らに喝を入れる様に声を上げ、アルカノイズからの攻撃に備えようとする翼。だがいくら身構えても、アルカノイズは3人を取り囲むだけで一向に攻撃を仕掛けてくる気配が無かった。
 その様子に翼は強い違和感を感じた。先程までは破壊工作を目的としているかのように辺り構わず攻撃をしていたアルカノイズが、今は自分達の事を遠巻きに見ているだけで何もしてこない。その背後や周囲では他のアルカノイズが変わらず攻撃を続行しているにも拘らず、だ。

 何故アルカノイズは突然攻撃を止めたのか? 翼がその事に疑問を持った次の瞬間、彼女は背筋に氷柱を挿し込まれたような感覚を覚え咄嗟にあらぬ方へ向けて蒼ノ一閃を放った。

「フッ!」
[蒼ノ一閃]

 宙を飛ぶ青い斬撃があらぬ方向へ飛んでいくのを、未来とエルフナインが思わず目で追った。するとその先から、ほぼ同じタイミングで無数の光弾の様なものが飛んできて青い斬撃とぶつかり合い爆発を起こした。
 咄嗟に蒼ノ一閃である程度は相殺できたが、立て続けに飛んできた光弾に翼は未来とエルフナインが巻き込まれると判断しアームドギアを大剣にして2人を庇う様に攻撃を防いだ。

「伏せろッ! くッ!?」
「翼さんッ!? きゃぁっ!?」
「わぁぁっ!?」

 次々と降り注ぐ光弾……それは魔法の矢であった。無数の魔法の矢は翼だけでなくその周囲にも被害を及ぼし、その余波で周囲を取り囲んでいたアルカノイズが巻き込まれて数を減らしてしまった。

 魔法の矢による攻撃に耐える翼。それが唐突に終わり、周囲を警戒しながら大剣を下ろして油断なく視線を巡らせると、彼女の前に1人のメイジが姿を現した。くすんだ茶色い仮面の剣を携えたメイジ……それはこれまでにガルド達が何度か戦ってきた、敵の幹部であった。

「貴様は……!」

 魔法使いベルゼバブ、その出現に翼は剣を構えながら冷や汗を流さずにはいられなかった。 
 

 
後書き
と言う訳で第220話でした。

原作では響の足を引っ張るような指示しか出さなかった政府からのオペレーターですが、本作だとちょっぴりお仕置き。輝彦により激臭のスメルの魔法を使われた挙句発令所に査察官共々閉じ込められています。因みに魔法を使った後、輝彦は用事を済ませて自分はさっさと外に出て扉を封鎖しました。

一方外では原作と違い翼が未来とエルフナインを守る展開に。攻撃の読めないベルゼバブを相手に、翼がどう立ち回るのかにご期待ください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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