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英雄伝説~西風の絶剣~

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第97話 深夜の誘惑

side:リィン


 ロレントの異変も解決して俺達はホテルで仮眠を取っていた。


 これまで4つの地方で異変が起こった、そして最後に残ったボース地方で何か起こる可能性があるとして俺達はそこに向かう事になったんだ。


 だからしっかりと休息を取って明日に備えないといけないんだけど……


「……」


 だが今日は眠りが浅かったのか深夜に目を覚ましてしまった。どこでも眠れる特訓はしているんだけど今日は色々あって頭の中がいっぱいなのか眠れないんだ。


 俺は男性組が借りてる部屋から出ると深夜のロレントを歩いていく、とくに目的は無いけどブラブラと町を歩き続けるとマルガ山道の方からリュートの音が聞こえてきたんだ。


「このリュートの音って……」


 俺はマルガ山道の方に足を運んだ、すると山道途中にある大きな石をイスかわりにしてリュートを引くオリビエさんがそこにいた。


「オリビエさん?」
「おや、リィン君も夜中の散歩かい?」


 俺が声をかけるとオリビエさんは演奏を止めてこちらに顔を向ける、その表情はいつものように胡散臭い笑みを浮かべていたけど心なしか暗いものにも見えた。


「こんな夜中に何をやってるんですか?騒音にならないように山道まで来たのかもしれませんが魔獣に襲われてしまいますよ」
「ははっ、魔獣除けの導力灯を持ってきてるから大丈夫だよ」
「ならいいですけど……」

 俺はなんとなく放っておけなかったのでオリビエさんと話をすることにした。


「……なにを悩んでいるんですか?」
「えっ、なんのことだい?」
「とぼけても無駄ですよ、普段のうっとうしい態度がまるで出てこないじゃないですか。らしくないって言ってるんですよ」
「え~、そんな些細な違いに気が付くなんてリィン君ってば僕のこと好きすぎない?いやぁ、リィン君も素直じゃないね~。どうだい、この後僕と甘い夜のひと時を……」
「どうやら気のせいでしたね、戻ります」
「ちょちょちょ……冗談だってば~」


 一通りふざけたオリビエさんはリュートを小さく鳴らしながら話し始めた。


「リィン君はさっきのエステル君から聞かされた話を聞いてどう思った?」
「ハーメルの事ですか?そうですね、率直に言って酷いなって思いました」


 俺は自分の思った気持ちを話し始める。


「俺は猟兵なので多くの戦場を見てきました、そしてその中で共通してると思ったのがいつも苦しむのはなんの罪もない一般人たちばかりだと……今回だって一部の人間の暴走で戦争にまでなってしまった、犠牲になったハーメルの人たちは本当に可哀想です」
「……そうか、君は戦場を見てきたんだね」

 
 オリビエさんはリュートを鳴らすのを止めて俺の顔を見る。


「僕はあくまで調べただけだけどエレボニア帝国は何度もそういった血生臭い負の歴史を歩んできた、貴族としてそういった歴史があったことは学んできたからある程度の覚悟はできていると思っていたんだ。でも実際に犠牲になった人の怨嗟の声を聞いたらショックが大きかったよ……」


 オリビエさんは自虐するように苦笑してそう呟いた。


「今エレボニア帝国は激励の時代になりつつある。リィン君は知ってるかい?貴族派の中には新たな兵器などを開発しているという噂があるんだ、革新派もそれに向けて動きを進めている。僕の予想では数年に内に大きな争いが起こると思っている」
「……団長もそういった匂いがするって言っていましたね」


 オリビエさんは数年以内でエレボニアで大きな事が起こると予想しているみたいだ。団長もそう言った空気を長年の感で感じ取っているし俺も何となく何か起こるんじゃないかと思っている。


「僕としてはこのまま面白おかしく過ごせればいいんだけどそうもいかないのが人間なんだよね」
「……」
「ハーメルの話を聞いて改めて思ったよ、僕はやはり動かないといけないんだって」
「オリビエさん、まさか貴方は……」


