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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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黒星団-ブラックスターズ-Part10/盗人猛々しき

二人の変身と共に、バロムの意のままとなっていたジャンボットと、二人のウルトラマンたちの戦いが始まった。
血走らせるように赤く輝く眼光を放つジャンボットが振るう戦斧『バトルアックス』が、ゼロのゼロスラッガー、ネクサスのシュトロームソードと衝突する。
二人のウルトラマンを同時に相手取りながら、ジャンボットはバトルアックスを用いて二人を押し返す。
押し返された二人に向けて、勢いに乗るようにジャンボットがバトルアックスをぶん回して二人を文字通り叩き切ろうとする。二人は持ち直し、ジャンボットの攻撃をそれぞれの武器で防ぐ。その際の武器と武器の激突の反動を利用して、二人はジャンボットから一定の距離を空けさせる。
 ネクサスはその際に〈パーティクルフェザー〉を数発飛ばしてジャンボットに浴びせ、その間にゼロが上空を飛び越えジャンボットの後ろに回る。そこからすかさずジャンボットの背に向けて、炎を纏った蹴りを叩き入れた。
〈ウルトラゼロキック!〉
「デヤァ!」
炎の蹴りは、ネクサスの光刃を受け火花に包まれるジャンボットの背中に勢いよく当たった。
しかし、ガコォン!と金属音が鳴り響砕けに止まり、ジャンボットへのダメージは見受けられなかったそれどころか、
「っが…っつぅ〜、かってぇ…!」
当人であるゼロが逆に、蹴りを入れた足を痛める事態となった。ゼロの方をぬぅっと振り返ったジャンボットの赤い眼光が彼を捉える。
「平賀、離れろ!」
ネクサスの呼びかけが入る。彼はその時、抜刀に似た構えで
両手に稲妻状のエネルギーを貯めていた。ジャンボットがネクサスの仕掛けに気づいて再び彼の方を見やると同時に、ゼロは言われた通り離れると、ネクサスの十字形の光線がジャンボットに直撃した。
〈クロスレイ•シュトローム〉
「ディア!」
ネクサスの光線でボディに火花が散るジャンボット。
やったか?つい呟きそうになったが、口に出すと現実になりそうだったので心の中に留めるゼロ。しかし、煙が晴れようとしたところで、その中からエメラルド色の光線と、鋼鉄の拳がそれぞれゼロとネクサスに直撃してしまう。
「ドォワ!?」「グア!」
二人が吹き飛ぶと同時に、煙の中から依然として傷ひとつない姿で仁王立ちしているジャンボットが現れた。
「ってぇ…こいつ、とんでもねぇパワーだ。それに馬鹿みてぇに固ぇ。ったく、少しは効いてくれよな」
全く堪えていない様子のジャンボットを見て、ゼロが愚痴を溢す。
「バロバロバロぉ!どうだ光の戦士ども、これが俺様のジャンボットの力よ!」
「あの野郎…」
内部からバロムの勝ち誇る声が轟く。人のものを盗んでおきながら私物化し勝ち誇るその姿は頭にくるものがあった。
「元よりビースト共との戦いから人類を守るために作られた兵器。俺たちのような戦力の敵を相手取ることも想定された上で設計されたと考えられるな。このまま正面突破を試みてもじり貧だ」
ネクサスは、このまま力づくで向かっても意味はないと、冷静さを維持しつつ分析、次なる手を講じる。
「内部から侵入して直接稼働を停止するよう命令するしかないな。平賀、とにかく奴の動きを止めるぞ。止めたら俺が奴を取り押さえる。その間にお前が奴の中に飛び込め」
「できるのか?」
「やってみなければ、あのふざけたコソ泥にいいようにされるだけだ」
「それは絶対嫌だな。わかった、やってやろうぜ!」
気合いを入れ直し、ジャンボットの次の動きに備えて構え直すゼロとネクサス。ジャンボットのボディの各部よりいくつもの砲口が露出、そこから無数のミサイルが飛び交い、二人に襲いかかった。
まるで人類の大戦の戦場で、ミサイルや銃弾の嵐を掻い潜る兵士のように、二人は死に物狂いで接近を試みる。
ジャンボットは二人を寄せ付けまいと連射を続ける。実際に数発、ゼロたちにジャンボットの連射攻撃は当たっていたのだが、二人は多少怯むことこそあれどすぐに気力で持ち直し、接近を続けながらも逆にジャンボットへ反撃の光線技を繰り出した。
〈エメリウムスラッシュ!〉
〈クロスレイ•シュトローム〉
「ダァ!」
ミサイル等を撃っていたジャンボットは避けられず、ボディに火花を散らしながら怯んだ。それでもボディに決定的な傷はないが、今の二人にとっては怯むだけでもちょうどよかった。
今だ!
ネクサスは〈セービングビュート〉を伸ばし、ジャンボットの首を縛り付けると、力強く腕を引っ込めてジャンボットを強引に引き寄せ、脇下にジャンボットの頭を挟み込んで取り押さえた。
「平賀!」
「あぁ!」
ネクサスの呼びかけに頷いたゼロが後ろを振り返ると、そこで待っていたアンリエッタが目に入る。彼の視線に、いつでも構わないと伝える意図で頷いたアンリエッタを手の中に包み、ゼロは光の玉となって、ジャンボットの目からその内部へと侵入した。




