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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第218話:双翼の不協和

 
前書き
どうも、黒井です。

今回はちょっと筆の進みが悪かったので何時もに比べて大分薄味です。原作でのカラオケボックスでの一幕になります。 

 
 日本政府によるS.O.N.G.による査察が決まり、颯人は本部に軟禁、他の者達は全員特別警戒待機と言う名の暇を言い渡された。休息と言えば聞こえはいいが、重要な本部で行われる査察の邪魔にならない様にと放り出された形になる装者達は、大なり小なり面白くないものを感じつつ下手な動きを見せる訳にもいかないと言う事で各々与えられた余暇を何とかして潰していた。

 そんな中で、純粋にこの余暇をある意味でしっかり楽しんでいる者達が居た。響と未来、そして奏と翼にエルフナインを加えた一行だ。傍から見るとこれは少し珍しい組み合わせだ。響と未来、奏、翼まではまだ分かる。この4人は少し前にも余暇を利用して気晴らしに出かけようと言う話をしていた。だがそこに何故エルフナインが居るのか?

 その理由は至極単純で、休日の楽しみ方を知らないと言うエルフナインの事を考えての事であった。何しろエルフナインときたら、休日であろうとも仕事をぶち込んで黙々と錬金術の知識を集めたりと絶えず頭を働かせているのである。しかも本人はそれを仕事とは思っていないと言う有様。アリスからも休む様に言われているにも関わらず、錬金術関連の分厚い時点のような本を読み漁ったりする位である。

 先日突如特別警戒待機を言い渡され何をするかで悩んでいた時、何気なく響がエルフナインに問い掛けた際に判明した事であった。
 これはいけないと、見兼ねた響はクリスらからの勧めもあり彼女達の外出に同行させる事となった。休日の楽しみ方を知らないと言うエルフナインを伴っての外出。最初こそ戸惑っていたエルフナインだったが、それも直ぐに順応し今ではカラオケを楽しむ余裕すらあった。

 ノリノリで歌うエルフナインを見て、楽しそうに笑う響と未来。翼もエルフナインの歌を純粋に楽しんでいるのだが、唯一僅かにだが顔に影を落としている者が居た。誰あろう、それは奏であった。

「ふぅ……」

 時折隣から聞こえてくる、奏のアンニュイな溜め息。嫌でも耳に入るそれに、翼も気まずそうにしながら奏の顔を覗き見る。

「奏、その……やっぱり颯人さんの事……」
「え? あ、あぁ~、悪い悪い! 変に辛気臭くしちまって!」

 気遣う様な翼の態度に、奏も取り繕う様に笑みを浮かべるが無理をして浮かべた笑みは逆に翼を不安にさせた。別にこの場の誰にも颯人が軟禁された事に対する責任は無いのだが、パートナーとして、何より政府に近い存在の人間として、今の奏を見て見ぬふりをする事は出来なかった。

「……ゴメン、奏」
「な、な~んで翼が謝るんだよ? 別に翼が悪い訳じゃないってのに」
「いえ、違うの。あの時は言えなかったけれど……その……」

 暫し言いよどむ翼。明らかに雰囲気を変えた彼女の様子に、気付けば響と未来までもが翼に注目している。気にしていないのは熱唱する事に夢中になっているエルフナイン1人だけ。4人が少なくとも楽しいとはかけ離れた顔をしている中、エルフナインの歌が響き渡っているのが何とも異様な光景であった。

「……た、多分……いえ、間違いなく……今回の一件には私の血縁である、風鳴 訃堂が関係している」
「訃堂……って!」
「えっと、確か……」

 風鳴 訃堂と言えば、S.O.N.G.の装者達にとってある意味で因縁深い存在である。何しろ先のパヴァリアとの戦いの終盤、神の力に取り込まれて異形と化してしまった響に対して容赦なく攻撃命令を下した男だからである。それだけでなくあの戦いでは度々口出ししてきた事などから、奏は彼に対して良い印象を持っていない。装者の中であの男に良い印象を持っているかも怪しいが。
 そんな訃堂がまたしても干渉してきた。しかもその所為で颯人が軟禁される事になってしまったとなれば、奏としても平静を保つのは難しく瞬間的に激昂した表情を浮かべた。

 このままだと奏が激情を翼に叩き付けてしまうのではと不安を抱いた未来であったが、肝心の奏は喉元まで出掛かった言葉を飲み込み目を瞑り大きく息を吐く。たっぷり数秒かけて肺の中の空気を吐き切ると、それまで彼女から感じられた荒々しい雰囲気が霧散したのを響達も感じた。

