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万歴赤絵だった

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第二章

「あの有名な」
「はい、その万歴赤絵です」
「志賀直哉の小説にも出た」
「そうです」
「そんなのなんだ、これ」
「そうですが」
「一体何かと思ったら」
 淳一は今度は赤絵を見て顎が外れそうな顔になって言った。
「そうだったんだ」
「ですからここに特別に飾られています」
「うちこんなのもあったんだ」
「大事にしないといけないですね」
「いや、お店の宝だよ」
 潤一はこうまで言った。
「すぐに飾るにしてもケースに入れて」
「誰かが間違って触れない様にですね」
「しよう、誰がこんなの持って来たんだ」
「何でも初代の方がさる華族の方から譲り受けたとか」
 そうだったというのだ。
「これが」
「そうなんだ、いやこんなものがあるなんて」
 今度は唸って言った。
「思わなかったよ」
「うちはお皿も何かとです」
「高価なものだね」
「そうですが」
「そのことは知っていたけれど」
 潤一はそれでもと話した。
「いや、こうしたものも大事にして」
「お店をやっていかれますね」
「そうするよ」 
 こう言って実際にだった。
 潤一は店の隅から隅まで見て把握してだった、そのうえで店の経営をしていった。そうしてでだった。
 いい店長だと言われる様になった、そして万歴赤絵は。
「くれぐれもね」
「大事にしないと駄目だっていうんだな」
「こうしてね」
 父にケースの中に入れて飾ってあるそれを見つつ言った。
「そうだよ、お店に何があるかを知ることも」
「店の経営だな」
「そうだからね」
「お前もわかってきたな、経営が」
「うん、ただお父さんこんなのケースに入れてなかったんだ」
「駄目か?」
「駄目だよ、万歴赤絵だよ」
 父に必死の顔で答えた、日本の趣の店の中で着物姿で。老舗の料亭であるので着ている服も店員達も含めて着物である。
「気を付けないとね」
「そこまで考えなかったな」
「考えようね、何かあったら駄目だから」
「お前も前まで言わなかっただろ」
「万歴赤絵ってわかったからだよ」
 こう父に返した、そして赤絵を大事にしていった。店の経営に心を砕きつつ。


万歴赤絵だった   完


                  2024・8・24 
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