 俺はオリビエさんの正体に何となく気が付いたような気がした、でも最後までは言わなかった。


「……もし貴方が困ったことがあるなら俺も力になりますよ」
「えっ?」
「貴方の事は正直苦手ですけど、悪友くらいにはおもっていますから」

 
 照れくささを隠しつつ俺がそう言うとオリビエさんは一瞬ポカンとした顔を見せたが直ぐにそれを消して笑い始めた。


「はははっ……もしかして僕ってば本当にリィン君の好感度カンストさせちゃったかな?」
「初めて入った村で出会った村人Aくらいの好感度はあるんじゃないですか?」
「いやそれほぼ初対面!?」


 俺がシレッとそう言うとオリビエさんはツッコミを入れた。


「まあまずはリベールでやるべきことを終わらせないとね。僕はこの国が好きになったから最後まで見届けたいんだ」
「それは同感です。お互い頑張りましょう」


 俺はそう言ってオリビエさんと別れた、そして山道から町に戻ってくるとクローゼさんが飛行船の発着場に入っていくのが見えた。


「クローゼさん、こんな時間にどうしたんだろう?もしかして俺みたいに眠れないのか?」


 こんな深夜に女の子が一人で外を歩くのはちょっと心配だな、俺はクローゼさんの後を追い発着場に向かった。


 幸いクローゼさんは発着場入り口の近くにある街路樹の側にいた。


「クローゼさん、こんばんわ」
「えっ、リィンさん!?」


 俺が声をかけると彼女は驚いた様子を見せる。


「もしかして眠れないんですか?俺もそんな感じで散歩をしているです」
「そうなんですね……私も目が覚めてしまって少し夜風に当たりたくて外に出たんです」


 やっぱりクローゼさんも眠れなかったんだな、昼間は凄く悩んでるみたいだったし。


「……やっぱりハーメルの件ですか?」
「……はい」


 俺の問いにクローゼさんはコクッと頷く。


「私、ずっとお婆様の事を尊敬していました。何年もリベールを統治してエレボニアやカルバートとも渡り合い国を守り続けてきたその姿は誇らしくていつかあんな女王に私もなりたいって思っていたんです。でも今回の話を聞いてお婆様も非情な判断を下したことを知り私は女王になれるのか不安になってしまったんです」
「クローゼさん……」
「もし私が女王になった際、そう言った決断を迫られたら私は正しい選択が出来るのか……間違えてしまいこの国を危機に晒してしまうのではないかって思ってしまって……馬鹿みたいですよね、まだ正式に私が王位に就くと決まった訳ではないのに勝手にこんな事を考えたりして……」


 そう苦笑するクローゼさんだが内心は潰れそうなくらい不安なんだろう。


 国を守るという事は時には何かを切り捨てなければならないときも来るだろう、強国と渡り合っていくなら猶更だ。


「……クローゼさん、俺は貴方の苦悩を理解することはできない。国を背負う立場の重みはきっと想像もできないくらいに重く大きいモノだと思います」
「……」
「だからもし貴方が女王になって選択をして万が一間違えてしまったらその責任を一緒に背負わせてください。俺に出来る事があるなら力になるしもしつらいと感じたらいつだって駆けつけます。例え世界から狙われる事になっても俺は貴方を味方しますよ」
「リィンさん……」


 俺は無責任だけどそう言った。


 結局最終的に決めるのは彼女だ、相談には乗れてもそれ以上は何もできない。だから俺はクローゼさんが選択した結果で間違いを犯してしまったなら一緒に背負っていくと話した。


 たとえ俺に不利益になる事になっても俺はクローゼさんの味方であり続ける。


「すみません、こんな答えしか出せなくて……」
「……いえ、凄く嬉しいです。気持ちが少しだけ楽になりました」


 クローゼさんはそう言ってニコッとほほ笑んでくれた。


「本当に何があっても私の味方であり続けてくれますか?」
「はい、約束です。俺にとって貴方は大切な親友ですから」


 俺はそう答えた。最初はフィーの面倒を見てくれた感謝の一面もあった、でも今は純粋にクローゼさんを親友だと思ってるし力になりたいと思っている。


「親友ですか……」


 でもどうしてかクローゼさんはちょっと悲しそうな顔をしていた。


「す、すみません!俺なんかが馴れ馴れしく親友なんて言ったりして……」
「あっ、違います!そう言う事じゃないんです!ただその……親友って聞いてどうしてか胸が痛くなって……あの……その……」


