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現実世界は理不尽に満ちている!

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第50話

 
前書き
ネオ・代表O5−1です。第50話となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 ―――日本。

 地球へ戻った古代を待っていたのは、査問会と予備裁判だった。法廷では、精神的に疲弊されるやり取りが行われた。約束の時間、過ぎてしまったな。もう、待っていないだろう。ゲンナリとした表情で、正面玄関の階段を降りる。

 正面玄関を降りた古代は、目を見開いた。軍の施設で見かけるには不釣り合いなピンク色のオープンカーの側に、古代にとって見慣れた女性が立っていたからだ。長い金髪と黄色の瞳を持つ若い女性は、イスカンダルの王族―――ユリーシャ・イスカンダルではと錯覚してしまう程に美しかった。ユリーシャと瓜二つの容姿である彼女は、コーラルピンク色のワンピースを着用していた。黒ブーツを履いている彼女は、ピシッとイイ音を鳴らし踵を合わせた。

 「お勤め、ご苦労さまです」

 女性―――森雪は、挙手敬礼で古代を迎えた。彼女がニッコリと微笑むと、法廷から引っ張っていた緊張が解けた彼は微笑みを返した。

 古代を助手席に乗せた雪は、エンジンを掛けた。すると車体は浮き、タイヤが収納される。これは、ガミラスで普及しているエアカーの技術を取り入れたものだ。メーカーの多くは従来の車然としたデザインに拘り、走行中だけタイヤを収納する型も多かった。

 「出発〜」

 雪がアクセルを踏むと車体は進み、首都へと向かう。遮るものは何も無い。ただ、真っ直ぐと伸びる一つの道路だけだ。

 周囲に広がるのは、かつて此処に都市や自然があったとは信じられない程の広い荒野だった。走行中特有の風を肌で感じながら、古代は遠くに見える大都市をぼんやりと眺めた。少し離れただけでこれ程にも景色に差がある事に、再生から3年が経過した事に未だ違和感を覚える。まるで、アメリカの映画に登場する荒野のようだ。

 流星爆弾による被害はコスモリバースシステムの発動によって浄化され、そして再生された。かつての地球を取り戻したが、自分達が知る地球ではなかった。正確には、自然環境だった。人類が開発する以前の、太古の環境だった。調査の結果、地域によって時期が異なる事も判明された。更に、一部の地域は気候が安定しなかった。

 いわば、人類は石器時代へと投げ出されたのだ。無論、今の人類の文明は、石器時代ではない。ガミラスとの戦争以前、地球は火星の開発に成功した。しかし、内惑星戦争とガミラスとの戦いで火星は荒野へと戻る。それでも、生存可能な地とした実績は人類に自信を与えた。元々生存不可能な火星に入植が出来たのだ。何万年も昔の地球環境など、火星に比べれば快適な世界ともいえる。

 景色を眺めながら、古代はそう思った。

 「ふふ、絞られて疲れちゃった?」

 左側からの聞き慣れた声に、ハッと我に返る。この車を運転してくれているのは雪なのに、ぼんやりしすぎて話もしていなかったことに古代はようやく気づいた。

 「たっぷりと絞られたから、疲れたかも。色々と言われたよ。『貴様は自分のした事の意味が分かっているのか』ってね」

 尋問してきた上官の口調を少し真似て、雪の問いに答える。

 「『地球を救いましたが、何か?』」

 尋問中に心の内で思っていた古代の心情を、雪がピタリと代弁する。雪が言い当てた台詞に、思わず笑いが零れる。

 「はははっ、言えない言えない」

 「言っちゃえ言っちゃえ。此処なら誰も聞いてないよ」

 「え?」

 面食らった古代は、雪へ顔を向ける。すると、雪はハンドルを握ったまま青空へ顔を少しだけ上げ、大きく口を開いた。

 「古代進は、地球を救ったぞー!感謝しろー!これで二度目だぞぉー!!」

 「ゆ、雪…」

 雪は、軍内だけでの姿を見ていると、誰からも一目置かれる礼儀正しく大人しい女性だ。けれど、〈ヤマト〉時代から長く付き合う中で、実は大胆で活発的な人なんだと気づかされた。彼女のこの性格に古代はこれまで何度も助けられ、支えられた。けど、今回に限っては…。

 「雪…そんな風に言わないでくれ。正直言うと、俺…」

 躊躇いがちな古代の口調に、何か察したのだろうか。雪が、空を見上げていた顔を下ろし視線だけを俺に向けて口を閉じた。

 「俺…あの時、地球を助けようだなんて…思ってなかったんだ」

 正直な告白に、雪の瞳が見開く。だが古代は、雪に嘘をつきたくなかった。

 「ガトランティス艦が地球に落下すると聞いて、真っ先に思った事は……君の安否だった」

 勿論、あれほどの質量を持つガトランティス戦艦が地球に落下するとどうなるかは分かっていたし、軍人として自分がどうすべきかも理解していたつもりだ。けど、その場所に誰が居るのか、あそこには雪がいるのに。このままじゃ、雪が…雪が…っ、何としてでも、助けないと…!古代の感情は、それただ一つだった。

