俺様勇者と武闘家日記
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第3部
サマンオサ
もう一人の勇者
ルークと初めて出会った時は、こんな体の細い子が武術なんて本当にできるのかと疑っていた。
だけど武術の修行を重ねていくうちに徐々に打ち解けていき、彼が物事に対してすごく真面目に取り組む子なんだと、尊敬すらしていた記憶がある。
そんな彼でも師匠の厳しい修行に耐えられないときもしばしばあった。そんな時、私は決まって彼を村のコスモス畑に連れ出し、一緒に修行をサボっていた。後で師匠にこってり絞られたけど、二人一緒なら耐えられた。
やがてルークは私にとって唯一無二の親友となり、たまに師匠を困らせる悪友にもなった。
ある時、突然ルークに見せたいものがあると言われて、師匠の家の裏庭まで連れて行かれれた。
そして彼は道端を飛び回る一匹のカエルをつまみ上げると、私の目の前に置いた。
「そのカエル、どうするの?」
「いいから見てて」
するとルークは、手を前に突き出すと、じっとそのカエルを見つめて何やら集中し始めた。そして何かを解放するかのように、一言発したのだ。
「アストロン!!」
その瞬間、私の身体は石のように重くなり、動かなくなった。ほどなく声も出せなくなり、視界も暗くなった。それからしばらくの間、私の記憶は失われていた。
気づいたときには、ベッドの上にいた。目を開けるとそこには泣きじゃくるルークがいて、何度も「ごめんね」と謝っていた。
その隣には師匠もいて、心配そうに私の様子を見ていた。普段は無口な師匠も、この時ばかりは無事でよかったと、ほっと胸をなでおろしたそうだ。
その後ルークは師匠に何かを言われたようだが、よく覚えていない。わかっているのは、それ以降ルークは私を呼び出すことは二度となかったということだ。
――あの時は知らなかったけれど、今なら何が起こったのか理解できる。ルークが唱えたのは、『アストロン』という呪文だ。
そして、『アストロン』を使える人間はもう一人いる。そう、勇者であるユウリだ。
——『アストロン』や『ライデイン』は勇者である俺にしか使えない——。
かつて、ダーマの神殿でユウリが言っていた言葉だ。『アストロン』は勇者にしか使えない。ならなぜ、あのときルークは使えたのだろう?
そこまで考えて、自然と答えが導き出される。ユウリの父親であるオルテガさんが勇者だとしたら、ユウリが勇者であることに不思議はない。と同時に、同じく魔王を倒そうとしたサイモンさんも勇者だったのなら、その息子のルークも『勇者』である可能性は高いのではないだろうか。
洞窟で私に唱えた『ラリホー』の呪文も、勇者が唱えられるものだ。だとしたら、他の呪文も知っているのでは?
だとしたら、わからないことがある。なぜルークは『勇者』としての素質を持ちながら、武闘家の修行をしていたのだろうか。
……考えても埒が明かない。目が覚めたら、ルークに聞いてみよう。それから、急いでお城に行って、ナギと待ち合わせした場所まで行って、そのあとユウリとシーラに会って、それから……。
「――はっ!?」
がばっと身を起こすと、見慣れない部屋の風景に唖然とした。
ベッドと洋服ダンス以外何もない部屋で、私はキョロキョロと辺りを見回す。
カーテンの隙間からは、西陽が差していた。室内をオレンジ色に照らす夕焼けは一日の終わりを告げているようで、妙な胸騒ぎを覚えた。
そもそも今はいつで、ここはどこなんだろう?