 段々と声が小さくなるクローゼさん、後半は全く聞こえなかったぞ。


「……あの、一つだけお願いをしても良いですか」
「はい、俺に出来る事なら」
「なら抱きしめて頂けませんか?」
「……えっ?」


 俺はクローゼさんからのお願いを聞いて目を丸くしてしまった。


「えっと、どうしてですか?」
「その、勇気を貰いたいんです。それとも私を抱きしめるのは嫌ですか?」
「そ、そんなことないです!クローゼさんが良いって言ってくれるなら喜んで!」
「じゃあお願いします」


 クローゼさんは腕を広げてそう言ったので俺はオズオズと彼女を抱きしめた。


「んっ……」
(や、柔らかいし良い匂いがする……)


 クローゼさんの背中に手を回して彼女を抱きしめた。クローゼさんは俺の胸に顔を寄せて目を閉じている。彼女の柔らかさと花のような良い匂いが伝わってきて凄く緊張するな……


(……こんなにも安心して幸せな気持ちになれるなんて……リィンさん、私やっぱり貴方の事が……)


 それから1分ほど抱きしめて俺達は離れた。


「えっと……どうでしたか?」
「ふふっ、凄く安心しました。フィーさんやラウラさんが羨ましくなってしまうくらいに」
「そ、それはよかったです」


 クローゼさんの微笑が綺麗で緊張してしまう……俺にはフィーとラウラがいるんだ、しっかりしろ、俺!


「リィンさん、もしこれからも不安を感じてしまったら甘えても良いですか?」
「えっ?……も、勿論ですよ!いつでも頼ってください!」


 クローゼさんは真面目だから深い友情を育んだエステルやフィーには相談しにくいんだろうな、そうでなければ俺に甘えようとなんてしないだろうし。


「それと私の事はクローゼって呼んでいただけませんか?敬語も大丈夫です」
「いいんですか?」
「ええ、リィンさんは親友ですので壁を作られたら悲しいです」
「……分かった、じゃあお言葉に甘えてクローゼって呼ぶよ」
「はいっ、お願いしますね」


 こうして俺はクローゼと友情を深めることが出来た、元気になってくれたのなら良かったよ。


 それから俺はクローゼをホテルに送ると自分は戻らずにもう少し町を歩くことにした。


「それにしてもクローゼってやっぱり美人だよな。フィーが愛らしい、ラウラが凛々しいならクローゼは気品のある美しさを感じるんだよな……」


 先程クローゼを抱きしめた際の感触を思い出して俺は気持ち悪い笑みを浮かべてしまった。あんな美人にくっつけたらまあ多少はね。


「へぇ、クローゼとのハグはそんなに良かったんだ」
「ああ、そうだな……ん?」


 背後から声が聞こえたので思わず返事をしてしまったが俺は誰と話しているんだ?


 振り返ってみるとそこにいたのは……


「やっほー、リィン」
「フィー!?」


 そこにいたのはフィーだった。


「な、なんでここに!?」
「ん、クローゼが外に出ていくのに気が付いたから後を付けていたの。そしたらリィンもクローゼの後を付けていたから監視していた」
「い、いや別に付けていた訳じゃないぞ。偶然見かけたから気になっただけで……もしかして見ていたのか?」
「ハグの事?バッチリ見てたよ」


 俺はフィーにやましいことをしていた訳じゃないと言おうとしたが、フィーのハグはよかった?という言葉に見られていたんじゃないかと冷や汗を流す。そんな俺にフィーはジト目でそう呟く。


「い、いやあれは違うんだよ!勇気付けようと思ってしただけで浮気しようと思った訳じゃなくて……」
「それなら堂々としていればいい、そんな態度じゃかえって怪しい」
「うっ……」


 フィーの言葉に俺は何も言い返せなくなってしまう。


「まあ今回は気にしてないよ。クローゼが元気なかったのは知ってたしリィンも気にしてたからハグしたんでしょ?」
「あ、ああそうだよ」
「なら怒ったりしないよ。だから慌てないの」
「はい……」


 フィーに怒られてしまい俺は声を小さくする。


「お説教はここまで、次はエステルの方に行こっか」
「えっ、なんでエステルの話が出たんだ?」
「クローゼが出ていった少し後にエステルも起きて部屋を出ていったの。確か自分の家の方に向かっていった」
「そうだったのか、まああんな話を聞けばな……」


