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あの人もケーキ好きだった

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第一章

                あの人もケーキ好きだった
 井口家は皆甘党で小学五年生の息子の自由も同じだ、それで家にはいつも果物か甘い野菜かお菓子がある。
 ケーキも時々買って食べている、自由はその面長であどけない顔でケーキを食べている時はいつも笑顔であったが。
「子供の食べものかな、ケーキは」
「それ言ったらお父さんどうなるんだ」
「お母さんもよ」
 サラリーマンの父の哲雄もパートで働いている母の沙奈絵もこう息子に言った、父は息子と同じ顔で黒髪を真ん中で分けている。そこがスポーツ刈りの息子と違い中肉中背だ。母はダークブラウンのショートヘアで童顔で小柄ですらりとしている。
「ケーキ好きよ」
「大人になってもな」
「別にケーキは大人が食べてもいいぞ」
「皆食べてるわよ」
「漫画とかじゃ子供が皆大好きだから」
 息子は一家で夕食を食べつつ話した、メニューはビーフシチューとマカロニサラダそれにご飯である。
「それで思ったけれど」
「だから大人でも食べているからな」
「お父さんお母さん以外にもね」
「男の人だってな」
「好きな人多いわよ」
「そうなんだ、漫画とかで子供が皆好きでも」
 自由はそれでもと思った。
「子供が食べるものとは限らないんだ」
「だからお父さんだって食べてるだろ」
 父はまたこう言った。
「実際大好きだぞ」
「お父さんが食べるなら」
「わかるな、それにな」
「それに?」
「物凄く悪い人だけれどな」 
 父はこう前置きして話した。
「ヒトラーも好きだったんだぞ」
「ヒトラーってあの」
「アドルフ=ヒトラーな」
 まさに彼だというのだ。
「ナチスのな」
「沢山の人殺して戦争した」
「そのヒトラーもな」
「ケーキ好きだったんだ」
「あの人お酒飲まなかったのよ」
 母も言って来た。
「煙草も吸わなかったしお肉もお魚も食べないで」
「菜食主義?」
「そうでも甘いものがお好きで」
 そうであってというのだ。 
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