不安な気持ちのまま私はベッドから降りると、目の前にあるドアの前まで歩いた。耳をそばだてると、下の方から何やら物音が聞こえる。
誰かいるのかという緊張と同時に、さっきまで一緒にいたルークの可能性を考えて安堵する。もしかしたらルークがここまで運んでくれたのかもしれない。ということは、ここはルークの家である可能性が高い。
私は警戒を解くと、徐ろにドアノブを回した。ドアはたやすく開き、その向こうには廊下と、下の階に続く階段があった。さっそく階段の手摺に身を乗り出し、階下にある玄関を覗き込む。
すると、丁度タイミングよく、玄関の扉が開く音がした。入ってきたのは予想通り、ルークであった。
「ルーク!!」
私の声に、ルークはすぐにこちらを見上げると、たちまち顔を綻ばせた。
「ただいま、ミオ。具合はどう? どこか痛いところはない?」
「うん、全然平気だよ。それより、洞窟からここまでどうやって戻ってきたの?」
私の問いに、ルークは一瞬だけ表情を固くすると、無言で階段を上がってきた。
「詳しいことは僕の部屋で話すよ。君が今まで寝てた場所でね」
そう言うと私の手を取り、先程まで寝ていた部屋へと入った。ここがルークの部屋なのか、とぼんやり考えていると、ルークにベッドに座るよう促された。
「あの、ルーク……」
ベッドに座った途端、ルークもまた私の横に座る。私のおでこに手を当てると、自分のおでこも触って熱があるかどうか確認した。
「うん、熱はないね。疲れは? 眠気は? 吐き気とかはない?」
「いやだから、大丈夫だってば」
うんざりするようにルークに訴えると、彼はハッとなってぴたりと手を止めた。
「ごめん、ミオが心配で調子に乗ってた……。別に僕に心配されなくても、大丈夫だったよね」
しょんぼりしながら謝るルークに、私は慌てて訂正する。
「う、ごめん、今のは私も酷かったよ。せっかく心配してくれたのに、失礼なこと言っちゃって。それより、さっきの話! どうやってここまで帰ってこれたの? そもそも今って何日? 約束した日を過ぎちゃってないよね!?」
まくしたてるようにルークに詰め寄ると、彼はなだめるように穏やかな口調で話し始めた。
「大丈夫。僕がリレミトとルーラを使って洞窟からここまで戻ってきてから、ニ、三時間くらいしか経ってないよ」
「なんだあ……、よかったあ……!」
まだ約束の時間には間に合うようで、私はどっと力が抜けた。
「……って、ちょっと待ってルーク。あなたリレミトとルーラも使えるの!?」
「ああ……、生まれつき呪文が使えたんだ。職場の先輩に言ったら珍しがられたけど」
「ルーク。そのことだけど、聞いてもいいかな。ルークと同じような呪文を使う人をひとり知ってるんだけど……」
私はルークが勇者であるユウリと同じ呪文を使えること、勇者のような先天性職業の人にはその母親に啓示があるはずだということを教えた。
「……そういうことか。誰も教えてくれないからなんで呪文を唱えられるかずっと疑問だったんだ」
「師匠は教えてくれなかったの? サイモンさんと一緒に旅をしてたのならすぐわかると思うはずだけど」
「一度も僕が勇者だってことは教えてくれなかったよ。母さんもそのことを秘密にしてたし、フェリオもそうするほうがいいと思ったんじゃないかな」
コゼットさんの気持ちを考えれば、もしルークが勇者だと自覚してしまえば、サイモンさんのように魔王討伐の旅に行ってしまうかもしれない。だからあえて言わなかったのではないのだろうか。
「ミオ?」
「あ、ごめん。じゃあルークは自分の職業が勇者だと知らずに武闘家の修行をしてきたってことだよね。なら例えば、洞窟でも私にラリホーを使ったよね? 他にどんな呪文が使えるの?」
「大した呪文は覚えてないよ。あとはメラとホイミと……アストロンかな」