 俺はフィーからエステルも起きたと聞いてヨシュアの過去を知ったから頭が混乱して眠れないんだと思ったんだ。


「確かに気になるし様子だけ見て行こうか」
「ん、了解」


 フィーはそう言うと俺の腕に自身の腕を絡めてくっ付いてきた。


「深夜デートだね」
「あはは、エスコートしますよ。俺のお姫様」
「ふふっ、お願いするね。わたしの王子様」


 俺はフィーと一緒にエステルの家に向かった、その道中でハーモニカの音色が聞こえた。


「これって……」
「ヨシュアのハーモニカだ。確か今はエステルが持っているはずだけど……」


 エステルの家に近づくと彼女はベランダで何かの曲を奏でていた。


「この曲って確かヨシュアが時々奏でていた曲だったはず……」
「良い音色だね……」


 しばらくエステルの演奏を楽しんでいると曲が終わったので俺とフィーは拍手をする。


「エステル、凄く上手だったよ」
「うん、凄く素敵な曲だった」
「えっ、リィン君にフィー!?」


 俺達に気が付いたエステルが驚きながら下に降りてきた。


「ちょっと!いたなら声をかけてよ!」
「ごめん、ちょうどハーモニカを吹いてたから声をかけられなかったんだ」
「でもお蔭で良いものが聞けたよ」
「まあそれならしょうがないか」


 エステルは顔を赤くしてそう言った、でも直ぐに落ち着きを取り戻す。


「でも二人ともどうしたの?こんな深夜に出歩いたりして」
「それはお互い様でしょ。もしかしてヨシュアの事で悩んでる?」
「フィーには隠せないわよね……うん、そうなの」

 フィーがヨシュアと言うとエステルは苦笑しながら頬を指で掻いた。


「あたし、前までは無理やりにでもヨシュアを連れ戻してやるって思っていたの。でもヨシュアの過去はあたしが想像していたものより凄く重いもので本当に連れ戻せるのかなって思っちゃったんだ」
「わたしも驚きを隠せなかった。ヨシュアも人の理不尽で大切な物を奪われた側の人間だったんだね」
「フィーはヨシュアみたいな人達を知ってるの?」
「うん、猟兵やってると戦場を多く見る機会が多いから自然とそういう人達も目にしてきたの。大体の人が何の罪もない一般人、貴族とか軍人とかそういった奴らが下らない理由で争いを起こしてそれに巻き込まれた」
「改めて聞くとひどい話ね、その人達が何をしたって言うのかしら」


 フィーの話を聞いたエステルは憤りを隠せないといった表情を見せる。俺も多くの戦場を見てきたが大切な人、当たり前だった日常を突然奪われて泣く人達ばかりだった。


 いつだって戦争を起こすのは立場の偉い人間だ、だが苦しむのは力無き一般市民だけ……


 ヨシュアもエレボニアの将軍の身勝手な行動で家族も故郷も奪われた、その怒りは計り知れないだろう。


「……実はね、あたしヨシュアに結社に入ってほしいって誘われたの」
「えっ、そんなことが?」
「うん。それであたし、一回ヨシュアの手を取ろうと考えちゃって……それであたしはどうしたいのか分からなくなっちゃったんだ」


 エステルは悲痛な表情でそう呟く、俺達に話すのもきっと怖かったはずだ。


 俺はエステルを精神力の強い人だと思っていた、何があっても立ち直り前に進もうとする太陽のような存在だと……


 だがエステルだって人間だ、耐えられない時も来るだろう。でも俺はエステルなら大丈夫だと何処かで思っていたのかもしれない。


「……エステルはどうしたいの?」
「あたし、やっぱり結社には入りたくない。例え良い人がいるとしてもリベールにいっぱい迷惑をかけたんだもん。だからあたしはヨシュアをそこから連れ戻したい、でもそれはヨシュアが望んでいない事なの。あたし、ヨシュアに嫌われたくないよ……」
「大丈夫、ヨシュアはエステルを嫌ったりしないよ」


 フィーはそう言ってエステルの手を握った。


「エステルの事が大事だからヨシュアは結社に誘ったんでしょ?エステルの事が大好きだから姿を見せたんだよ」
「そうかな……?」
「そうだよ。だからエステルは自分の気持ちをヨシュアにしっかりぶつければいい。