内部に侵入したゼロとアンリエッタを、予想通りバロッサ星人バロムが待ち構えていた。
「くそ、ネズミ風情がこの俺の船に入り込みやがって!」
「盗人猛々しいとはこのことですわね。この船はあなたのような下劣な盗賊風情が触れて良いものではありません。恥を知りなさい!」
自分の実家の家宝を奪い取った分際で、本来の管理者をネズミ呼ばわり。アンリエッタは憤りを露わにする。
「恥?はん、略奪は我らバロッサ星人の流儀にして誇りであり、そして生きがいにして掟なんだよ!貴様ら下等生物共の物差しで我らを測るな!」
だが盗みそのものを生業としたバロムには、盗まれた側の都合も気持ちも価値のないものであり、自分の一族の生き方こそが正義であった。
「そんなだから、お前らバロッサ星人は全宇宙からのつま弾き者のままなんだよ。いい加減略奪から足を洗うことを一族全員で考えろや」
当然、それこそが許しがたい悪。ウルトラマンとして見過ごすわけにいかない。ゼロは批難しつつ、説教混じりに諭すが、やはりバロムは聞き入れようとしなかった。
「いい子ぶったセリフ吐いてんじゃねぇ!生き方を変えるってのはな、それまでの自分を否定することなんだよ!それもわからずありきたりな正義を俺に押し付けんじゃねぇ!」
「だから大人しく盗まれろって?てめえこそお前らの勝手な趣向を押し付けてんじゃねぇ!」
言ってる言葉はある意味心理的だが、こんな奴が言ったところで悪事の言い訳以外の何でもない。わかりあうことはできないのだと悟るしかなかった。
「ええい、どこまでもうるさい奴め。そこの小娘共々いい加減黙らせてやる」
すると、バロムはこの部屋の中に山のように積み上がった宝の山の中から一振りの片刃の長剣を取り出し、その剣に向けて高圧的に命令する。
「おい、しっかり働けよ」
「っち、なんだって俺がてめえみたいなコソ泥に従わなきゃいけねぇんだ」
「あぁ?まだんなこと言ってるのか。今はこのバロム様が貴様のご主人様なんだぞ。黙って従え」
「振るうにしたって、せめてそこの娘っ子一人くらい、巻き込まねぇでやれよ」
「ふん、小娘だろうが俺のお宝を奪いに来てやがるんだ。手を出すってなら殺すだけだ!黙って従え!」
バロムに話しかけられた剣は、驚くことにはっきりとした意識を持って返事をしてきた。しかもバロムに振り回されているのを、どうも快く思っていないらしい。
「その剣は、デルフ!?」
それを見た途端、ゼロは思わず叫んでしまう。
「あん?なんでこの剣の名を知ってる?」
「もしや…あなたが持っていたものですか?」
なぜか名前を言い当てたゼロに、アンリエッタとばがゼロを見る。言われてみてゼロも、デルフの名を口にした自分に疑問を抱く。
「…………なんでだろ」
少し間を置き、ようやく返ってきた返事に、アンリエッタとバロムはずるっ!と新喜劇の一幕のごとく足を滑らせた。
「ボケをかましやがって、俺を舐めてるのか!…ふん、まあいい。新たに手に入れたこの剣『デルフリンガー』のサビにしてやんよ!」
つい自分までずっこけてしまい、雰囲気に飲まれた自分を自省しつつ気を取り直してデルフを構え直すバロム。
「っへ、やってみろよコソ泥野郎!」
ゼロも一度アンリエッタを下がらせつつ、ニ本のゼロスラッガーを両手に取り、バロムと同時に互いに飛びかかった。
戦いの場としては狭すぎる場所だが、バロムが敵意を持っている以上は応戦するのみ。閉所で、狭い場所にアンリエッタという少女一人がいるのに無遠慮のまま刃を振るうバロムに、ゼロも彼女を守るべくゼロスラッガーで防ぎながらバロムに反撃、数打ほどこちらも叩き返してから、今度は自らバロムに刃を押し込めるように詰め寄る。バロムはゼロの攻撃をデルフリンガーで防ぐもそのまま壁の方へ背中を押しつけられる。
鍔迫り合いに持ち込み、バロムの動きを封じれた。今ならアンリエッタも動ける。
「会長!今のうちに!」
「ええ!」
ゼロに言われて、アンリエッタは操縦室より船内廊下の方へと飛び出していく。
「ええい、行かせるか!」
「行かせるんだよ!」
「ぐぬぉ!?」
バロムがゼロを押し返そうとしたところで、ゼロはバロムの腹に蹴りを叩き入れる。この怯んだ間にアンリエッタはジャンボットの船内の奥へと進みきっていた。
それでもアンリエッタを追ってジャンボットの奪還を阻止しようとバロムはゼロを真っ二つにせんとデルフを振り回し続ける。
戦いの余波で、壁中に刀傷が刻み込まれていく。
「セヤ!」
ゼロスラッガーの一太刀をバロムは間一髪避けるも、その際山のように積み上がった彼のお宝の一部が真っ二つになってしまう。
「あ…」
「あ゛ああああああああ!俺が苦労して手に入れたお宝が!宇宙の帝王『ジュダ』の『バットキャリバー』がああああ!しかも滅亡した獅子座L77星産出のウルトニウム石までええええええ!!」
その内の、年季の入った剣と、ピンク色の艶やかな輝きを放つ石が粉々になったのを見てバロムは甲高い悲鳴をあげた。意図せずとはいえ盗まれたものを壊してしまい、ゼロは一瞬呆ける。
よほどショックだったようで、バロムは変わり果てたそのお宝を抱き抱えてゼロを睨んだ。
「なんてことしやがるんだこの野郎!勝つために手段を選ばないとか、それでも正義の味方かぁ!」
「テメェが説教たれてんじゃねぇ!」
「ふぐ!?」
指摘に対して漫才のツッコミの如くゼロはバロムの顔を殴り飛ばした。
壁に激突し、殴られた頬を反射的に触れる。彼の頬はその時、酷く腫れ上がっていた。
「ば、バロォ…親にも殴られたことないのに、よくもこの俺様の顔にぃ…」
「だからどうしたってんだよ。そもそも恨みを買いまくったくせに殴られもしないこと自体が変だろうが。それにせっかく集めたコレクションだって、たくさん集めすぎたせいで、埃被るまで放置したもんが山ほどある癖によぉ」
「うるせぇぞこのボロ剣!」
顔を押さえながら立ち上がると、デルフによって余計なカミングアウトをされたバロムはますます苛立った。苦労して手に入れた割に口の減らない武器なものだと、手に入れたことをちょっと後悔した。
「っええい、ジャンボットは何をやっている!適当にでも暴れて、こいつらを追い払え!」
バロムは痺れを切らしてジャンボットに命令する。すると、それに応じたのかジャンボットの船内が地震でも起きたかのように大きく揺れ動き始めた。
「おぉわ!?」
「うお!」
流石のゼロもこれでは立つこともままならずバランスを崩してしまう。でもそれはバロムとて同じであった。バロムも立っていることができずに床の上で転がってしまう。
「っはは!自分でずっこけちまうとは、お前も結構間抜けな野郎だな!」
「ふ、ふん!ここは俺の手中だぞ!それがどうした。貴様らさえ追い払えばそれでいい!
そうだジャンボット、揺らせ揺らせ!お前を取り押さえている方のウルトラマンも振りほどき、そのまま殺ってしまえ!」
格好悪いところを見せてしまったが、最後に勝利するためならばいくらでも屈辱に耐えてやろうとでもいうのだろう。バロムは揺れる船内の壁にしがみ付きながらもジャンボットに暴走を継続し続ける命令を下すのだった。