最後の方の台詞は、歯切れ悪そうに答える。ルークもあのときのことは苦い思い出として残っているらしい。
「ルーク、あれは事故だよ。私も今の今まですっかり忘れてたし、気にしないで」
それでもルークは、自分自身に納得できないような顔を作った。
「……あのときは、本当にごめん。本当はカエルにかけるつもりだったんだ。でも、ミオに自慢したくて、慣れない呪文を使ったら、とんでもないことに……」
「あのとき謝ってくれたんだから、もう終わったことなんだよ。それにルークが呪文を使えたから、今私はこうして無事に戻ってこられたんだもの。ありがとう、ルーク」
「ミオ……」
私の説得にようやく納得してくれたのか、辛そうな表情だったルークの口元が緩んだ。こういう優しいところは、昔から変わってない。
「それより、もうすぐ約束の時間になるんだけど、お城の裏門ってどうやって行けばいいかわかる?」
話を切り替えた私は、昨夜ナギが指定した場所の行き方をルークに尋ねてみた。夜に下手にお城の周りをウロウロしていたら、また昨日の格闘場みたいに変な人に絡まれてしまうと危惧して、予めルートを把握しようと思ったのだ。
「ああ、だったら僕が案内するよ」
「ホント!? あ、でも、これ以上ルークを巻き込むわけには……」
するとルークは、あからさまに顔をしかめた。
「何言ってんだよ。ここまで来て、今さら僕を除け者にする気?」
「そういうつもりじゃないけど……」
「君がなんと言おうと、僕は一緒に行くからね」
そう言ってまっすぐな目で私を見ながら断言するルークに、断るなんて選択肢は出来なかった。
「う……、じゃあ、よろしくお願いします」
「よかった! じゃあ早速行こう」
同行すると決まった途端、跳ねるようにベッドから立ち上がると、ルークは部屋の壁にかけてあった鞄を手に取り出かける準備をした。こんなに私に構ってしまって、家のこととか仕事とか、大丈夫なのだろうか?
「ルーク……」
「何?」
振り向く彼のいつも通りの表情に、先程の懸念が無意識に薄らいでいく。ずっと彼に頼りきりで自己嫌悪に陥りそうになるが、つい彼の言動に甘えてしまう。ユウリたちもいない見知らぬ土地で、一人でいるのはあまりにも心細かったから、彼の存在は本当に嬉しかった。
私は準備を終えたルークの服の裾を、そっと握りしめた。
「ミオ?」
「……ルークがいなかったら、私一人でラーの鏡も見つけられなかった。本当にありがとう」
もっとたくさん感謝の言葉を伝えたいのに、結局ありきたりな言葉しか思い浮かばない。申し訳ない気持ちになりながら俯いていると、彼の手が私の頭を優しく撫でた。
「僕は自分の意思で行動しているだけだよ。ここにいる間は好きなだけ僕を頼っていいから、気にしないで」
顔を上げると、優しく微笑む彼の姿があった。その言葉に、鼻の奥がツンとなる。
すると、突然下から階段を登る音が聞こえてきた。
「ルーク? もう帰ってきてるの? ミオさんはまだ寝てるから起こしちゃ……」
「かっ、母さん!?」
様子を見に二階に上がって来たコゼットさんが部屋を覗くなり、ルークは慌てて私から離れた。
「あら、ミオさん起きてたの……」
「僕たちこれから出かけるから!! とりあえず今は出てってくれ!!」
ワケもわからず部屋から追い出されるコゼットさんは、途中でなにかに気がついたのか目を光らせると、ルークに向かって言った。
「ええと、母さん前から娘も欲しいと思ってたんだけど、ミオさんが娘だったら大歓迎だわ」
「何言ってんだよ母さん!!」
突然意味不明なことを言い残したコゼットさんは、ルークに無理やり下まで追いやられてしまったのであった。
お城の裏門付近は、幸いにもほとんど人通りはなかった。