 不安そうな顔をするエステルの目を見ながらフィーはほほ笑んだ。


「例えヨシュアにとって大きなお世話でも自分の気持ちを押し殺したりしたらヨシュアは絶対に帰ってこないよ。なら身勝手だとしても自分の想いを貫いた方が良い」
「自分の想いを貫く……」
「うん、人間なんてそうしなきゃ分かり合えないよ。わたしも側にいるから諦めないで、エステル」
「フィー……うん、そうね。あたし、諦めたくない」


 エステルもフィーの手を優しく握り返した。


「エステル、これはあくまで俺個人の考えなんだけど、ヨシュアはエステルに自分を止めて欲しいって思ってるんじゃないかな?」
「えっ?」
「ヨシュアが本気を出せば君一人を攫う事だって可能なんだ、でもそうはしなかった。それは君なら自分を止めてくれるって信じてるから自分の過去を話したんだと俺は思うよ」


 ヨシュアは世界を恨んでるのかもしれない、でもエステルという存在がこちら側に戻す切っ掛けになると俺は思う。


 エステルの暖かさに救われた一番の人間は間違いなくヨシュアだからな。


「……うん、あたし決めた!例えヨシュアに嫌われる事になっても絶対に結社から連れ出してやるんだから!勿論レンだって連れ出して見せるわ!」
「その意気だよ、エステル」


 完全に調子を取り戻したエステルを見てフィーは笑みを浮かべた。


「二人ともありがとう、ウジウジ悩むなんてあたしらしくなかったわ」
「そんなことないさ、君も人間なんだ。悩んで当たり前なんだよ。そもそも俺は何もできていないからな、君を支えたのはフィーだ」
「そんなことないわ、リィン君がヨシュアがあたしを信じているからって言ってくれたの凄く嬉しかった!貴方だってあたしの事をちゃんと助けてくれているじゃない!」
「……ははっ、君には適わないな」
「ん、リィンの負けだね」


 俺は何もしていないと答えた、だがエステルの言葉を聞いて俺も彼女の力になれたのかと嬉しくなった。


 そしてそんな俺の心を読んだのかフィーは負けだと言ってツンツンとお腹を突いてきた。


「はぁ……なんかスッキリしたらお腹空いてきちゃったわ」
「ん、わたしもなんかお腹すいちゃった。リィン、なにか作ってよ」」
「こんな時間に食べたら太るぞ」
「あっ、女の子にそう言うこと言うんだ。そんな悪い口は引っ張っちゃうから」
「痛い……」


 エステルがお腹を押さえてフィーも同意する。俺に何か作ってと言うが太るぞと言ったら頬を抓られた。


「そもそも材料がないぞ」
「ならあたしの家に先日皆で泊まった際に作った夕食の材料の残りがあるから使ってよ。もうすぐロレントを去るし食材を残しててもしょうがないしね」
「んー、ならちょっと見させてもらおうかな」


 エステルの了承を得て俺は彼女の家に上がって台所を見させてもらった。


「ふむ、パスタがあるな」
「ええ、シェラ姉がナポリタンを作ってくれたの」
「卵に牛乳、あっベーコンやニンニクもあるな。なら久しぶりにカルボナーラを作ってみるか」
「やった、リィンのカルボナーラ久しぶり」


 俺がカルボナーラを作るというとフィーは珍しく興奮した様子を見せる。


「リィン君のカルボナーラって美味しいの?」
「ああ、料理のレパートリー自体はマリアナ姉さんに習ってるフィーの方が多いし美味いけどパスタには自信があるんだ」
「一時期滅茶苦茶ハマってたよね」


 エステルの問いに俺はそう答えた。男には何かの料理にハマってしまう時期があり、俺はパスタにハマったことがある。


 元々はパスタを茹でれば後はソースを作ってかけるだけのお手軽料理だったから作ってたんだけど、意外と奥が深くてハマって夜食などにフィーやラウラに作ってあげたら好評で嬉しかったな。