 「…相原や南部達に命令しながらも、俺が考えてたのは君の事…自分にとって凄い大事で大切な人を助けたいって、そればかりだった。だから、地球を助けたなんて、大それた事は考えてない」

 古代は、重くなってしまった空気を誤魔化すように笑顔を作った。雪は、古代へ静かに顔を向けていた。

 「でも、古代君はそれでも…」

 雪は再度青空へ黄色の双眸を向け、先程よりも大きな口を開けて息を吸い込んだ。

 「古代進は立派な艦長だー!森雪は、すっっっごく心配したんだぞぉー!!」

 全身全霊を込めた、雪の叫び。その言葉は、真っ直ぐと古代の心に響いた。そうだ、〈ゆうなぎ〉の行動は司令部に筒抜けで、雪もその情報や映像を観ていた。自分の為に喜び、心配してくれた彼女がどう思っていたのか、容易に想像が出来た。また、助けられたな。フッと笑みを受けべた古代は前を向き、大きく息を吸い込むや口を開く。

 「申し訳ありません!古代進、猛省致します!!」

 雪に見習って、精一杯の気持ちを叫ぶ。そのまま顔を見合わせ、反応を待つ。けれど、段々可笑しくなり、2人して笑い合った。

 「ふふっ、あはははっ!」

 「あははっ、はははっ!」

 子供のように笑顔を綻ばせて笑う雪。その顔を見て、古代は改めて安堵した。ああ、守れてよかった…。査問会と予備裁判の事は、忘却の彼方へと消えた。


 ―――首都、某カフェ。

 たまたま見つけたカフェで、古代と雪は一服していた。向かい合って座る木製テーブルには、式場のパンフレットが置かれている。ガミラスとの戦争で人口が半分以上も減ったこともあり、政府は若者の結婚や出産支援などに積極的だった。古代と雪が足を運んだ式場では、ニュースとして取り上げられていた。祝御出産、祝御成婚といった文字が踊り、若い男女が新しい地球を作るのだと謳っていた。

 カフェの窓から見える人々の表情は明るい。復興は目覚ましいものだ。市街地の外に広がる荒野は、この数ヶ月で大きく後退している。とはいえ、急速な復興にエネルギーの供給が追いつかない。その理由として、行政の中枢や商業地区に優先されている為だ。だが、今は違う。同盟国―――ブリリアンスからのエネルギー供給により、それは追いつきつつある。2ヶ月間前に広報として表示された『計画停電解除のお知らせ』が、改善された証。

 最も、地球の復興を実感するのは空だろう。高層ビルの上は雲一つ無い青空が広がっている。地下都市からは、それを見ることは絶対に叶わかった。見上げても、あるのは天井。建物の中という意味ではなく、地下都市の遥か上は天井そのものだった。

 しかし、今は違う。地下都市は最低限のメンテナンスを除き、地下での生活は無くなり、地上での生活となった。

 「凄いよね。こうしていると、昔の地球に戻ったみたい」

 雪はコーヒーを一口飲む。合成ではないコーヒーを、だ。合成ではないコーヒーは、今では当たり前に飲めるようになった。

 「もしかして、記憶が?」

 古代の言葉に、雪はハッと口を噤んだ。思わずコーヒへ視線を落としてしまう。雪には、4年前までの記憶が無い。清浄な大気も、緑豊か自然も、青空も、青い海も、あの頃の彼女にとって記憶ではなく知識だった。宇宙空間に存在する青く輝く宝石のような地球を目にしても、自分だけが初めて見る宝石。

 だから、イスカンダルを見た時の不思議な気持ちが忘れられない。胸いっぱいに新鮮な空気を吸って吐き出した時、何か懐かしいものが胸の奥から込み上げた。記憶が失っても、心が憶えている。コーヒへ落としていた視線を古代へ向け、穏やかな笑みを浮かべる。今の私には、大切で好きな人が―――彼がいる。

 「す、すまない。その…」

 軽率さを詫びる古代に、雪はクスリっと笑う。もう気にしていない雪だが、そんな彼を彼女は更に好きになった。首を左右に振り、テーブルに肘をついた。
 
 「古代君こそ、いいの?」

 顔を古代へ近づけ、雪は可愛らしく小首を傾げる。

 「この4年間の記憶しかない奥さん、不安にならない?」

 不安ではないが聞いた。それだけである。まぁ、もし浮気でもしたら”お仕置き”しようかなと心の中で悪い笑みを浮かべているが、古代は気づかない。最も、古代にしても雪にしても一筋なのだから浮気はあり得ないのだが。