裏門とはいえお城に一番近い通りだと言うのに、店はほとんど閉まっており、家々の明かりも数えるほどしか点いていない。薄暗い街灯がより寂れた雰囲気を醸し出し、本当にここが城下なのかと疑いたくなる。
皮肉にも月明かりが一番明るいこの場所で、私とルークはお城の裏門のすぐ側の建物に隠れながら、ナギが来るのを待っていた。
「ナギ、まだかな……」
「夜っていっても長いよね。早く来てくれればいいんだけど」
お城の衛兵がいることを警戒して裏門から離れたところで待つことにしたが、近くに衛兵らしき人も見当たらなかった。それどころか、城内もひっそりと静まり返っており、魔物よけの篝火ですらついていない。いくら城壁で囲われていても、あまりに不用心ではないだろうか。
しかしルークによると、それはルークが小さい頃からずっとそうなのだという。今まで良く無事だったものだ。
「そうだ、ルークはお城の中とかは詳しくないの?」
「まさか。お城になんて一度も入ったことないよ。あるとしたら罪を犯して捕まったときだ」
「ああ……、それは入っちゃいけないね」
駄目元で聞いてみたけれど、やっぱりそうだろう。もし知っていれば牢屋のある場所に直接行ってユウリたちと合流できるかもしれないと思ったのだが。
などと考えていると、突然後ろから肩を叩かれた。そして声を出す間もなく口を塞がれる。
「しっ、オレだ」
背後から現れたナギの誘拐犯さながらの登場に、私は心臓が飛び出しそうになった。
ルークも彼の存在には気づかなかったようで、目を丸くしている。おそらくナギは盗賊の技である『忍び足』でも使って私たちのところまでやってきたのだろう。
ナギはすぐにパッと私から手を離した。
「ラーの鏡は?」
「もちろん、バッチリだよ!」
私はラーの鏡をしまってある鞄をバシバシと叩いた。
「おいおい、んな雑に扱うなよ。王様が本物か確かめるための一番大事なアイテムなんだからよ」
普段大雑把ななナギに注意されムッとなりながらも、こっそり鞄の中身をチェックする私。うん、大丈夫。
「この鏡を使って、どうするの?」
「ここじゃ目立つ。説明するからまずはあいつらのところに行こう」
と、ルークの視線に気がついたのか、ナギはルークを見るなり表情を和らげた。
「お前も来てくれたんだな」
「ここまで来て、ミオを一人で行かせるわけにはいかないからね」
「そうか。ありがとな、ルーク」
安堵するように頷くと、ナギは辺りを警戒しながら、私たちを手招きした。
「早速ここから中に入るぞ」
すぐそばの水路の脇に、人一人入るのがやっとなくらいの大きさの小窓があった。外壁と同じ色に塗ってあり、遠目ではこれが扉だとはわからない。ナギによると、ここから牢屋へと通じているらしい。
誰かに見つからないよう、私たちは速やかにその小窓から城の敷地内へと侵入した。通路はかなり狭く、這って進むしかなかった。ナギ、ルーク、私の順番に入ったが、私やナギはともかく、ルークは肩幅が広いのでかなりきつそうだった。
それでもなんとか通り抜け、やっと歩けるくらいの場所までたどり着くことができた。
かび臭い匂いが漂うこの場所は、地下通路でも見た景色だ。どうやら牢屋のある場所は近いらしい。
しばらく歩いていくと、階段が見えてきた。それを降りると、遠くで小さな明かりが灯っているのが見えた。
「この先の牢屋に、あいつらがいる」
明かりがあるところまで進むと、やがて前方に鉄格子が見えた。一つだけではなく何部屋もあり、どの牢屋にも数人の罪人らしき人が入れられていた。中には老人や女性もおり、とても罪を犯すようには見えない人々であることがわかる。彼らはこちらに気づくこともなく、ただ暗い目をしながらぼんやりと宙を眺めていた。
そして、しばらく歩いたあと、急にナギが立ち止まった。その瞬間、聞き慣れた声が耳に届いた。
「ナギちん!! お帰りなさい!! ねえ、ミオちんは!?」