(っち、こいつ…!)
取り押さえていたジャンボットが急に暴れ出した。振りほどこうとする力がさらに強まっている。だがネクサス…シュウは決して放そうとしなかった。こいつを暴れさせてしまえば…ティファニアや愛梨…彼女たちをはじめとした、もっと多くの人々が危険に晒されてしまうこととなる。それにこのジャンボットは本来、人を守るために作られたものだ。これ以上、暴れさせてなるものか。ネクサスはふりほどこうともがくジャンボットを、必死に抑え込むのだった。
が、ここで状況がついに一変する。無数のミサイルが全砲口より射出され、ネクサスに襲い掛かった。
「グオォ!!」
一斉に降りかかったミサイルにはさすがのネクサスもジャンボットを取り押さえていた状況では避けることも防ぐこともできずモロに喰らってしまう。当然ジャンボットも話してしまい、次の瞬間に放たれたジャンボットのロケットパンチ〈ジャンナックル〉の一撃をエナジーコア付近の胸元に受けて突き飛ばされてしまった。
「シュウ!」「シュウ!!」
彼を案じて遠くより戦いの場を眺め、吹っ飛ばされてしまったネクサスを見て、思わずシュウの名を叫ぶアスカとテファ。
その叫び声に反応でもしたのだろうか。ジャンボットは、その赤く染まった視線の先に、アスカたちの乗る車を見つけてしまう。
「まずい!あのデカブツこっちに気づいた!」
マチルダもそれに気づいて声を上げる。
「行くぞ、捕まってろ!」
アスカは全員に衝撃にへの備えを呼びかけ、車を走らせた。次の瞬間、アスカたちの車が留まっていた箇所の道路のアスファルトが、ジャンボットの放ったエメラルド色の閃光によって、火山の噴火で溶解した岩のようにドロドロに溶けてしまった。
テファたちが襲撃を受けていることに気づき、ネクサスは即座に持ち直して両腕のアームドネクサスを重ね合わせると、クリスタルの発光と共に赤い残像を残しながら高速移動、ジャンボットに向けてそのまま体当たりをかます。
ジャンボットは後ろの建設中のビルに背中を打ち、その拍子に地面や、大きな揺れに耐えられず崩れた建物の破片が雨となって街に降り注いだ。



ところ変わって、こちらはブラックスターズ。ジャンボットを強奪するどころか、既のところでバロムに横取りされてしまい、激化するウルトラマンとジャンボットの戦いから逃げ切ろうと、自分たちの足で必死に走っていた。
「やばいやばいやばい!瓦礫が!」
「狼狽えるなブラック!シルバーブルーメ、頼む」
「はいよ!〈ジェリースプラッシュ〉!」
飛び散る瓦礫の雨にブラックが騒ぐ中、シルバーブルーメがノーバに頼まれて、酸性の粘液で自分達を襲う瓦礫の雨を溶かすが、何せ巨人同士の戦いだ。その規模も範囲も、シルバーブルーメだけでは捌けない。
「あ、やば…」
「なにぃ!」
そしてついに、シルバーブルーメでもどうにも出来ないほどの規模の鉄骨やビルの大型の破片が襲いくる。
「おいシルバーブルーメ!あれも何とか溶かせないのか!?」
「ごめん、大きすぎてさすがに無理」
「諦めるなぁ!意地でもなんでも溶かし…にょわあああああああああああ!!」
これで一貫の終わりかと、ブラックスターズたちの思考が一致した、その時であった。
「え?」
彼女たちの足元に、ブラックホールのような大きな黒い穴が開かれ、三人はたちまちその穴に足を取られ、落ちていった。