 「必要なのは、この4年間の想い出だろ」

 古代の答えは、力強いものだった。彼は顔を近づけ、机に右腕を乗せた。

 「イスカンダルまでの航海とその3年間は、楽ではなかったと思う。今だって、楽だとは言えない」

 でも、と古代は続ける。

 「俺達は生きている」

 『古代』

 「!?」

 不意に、沖田の顔が浮かぶ。あの時に見た、沖田の顔を。

 「古代君?」

 キョトンっとする雪。突然と苦い顔を浮かべるとは、体調でも悪いのだろうか。しかし、それは杞憂に終わったようだ。苦い顔から真剣な顔へと一変した古代は言う。

 「前だけを、明日を歩もう。地球で亡くなった人達や〈ヤマト〉で亡くなった仲間達、色んな人達に報いる為に、幸せになる義務がある。勿論、今を生きている大切な人達の為にも―――」

 「古代君」

 雪は、古代の手を握る。優しく、包み込むように。

 「古代君。私ね、〈ヤマト〉に乗って直ぐの頃は、とにかく取り繕うのに必死で余裕が無くて…あまり、幸せだと思えなかったの。この先、私の人生ってどうなっていくんだろうって、よく考えてた。けれど、第一艦橋の皆や沢山のクルーに出会えて…家族になれて、幸せってこういうことなのかなって思えたの。古代君はね、私の中での一番の宝物なの。だから、結婚式ね、楽しみで仕方ない」

 「雪…」

 出会って間もなかった頃の雪は今のように笑わず、真面目で気が強かった。最初はそんな彼女の態度に戸惑い、衝突することもあった。でも、そんな彼女が今はこうして傍で笑ってくれて、幸せなんだと心から言っている。これ程までに、嬉しいことはない。

 「私、とっくに幸せだよ」

 雪は愛おしく古代の手を包み、彼の顔を優しく見つめる。彼女の薬指にある指輪は、輝いていた。



 ―――ブリリアンス・ギルド駐地球大使館。

 端末上に小さなホログラムディスプレイに1人の人物―――ギルド長スヴェートが映し出される。サングラスに隠れたリンガルの赤い瞳を、ホログラムとなって投影されているスヴェートへ向けた。

 『さて、聞こうか。―――2号』

 2号と呼ばれたリンガルは掛けていたサングラスを取り、机に置いた。

 「では、話そう」

 2号と呼ばれたリンガルの顔は―――スヴェートと瓜二つの顔をしていた。リンガル―――2号は、コピーアンドロイドだ。趣味、思考、性格、スヴェートの何もかもがコピーされたアンドロイド。それが、コピーアンドロイドである。

 「ガトランティス戦艦特攻事件の直後、太陽系全域に通信障害が発生した。原因は不明。…だが」

 『だが?』

 「これを観て欲しい」

 2号は、写真を展開する。買い物している者、街を歩く者、病室、宇宙港のカウンターを出た者など、様々な場所で何人もの人間が撮影されていた。これらは全て、隠し撮りである。2号は、曇りのない笑顔を浮かべた。

 『どれも共通しているな。元〈ヤマト〉のクルーか』

 スヴェートは褒めた。よくやった、と。

 「テレサ、とやらの声を聞いた者達だ。元〈ヤマト〉の乗組員だけが、幻影を見た。太陽系全域に通信障害が発生した時に。幻影は、知人あるいは親しかった家族。幻影は共通し、こう言ったそうだ。―――ヤマトに乗れ、と」

 テレサとやらで、地球連邦政府は動き出している。それと、どうやらガミラスも動き出しているようだが、今のところは大使以下の大使館のみ。それでも、ガミラスの本星が動くのも時間の問題だろう。事が重大であると、認識しているようだ。

 『調査を継続。よろしく頼む』

 「了解だ。それと、”例の人物”を発見した」

 ほう、とスヴェートはオッドアイの双眸を細める。探していた人物だからだ。2号は、元〈ヤマト〉クルーの写真から”例の人物”の写真に切り替えた。

 地球上のどの国と組織よりも早く宇宙艦隊を創設し、永らく宇宙に関する利権を独占していたNASAに属する、青いセミロングヘアと青い瞳の若い女性。

 『彼女が、そうか』

 「間違いない、彼女は―――」


 ―――転生者だ。

 その写真には、ルンルン気分で宇宙戦艦ヤマトのプラモデルを買う女性―――テレーゼ・ドルクマスが映っていた。 
 

 
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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