「お前らの期待どおり、ちゃんとラーの鏡を見つけてきたみたいだぜ」
そう言うとナギは、鍵がかかっているはずの牢屋の扉を事も無げに開けた。いや、そもそも最初から鍵などかかっていないようだ。
手招きするナギに誘われてすぐさま中を覗くと、そこには若干やつれた顔をしたシーラと、相変わらず無愛想なユウリが部屋の隅に座って待っていた。二人の姿を認めた瞬間、私は出会えた嬉しさのあまり、一気に涙が溢れてしまった。
「シーラ!! ユウリ!!」
「ミオちん!! 会いたかったよぉ!!」
がばっ、とお互い抱き締め合う私たち。夕べ会えなかっただけなのに、何年かぶりの再会のように思えてくる。そう感じるのは涙を流しているシーラも同じだった。
「……遅い。待ちくたびれたぞ」
相変わらず毒舌なユウリだったが、よく見ると彼の表情も疲労の色が濃い。この二日間ずっと牢屋の中にいたのだ。無理もない。
「会えてよかった……。約束どおり、ラーの鏡を持ってきたよ」
「ホントに!? すごいよミオちん!!」
私は鞄からラーの鏡を取り出すと、三人に見せた。鏡に映し出された三人の顔はそのままだ。
「それにしても、よく手に入れられたな。あの落書きみたいな地図で目的地まで行けたのが信じられねえよ」
「それ自分で言う? 描いたのナギだよね?」
「そうだけど、実際に行ったことのない場所の地図描けって言われたら、誰だって落書きみたいになるぞ」
確かにナギの言う通りかもしれない。私はこれ以上文句を言うのをやめた。
「と言うか、私一人じゃ目的地に着くことも出来なかったよ。ルークが一緒について来てくれたから手に入ったようなものだもん」
ね? と言ってルークに同意を求めると、それを合図に三人が一斉に彼に注目したからか、ルークは恥ずかしそうに目を伏せた。
「いや、ミオがどうしてもあの洞窟に入るって言うから仕方なく行ったけど……、僕はあのとき絶対にそこに鏡なんかないと思ってたよ。でも、ミオの勘は正しかった。それだけじゃない、ミオがいなければ、鏡を守る魔物も倒せなかったし、鏡も手に入ることは出来なかったよ」
なんだかルークにそこまで言ってもらえると、こっちまで照れてしまう。目を合わせると、お互い口許を緩ませた。
「まー何はともあれ、見つかってよかったよ☆ ありがとう、二人とも♪」
シーラにお礼を言われ、達成感と高揚感に浸っていると、
「ふん。俺の仲間なら、そのくらい出来て当然だろ」
なんてユウリに言われたものだから、せっかく積み上げてきた自信を崩されたような気分になってしまった。
でも、出来ると信じてくれてただけでも嬉しい。以前の彼なら、私に期待なんかしなかっただろうから。
「それより早く王様のところに行こうぜ。これが本当にラーの鏡かどうか確かめねえと」
話を戻したナギが、私が持っているラーの鏡をパッと奪い取り、私たちが来た道とは別の道の方へ走っていってしまった。
後を追うように、シーラとユウリも牢屋から出てきた。それを見て、私はふと気になったことを尋ねる。
「そもそもなんで王家の宝があんな洞窟の中にあったの? しかも湖の底に沈んでたし……」
おまけに人の言葉を話す魔物までいた。宝を守る番人のような存在だったが、なぜ洞窟を管理するサマンオサの王族は、あんな魔物を鏡の番人にしたのだろうか?
「王の話では、もともとあの鏡はこの城に保管されていたそうだ。だが、偽物が自身の正体を見破られないよう、配下の魔物に頼んでわざと鏡を隠したらしい」
「あぁ、そう言うことだったんだ……って、魔物?」
「聞いてなかったのか? 偽物は、国王に化けた魔物だ」
『ええっっ!?』
予想だにしなかった発言に、私とルークは揃って驚倒した。
まさか王様が魔物だったなんて、そんなことありえるのだろうか?
