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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第217話:巡り合う策謀

 ワイズマンに連れられて逃走したヴァネッサとエルザ。2人が連れていかれたのは、それまでジェネシスが隠れ家にしていたのとは別の場所であった。見覚えのない空間は何処かの城の内部の様だが酷くボロボロで、廃墟である事は直ぐに見て分かった。だが完全な廃墟かと言うとそうではなく、所々にビニールシートなどがあり何らかの補修ないし調査が行われたような形跡がある。それもそう古いものではなく、どちらかと言えば真新しい。

 キョロキョロと辺りを見渡していた2人は不意に壁に穴が空いているのを見てそちらに近付き外を見てみると、そこに広がる荒廃した街並みとその向こうに広がる人々の営みの光景にここが何処なのかを理解した。

「ここ、まさか……!」
「チフォージュ・シャトー?」

 そう、今彼女達が居る場所は、嘗てキャロルとの戦いで廃墟と化したチフォージュ・シャトーと東京都庁址であった。融合獅子機の爆発により広範囲が被害を受けた中、爆心地に直下であったにもかかわらず建物としての外観は維持しているこの場所は、日本政府に管理され何物をも立ち入りを禁止されている。それはS.O.N.G.も同様であり、弦十郎達はここで何が行われているかを知らなかった。

 そこに目を付けた訃堂が、手を組んだワイズマンに日本での拠点の一つとしてここを提供したのである。

「アジトとしては悪くなかろう? 案外居住性も悪くない。それにこんな近くに我々が潜んでいるとはS.O.N.G.の連中も思うまい」
「灯台下暗しと言う訳でありますか」

 エルザの言う通り、ここに拠点を構えているとはS.O.N.G.も思っても見ないだろう。何よりジェネシスの魔法使いは転移魔法で好きな所に移動し、出入りを悟らせる事なくここを利用できる。生活音や灯りが漏れるのにさえ気を付けていれば、この場所がバレる事はそうそうない筈だ。

「それより、ミスター・ワイズマン。早くミラアルクちゃんを助けに来たいんですけど?」
「そうであります! このままだとミラアルクが……!」

 訃堂、そして日本政府は表向きはジェネシスとは無関係と言う姿勢を貫いている。そんな中でS.O.N.G.に囚われたミラアルクの存在は、文字通り訃堂達からすれば邪魔者でしかない。うっかり自分達とジェネシスとの関係をバラされたりしようものなら、立場が悪くなることは想像に難くない。そうなる前に助け出さなければ、最悪ミラアルクが口封じの為に消されてしまう。

 それを危惧した2人が必死にワイズマンに訴えかけるが、メデューサとベルゼバブが杖と剣を突き付けワイズマンに詰め寄ろうとする2人を無理矢理下がらせた。

「下がれ、それ以上ワイズマン様に近付くな」
「あの女よりも先に消されたいか?」
「くっ!?」
「でもッ!?」

 真正面から戦えば自分達ではジェネシスの幹部に勝てない。それを理解しているヴァネッサは苦い顔をしながらも堪えて下がり、エルザは不満を口にしながらもそれ以上前に出る事は出来ずにいた。

 力尽くで押さえつけられる2人を前に、しかしワイズマンは何処か楽しそうに喉の奥で笑いながら口を開いた。

「ククッ、まぁそう焦るな。何事にも段取りと言うものはある物さ」
「段取り?」
「そうさ。ウィザードは切り札となるカードを手に入れたと思っているだろうが……フフフッ、果たして本当にそうかな?」




***




 颯人が査察官を相手に交渉している頃、彼がミラアルクを連れて行った医務室ではちょっとした騒動が起こっていた。

「う、ぐ……」
「はぁ……! はぁ……!」

 医務室奥の集中治療室。ハンスが寝かされているのとは別の部屋で、アリスが床に倒れその前に憤怒の表情をしたミラアルクが拳を振り抜いた姿勢で肩で息をしていた。興奮を抑えきれていない様子のミラアルクの目は薄っすらと血走っており、そんな彼女の服の裾をキャロルが必死に引っ張って抑えようとしていた。