「そらそらそら!暴れろ、暴れろジャンボット!」
「っぐ、んの野郎…!」
喩えネクサスの拘束を逃れきれないとしても、ジャンボットが少しでも動く度に、内部にいる自分たちは足場のバランスを失ってまともに立って動くこともできない。この状況でも光線やゼロスラッガーの投擲自体はできなくもないが危険が大きい。こんなにも揺れるようでは照準も当然合わないだろう。そうなればジャンボット内部をいたずらに傷つけてしまう。しかも相手は、オーパーツともいえるほどの超技術で動くロボットだ。アンリエッタは場合によっては破壊してもかまわないとは言ったが、こんな貴重な、それも平和のために作られていたであろう大切なロボットを、こんな賊一人のために破壊させるなんてのも気が引けるが…。
だが、この揺れてる船内の状況は奴にとっても不利なはず。お互いに自由な身動きができないゼロは次の手を模索する中、ジャンボットの動きが一時とまった。しめた!今ならいつものように動ける。そう思ってゼロは立ち上がる…が、ここであることに気が付いた。
(い、いない!?)
なんと、いつの間にかバロムは姿を消していた。
(奴らバロッサ星人に透明化する能力はなかったはず。とすると…逃げやがったのか?)
すると、ジャンボットの操縦室に設置されていたモニターに、ライブ映像が流れる。恐らくジャンボット自身の視点で再生されているのだろう。モニター内では、手前側の方角より放たれるエメラルド色の光線が、一機の車を狙って連射され続けていた。その車は…間違いなくアスカたちの乗る車だった。一方でネクサスは、少し離れた位置で重い一撃で設けたのか苦し気にうずくまっている。
「まずい!」
ここは一度、船外に出てテファたちを助けに行かなければ。ゼロは脱出のためのテレポーテーションの構えをとる。
その後ろで……風になびくカーテンのように、ゆらりと空間が揺れた。
そしてその中から…
「バアアァァロバロバロバロッササアアア!!」
「っ!し、しま…グアアアァァ!!」
突如としてバロムが姿を現し、振りかざしたデルフリンガーの一撃でゼロの体を斬り飛ばしてしまった。
斬られた反動で壁に背中を叩きつけるゼロ。その時、ゼロのカラータイマーがピコン、ピコンと赤く点滅をし始める。
「バロバロバロ!これで俺様の勝ちは決まったな。さあて、戦利品としててめえの頭についてるそれを頂こうか。
なんならそれを外して俺様に許しを請えよ。『あなた様にこれを差し上げますのでどうかお許しくださいバロム様』ってよぉ」
バロムはデルフリンガーの剣先を、ゼロの頭に付いているゼロスラッガーに向ける。今度はゼロスラッガーすらも頂こうと言うのか。
(まだか…)
先に行かせたアンリエッタは今頃ジャンボットのコントロールを奪い返そうと躍起になっているはずだが、バロムと戦い始めてから一向にその気すら見られない。これ以上は、もうジャンボットを破壊する前提で向かわなければやられてしまう。バロムがゼロスラッガーに向けて手を伸ばすと、ゼロは即座にその手を叩き、跳ね起きると同時にバロムの顔に今度は蹴りを入れた。
「バロぉ!?っぐ…悪あがきを…」
「悪足掻き?っは!勘違いすんな。これくらいでへこたれるほどこのウルトラマンゼロは貧弱じゃねぇ。ましてや俺は…てめえみたいな野郎に、下げたくもねぇ頭を下げる気はねぇんだよ!」
「…!」
諦めないという確固たる意志を露わにするゼロの言動にデルフは何かを感じ取った。
その時であった。
突如、ガコン!と大きな物音と共に、ジャンボットの船内の揺れが、時が止まったかのように収まった。
「ば、バロ!?」
『システム、再起動。全アクセス権をマスターへ復帰します』
動揺するバロムが船内を見渡すと、内部にアナウンスが流れ、操縦室を含めた内部の照明が一瞬だけ消え、そして再び点灯する。
「な、なんだ今のは?まさか…」
「サイトさん!」
そのまさかだと言わんばかりに、ジャンボットの船内の奥へと姿を消していたアンリエッタが、再びサイトの前に現れた。
「ジャンボットの機能を奪還しましたわ!」
「会長!」「なにぃ!?」
間に合ったかと安どと喜びを同時に味わうゼロと、逆にしくじったことで慌てるバロム。そんな彼らの耳に、新たな男性の声が船内中に響き渡った。
『おのれ!このような下劣な盗賊風情に、偉大なブルミル様の血を引く姫様に刃を向けるとは、我ながら万死に値する愚行!かくなる上は、生まれ変わっても後悔するほどの罰を貴様の身に刻み込んでくれる!』
発せられたのは、いかにも正義感と忠誠心溢れる騎士の声であった。バロムにいいように利用された義憤を露わにするその声の主の放つプレッシャーに、バロムはたじろぐ。すると、バロムの足元の床が円を描く形で青白く光る。
『侵入者を排除、強制転送!』
瞬間、バロムの姿は一瞬にして消え去った。同時に、外を映すジャンボットのモニターにて、ジャンボットの足元で『バロォ!?』と悲鳴と共に尻餅を着きながら落ちたバロムの姿が映されていた。一方で、彼が持っていたデルフリンガーや、彼がこれまで盗み続けていたアイテムの山はそのまま船内に残されていた。
「今のは?」
『侵入者排除および緊急脱出用の強制転移機能を使った。万が一に備えて私の設計者が組み込んでいた』
バロムが船外へ追い出された様を見てゼロの困惑したような声に、声の主はそう答えると、今度はアンリエッタに話しかけてきた。
『姫様、申し訳ありません。このジャンボット、システム修復と維持のため、長期間の休眠状態を継続しておりましたが、かえってそれがあのような輩の侵入を許すことになろうとは…あまつさえ現代の主君たるあなた様を襲うと言う不義…万死に値します!』
「もしやこの声…ジャンバード…いえジャンボット、あなた自身なのですか?」
「うそぉん!?」
ゼロは、声の主の言葉から一つの推測を立ててそう尋ねたアンリエッタの言葉に驚いた。まさか、人間と同じ知性を、それもこれほど強い感情を持つロボットがいるとは。
「いやなに驚いてんだよ相棒。俺みてぇな喋る剣がいるんだぜ。ましてや想像もつかねぇ技術で作られたゴーレムんだ。自我があってもおかしかねぇだろ」
すると、バロムが追い出された際に床に取り落とされたデルフリンガーが、ゼロに向けて突っ込むように指摘する。
「あぁ、言われてみれば確かに…って、ちょっと待て。相棒ってなんだよ」
ジャンボットについて一応の納得はしたものの、デルフがいかにも以前からの知り合いのような距離感に、ゼロがそう言い返す。
そうだ、こいつとは今日会ったばかりだ。でも、デルフを拾い上げてその刀身を見上げてみると、不思議なことに…妙にしっくりくるのだ。長年使い続けてきた、まさにこの剣自身が言った通りの相棒と言えるくらいに。
「酷いわ相棒!さっきあたしの名前を言い当ててたのに!あたしのことは遊びだったのね!」
「だあああ!そのベラんメェ口調の野郎みたいな声でオネェみたいに言うな!キモいんだよ!」
『おい君たち、くだらない事で言い争ってる場合ではないぞ!こうしてる間にも、バロッサ星人は次の手を講じてるやもしれないのだぞ!』
急にふざけ出したデルフと、鳥肌を立たせるゼロに対し、ジャンボットからきついお叱りの言葉が飛び、怒鳴られた二人は「す、すみません…」とタジタジになって謝るのだった。
少し微妙な空気になったところで、こほんっと咳払いをしたアンリエッタは話を戻そうとジャンボットに向けて声をかける。
「ジャンボット、私はあなたに死を与えるようなことが致しません。ましてやあなたの力はこの先の人々の未来のためにも手放すわけにはいきません。その不本意な不義について私から死を賜るおつもりならば、その力を正義のために存分に振いなさい!」
『汚名を注ぐ機会をお与えくださるその寛大なお心、痛み入ります。姫様のご用命とあらば、たとえスクラップになってでもその信頼にお応えいたします』
罪の意識以前に、アンリエッタの祖先から現代に対する強い忠誠心があってのことだろう。義憤も相まってジャンボットは俄然やる気を見せていた。
「あいつをボコるんだな?だったら俺も混ぜてくれや!」
ジャンボットに続くように、ゼロに握られているデルフも乗り気を露にする。
「いいのか?あいつお前の持ち主だろ?」
あっさり持ち主を見限るデルフに、ゼロは目を丸くする。
「なぁに。俺は元々あいつのことが気に入らなかったのさ。ひと様のものを盗んでは威張り散らしてよ。振るわれてた俺も傍でもてきたからこそ、あいつの酷さにゃ辟易してたんだ。だからどうせなら、俺が使い手だって思える野郎に出会えたら、とっととそっちに鞍替えしようって思ってたわけよ。そうしたら、お前さんと出会えたってわけだ」
デルフの発した言葉には、バロムへの深い失望と辟易、加えて嫌悪感がありありと露わであった。なんともまぁ、武器からの信頼すらも勝ち取れていないとは…と、ゼロはバロムへの呆れを感じた。
「だからよ、お前さんが俺の新しい…いや本当の相棒になってくれや。こうして握られるとよ、これまでにねぇくらいしっくり来んだ。きっとお前さんが『使い手』なんだろうな」
「『使い手』ってのはよくわかんねぇけど、俺もお前を握ってると不思議と違和感がないんだよな。わかった、一緒にあの野郎をぶちのめしに行こうぜ、デルフ!」
ゼロが、サイトが自分を使ってくれると聞いて「おうよ!」とデルフは喜んだ。
「それじゃあ会長、ここは任せていいですか?」
「ええ、ジャンボットを取り戻しあの痴れ者を追い出した今、ここでの憂いはもうありません。あの者を討ち果たしてください。
ジャンボット、彼と共に戦ってくれますか?」
『無論です。私を利用しただけでなく、これまで他者から奪い続けることを繰り返し、恥いることもしないあの無礼者を懲らしめるまで、倒れるわけにはいきませぬ!』
「では命じます。ジャンボット、彼と共にバロッサ星人を討ち果たしてください」
『承知いたしました!では若き戦士よ、共に行こう!』
「あぁ、行こうぜジャンボット、デルフ!」
アンリエッタにこの場を任せたゼロは、デルフを握りしめたまま、ジャンボットの外へとテレポートした。