「あ、でもポルトガに行くとき、人間に化けた魔物がいるって話あったよね。もしかして関係あるのかな?」
「いや、それはないだろ。国王が偽物と入れ替わったのは今から10年以上前らしいからな」
そう言えばジパングでも、ヒミコ様に化けた魔物が長い間国を牛耳っていたのを思い出した。そう考えると色んな場所に、人間に化けた魔物がいるということだ。それに気づいた途端、私の背筋が寒くなった。
すると、何かに気づいたのかルークがユウリに詰め寄った。
「ちょっと待って、まさか本物の王様は……!?」
「本物の国王はまだ生きている。と言ってもいつ体調が急変するかわからない状態だけどな」
「そうなのか……。それならよかった」
ほっと胸をなでおろすルークに、ユウリは訝しげな顔を向ける。
「そもそもお前はいつまでここにいるつもりなんだ? 部外者だろ」
『部外者』という言葉を強調するユウリに、ルークの眉がつり上がった。
「部外者なのはむしろ君たちの方だと思うけど。僕はサマンオサの人間として、君たちと協力したいと思ってここに来たんだ」
「今まで何もしてこなかった奴が、本当に自分でもどうにか出来ると思ってるのか? 足手まといはいらん。とっとと帰れ」
「……っ!!」
いつになく刺々しい様子のユウリに、私は思わずムキになって口を出した。
「待ってよユウリ!! ルークは足手まといなんかじゃないよ。一人で何匹もの魔物を倒しちゃうし、ラーの鏡のある場所だって教えてくれた。それに、ルークもこの国がおかしいことはわかってる。なのに部外者だなんて、そんな酷いこと言わないで!」
「なんだと!?」
ユウリもまた、反論する私に苛立ったのか、これでもかと眉根を上げた。だけどここで怯むわけには行かない。ルークは何度も私を助けてくれた恩人なのだ。その恩人に向かって失礼なことを言うのは聞き捨てならない。
すると、今まで静観していたシーラが私とユウリの間に割って入ってきた。
「もう、今はそんなこと言い合ってる場合じゃないよ!! 早く王様のところに行かないと!!」
彼女の切実な声に、隣にいるナギも呆れた顔でこちらを見ている。その姿に私は我に返った。
「ご、ごめん二人とも。そうだったね、早く行こう」
先に走り出したシーラとナギを、私は慌てて追いかける。その後を、腑に落ちない様子ではあるがユウリとルークもついてきた。
「ユウリちゃん、ああ見えてミオちんのことすっごい心配してたんだよ」
近づくなりこっそりと耳打ちするシーラの話の内容に、私は耳を疑った。
「え!? ……全然そんな風には見えないけど?」
「ラーの鏡の話が出たとき、ミオちん一人で探してもらうことになって、あたしだけじゃなくて、他の二人ももものすごく迷ったんだよ。もしミオちんが危険な目に遭ったらどうしようかって。結果的には一人じゃなくて安心したけど、ミオちんが来るまであたしもずっと不安だった」
「シーラ……」
「ユウリちゃんもあんなこと言ってるけど、ミオちんが無事に鏡を見つけて来てくれて、本当は凄くホッとしてるはずだよ。だからあんまり怒らないであげてね」
そう言うとシーラは、優しく微笑んだ。
「……ごめん、シーラ。余計な心配かけさせちゃったね。大丈夫、怒ってないよ」
私だって、ユウリが本当は仲間思いだと言うのは知っている。私がムキになったのも、ルークのことを仲間外れみたいに言ってるような気がしたからで、ユウリを責めたかった訳じゃない。
ありがとう、ユウリ。私のことを信じてくれて。
今更口に出すのはなんだか恥ずかしかったので、私は心の中でそう呟いた。
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