「じゃあまずはベーコンとニンニクをスライスして……っと」


 俺は具材を包丁で切り分けていく、ベーコンは厚く切るのが拘りだ。


「この間に塩を入れたお湯を沸かして……次はソースを作るぞ」


 ボウルに牛乳と卵黄、そしてパルメザンチーズを入れて泡立て器でかき混ぜていく。


「わぁ、リィン君手際が良いわね~」
「まあパスタに関しては自信があるかな」


 エステルが褒めてくれたので頬を掻いて照れを隠す俺、こうやってみられて料理するのはあまりないからちょっと照れてしまうな。


「そういえば生クリームは入れないの?」
「ああ、個人的には牛乳だけの方がアッサリしてる感じがするんだ」
「へぇ~、流石拘ってるわね」


 ボウルの中をしっかりかき混ぜてソースを作ったらお湯が沸いたのでパスタを投入する。その後に切ったベーコンとニンニクをオリーブオイルで炒めていく。


「ん~!すっごく香ばしい匂いがするわ!ベーコンが焼けていく匂いってどうしてこんなにも食欲をそそるのかしら!」
「ははっ、確かにそうだな」


 エステルが目を輝かせてフライパンを見ている、これは期待に応えれる逸品を作らないとな。


「あれ、リィン君何をしてるの?」
「ああ、ベーコンを一旦別の更に移して余分な脂を取ってるんだ。こうすることで味が脂っぽくならないし味も深みを増すんだ、更にソースがパスタによく絡むようになるのさ」
「勉強になるわね」
(ふふっ、ドヤ顔するリィン可愛い♡)


 俺が自信を持ってそう言うとフィーは何故かニコニコして俺を見ていた。どうしたんだ?


「……よし、パスタをお湯から出すぞ」
「えっ、指定されてる時間よりちょっと早くない?」


 俺はパスタを一切れ鍋から出して齧り硬さを確認する、それを見ていたエステルは指定されてる茹で時間より早いと答えた。


「俺はカルボナーラはアルデンテの方が良いって思ってるからこのくらいでいいんだ、触感がちょうどいいんだよ」


 俺はそう言ってパスタをフライパンに乗せてベーコンを入れる、火を弱火にしてからソースと絡めていく。そして粗挽きの黒コショウをかけた。


「後はお皿に盛りつけて仕上げに削った粉チーズをかければ……うん、完成だ。俺特性カルボナーラ!」


 俺は二人に料理の乗った皿を渡す。


「うわぁ~、美味しそう!」
「ん、お腹ペコペコ。リィン、食べてもいい?」
「ああ、食べてくれ」
「それじゃあいただきまーす!」


 エステルはフォ―クでカルボナーラをすくい一口食べる。


「ん~!モチモチしたパスタにチーズのソースが絡みついて美味しいわ!ベーコンの脂も良いアクセントになって黒コショウが味を纏めてる!」
「美味しい……やっぱりリィンのカルボナーラは最高。わたし、これ好き」
「喜んでくれて嬉しいよ」


 二人に好評のようで俺はホッと一息ついた。自分の作った料理を人に出すのって結構勇気がいると思うんだよな。


「あら、良い香りね」
「ふわぁ……お腹空いてきちゃいました」
「えっ、シェラ姉にティータ!それに皆も一体どうしたの?」


 するとエステルの家にシェラザードさんとティータがやってきた。更に後ろには他のメンバーも一緒にいたんだ。


「ふあぁ……眠ぃ。なんでこんな深夜に起こされなきゃならねぇんだ」
「ははっ、騒がしくしてすまんな」
「僕もリィン君の手料理食べてみたいな♡」


 アガットさんは眠そうにしていてティータに手を引かれていた。ジンさんは苦笑していてオリビエさんはムカつくニヤケ顔を浮かべている。


「リィンさん、先ほどはありがとうございました」
「むっ、クローゼ殿に何かしたのか、リィン?不埒な事は許さないぞ」
「良い匂いですね、私もリィンさんの手料理を食べてみたいです」


 クローゼは先程ぶりだという風に手を振ってラウラはちょっと怒った様子を、エマは興味ありそうな顔でこちらを見ていた。


「どうしたのってそれはこっちのセリフよ。いつまでたっても帰ってこないから様子を見に来たの。そうしたら何か美味しそうなもの食べてるじゃない、あんた達だけズルいわよ」
「えっと……」
「ふふっ、一人二人増えたって一緒さ。喜んで作るよ」


 シェラザードさんのからかうような発言にエステルがバツの悪そうな顔を浮かべる。それを見た俺は笑みを浮かべてまた調理を開始した。


 そのあと俺達は深夜だけどちょっとしたパーティのように料理を作って堪能するのだった。
 
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