船外へ追い出されたバロムは、地面に思い切り叩きつけた尻を摩りながら、新たに取り出した一振りの剣…かの『宇宙剣豪ザムシャー』が握っていたとされる名刀『星斬丸』を杖代わりに立ち上がる。
(っ!ついに平賀たちがやったか)
ジャンボットと組み合っていたネクサスも、ジャンボットから一時力が抜けたとほぼ同時に、バロムが外へと強制転移された事で、中にいた二人が、何とかジャンボットを奪還したのだと確信する。
「おのれぇ、せっかく手に入れたジャンボットが、俺の宝の山が…こうなったら、この『ジュランの種』だ!」
バロムはどこからか、手のひらくらいのサイズの大きな一つの種子を取り出すと、思い切りそれにガリガリと齧り付いて貪り出した。すると、バロムの体はたちまちに大きくなり、ネクサスやジャンボットに匹敵するほどの巨体へと変貌した。
「こうなれば、俺様自ら貴様らを始末して、ジャンボットもこの星のお宝も根こそぎ奪い尽くしてくれるわ!」
「もうやめろ。所詮賊に過ぎない貴様では俺たちに勝てない」
「黙れ!俺は宇宙海賊の一族バロッサ星人だぞ!俺たちにとって略奪を諦めることは、死を選ぶも同然だ!」
ネクサスは降伏を呼び掛けるが、バロムは頑なに応じようとしない。
「盗みに誇りを抱くとは…所詮ただのバカか」
「黙れぇ!!」
あからさまに呆れるネクサスに、バロムはぶちっとキレて剣を振りかざす。しかし些末な怒りに身を任せて振りかざした剣など彼に通じるはずもなく、あっさりとネクサスの〈シュトロームソード〉で受け止められてしまう。バロムの剣を、自身の剣で受け止めたネクサスはヤクザキックでバロムを蹴飛ばし、吹き飛ぶバロムへ続けて斬撃を見舞う。
「バァロォ!?」
宙を舞い地を転がるバロム。すると、バロムは次なる手として、ネクサスに向けて一丁の銃を向け、それを撃ってきた。
追撃をちょうど試みて近づこうとしたネクサスに弾丸が直撃する。
「バロバロバロバロバロバロ!」
一発、良い感じにダメージを与えたとみたバロムはネクサスに弾丸を乱射し続ける。このまま蜂の巣にしてやろうとほくそ笑む。
「ウオオォラァ!」
「受けよ!〈必殺•風車〉!」
ネクサスに注意を向けすぎたことが仇となった。今度はゼロがデルフで素早い斬撃を、ジャンボットが力一杯に回転を加えながらバロムに叩き込んだ。
「ぐぎゃ!」
大きく吹き飛ぶバロム。
何とかダメージを我慢して起き上がると、デルフを担ぐゼロ、バトルアックスを片手に持つジャンボット、そしてあれだけの乱射を浴びてもなお平然としているネクサスの姿があった。
バロムは、さっきまでネクサスが銃撃の嵐を避けなかったのは、避けられなかったのではなく、ゼロとジャンボットが追いつくのを見計らったためだと確信した。
「さあて、追いついたぜバロッサ星人」
「もはや貴様一人では勝ち目はない。命惜しくば大人しく投降し罪を償うんだ」
デルフを構えるゼロと、バトルアックスの刃先を向けるジャンボット。
まずい。非常にまずい。バロムは、一瞬だけ降伏に応じるべきではと思うほどにかつてない危機感を募らせる。
どうする?ジャンボット内に多くの盗んだアイテムを残し、今懐に抱えている限りのブツで対抗できる手段は…
「ふ、ふふふ…そうだな。流石にもうお手上げだ。しぶとく抵抗してみてはいたが、もはやこれまでのようだ。素直に負けを認めよう」
「何?」
予想外であった。確かに降伏勧告したとはいえ、両手をあげて降参のポーズを取るバロムに、ゼロたちは困惑した。
寧ろ裏があるのではとすら勘ぐる。
「だが、これで終わったと思うなよ。俺様の仇を弟たちが取ってくれる」
そう言ってバロムは一発のラグビーボールのような形状の黒い鉄の塊を取り出した。ちっちっち…と時計の針のような音が聞こえる。まさかとゼロたちの間で衝撃が走る。
だが、ゼロたちが察したその時に、バロムはそれを地面に叩きつける。
瞬間、周囲を爆炎が包み込んだ。