「止めろ……!?」
「うるせぇ、離せッ!? コイツが、コイツの所為で……!?」

 颯人がミラアルクをここに連れてきて奏達の所へ戻った後、状況を理解できていない彼女をアリスは取り合えず飲み物を渡して落ち着かせた。薄々ここがS.O.N.G.の本部である事は分かるのか最初警戒していたミラアルクだったが、穏やかな彼女の雰囲気に次第にミラアルクも一応の冷静さを取り戻した。
 そして彼女が落ち着いた頃合いを見計らって、アリスは自分達がミラアルクの肉体的事情を把握している事、そして自分がその遠因である事を正直に伝えた。

 それを聞いた瞬間、ミラアルクは先程と別の理由で冷静さを失った。直接的ではなくとも、自分達が人生を狂わされた原因の一つとなった相手が目の前に居るのだ。冷静でいられる筈がない。
 気付けばミラアルクは拳を握りアリスを殴り飛ばしており、その騒音を聞いて隣の部屋でハンスを見舞っていたキャロルが飛び込み慌ててミラアルクの服の裾を掴んで引っ張り今に至っていた。

「本当に……本当にお前が……!?」
「え、えぇ……そうです。あなた達に施された処置の大本となる技術は私が考えだしました」

 激昂するミラアルクの問い掛けに、アリスは殴られて赤く腫れた頬を押さえながら起き上がった。違和感を感じるので口の端を親指で拭うと、僅かにだが血がこびり付いていた。殴られた拍子に少し切れたらしい。ミラアルク達は肉体改造の影響で身体能力も大幅に向上している。しかも今の瞬間、ミラアルクは激昂のあまり容赦を忘れていた。普通に考えれば口の端を切るどころか頭が捥げていてもおかしくはなかっただろう。そうなってはいないのは、真実を聞けばミラアルクが激昂して自分を殴って来るだろう事を見越して密かに錬金術で肉体をアリスが強化していたからだ。

「本当に、申し訳なく思っています。私がこんな技術を生み出さなければ、あなたも、あなたのお仲間もこんな事にならずに済んだ」
「その程度で済むと思ってるのかよッ!? お前が、お前が居たからアタシ達はこんな目に……!?」

 ある意味で仇でもあるアリスを前に、ミラアルクは激昂しながらも涙を流していた。自分の中で暴れ回る感情を抑えきれず、訳も分からず涙を流していたのだ。怒り、憎しみ、悲しみ、その他いろいろな感情が綯い交ぜになり、それが涙となって止め処なくミラアルクの目から零れ落ちる。

 激昂しながら涙するミラアルクの姿に、アリスも胸が締め付けられる思いをしていた。目的があってのこととは言え、自分が生み出しそしてしっかり管理しなかった技術で不幸になった者が居る。自分の罪の重さを改めて再認識し、自己嫌悪に陥るがそれを堪えてアリスは贖罪の為の一歩を踏み出した。

「ですから、償いをさせて欲しいのです」
「償い?」
「そうです。あなたの体がそんな事になってしまったご術の大本を作り出したのは私です。つまり、基礎理論を私は隅々まで理解しています。であるならば、その逆の事も出来る筈……いえ、違いますね。出来る筈ではありません、やります」

 強い決意を感じさせるアリスの言葉と視線に、ミラアルクも思わず気圧され後退りそうになる。それを気合で押さえながら、ミラアルクはアリスに詳細を訊ねた。

「どういう事だ?」
「私が、あなた達を元の人間としての体に戻して見せると言っているのです。私ならそれが出来ます……必ず!」

 それはミラアルクに取って福音であり、甘美な誘惑であった。アリスの手に掛かれば彼女達は人間に戻れる。こんな望まぬ力を得る前の、人として当たり前の非力で自由な人生を取り戻せる。これ以上ワイズマンや訃堂の言いなりになる事もなく、失われた人としての生活に戻る事が出来る。
 アリスの言葉にミラアルクは一も二もなくそれに飛びつこうとしたが、しかし今まで散々虐げられてきた彼女の心はそう簡単に他人を信じる事は出来なかった。どうしても裏切られ虐げられる恐怖から、アリスの事を疑ってしまう。