「そうか……まぁ、何となくだけどそうなんだろうなって気はしてたよ」
「奏……?」
「でもだからって別に翼の事を責めようなんて気はさらさらないから、心配するな。いけ好かないのはあの男であって翼じゃない。翼が責任を感じる様な事は何一つないよ」

 奏は己の感情を押し殺して翼に責任を求めることはしなかった。実際翼に何が出来たかと言われれば、何と答えればいいかは奏にだって分からない。翼が一言声を挙げればそれで訃堂が下がってくれると言うのであれば話は別だが、あの男は身内からの言葉を聞くような可愛げのある人間ではないだろう事は容易に想像できる。今まで日本を守る為に戦ってくれた響でさえ容易く切り捨てる様な男なのだ。必要とあればS.O.N.G.自体に手を出す事も厭わない。ましてや颯人個人など、訃堂からすれば木っ端も同然だろう。

 だから翼は何も気にする事は無い。奏は彼女にそう告げたのだが、それで納得いかないのが翼だった。

「でもッ! それでも、私にはあの人の血が流れてるんだ……あの人と同じ、防人の血が……」

 今この瞬間、翼にとって防人と言う言葉は呪いに等しかった。国を守る為の剣であれと言う訃堂の考え。それに心の何処かで共感し、理解を示してしまっている自分を意識してしまっている翼は、心の何処かで颯人の今の扱いを妥当と考えてしまっているのではないかと言う不安に駆られてしまっていた。

 煮え切らない翼が自責の念に駆られているのを察した奏は、努めて落ち着いて彼女を落ち着けようとする。だがそれが逆に彼女を追い詰めた。颯人を除いて奏に最も近い人間であるからこそ、翼は理解していた。奏がどれ程颯人の事を大事に思っていて、今もどれ程の不安を感じているかを。その不安の遠因に自分も居ると考えると、翼は心穏やかではいられなかった。

「別に翼が何かしたって訳じゃないし、あの状況は颯人が自分から選んだ事だ。確かに颯人の事は心配だよ。だけど、それはそれこれはこれだ。アタシは翼が悪いなんてこれっぽっちも思っちゃいないから――」
「そんな簡単な話じゃないッ!? どう足掻いても、私には防人の血が流れてる。その防人の血が、どこかで颯人さんの扱いを肯定してしまっているんだ……」
「それは気のせいだッ! 何度も言うが、翼は……」
「どうしてそこまで信じられるのッ!」
「じゃあどうすればいいんだよッ!」

 遂に翼だけでなく奏までもが声を荒げた。それまで堪えていたものが噴き出したかのような奏の声に、翼は肩をビクンと震わせエルフナインも歌うのを中断してしまった。音楽以外何も聞こえなくなった室内の様子に、我に返った奏は辺りを見渡し怯えた目を向ける翼を見て思わず目を泳がせる。

「ぁ……ぁ、悪い。違うんだ翼。アタシは、別に……」

 久し振りに翼の事を怒鳴ってしまった。その事に居た堪れなさと申し訳なさを感じた奏は、翼に何と言葉を掛ければいいか分からなくなってしまい、意味のない言葉を口にしながら手を伸ばすしか出来なくなる。すると翼は、自分に伸びてきた奏の手に思わず立ち上がると顔を伏せて部屋から出て行ってしまった。

「ゴメン……少し、頭を冷やしてくる」
「あ、翼……」
「「「翼さんッ!」」」

 奏と響達が呼び止める言葉も無視して部屋から出て行ってしまった。彼女の後ろ姿に奏は一瞬その後を追おうと一歩足を前に踏み出すが、もう片方の足はまるでその場に縫い付けられているかのように動かなかった。

 足が動かない事に奏が唖然としている間に、翼の姿は見えなくなり慌てて後を追おうとした響が扉から顔を出した時には翼は角を曲がっていってしまっていた。
 もう今からでは後を追っても追いつけそうにない。何より振り返ればそこには唖然とした奏が居る。どちらを優先すべきか分からなくなった響は、思わず未来、エルフナインと顔を合わせ不安そうに何度も部屋の中と外を交互に見るしか出来ないのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第218話でした。

原作だと響と未来が険悪な雰囲気になりましたが、本作では翼と奏が雰囲気悪化です。本当はもうちょっと話を進めたかったんですけど、筆が上手く乗らなかったので今回はここまででご勘弁を。次回はもう少しボリュームを上げられるよう頑張ります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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