「けほっ、けほっ…あの野郎!」
「自爆してまで捕まるのを防ぐとは…なんという奴だ」
煙が晴れると、もくもくと周囲を漂う煙にむせるゼロと、最期まで降伏を拒否し続けたバロムの在り方に息を呑むジャンボットの姿が現れた。ネクサスも煙を払おうと、手を団扇がわりに仰ぐ。ふと、彼はある疑問を覚えた。
「自爆?…いや、それにしては変じゃないか?どうせなら俺たちを全員爆発に巻き込んで道連れにでもすればいいはずだ」
「言われてみれば確かに」
ネクサスの言い分を聞いて、ゼロとジャンボット、そして中にいるアンリエッタも同様の違和感を覚えた。
自分たちも、奴の性格を考慮し、その上で奴の立場に敢えて立って考えたら、自爆を選ぶ際は十分な威力を持つ爆弾を使うはずだ。相手を全滅させられずとも、十分な深手だって負わせられる。だというのに、全員無事だ。それもさほど傷を負っていない。せいぜい煙幕程度の…
そこでゼロは気づいた。あいつが持っていたものの中には確か、透明化できるマントがあったはず。
「違う!自爆したんじゃない!
あの野郎、透明化して逃げやがった!」
「何!?」
「透明化だと?奴にはそんな能力があったのか?」
驚くジャンボットと、胸中で同様に思いながらも、平静さを維持しつつゼロに尋ねるネクサス。
「いや、奴自身の能力じゃねぇ。あいつには透明怪獣の毛で織ったマントがあるんだ。あの野郎、最初から逃げる気だったんだ!」
通りで、自分たち三人を相手に、頭数においても無謀さとしか思えない抵抗を試みた訳だ。敢えて自分たちの相手をし、隙を作って逃げ仰るためだったのだろう。
「よし、すぐに私のサーチ能力で探ってみよう」
ジャンボットはすぐに周囲を見渡し始めた。彼には、周囲の生体反応を探知する機能が備わっているのだ。しかし…次にジャンボットから漏れたのは悔しげな言葉だった。
「っく、おのれ…私のセンサーにも反応がない。その透明マント、纏ったものの熱反応や電波、位置情報や生体反応の一切合切を外部に悟らせないほどのものらしい」
「くそ、ジャンボットでも見つけられないんじゃ、透視しても見つかりそうにないな。周囲をくまなく探すしかないか」
とことん厄介なバロムに歯噛みしつつも、ゼロたちはバロムを躍起になって探すのだった。