 故に、ミラアルクは答えを口にする事を躊躇してしまった。そこには自分1人が一足先に人間に戻ってしまう事への後ろめたさもあったのかもしれない。どうせ人間に戻るのであれば、ヴァネッサとエルザも一緒に元に戻してもらいたい。

「いきなり信じろだなんて、そんなの無理な話だゼ。大体どうやってそれを信じろって?」
「……そうですね。仰る通りです。そう簡単に信じてもらえるとは思っていません。何より、先ずは色々と考える為の時間が必要でしょう。生憎とここから出す訳にはいきませんが、私があなたの敵ではない事だけは知っておいてください」

 アリスはそう言ってキャロルを伴って部屋から出た。ミラアルクに対しては手錠などの拘束も一切行わず、ただ部屋を施錠するだけに留めていた。
 あまりにも無防備。この程度の施設であれば、自分なら力尽くでブチ破って逃走できる自信があったミラアルクだが、しかし今はパナケイア流体が淀んできており力を発揮する事が出来ない。力を使いさえしなければ淀みは緩やかになるので、今すぐ体がどうこうなる事は無いのでミラアルクは仕方なく大人しくすることにした。

「クソ……」

 場所は治療室だが、扱いは独房に近いその部屋のベッドに乱暴に横になる。消耗した体に、治療室のベッドの柔らかさがありがたかった。独房の硬いベッドでは、休みたくても休めなかっただろう。

 久し振りの柔らかく温かなベッドの感触に、ミラアルクは不意に瞼が重くなるのを感じた。悩みも何もかもを忘れて、降りかかった微睡に身を委ねて意識を手放す。

 静かに寝息を立て始めるミラアルク。その首筋で、何かが蠢いているのだが、その事に気付く者は誰も居なかった。




***




 発令所での交渉を終えて、颯人達は一応は解散させられる事となった。本格的に査察が決まり、ここから先は弦十郎達組織の上の者達の時間となる。そんな場所に前線要員である彼らはハッキリ言って邪魔だ。それ故彼らは、特別警戒待機と言う名目で発令所から追い出されていた。何もすることが無い颯人達は、取り合えずレストルームに集まり互いに愚痴をこぼし合っていた。

「一部を除く関係者に特別警戒待機って……」
「ものは言い様って奴だッ! とどのつまりは、査察の邪魔をするなって事だろ。特に、そこのペテン師は」

 長机に端からエルフナイン・透・クリス・翼・奏・マリア・響・調・切歌・颯人・ガルドの順に並んで座る一行。珍しく心底不満そうに愚痴を零す響に対し、クリスは切歌の向こう側に居る颯人をジト目で睨みながら答えた。見ると颯人は隣に座るガルドと何やら話している。一体何を話しているのかは分からないが、こういう時の彼がロクでもない事を考えているだろう事はもうクリスも容易に想像できた。

 今回の出来事に対して、不満を抱いているのは当然ながら響やクリスだけではなかった。奏とマリア、それに翼までもが、今回の日本政府の動きに対し違和感とも不信感ともつかない印象を抱いていた。

「クソ、あのオッサンのむかつく顔。やっぱり一発ぶん殴っておくべきだったか」
「気に入らないのはあの男の顔だけじゃないわ。今回の急な決定は全てが気に入らないわ」
「……正式な決定であるとは信じたいが、しかし……今回の事は明らかに何かがおかしい。幾ら何でも性急すぎる。まさか……」

 よく言えば根が真面目、悪い言い方をすればどちらかと言うと融通が利かない翼でさえ感じる不信感。特に翼は、政府の裏側にほど近い人間関係である為、嫌でも”もしや”と言う事を想像してしまい鉛を飲み込んだような顔になった。