ゼロたちがそれに気づいていた頃、既にバロムはゼロたちと戦っていた場所から離れた、それも元の等身大サイズに縮んだ上で透明マントを被って逃走を図っていた。
「ふぅ、サータンのマントだけは常に懐に忍ばせておいたのが功を期したな」
盗んだ宝の山はジャンボット内に詰め込んでいる。惜しいがこんなところでみすみす捕まったり奴らにめった打ちにされては元も子もない。ならば逃げるしかない。
ゼロたちは未だ自分を探して周囲を見渡している。体が小さい分逃げ足も遅くなってしまうが、同時に奴らにも気取られにくい。あいつらが血眼になって周りを探している間に退散しよう。
すると、そんなバロムにすかさず、
「〈ジェリースプラッシュ〉!」
「くらえ!」
酸性の粘液と赤い触手がバロムに向けて放たれる。
野生の感でも働いたのだろうか。バロムは一瞬早くそれらを避ける。だが続けて放たれたそれを避けられず、ついに彼を包むサータンのマントに思い切り降りかかり、マントは未算にもじゅうううっと音を立てながら溶けてしまい、マントに隠れていたバロムの姿が露わとなる。
「しまった!サータンのマントが!」
攻撃ができた方を見ると、やはりかと舌打ちする。今の不意打ちの相手は、思った通りブラックスターズであった。
「さっきはよくもやってくれたなバロッサ星人!だが我らブラックスターズ、このまま舐められたままでは終わらん。倍にして返してやろう!」
先ほどの三人だけではない。もう一人大人しそうな、サイトたりより少しだけ幼い少女もいる。
「ブラックさん、どうしてもやり返すんですか?向こうにいる巨人さんたちに任せた方がいいと思うんですけど…」
「何をいうのだサツキ君!我らブラックスターズはいずれこの星を支配する者、このようなコソ泥に舐められたままでは面目が立たないではないか!」
「面目って…」
そもそもそんなものが自分たちにあるのだろうかとでも言いたげな、『サツキ』という少女。
彼女こそ、このブラックスターズの四人目の新参者であった。
とはいえ実際のところ彼女はブラックスターズに半ば強引に迎え入れられ、今日この日までなんだかんだブラックたちに付き合わされている、ちょっと不幸な少女。でもそれでもブラックたちとの付き合いを続けている。頼まれると断れない性格もあるが、口では侵略だのと言いつつも、これまでブラックスターズがやってきたことといえば、無銭飲食や都庁のお惣菜暴食とか、侵略という悪行から程遠いただのイタズラ。しかも普段は借りてるアパートの家賃の踏み倒しが茶飯事の、侵略者というより地味にずる賢いストリートギャングというべきグループだから、今もこうして交流している。
本当なら試験勉強のためしばらくブラックたちとの接触を控えていたのだが、ブラックたちの危機ということで至急この場へかけつけたのである。
「テメェはあの時の間抜け女!」
ブラックの顔を見た途端、バロムがつい口に出す。
「誰が間抜けだ!このコソ泥め!」
「人のこと言えねぇだろ!ジャンボット盗もうとしてた時点で!しかもリア充撲滅のためとか随分しょうもねぇな!」
「ふ、ふん!所詮貴様のようなコソ泥ごときに我らブラックスターズの崇高な野望を理解できまい!」
「理解したくもねぇよ。…ふん、まぁいい。それよりなぜ俺の居場所がわかった!」
ついうっかり真面目にツッコミも入れてしまったが、今はこいつと、相いれない価値観を語り合っている場合ではない。バロムはまず、なぜサータンのマントを着て透明化していたはずだ自分を、彼女たちが見つけることができたのか聞けるだけ聞くことにした。
「偉大なるマスターのお告げだ。貴様がジャンボットで暴れている間、我らは瓦礫の雨を掻い潜り、サツキ君が作り出したダークゾーンに逃げ込むことでことなきを得た」
「なるほど、そのガキ…ペガッサ星人か」
得げに語るブラックに傍にいるサツキを見て、バロムは彼女の正体を見定めた。その視線を浴びて、サツキが弱気な性格故か少したじろぐ。
聞いたことがある。かつて宇宙を飛び回る自律移動宇宙都市…『ペガッサシティ』。そこに住まう星人が放浪宇宙人『ペガッサ星人』。しかし確か、ペガッサシティはシステムの故障で地球と激突しようとした結果、地球防衛軍の手で爆破されたと聞いているが、まさか生き残りがいたということだろうか。
「ダークゾーンに逃げ込んだ我々だが、その際瓦礫の一部も同時にダークゾーン内に入り込み、その一部が私の頭を直撃し気絶していた」
「…なるほど、通りで気取ってる割にみっともねぇたんこぶができてるわけだ」
「ほっとけ!」
ジィッとブラックを見るバロム。よくよく落ち着いてみると、彼のいうとおりブラックの後頭部にそれはもう真っ赤にぷくっと膨れ上がったたんこぶが出来上がっていた。悪の星人としても女性としても少々情けない姿である…。
「面白い姿だよねぇ。ってことでSNSにアップしとこ」
「やめろシルバーブルーメ!これ以上私を笑い者にするな!」
「どうでもいいから話を戻せ!」
スマホで写真をパシャパシャとたんこぶのできたブラックを撮影するシルバーブルーメを、たんこぶを隠しながらブラックは咎める。そんなブラックにバロムが説明の継続を求める。
スマホのシャッター音で気まずそうにしながらも、バロムに対して少しでもマウントを取ってやろうかと気を持ち直したブラックは言われたとおり話を続けた。
「…だがそれが結果的に幸運だった。おかげでマスターのお告げを聞くことができたのだからな!あのお方は、ここで待っていれば貴様が来ると予知なさっておられた。そして今貴様は、お告げ通りここを通って逃げてきた。
当てが外れたなコソ泥星人、これで我らブラックスターズの勝利だ!だーっはっはっはっは!」
「よ、予知能力…!」
バロムは確証を得た。どういうわけかこの女、意識を失わなければ予知能力が使えないらしい。だが先ほどジャンボットを暴れさせたことが、間接的にこの危機を作り出したことに気づいてしまった。
「勝利って…当初の目的から外れてますよね」
「まぁブラックちゃんだし」
元々あのロボットを手に入れて自分たちの新たな本拠地兼侵略の足がかりに利用するはずだったのに、いつの間にかバロム個人への報復に目的がすり替わっていることに、サツキは呆れ、シルバーブルーメは面白がっていた。さっきから黙っているノーバは別にどうでも良さげに傍観していた。
っとそこで、サツキはバロムの向こう側の景色を見てあることに気づき、そして青ざめた。