 そんな翼の様子に気付いたマリアが、何か心当たりがあるのではと思いつい問い掛けてしまう。

「翼? もしかして何か心当たりでもあるの?」
「あ、いや……それは、その……」

 思わず口から零れてしまった疑いの言葉を聞かれ、珍しく翼が激しく視線を泳がせた。仲間を想う気持ちと、身内を信じたい気持ちの板挟みに言葉を詰まらせる翼に、マリアと奏、そして響の視線が突き刺さる。まるで自分を責めているのではと錯覚するような視線に、翼は俯き不明瞭な言葉を口にするだけに留めた。

「は、ハッキリとは、何も言えない……すまない。奏、ゴメン……私は……」

 翼は特に、奏に対しては後ろめたさを感じずにはいられなかった。今回の一件で颯人は本部から出る事を禁じられた上に、いざと言う時の為の指輪を失う事となった。もし彼女が考え得る限りの最悪の事態が現実のものとなった場合、その責は身内である自身にも及ぶ。本当にそうなった時、自分は仲間達にどんな顔を向ければいいのかと翼は思い悩まずにはいられなかったのだ。

 瞳の奥に怯えを見せる翼の姿に、奏は溜め息と共に小さく肩を竦めると縮こまった翼の頭を乱暴に撫でた。

「わっ! か、奏……?」
「気にすんなって。翼がそんなに悩む事じゃないよ。アタシらは翼が何かを言えるようになるまで待つし、何が起きても翼を責めない。だから安心しろって」

 そう言ってニカッと笑う奏に対し、翼はほんの少しだが肩が軽くなったような気がして先程よりは表情に余裕が出来た。

「うん……ありがとう、奏」
「あぁ」

 まだ本調子とは言い難いが、少しは翼の表情がマシになった事に奏達も安堵する。

 その一方で、調は事実上の休暇を言い渡された現状に悩んでいた。

「休息をとるのは悪い事じゃないと思うけど……」

 何もすることが無い以上、彼女達に出来る事はいざと言う時に迅速に動けるようコンディションを維持する事。その一環として休息をとる事は悪い事ではないと頭では分かっているのだが、何一つ事態が好転していない今、休めと言われて呑気に休んでいられるほど彼女は気楽ではなかった。

「だからって、はしゃぐようなお気楽者は、ここには誰1人居ないのデスッ!」

 勇ましくそう口にする切歌であったが、そんな彼女の手には冬旅行と書かれた雑誌が握られておりそれを机にパンパンと叩きつけている。何一つ説得力の無いその姿に、調だけでなく装者全員の冷えた視線と、透の生温い視線が向けられた。

「「「「「「「ジ~……」」」」」」」
「あ、あはは……まぁ、折角の冬休みだしね?」

 向けられる視線もそうだが、何よりも透から投げかけられたせめてものフォローが逆に心苦しくて、切歌は慌てて雑誌を手放し弁明した。

「ちちち、ちががッ!? こ、これは今隣から渡されてッ!」
「隣ぃ?」

 切歌の隣と言えば颯人とガルドだ。一体何を話しているんだと奏が覗き込んでみると、そこでは…………

「今の時期なら北海道とかがお勧めだぞ」
「北海道か。新鮮で旨い食材が多いと聞いた。一度行ってみたいと思っていたところだが……」
「いやいや、食材も良いけどこの時期と言えばやっぱり雪祭りだろ。雪や氷の彫像とかを見ながらさ――――」

 割と真剣に旅行の算段を考えている颯人とガルドの姿があった。こんな状況で何を真面目に話し合っているのかと思えば、この場で一番能天気な姿を見せている2人に奏は額に青筋を浮かべて音もなく2人の背後に近寄った。