「見つけたぞ!あそこだ!」
「ちょこまかと逃げやがって、もう逃がさんねぇぞ!」
「相棒、遠慮はいらねぇ。いっちょかましてやれ!」
「…これ以上付き合ってられんな。一息に始末するぞ」
「言われなくても!」

「ぶ、ブラックさん!ちょっとちょっとあれ!」
「さあて、我らのジャンボット強奪作戦を妨害した罪もその身を持って思い知らせてやろう。
まずはどんな仕置きをしてやろうか。ノーバの鞭打ちの刑か、それとも…」
サツキは今気づいたそのことをブラックに伝えようとするが、ブラックは聞いていない。バロムへの報復手段を楽しそうに算段している。
「何言ってるんですか!早く逃げましょう!」
「サツキ、何を慌てている?」
「何か急ぎの用事とか思い出した?あ、そう言えばサツキちゃんもうすぐ学校の試験だったもんね。今日のうちにやっておき…た…!
ぶ、ブラックちゃんブラックちゃん!あれあれ!」
ノーバとシルバーブルーメも、サツキの妙な慌てように不思議に思いながらも、彼女の先ほどの視線の先に目をやると、その意味を理解して同じように焦り始めた。
「予知能力なんてものを持ってやがったとは。
ぐんぬぬぅ…ウルトラマンどもはまだしも、こんな女にまでしてやられるとは…」
「くく、今更我らの恐ろしさに気づいても遅い。
さあシルバーブルーメ、ノーバ、そしてサツキ君!我らブラックスターズに歯向かうこの愚か者に
「ブラックさんってば!何度も呼んでるのに何無視してるんですか!」な、なんだサツキ君。今は大事なことを話してる時なんだぞ!」
「どうでもいいですよ!それより早く逃げましょう!」
「バカを言うな!ようやく奴を追い詰めた今こそがチャンスだろう!」
サツキが強引にブラックをその場から引っ張り出そうとする。ブラックはサツキに話を遮られて不満そうに言いながら抵抗して踏みとどまろうとする。調子に乗ってバロムへの報復以外何も考えておらず、サツキたちが何を伝えたがっているのかさえわかろうとしていなかった。
「なんだなんだ?せっかく俺を追い詰めたってのに逃げる気…

この時、完全に自分たちだけで話に集中するあまり、ブラックとバロムは気づいていなかった。

サータンの透明マントを失い、ついにジャンボットのセンサーで生体反応を探知されたバロムの姿を見つけたゼロたちが、絶対に逃がすまいと放った光線技のトリプルコンボが迫っていたことに。

「〈エメリウムスラッシュ〉!」
「〈ビームエメラルド〉!」
〈クロスレイ•シュトローム〉
「ディア!」

ゼロたちの光線が、バロム目掛けて放たれた。その射線の向こう側に、ブラックたちもいることに気づかないまま…。
「「え」」
三体の巨人たちの声でようやく彼らの方を向き、ようやく気づいたバロムとブラックだが、時すでに遅し。

「ぎゃあああああああああああああああ!!!」

「「きゃあああああ!」」
「どわああああああ!!」

バロムに三人の光線が炸裂、等身大に縮んでいたバロムでは耐えられず、バロムは木っ端微塵に消し飛ばされた。そしてブラックスターズも、その爆風に煽られて大きく宙へ舞い上げられた。
「あ…」
一方でゼロたちも、ここで射線の向こう側にブラックスターズがいたことに気づいて呆気に取られていた。

「もおおおブラックさああん!だからあれだけ言ったのにぃ!!」
「し、仕方ないだろう!我らブラックスターズの威厳を誇示するには…」
「そもそも誇示するだけの威厳なんてなかったじゃないですかぁ!ブラックさんのバカぁ!」
「まぁブラックちゃんだしぃ〜」
「安心しろ。直撃だけは免れたし、この高さでも怪獣女である私たちにはどうと言うことはない」

何やら宙空で吹っ飛び、爆風で顔がやや黒くなっていながらも元気に会話している辺りどうやら無事らしい。

「おのれぇウルトラマンどもめぇ!これで勝ったと思うなよ!我らブラックスターズはいずれ、この星を侵略する!その時こそ貴様らの最期だ!首を洗って待っていろおおぉぉぉ…!」

遠くへ消え去りながら、ブラックが負け惜しみの捨て台詞を吐いていたが、その声も虚しく小さくなっていった。

なんだったんだあいつら…と、小さくなっていくブラックたちの声を聞き届けている内に、ゼロの意識もぐらりと揺らぐ。
(あれ?なんだ…なんか急に…眠…)


そして、世界は白く染まった。




 
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