 そして、素早く2人の耳を掴むと渾身の力でそれを思いっ切り引っ張った。

「何真面目に旅行の話してんだお前らはッ!」
「イデデデデデデデデッ!?」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 耳が千切れるのではと言う程の力で引っ張られ、2人の男は話し合いどころではなくなり引っ張られている耳を押さえながら悲鳴を上げる。無理矢理立ち上がらされる形となった2人は、解放されるや否や赤くなった片耳を押さえながら奏に抗議した。

「いきなり何しやがんだ、バ奏ッ!?」
「いっつつ、耳大丈夫かこれ?」
「うっさい馬鹿ッ! 暢気に旅行の計画なんて立ててる場合かよッ! 状況分かってんのかお前らッ!」

 ジェネシスとの戦いもまだ続いていると言うのに、遊んでいる場合は無いと一喝する奏。そんな彼女に対し、ガルドは耳を押さえながらも尚反論する。

「しかしな、カナデ。現状満足に動けない以上、足掻いたってしょうがないだろう。何事においても、待つ事は大事だ。日本の諺にもあるだろう? 武士は寝て待てと……」
「もしかして、武士は食わねど高楊枝、の事か? ガルド、それはただのやせ我慢の事だぞ」
「果報は寝て待て、とも混じってるわね。どっちにしても、この状況には合わない諺だけれど」
「……ホント?」

 またしても素っ頓狂な諺を口にするガルドに、翼とマリアからのツッコミが炸裂する。切歌達の目の前で堂々と間違った諺を口にしてしまった事に、流石のガルドも羞恥に口元を押さえてしまうが、颯人はそんな彼を無視して奏からの言葉に反論した。

「良いじゃねえかよ、軽く夢見るくらい。どっち道俺暫くここから出られないんだし」
「ぁ……」

 そう、他の装者やガルド達と違い、颯人に対しては明確に外出禁止令が出された。それもこれも、全ては自分1人に査察官の敵愾心を集中させて装者達への負担を少しでも和らげる為だ。そんな彼が、出来ないと分かりつつ旅行の予定を立ててその楽しみを夢想する事を、何故阻む事が出来るのか?
 これには奏も怒りが萎え、彼に対して逆に申し訳ない気持ちが鎌首を擡げてくる。

「わ、悪い……」

 先程翼に対してみせた余裕は何処へやら、自分に対しては潮らしくなる奏の姿に颯人は苦笑すると、彼女の鼻先を軽くデコピンで弾いてやった。

「ッ!? え?」
「な~にらしくない顔してんだっての。気にすんなよ」
「それは、難しいんじゃないですか? だって颯人さんがこの中で一番大変なのに……」

 気丈に振る舞う颯人にエルフナインがおずおずと異を唱える。何せ彼にはこの後、査察官達からの尋問などが待っているのだ。心配するなと言う方が無理である。
 しかし当の本人は全く気にした様子を見せない。それどころか、したり顔で笑みを浮かべながら腕組みをしていた。

「いやぁ、寧ろこの方がやり易い」
「どういう意味ですか?」

 イマイチ颯人の余裕の理由が分からない。透が首を傾げていると、彼は奏達にウィンクする様に片目を瞑りながら答えた。

「奏は分かってるだろ、俺が誰だか。アイツらは俺を土俵に上げた。その時点で連中は詰んでるって話だよ。まぁ見てなさいって」

 そう言って颯人は鼻歌を歌いながらその場を離れていく。一体何処からあの余裕が出てくるのかが分からず、翼は彼の事を一番よく知る奏に訊ねた。

「ねぇ、奏。颯人さんは一体何を企んでいるの?」
「ん~、流石にそこまでは。ただまぁ、あのむかつくオッサンがロクでも無い目に遭うだろう事は確実だろうな」

 確証は何もない。彼が詳しい事を話さない以上、奏にもはっきりした事は言えなかった。だがそれでも、彼はきっと何かをやってあのムカつく連中をギャフンと言わせてくれるだろう。
 離れていく颯人の背に、奏はそんな確信を抱くのであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第217話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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